piano Japanese

2010年03月22日

Moving scenes / 堀秀彰(p)

堀moving


以前、ベーシストの安カ川大樹率いるビッグバンド、Far East Jazz Ensemble(FEJE)のライブを見に行った時のこと。日本を代表するようなJAZZミュージシャン達が揃ったメンバーの中、ひときわ輝く演奏で圧倒的な存在感を示すプレイヤーと出会った。このバンドで作曲、アレンジ、ソリストと八面六臂の大活躍を見せたピアニスト、堀秀彰である。

78年生まれ。井上陽介(b)、大坂昌彦(ds)、鈴木良雄(b)、原朋直(tp)など、日本の大物JAZZミュージシャンとの競演をはじめとして、Dreams Come TrueやParisMatchなど、ポップス系のトップアーティストのツアーサポートなどでも活躍する、若手の実力派。硬質で端正なピアノのタッチに加え、スピード感を伴ったタイトなリズムワークが生み出すクールながら熱い演奏が非常に魅力的なピアニストだ。

本作は06年にリリースされた、堀秀彰のセカンドアルバム。FEJEでも演奏されたトリッキーなリズムと構成が印象的な堀の代表曲1.Stop and goに始まり、メロディアスで流麗な 2.ゆきのかけら と、前半から素晴らしいオリジナル曲が続く。スケールの大きなワルツの大曲 3.Rage 、映画音楽の 5.Pure imagination も非常に美しい。

後半ではテナーSAXのベテランの山口真文をゲストに迎えた 8.Song for Mabumi が見事。ショーター系のクールな演奏が持ち味の山口の個性を見事に活かし切ったプロデュース力は賞賛に値する。同じく山口をゲストに迎えた 9.Shade of summer でアルバムは終焉へ。寂寥感を湛えたメロディーが最後を見事に彩る。

次世代を担う、才気溢れるピアニストの登場を強く印象付けた一枚である。


堀秀彰公式サイトにライブ音源多数あります。





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2010年03月13日

All is in the sky / 外山安樹子 (p)

all is


アルバム冒頭のワンフレーズが鳴った瞬間、周りの空気が澄み渡った。続けて溢れ出る、詩情と歌心。素晴らしいピアニストとの出会いの予感は、曲が進むにつれ徐々に確信へと変わっていった。

北海道出身で、現在は関東を中心に活動している外山安樹子さん。本作"All is in the sky"で初めて耳にしたピアニストだったが、その素晴らしい演奏内容に一瞬にして心を奪われた。

女性らしい繊細さと、芯に感じられる力強さ。そして聴く者の琴線に触れる、リリカルで美しいフレーズを絶え間なく生み出す感性。これまで何人もの優れた日本人ピアニストの演奏を聴いてきたけれど、彼女の演奏は間違いなくその上位に位置付けられるだろう。

本当に印象的だった、オープニングの 1.Springlake。新しい命の芽吹きや水面に煌く光。そんな風景がありありと目に浮かんでくる名曲だ。ニューヨークをマイペースに闊歩するミッフィーを思い描いた 2.Miff's walkは、ミディアムスィングの愛らしい一曲。4beatが比較的少なめで、メロディアスな演奏が印象的な外山さんのスタイルは北欧系のピアノトリオを思わせるところも多いが、この曲や唯一のスタンダード 9.Bye bye black bird はJAZZYな演奏にも高いレベルで対応できることを示している。

孤独な気持ちや不安をテーマにした 3.Standing alone や 10.Quiet storm では、揺れ動く心情をマイナー調の美しいフレーズにのせ歌い上げる。躍動感溢れる 5.White snow samba、アップテンポの7. From the beginning での流れに乗り切ったプレイも突き抜けた感があり、素直に心地良い。そして、優しく温かみのある 8. Bourgeons や エンディングの11.Calm days 。この辺りはまさに外山さんの演奏の真骨頂と言えるだろう。

サイドに入った関口宗之氏の良く歌うベースや、秋葉正樹氏の安定感のあるドラムのサポートも素晴らしく、何度も聴き返したくなる内容である。

音楽として美しいだけではなくて、演奏の後ろに物語性や世界観を感じられる、深みのある作品。僕の敬愛する作家、池澤夏樹氏の小説の一節から取ったタイトルも印象深く、僕にとっては本当に大切な一枚となった。


YPMレーベルのHPにて全曲試聴できます。




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2008年04月14日

United / 椎名豊(p)4

4ebfdd22.jpg毎年この時期になると聴きたくなるのが、Count Basie Orchestraでお馴染みの"April in Paris"。しかしよくよく調べてみるとこの曲、ピアノトリオでの演奏が意外にも少ないのだ。Bud Powellが名盤"Jazz Giant"の中で演っているけれど、それもあんまりスウィンギーな感じではなく、ちょっと僕の求めているイメージとは違う。

ピアノトリオでの"April in Paris"を聴きたいと思い、CD棚の中を見ていたら、椎名豊の"UNITED"の中に入っていることを発見。これがきっかけで久々に聴きなおしてみたのだが、この作品なかなか良い出来なのである。

本作は98年録音の、椎名豊4枚目のリーダーアルバム。Christian McBride(b)、Clarence Penn(ds)という好メンバーをサイドに迎えた意欲作だ。

オープニングは軽快でスピード感溢れるオリジナル、Pent-up Hous。 ちょっとトリッキーでアイディアに富んでいて、椎名の才能を感じさせる一曲だ。スタンダードのA foggy dayこそオーソドックスな仕上がりだが、その後に続くMonkのCrisscross、ColtraneのGiant stepsなどは、正攻法ながらも一捻りした味付けで、聴く者を惹き付ける内容。

そしていよいよ、件のApril in Paris へ。ピアノソロのイントロから入って、ゆったりと大きくスウィングするテーマ。意表をついたベースソロからピアノソロへと、これも機知に富んだ素晴らしい内容。ラストに"One more time!"の遊び心があると最高だとは思ったが、ピアノトリオでの"April in Paris"としては充分にお勧めできる好演。

今から10年も前のアルバムになるけれど、改めて聴いても聴き応え充分。是非4月が来る度に思い出して聴きたい一枚である。


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2007年07月16日

Another mind / 上原ひろみ(p)5

6b462480.jpg初めてこのアルバムを手にした日のことは、今でも良く覚えている。2003年春、渋谷のタワーレコードでのことだ。若干23歳の小柄な日本人女性による、あまりに大きなスケールと高い完成度を持ったデビュー作。そのサウンドを耳にして、僕はしばらく試聴機の前で立ち尽くした。

この作品でとにかく圧倒されるのは、上原ひろみというピアニストの音楽的な引き出しの多様さと、それらに対する理解の深さである。XYZ で強烈なインパクトを与えた、土俗的でメカニカルなフレーズを執拗に繰り返すその手法は、プログレッシブロックを代表するアーティスト、Keith Emersonを思わせる。続くDouble Personality や010101(Binary System) では1曲の中で何度も大胆なリズムチェンジがなされ、ロック、ファンク、4ビート、クラシックや現代音楽からフリーインプロヴィゼーション的なアプローチまで、様々なジャンルの音楽の要素がふんだんに盛り込まれる。爽やかなフュージョン的サウンドのSummer Rain、ラテン色の強いDancando No Paraiso など、ストレートな表現も勿論ある。

またブルージーでゴスペル的なフィーリングを持っていることを示しているのがJoy。ちょっと後ろへもたれる黒っぽいフレーズの作り方や、強弱・アクセントの付け方は見事で、タイトル通り音楽を演奏する喜びを、じんわりと歌い上げる。ラストを飾るTom and Jerry Show はラグタイム。これだけ斬新で攻撃的な表現方法を試みてきた彼女が、敢えてJAZZの古典・原型であるラグタイムスタイルのピアノソロでアルバムを締める。そこに彼女の自らの演奏に対する自信と、JAZZピアニストであることに対する自負を感じ取ることができる。

先述のKeith Emersonはクラシックの大曲「展覧会の絵」をモチーフに、ジャンルを超えた壮大な音楽を作り上げたが、上原ひろみの音楽性はまさにそこに通じるものがある。様々なジャンルの音楽の要素を十分に理解し取り込んだ上で、良いとこ取りのうわべだけの演奏ではない、自らの音楽を作り上げていっている。バークリーで編曲やアレンジを中心に学んできただけあり、音楽的な構造の造り方も見事だ。

作曲・アレンジ・テクニック・歌心。全てに秀で、圧倒的な才能を持つ上原ひろみが、その可能性を貪欲に示した衝撃のデビュー作。彼女の原点を知る上で、是非抑えて頂きたい一枚である。

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2007年07月01日

Piano quintet suite / 大西順子(p)5

0247e090.jpg大西順子の最高傑作との呼び声も高い一枚。大西のオリジナル曲を軸に、Mingus2曲、Ellington1曲と言った構成で、全ての曲に彼女の手による意欲的なアレンジが施されている。Rodney Whitaker(b)、Tony Rabeson(ds)のリズム隊に、鬼才・林栄一(as)、デトロイトJAZZ界の大御所・Marcus Belgrave(tp)の2管をフロントに迎えた強力な布陣の下、大西の作曲者・バンドリーダーとしての才覚が存分に発揮された作品である。

根底にあるのは、JAZZという音楽を作り上げてきた先人たちへの敬愛と、いかにもJAZZらしいブルージーな空気。収められた楽曲にはそれぞれ、大西が好んで演奏するMonk、Mingus、Ornette、Dolphy辺り連想させるような空気が漂っている。各人がそこをベースに、モダンでアヴァンギャルドなセンスを持ったソロを展開していくことで、伝統と革新の融合した素晴らしい演奏が生まれた。2管というフォーマットも、作品の雰囲気に適した、絶妙な選択である。

オープニングを飾るアグレッシブな大西のオリジナルPiano quintet suite から、哀愁を含む美しいテーマが特徴的なChales Mingus(b)のPeggie's blue skylight への流れで、一気に作品の世界へ引き込まれる。ブルージーなNaturally Orange was the color of her dress、不思議な浮遊感を持ったThe tropic of capricorn、ブルースTonny なども、派手さは無いが充実した演奏内容。そしてもう一点のハイライトは、エンディングのTake the A train。良くスィングした楽しい雰囲気で、サッチモを髣髴とさせるようなMarcusのダミ声ヴォーカルが演奏を一層盛り上げる。

一時期はシーンから姿を消し、引退したかに思われた大西順子。だが05年、ライブハウスで静かに復活を遂げ、今もマイペースで活動を続けている。いつの日か本作のような素晴らしい作品を、再び世に送り出してくれることを期待したい。

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Ongenにて試聴・DL購入できます 大西順子/ピアノ・クインテット・スイート


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2006年11月05日

阿佐ヶ谷JAZZストリート 〜女王の静かなる復活〜5

31131def.jpg10月28日、僕は至る所で楽器の音が鳴り響く、阿佐ヶ谷の街にいた。今年で12回目を迎える「阿佐ヶ谷JAZZストリート」を見に行くためだ。お目当ては、昨年静かに復活を遂げた90年代を代表する名ピアニスト、大西順子

彼女が絶頂の人気の中、突然シーンから消えたのは、確か99年頃のこと。レコード会社の方針との折り合いが付かなかったとか、結婚引退説だとか、様々な憶測が飛び交ったものの、その明確な理由は今以てどこにも語られてはいない。あったのは「大西順子が消えた」と言う事実のみ。彼女の音楽がもう聴けないという現実は、当時彼女のファンであった僕にとって、正直大きなショックであった。そして、世間の注目がようやく落ち着いた05年春、彼女は吉祥寺Sometimeでサイドマンとして静かに復活を遂げた。去って行った時と同じように突然、何の説明もなく。しかし今考えれば、その潔さ、ミステリアスさもまた、彼女らしい個性の表れなのだろう。

今回のステージでは、テナー峰厚介のバンドに大西をゲストとして迎え、フィーチャーするという形式。林栄一(as)、荒巻茂生(b)、本田珠也(ds)という日本人トップレベルの布陣も興味深いところだ。

午後5時。メンバーが静かに登場し、いよいよステージの幕が開く。オープニングはEric Dolphy(as)のフリーキーなナンバー、”G.W.”。昔と変わらない、ゴリゴリとした骨っぽい大西の音を聴いた瞬間に、懐かしさのあまり思わず鳥肌が立った。バッキングのリフひとつをとっても圧倒的な存在感。やはり彼女は本物だということを、今更ながら再認識させられた。林のDolphyライクなソロ、峰の浮遊感たっぷりのソロに続いて、いよいよ大西にソロの順番が回る。Monk、Mingus、Ornetteあたりを好んで演奏する彼女だけに、この曲調は最も得意とするジャンル。アグレッシブな表現手段、女性だということを全く感じさせない黒くソリッドなサウンド、タイト且つ豪快にスィングする、卓越したタイム感。全てはかつてのままだった。長期のブランクを感じさせないそのダイナミックな演奏に、会場が沸いた。

ミディアムスィングで愛らしいコード進行が魅力的なDon Cherry(tp)の"Art deco"、気だるくも美しい大西のオリジナルバラード、”Portrait in blue”と続き、ラストはかなりフリーの色が濃い峰のオリジナル”Red vest”。メンバー全員がオーソドックスからアヴァンギャルドまで、あらゆるスタイルで見事なソロを聴かせてくれた。そしてアンコールに林栄一作曲のファンク系8ビート”Brother”が演奏され、盛況のうちに1時間半のステージが終了した。

日本トップレベルのプレイヤーの演奏を十分に堪能できた素晴らしいステージ。このメンバーでの再演があれば、是非またライブに足を運んでみたいと思わせる内容だった。特に見事な復活劇を見せてくれた大西順子は、活動休止期間を経て更に演奏のスケールが大きくなった印象すらある。今後もマイペースで構わないので、定期的に表舞台に姿を現してくれることを期待したい。


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2006年10月08日

Painted desert / 大石 学(p)5

3d8b4e21.jpgゆうやけこやけの あかとんぼ
おわれてみたのは いつのひか

わずか八小節のメロディーと、ほんの短い言葉の断片。それが深く、そして静かに、日本人の琴線を揺さぶる。02年に録音されたピアニスト、大石学のアルバム"Painted desert"は、この「赤とんぼ」が、何とも言えなく印象に残る一枚だ。

ピアノトリオでの演奏。勿論歌は付いていない。しかし大石はピアノの響きひとつで、想い出、郷愁といったような微妙な感情を柔らかくなぞり、それぞれがいつか見た黄昏の風景を、音の向こうに描き出す。

もともとサイドマンやスタジオミュージシャンとして定評のあった大石は、実に器用なピアニストだ。ミディアムなスィング感が心地良いBut beautiful、スピード感溢れ端正なコード進行のI hear a rhapsody、美しいメロディーを切々と歌い上げるMoon riverなど、どんなタイプの楽曲でも、非常に高いレベルで纏め上げてくる。だがやはり、この「赤とんぼ」のような叙情的で物語性を持ったバラードのプレイには、別格とも言える趣がある。彼が大きな存在感を示したワンテイクとして、是非一度耳にして頂きたい逸品である。

本作を皮切りとして、イーストワークスにレコード会社を移籍して以降、精力的にリリースされる彼の作品群はいずれも本当に素晴らしい内容のものばかり。決して派手さはないものの、透明感と深みのあるリリカルなタッチと、純粋に美しいフレーズを紡ぎ出す、卓越した歌心のセンスが大石にはある。彼の音の響きの中にある、繊細で瑞々しい感動を、一人でも多くの方に味わって頂きたい。

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こちらに本作の試聴有り。
ONKYOのサイトにて大石学の作品が試聴可。


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2006年05月06日

Live at Blue Note Tokyo 97 / 秋吉敏子(p)4

a60ee14a.jpg秋吉敏子と言えば、夫であるLew Tabackin(ts)と共に長年活動してきたBig bandが有名であるが、本業であるピアニストとしても、やはりその腕は超一流。本作は"ピアニスト 秋吉敏子"の素晴らしさを改めて認識するためにはうってつけの一枚である。

タイトル通り97年のBlue Note東京に於けるライブを収録した本作であるが、そのサウンドの何と無骨でパワフルなことか。28年生まれの秋吉は、この年既に68歳。しかしながら、タイトでダイナミックなリズムワークに乗せて歌い上げられる一音一音はエネルギーに満ち溢れ、全く以ってその年齢や衰えを感じさせることはない。

Bud Powellからの流れを汲むバピッシュな語法をベースにした演奏スタイル。そこにBig bandのアレンジで培われたであろうモダンなハーモニーセンスや、東洋を意識したかのような独特のフレージングが加えられ、秋吉敏子の世界観が形作られている。彼女のオリジナルであるLong yellow road と Chic lady の2曲には、そのカラーが強く現れているので、是非じっくり聴き込んで頂きたい。

また、サイドに入った日野元彦(ds)が、バンド全体のサウンドを良く煽っているのが、本当に心地良い。彼のドラムの入ったことで、演奏のスケールが一段と広がった内容になった。99年に53歳の若さで亡くなった彼にとって、晩年を代表する名演を記録した一枚であると言えるだろう。

秋吉は04年、「そろそろピアノに専念したいので」という理由で30年続けたBig bandを解散させている。75歳にしてそういう発言が出来、それを実行できる感性は賞賛に値する。今後も本作に匹敵するようなトリオの名作の誕生を、是非期待したいものである。


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2006年05月03日

The Elysian air / 辛島文雄 (p)5

65a937ee.jpg05年の夏、山形国際JAZZフェスティバルで生演奏を聴いて以来、すっかり辛島文雄のファンになってしまった。近年若手の注目株が次々とメディアに取り上げられ、そちらにばかり目が行きがちであるが、辛島のような大ベテランや実力者達が、地道に素晴らしい演奏活動をしていることも、忘れてはならない事実である。

Elvin Jones(ds)に認められ、その意思を受け継ぐピアニストと評されることの多い辛島。ソリッドでエモーショナルなプレイスタイルはElvinの長年の相方であったMcCoy Tyner(p)を思わせるようなところもある。いかにも豪腕と呼ぶに相応しい彼の演奏であるが、その背後には緻密な計算と繊細な心配りがはっきりと感じ取れ、どれだけプレイが熱くなっていても粗野な印象というのは全く伝わってこない。自らをどこかから俯瞰しているかのような、悠然と構えた姿勢は、彼の演奏に一層の深みと味わいを与えている。

本作は01年に沖縄で行われたライブを収録したもの。フロントが入ることが多く、トリオでのレコーディングが思いのほか少ない辛島のリーダー作であるが、ここでは井上陽介(b)、奥平真吾(ds)という長年に渡る気心の知れたパートナーたちと共に、彼のトリオの真骨頂とも言うべきエモーショナルなサウンドを披露してくれている。

パワフルで圧倒的なスピード感を持った辛島のオリジナルOpen the gate、テーマをとる井上陽介のベースが独特の雰囲気を作るビートルズのNorwegian Woods、スィンギーなプレイが素晴らしいスタンダードLove for sale、締めを飾るお馴染みのAutumn leavesなど選曲のバランスも非常に良い。

本作を皮切りに、04年の"It's just beginning"、06年の"Great time"と、次々トリオの快作を発表している辛島。若手プレイヤーではなかなか出来ないその達観したプレイに、年齢を重ねることで更に磨きがかかった印象だ。精力的にツアーも行っているので、お近くでライブがある際には、是非生でその演奏を味わって頂きたいピアニストである。


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ライブスケジュールはオフィシャルサイト


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2006年01月23日

Outsaide by the swing / 山中千尋(p)5

758f7197.jpg05年9月の発売から4ヶ月。当初の少々過剰気味なブームが一段落付き、最近ようやくこのアルバムと素直に向き合えるようになった。今更な感も若干あるが、本日のテーマとして取り上げてみたい。

澤野工房での3枚のアルバムを経て、JAZZの最大手Verveへと移籍を果たした山中千尋。メジャーデビューアルバムである本作は、彼女にとってあらゆる意味で節目となる作品である。

この作品は、澤野工房で表現してきた山中千尋的手法の良い意味での総集編であると、僕は考えている。どのテイクを聴いても、過去の作品で親しまれてきた彼女らしい歌心やプレイスタイルが随所に散りばめられているし、"八木節""Living without Friday"の再演からもそのことが伺える。マイナーキーのミディアムテンポで心地よくスウィングする I will wait、ゴスペルとJAZZロックを上手く取り入れたアレンジの He's got the whole world in his hands、マイナーのバラードをしっとりと歌い上げるTeared diary など、どの曲もいかにも彼女らしい料理の仕方である。

ライブの時はアンコールで「鼻唄みたいなものですが」と謙遜しながら披露していたピアニカの Candy も本当に心地よく歌われていて素晴らしい。実はアルバム中で最もお気に入りなのはこのトラックである。2作目のアルバム"When October goes" でもスタンダードの"Just in time"が非常に良い出来だったように、こういったオーソドックスなコード進行のスタンダードをやらせると、彼女は幅広くフレーズを展開させながら、本当に楽しげによく歌う。

「千尋らしい」と言わせるスタイルを持ちながら、彼女の作風が比較的ワンパターンに陥らなかったのは、スタイルの引き出しが多く、それぞれが高いレベルでの完成度を持っていたからであると言えるだろう。オリジナル、JAZZの名曲、海外のポップス・ロックから日本のフォークソングまで、多彩で個性的な素材の選び方もそれを惹き立てていた。

次回作ではこれまでの「千尋らしさ」を更に発展させてゆくのか、それとももっと別の方向へと進んでいくのか。そこが彼女にとって本当の意味での正念場になることだろう。大きくブレイクしてしまった分、彼女にかかる期待・重圧は、今までとは比較にならないくらい大きくなる。

ライブのレポートの時にも書いたが、マスコミなどが煽れば煽るほどブームは過剰となり、本質は失われる。収容人数を求める為ホールコンサートになり、音響やJAZZのライブらしい迫力が犠牲になる。チケットが高騰し、本当に聴きたい人がライブに行かれない。にわかファンが増えて客の質が落ちる。プロモーターやレコード会社の意向が強くなり、ミュージシャンが本当にやりたいことが出来なくなる。などなど。そういった不穏な空気を、僕は少なからず感じている。

今の山中千尋を取り巻く環境を見ていると、かつて大西順子がシーンから突然姿を消した時のことを思い出してしまうのだ。彼女が表舞台から消えた真意というのは結局のところ不明のままであるが、そういった周辺との折り合いが原因との噂も根強い。

山中千尋が素晴らしい才能を持ったピアニストであることは、間違いないことである。だからこそ本人の能力だけでなく、メディアを含めた受け手の側ももう少し成熟したマーケットと対応をもって迎え、良い方向へ導いて行ってほしいと切に願う。

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universal musicの山中千尋のページにて試聴できます


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