All is in the sky / 外山安樹子 (p)

アルバム冒頭のワンフレーズが鳴った瞬間、周りの空気が澄み渡った。続けて溢れ出る、詩情と歌心。素晴らしいピアニストとの出会いの予感は、曲が進むにつれ徐々に確信へと変わっていった。

北海道出身で、現在は関東を中心に活動している外山安樹子さん。本作"All is in the sky"で初めて耳にしたピアニストだったが、その素晴らしい演奏内容に一瞬にして心を奪われた。

女性らしい繊細さと、芯に感じられる力強さ。そして聴く者の琴線に触れる、リリカルで美しいフレーズを絶え間なく生み出す感性。これまで何人もの優れた日本人ピアニストの演奏を聴いてきたけれど、彼女の演奏は間違いなくその上位に位置付けられるだろう。

本当に印象的だった、オープニングの 1.Springlake。新しい命の芽吹きや水面に煌く光。そんな風景がありありと目に浮かんでくる名曲だ。ニューヨークをマイペースに闊歩するミッフィーを思い描いた 2.Miff's walkは、ミディアムスィングの愛らしい一曲。4beatが比較的少なめで、メロディアスな演奏が印象的な外山さんのスタイルは北欧系のピアノトリオを思わせるところも多いが、この曲や唯一のスタンダード 9.Bye bye black bird はJAZZYな演奏にも高いレベルで対応できることを示している。

孤独な気持ちや不安をテーマにした 3.Standing alone や 10.Quiet storm では、揺れ動く心情をマイナー調の美しいフレーズにのせ歌い上げる。躍動感溢れる 5.White snow samba、アップテンポの7. From the beginning での流れに乗り切ったプレイも突き抜けた感があり、素直に心地良い。そして、優しく温かみのある 8. Bourgeons や エンディングの11.Calm days 。この辺りはまさに外山さんの演奏の真骨頂と言えるだろう。

サイドに入った関口宗之氏の良く歌うベースや、秋葉正樹氏の安定感のあるドラムのサポートも素晴らしく、何度も聴き返したくなる内容である。

音楽として美しいだけではなくて、演奏の後ろに物語性や世界観を感じられる、深みのある作品。僕の敬愛する作家、池澤夏樹氏の小説の一節から取ったタイトルも印象深く、僕にとっては本当に大切な一枚となった。


YPMレーベルのHPにて全曲試聴できます。




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Comments

1. Posted by とやま   2010年03月23日 09:23

なおきさん
ご無沙汰してます。
大切に聴いてくださっているのが手に取るように
文章から伝わってきて、とても感激しました！！
ありがとうございます。
私のブログでもリンクを貼らせていただいて
よろしいでしょうか？

2. Posted by すずっく   2010年03月23日 09:38

あれ、、外山さんだ。
外山さん、、なおきさんは、夏樹クンの大ファンなんですよ。

＞演奏の後ろに物語性や世界観を感じられる、深みのある作品。僕の敬愛する作家、池澤夏樹氏の小説の一節から取ったタイトルも印象深く、僕にとっては本当に大切な一枚となった。

素晴らしい表現だなぁ。
彼女の曲を聴いてると、繊細な心の機微を感じて、自分も日本人で良かったなぁ、、って、気分になります。

これもあとでトラバしてみます。
きっと、だめだろうけど。。

3. Posted by なおき   2010年03月24日 08:02

>とやまさま

ご本人からのコメント、嬉しいです長く聴き続けられる素晴らしいアルバムをありがとうございました?

リンクの件も宜しくお願いします。

4. Posted by なおき   2010年03月24日 08:14

>すずっくさま

外山さんの音楽がある種の日本的な叙情性を持っているという感覚はよく分かります。良い意味でちょっとウェットな部分があるんですよね。上手く表現できないけど。

素晴らしいピアニストをご紹介頂きありがとうございました。

5. Posted by すずっく   2010年04月23日 12:06

こんにちはァ。
来月、新潟でライブがあるので、ブログで話題にしました。
その中で、無断でしたが、なおきさまの文章もリンクさせていただきました。
新緑の季節ですね。写真にも音楽にも素敵な季節ね。

6. Posted by なおき   2010年04月26日 12:55

>すずっくさま

新潟で生とやまさんですね。
僕は一足早く新宿Jで堪能して来ました。
リンクの件も、ありがとうございました。

ようやく春ですね。僕もSpringlakeのような印象に残る写真を残せるよう、がんばります。