本日は、久々にマニアックなエントリーとなってしまう事を、あらかじめご了承頂きたい。お題は、劇場用オリジナル長編アニメーション『ガンドレス』。恐らく誰も知らないであろうと思われるが、実は“伝説”と化している映画なのだ。イヤハヤ、凄まじい作品ですよ!


ガンドレス (1)


■ストーリー『西暦2100年、二度の震災を経て自治都市として生まれ変わったヨコハマ“ベイサイドシティ”。だが、22世紀を担う最新国際都市としての期待が高まるこの街は、いつしか国際的なテロ集団が暗躍する世界有数の犯罪都市と化していた。しかし、そのテロリストに対して悠然と立ち向かう女性6人のチームがあった。近未来を舞台にエンジェルたちの活躍を描く、ハードボイルド・ギガパンク・ムービー!』

「なんじゃこりゃあああ!!!」


これが、初めてこの映画を観た時の僕の心境である。僕自身、今まで散々色んな映画を観てきて、それなりに「ヒドイ映画」というものに対して免疫が出来ていると思っていた。数を観ていればつまらない作品や退屈な映画などいくらでも出てくるワケで、いちいち腹を立てていてもしかたがない。悪名高き『デビルマン』を観た時でさえ、途中退場する事も無く最後まで鑑賞したのである。しかし、『ガンドレス』はそんな“ダメ映画”の中でもヒドさのレベルが桁ハズレだった。なんせ映画が完成していないのだから!

本作は完全オリジナル劇場長編アニメという事で、一部ではそれなりに注目を集めていたようだが、本当に注目を集めたのは公開日当日だった。この件については各新聞でも報じられ、当時は大変な騒ぎとなったのである。

1999年3月20日付けのサンケイスポーツは「前代未聞!未完成のまま本日映画公開へ!」と題してその経緯を伝えた。記事によると「約1時間30分の本編中に、線画のままの部分や、セリフ、効果音と動画が合っていない部分などが100カット以上存在する」という。


東映が製作元の日活からプリントを受け取り、この衝撃的事実を知ったのが前々日の18日。当初は公開中止も検討されたが、初日まであと1日しかなかったため、結局そのまま上映に踏み切る事になったらしい。確かに単館上映なら中止も可能だったはずだが、42館とはいえ全国ロードショーである。関係者の苦悩と焦りと絶望は想像に難くない。ただ、これまでにも劇場公開に間に合わなかったアニメ作品はいくつもあるが、どれも世間を賑わせるほどのものではなかったことを考えると本作の騒ぎは異例といえる。ではいったい、『ガンドレス』はどれぐらい未完成だったのか?


映画館へ行くと「お詫びとお断り」と書かれた一枚の看板が置いてあった。続いてチケットを買おうとすると、売り場のおばちゃんから「この映画は未完成だから、納得した上で入場して下さい。後日完成品のビデオを送ります」と、とんでもない忠告を受ける。映画を観に行ってこんな事を言われたのは生まれて初めてだ。この時、完成版ビデオ送付用の用紙をもらう。


ガンドレス (2)


「いったいどんな映画なのか…?」とドキドキしながら席に着いた。予告編と宣伝が終わり、固唾を飲んで見守るうちに本編スタート。最初のうちは「多少、絵がヘタくそだな」という程度のものだったが、5分も経たないうちに問題のシーンが飛び出した。キャラクターの動きが、何だかオカシイ!どうやら、何枚か動画が抜けているようだ。しかも、ゴミや指紋やセルの端など、映ってはいけないものまで堂々と映り込んでいるではないか。


さらに、最初は瞬間的にしか判断出来なかった無着色シーンが徐々に増え始め、中盤以降は線しか動いていない部分が続出。適当に描かれた背景の上を、ベタっと一色で塗り潰されたキャラクターが疾走するという有り得ない映像を目の当たりにして言葉を失う!指定のラインを大きくはみ出た、子供の塗り絵みたいな着色に思わず腰が抜けそうになった。


ガンドレス (3)


挙句の果てには顔のデッサンまで狂い始め、テレビ電話を見ているようなカクカクした動きに目まいさえしてくる始末。セリフと口パクは終始ズレまくり、最終的にはとうとう効果音まで消え失せてしまった。未完成と知らずにこれを観たら、「前衛映画か?」と勘違いしたかもしれない。それほどまでにとてつもない作品だったのである。当然ながら興行的には最悪で、どの劇場も一週間程度で打ち切り、早いところでは2日で打ち切ったという(そりゃそうだ)


しかも、当時『ガンドレス』の製作スタッフは自社のホームページを立ち上げ、事の顛末を自ら日記として公開していたというのだから、呆れ返って言葉も出ない(もちろん、現在は閉鎖されている)。以下にその一部を抜粋。

1999年3月某日
「仕上げ処理を済ませた大量のセル画が、メインとなるスタジオに届けられた。制作進行7名、演出6名、そして動画・仕上げスタッフ全員が結集し、別スタジオで待機している。最終撮出しを開始しようと臨戦態勢を整えるスタッフたち。しかし、届けられたセル画を見て全員の顔が凍りつく!なんと、全て単色で塗り込められているではないか!つまり、完全に色指定が無視されていたのである。そればかりか、トレス線をはみ出して彩色されたセル画まである始末。その大量のセル画を眼前に控えたスタッフの顔からは、一斉に血の気が引いていった。「ど、どうしよう・・・!」。かくして、作業は仕上げから修正に急遽変更。土壇場に来て熾烈な地獄絵図を展開するハメになってしまったのである!恐るべし、某国アニメスタジオ!」(ホームページ『gundress.com』より)


この日記を読むと、どうやら海外に発注したセルの仕上げが不完全なものだったため、「あんな映画になってしまった」という事らしい。しかし、そもそも「3月に公開される映画を3月になってもまだ作っている」という状況自体が異常だと言わざるを得ない。問題は“未完成のまま映画を公開した”という事よりも、なぜ、こんな状態になるまで放置していたのかという点だろう。制作進行やプロデューサーはいったい何をしていたのか?


ある業界関係者は、「クリエイターに商品として完成させるつもりがあるなら、最低限、色だけは着けたハズだ」と証言する。国内での着色が無理と分かれば、早い段階で韓国などの業者に依頼していたと思われるが、『ガンドレス』のスタッフは製作の遅れを修正しようともせず、直前になってようやく重い腰を上げたと噂されているのだ。しかも公開日が3月20日と決まっているにも関わらず、2月に入ってもまだ国内のスタジオでレイアウト作業を行っていたというのだから只事ではない(スケジュール的には、遅くとも1月末までには完パケ状態で納品されているのが普通)。

「結局、日本のアニメは常にギリギリのところでやってるんですよ。それはクリエイターたちのこだわりと、それに基づくオーバー・クオリティとオーバー・ワークに依る部分が大きいんです。今までにも“もう間に合わないかもしれない!”と感じる現場はいくつもありました。だけど、たまたまそうならなかっただけなんです」と、ある劇場用アニメの監督は語っている。


確かに、「劇場アニメの完成が公開日に間に合わない」という話は今に始まった事ではなく、『宇宙戦艦ヤマト・完結編』や『火垂るの墓』や『機動戦士ガンダム・F91』など例を挙げればきりが無い。『新世紀エヴァンゲリオン』に至っては、わざわざ記者会見を開き、「間に合わなくてすみません!」と庵野監督自らが謝罪するという異例の騒ぎにまで発展している。


“世界の巨匠”宮崎駿ですら、『もののけ姫』製作当時のスケジュールはもはや絶体絶命と言われていたのだ。しかし鈴木プロデューサー指揮の下、集められるだけのアニメーターをかき集め、CGを大量に投入し、作業効率をひたすら高める事によって“奇跡”を起こし、ギリギリで公開日に間に合ったのである(『もののけ姫』の製作状況の凄まじさについては、「もののけ姫はこうして生まれた」というメイキングビデオを見れば詳しく紹介されている。宮崎監督がアニメーターに向かって「スタジオ・ジブリ創設以来の、未曾有の大ピンチです!」、「皆さんの日常生活を、ある程度犠牲にして下さいとしか言いようがありませんッ!」などと、悲愴感漂う表情で訴える場面は圧巻だ)。


すなわち、日本で作られているほとんどのアニメが「常に危ない橋を渡っている」と言っても過言ではないのだ。『ガンドレス』の事件はまさに「起こるべくして起こった事件」と言えるだろう。


ちなみに、後日「完全版」と称するビデオが送られてきたが、「これのどこが“完全”なのか?」と首を捻りたくなるようなシロモノだった。相変わらず動きはヘンだし、キャラクターの絵はグダグダのまま。一応、色だけは線からはみ出さずに塗られているものの(当たり前だ!)、作画に関しては1ミリたりとも修正が施されていないのである。どうやら、彼らの中で「完全版」とは、キチンと色を塗りましたという意味らしい、トホホ。


尚、現在レンタルビデオ屋で借りる事が出来る『ガンドレス』は修正されたバージョンなので、観てもあまり意味が有りません。20年前のテレビアニメみたいな、普通につまらない映画となっているので借りるのはやめた方がいいでしょう(笑)。