トゥモローワールド


■ストーリー『西暦2027年、人類はすでに18年間も子供が誕生していなかった。原因は分からず、人類滅亡の時が刻一刻と迫り、希望を失った世界に広まる暴力と無秩序。こうした中、英国政府は国境を封鎖し不法入国者の徹底した取締りで辛うじて治安を維持していた。そんなある日、エネルギー省の官僚セオは、彼の元妻ジュリアン率いる反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンの目的は、移民の少女キーを“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な通行証を手に入れることだった。最初は拒否したものの、結局はジュリアンに協力するセオだったが、その少女にはある秘密が隠されていた。原作は、“ダルグリッシュ警視シリーズ”などで知られる英国を代表する女流ミステリ作家P・D・ジェイムズの『人類の子供たち』。「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のアルフォンソ・キュアロン監督が、人類の未来を左右する一人の少女を巡る攻防に巻き込まれた主人公の運命をスリリングに描く、近未来SFサスペンス!』


いや〜、久しぶりに凄い映画を観た。『トゥモロー・ワールド』は、そのありきたりなタイトルとは裏腹に、とてつもないインパクトを観客に与える衝撃作である。特に、ワンカット長回しを多用したドキュメント的映像表現が、映画全体に信じ難い程の臨場感を醸し出しているのだ。さすが、ヴェネチア国際映画祭でオゼッラ賞(技術貢献賞)を獲得しただけのことはある。


けど、世間では批判的な意見も結構多いらしい。「不妊の原因が分からない」とか、「ラストが意味不明」など、謎を残す終わり方に賛否が分かれているようだ。まあ、ぶっちゃけストーリーそのものは大した事無いと思う。だが、最新VFXを駆使した圧倒的なヴィジュアルの前では、そんな些細な問題など「全てケシ飛んでしまう」と言っていいだろう。しかも驚くべき事に、巷で話題となっているワンカット長回し表現、実はワンカットではなかったのである!えええええ!?いったい、どういう事!?というワケで、今回はネタバレに加えて、映像効果のネタばらしまでやっちゃいますよ〜。未見の方はご注意下さい。

映画冒頭、物語は世界最年少の少年が殺されたという情報が街に流れる場面から始まる。コーヒー・ショップでこのニュースを聞いていたテオが店を出たとたん、いきなり建物が大爆発!ここまで、カメラはずっとテオを追いかけ続け、一度もカットを割っている様子は無い。だが、一見長回し撮影に見えるこのシーン、実は2つのショットを一つにつなげて、あたかもワンカットで撮られたかのように錯覚させていたのである!


この映画では、キュアロン監督は可能な限りワンショットでの撮影を行うという方針を採っていた。それは監督が最もこだわった部分でもあり、例え別々に撮影されたシーンでも、それらがまるでワンカットで撮影されたかのように見せる必要があったのだ。しかし、そのためにはそれぞれが異なったカットであっても、全く同じカメラ位置で撮影されたように変換しなければならない。そこで、製作スタッフはPlaneltというオリジナルのツールを開発した。


Planeltは、複数のシーン同士をつなげるにあたって、撮影で得られた2次元画像に奥行きを与え、2,5次元の情報を作り出す事が出来る。その結果、シーン同士をつなげる過程で、撮影画像を任意のカメラ位置で捉えた画像に変換することができるのだ。このPlaneltのおかげで、「ワンカットじゃないのに、どう見てもワンカットにしか見えない衝撃映像」が次々と生み出されていったのである。


例えば、映画の見せ場の一つに、テオを含む主役クラスのキャラクター5人を乗せた車が、反政府組織のアジトに向かうシーンがある。すると、突然炎に包まれた車が行く手を遮り、武装した集団が襲い掛かって来た!慌ててバックで逃げる主人公たち。バイクに乗った男たちが銃を乱射!砕け散るフロントガラス!必死で応戦するテオ!この延々12分間に及ぶアクションシーンも、車の中の5人の言動が全くカットされていないように見えるが、実際には別々のロケーションで撮影された6つのシーンを、一つにつなげたものなのだ。


但し、ここでは非常に特殊な撮影方法が用いられている。主人公たちが乗る車は、大きなトラックの荷台のような装置に載せられており、実際のドライバーはこのトラックの方を運転していたのだ。そして車の天井部分は切り取られ、そこに備え付けられたカメラを撮影監督やカメラマンがコントロール。この装置からさらに小さなカメラが車の内部に伸びており、このカメラは自由自在に車の中を移動できるようになっている。これによって、同乗者の邪魔にならないようにカメラを動かす事が可能になったという。更に、車を載せたトラックの荷台には、車が襲撃された時に発生するスパークなどのエフェクトを作り出すために、テクニカル・スタッフとVFXスーパーバイザーが待機していたそうだ。


このシーンでは、その他にも様々な部分でCGが用いられている。例えば、テオとジュリアンが口に入れたボールをお互いにキャッチし合うシーンがあるのだが、このボールはCGだ。また、銃でジュリアンを撃つ2人の敵も、クラッシュ寸前にCGアクターへと置き換えられている(もちろん、2人が乗っているバイクもCG!)。おまけに、弾丸にぶち抜かれて飛び散るフロントガラスや、車の上部なども全てCGで作成されているというのだから、凄まじいとしか言いようが無い。ちなみに、本作では1階しかない建物をCGで3階建てに見せたり、背景を全てCGで合成したり、尋常でない量のCGが投入されている。中でも、CGの赤ん坊が産み落とされるシーンに至っては、あまりのリアリティに感動すら覚える程だった。


だが、何と言っても本作の白眉は、クライマックスの6分間以上にもおよぶ驚愕のワンショットであろう(資料によっては8分間となっている)。観た者全てに強烈なインパクトを与える、前代未聞の超長回し戦闘シーン。だが、このシーンも実は、異なったロケーションで撮影された7種類のショットを、Planeltによって一つにつなげたものだったのだ。ただし、映画のハイライトでもあり、ワンカットである事が重要な場面であっただけに、どのショットをどのようにつなげるかという事に関して、あらかじめ入念なリサーチが行われたらしい。


撮影現場にも編集用のワークステーションが持ち込まれ、リハーサルが終わる度にPlaneltでつないだ映像が念入りにチェックされた。その中で、俳優の動きや背景に不自然な要素が見つかれば、全て事前に取り除いておかなければならないからだ。もちろん、本番においてもショットとショットをつなぐ際に不都合が生じる要因が発見された場合には、スタッフは直ちにそれを指摘しなければならなかった。迫力ある6分間の“バーチャル・ワンカット”は、このような緊迫した作業の連続によって作り出されたのである。すげえ!すげえよ、キュアロン監督!!


複数の異なるショットを一つにつないで、擬似的なワンカットを作り出す手法そのものはブライアン・デ・パルマなどが好んで使っているし、最近では『三丁目の夕日』のオープニングで使用されるなど、格別珍しいものではない。だが、本作で展開される“擬似ワンカット”は、その完成度の高さにおいて他を圧倒しているのだ。おそらく、DVDのスロー再生等でシーンをじっくり検証してみても、どこでカットを割っているのか判別するのは至難の業だろう。それほど、映像には不自然さが一切見当たらず、本当にワンカットで撮ったかのような恐ろしい程のリアリティに満ち溢れているのだ。つくづく「とてつもない映画だ」と言わざるを得ない!