JAZZレーベル図鑑

2005年10月20日

ガッツプロダクション

ガッツプロダクションは、「素晴らしい作品ではあるけれど、採算第一で小回りの利かない大手レコード会社では、どうしても輸入できない」という、なかなか日の目を見ないような海外の秀作たちを、国内に輸入・紹介してくれる気骨ある日本のレーベルである。ここ数年、「ピアノトリオ万歳」と称したシリーズが好調で、大手レコード店でも頻繁に見かけるようになってきている。

主に社長である笠井隆氏を中心としたメンバーが海外に出向き、直接買い付けを行っているようだが、その選択のセンスと作品の質の高さには、聴く度本当に驚かされる。ただ単に音楽性が優れているだけでなく、民族性に根付いた強い個性を持った作品を発掘してくる点が、ガッツプロダクションの特徴と言えるだろう。名前も見たことが無いミュージシャンが殆どだが、「このレーベルの作品なら」といった安心感と、笠井氏のライナーノーツのコメントに惹かれて、ついつい購入してしまう。送り手側の考えがよく伝わってくる、インディーズらしさが上手く機能したレーベルで、個人的には「第二の澤野工房」といった位置付けで考えている。

そしてガッツプロと言えば切っても切り離せないのが、「東欧JAZZ」というキーワード。独自にポーランドのレーベルと販売契約を結ぶなど、東欧JAZZを日本に紹介することに特に力を入れている、国内でも珍しいレーベルだ。

東欧は土着のスラブ民族やジプシーの文化に、ロシアと中央ヨーロッパ双方からの影響が入り込み、洗練と泥臭さが絶妙に交じり合った独特のエキゾチックな文化を構築した、興味深い地域。クラシックだとバルトークを代表格とし、ブラームス、チャイコフスキー、ドヴォルザークなど幾多の大作曲家たちが、東欧の舞曲など民俗音楽を題材にした作品を数多く作り出していることからも分かるように、近代音楽に於いてもひとつの重要なモチーフとなった、特徴ある音楽性を持った文化圏でもある。
そしてその地域性は、JAZZにも色濃く反映されている。小気味良く跳ねる独特のスィング感と哀愁漂う美しいメロディーライン。秘めた情熱と、民族性に起因するであろうちょっと鬱屈した感じのダークな世界観。ガッツプロの送り出す作品には、本場アメリカや所謂ヨーロピアンJAZZには無い、東欧特有の雰囲気が色濃く漂っている。

信念を曲げない、こだわりを持った作品のリリースができる、非常に応援し甲斐のあるレーベルである。今後とも素晴らしい作品を我々の耳に届け続けてくれることを、是非是非期待したい。

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2005年10月10日

MPS

MPSはドイツの大手電気メーカーであるSABA社の重役、ハンス・ゲオルグ・ブルナー=シュアー氏の趣味が高じて設立されたという、ちょっと変わった歴史を持つレーベルである。

このブルナー=シュアー氏は、大のJAZZピアノマニアであった。聴くだけでは飽き足らず、自ら演奏してみたり、レコーディングエンジニアにまでチャレンジするといったほどの熱の入れよう。演奏の方はそれほどの腕前でもなかったそうだが、レコーディングエンジニアとしては天性の才能があったようで、60年代には徐々に頭角を現し始めるのである。
そして彼は1968年に満を持してMPSレーベルを設立し、数多くの名手たちを招き素晴らしい録音を重ねてゆく。そして78年に活動を終了するまでの10年間に、500枚もの録音作品を(全てが氏の手によるものではないが)世に送り出したと言われている。

特筆すべきはそのピアノトリオ作品のレベルの高さだ。おそらくブルナー=シュアー氏の好みだったのであろう、硬質で歯切れの良いクリアなピアノのサウンドは、一瞬聴いただけでMPSの作品だと確信できるほどの個性と美しさに満ち溢れている。その音の瑞々しさは、およそ40年を経た現在に於いても、超えることが出来ないほどのクォリティの高さである。これもひとえにブルナー=シュアー氏の類稀なる才能と、ピアノに対する果てしない愛情の賜物であると言えるだろう。あまり名前が知られた人物ではないが、Rudy Van Gelderと並び称される、JAZZ界最高のレコーディングエンジニアであったことは間違いない。

彼のこだわりはレーベル全体に反映され、彼以外のエンジニアによる録音作品においても、MPSらしいハイレベルで素晴らしい音質の演奏を聴くことができる。ピアノトリオだけでなく、70年代にはかなりアバンギャルドな路線の作品も多数発表し注目を集めるなど、本当に個性的なレーベルであった。

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