ミッション8ミニッツ (3)

さて、昨日は『ミッション:8ミニッツ』のレビューを書いたのですが、ネタバレしないように書いたらほとんど内容について触れられなかったため、妙なフラストレーションが溜まってしまいました(笑)。よって、本日は「完全ネタバレ編」として書かせていただきます。

本作は謎解き要素を絡めたサスペンス映画なので、様々なトリックやどんでん返しを楽しめるところがポイント。しかし、基本設定が「SF」であることから、若干理解し辛い部分も見受けられました。特にラストシーンに関しては、「あれは一体どういうことなの?」と困惑する人が続出した模様。そこでこのエントリーでは、奇妙なミッションを詳細に検証しつつ、ラストシーンについて自分なりに考察してみようと思います(解釈が合っているかどうかは保障できませんがw)。

ストーリーの概要については昨日の記事で書いたので省略します(詳しく知りたい方は前の記事をご覧ください)。



まず、「そもそも”ソースコード”って何なのよ?」ってことなんですけど、僕は最初「過去の出来事を正確に再現する高性能シミュレーター」だと思ってたんです。主人公のコルター・スティーヴンスが二回目のミッションで列車内に転送された時、「最近の仮想訓練は良くできてるなあ」みたいな感じで他の乗客や手すりに触りながらリアルな感触に驚く場面があるので、「なるほど、死んだ人の記憶からデータを抽出して8分間だけ仮想現実空間を構築するプログラムなんだな」と解釈していたわけです、この時点では。


ところが、仮想世界にしてはあまりにもリアリティがあり過ぎるんですよね。まあ、それを言うと『マトリックス』とか成立しなくなるんだけど(笑)。それ以前の問題として、このミッションの目的は「爆弾犯人を見つけること」なのに、コンピュータには主人公が憑依したショーンという教師の記憶しかないわけだから、得られる情報はごく僅かなんですよ。ドライブレコーダーが車の正面しか映していないのと同様に、自分が座っていた車両とその周辺のデータしか出て来ないはずなんです。


しかし、実際には列車内にいる一人一人の人間や他の車両も完全に再現しているし、それどころか、列車を降りた後も世界が存在し続けているのですよ。挙句の果てには、犯人しか知らないはずの「爆弾の隠し場所」まで再現する有様。この辺で「あれ、これはバーチャルリアリティじゃないのかな?」と気付きました。その後、システムを設計したラトレッジ博士が出てきて仕組みを詳しく説明してくれます。以下、解説内容を抜粋。

「白熱電球をオフにした時に灯りがゆっくり消えるのを見たことがあるか?脳もあれと一緒で、死後しばらくの間は帯電している。その間回路は開いたままだ。それと脳にはもうひとつ特性があって、8分間の短期記憶トラックを含んでいるんだ。コンビニの監視カメラが一日の最後の部分をハードディスクに保存してるようなものだよ。この二つの特性を利用して、回路が開いたままの脳と8分間の記憶を含んだ脳をソースコードは重ね合わせて活用することができる。それは、我々に”並行世界”へのアクセスを可能にしたのだ」


並行世界(並行宇宙)とは、「今自分達が住んでいる世界から分岐し、それに並行して存在する別の現実世界(時空)」というSF用語です(「パラレルワールド」や「マルチバース」などとも呼ばれる。ちなみに「平行世界」と書く場合もあるようですが、ここでは「並行世界」に統一します)。この映画の中では「parallel reality」という言葉を使っていました。


つまり「ソースコード」とは、過去の出来事を再現するシミュレーターでもなければ、タイムマシン的な何かでもなく、「8分間だけ並行世界にアクセスできるゲート」だったのです。もっと厳密に言うと、「並行世界に存在している特定の人物の意識へシンクロできるデバイス」という感じでしょうか(公式サイトにも同様のことが書かれています)。


この事実を前提として、コルターが取り組んでいたミッションを検証してみましょう。まず、彼自身はアフガンでの戦闘によって肉体的にはほぼ死亡しており、機械に接続された脳だけが微弱な電気信号を発し、それをプログラム化することでかろうじて自我を保っている状態です。そしてプログラム化されたコルターの意識は、「ソースコード」を通じて別の並行世界へと送り込まれます。では、この「別の並行世界」とは何でしょうか?


主人公達が元々いた世界を「列車爆破テロが起きてしまった世界」(世界A)とすると、コルターが送り込まれた世界は「テロがまだ起きていない世界」(世界B)になります。一見すると、世界Aと世界Bは同じ時間軸のようにも見えますが、二つの世界はそれぞれ違う宇宙に存在しているパラレルワールドなのです(その証拠としてラトレッジ博士は、「向こうの世界から電話をかけても私には繋がらない。もし繋がったとしたらそれは別の私だ」と説明している)。


そして、世界Bに転送された主人公は犯人を捜して色々な行動をとるわけですけど、3回目の転送に注目してください。この時、コルターはクリスティーナを連れて列車を降ります。その直後、列車は大爆発。つまり、「列車を降りる」という行為を分岐点として「列車は爆発するが二人だけ助かった世界」(世界C)が新しく生成されたのです(直後にコルターは列車に轢かれてしまいますが)。


更に、8回目の転送の時。ようやく犯人を見つけるが、コルターは銃で撃たれ、追いかけて来たクリスティーナも撃たれて倒れる。ここでは「列車は爆発し二人も撃たれた世界」(世界D)が生成されました(ただしバッドエンド)。しかし、この時コルターはある事に気付きます。「8分を過ぎているのに、ソースコードが終了しない…」、「もしかしたら、8分を越えてもこの世界で生存し続けることが可能なのでは?」


ミッション8ミニッツ (5)


その後、コルターは元の世界へ戻り、犯人の名前や車のナンバーなどを伝え、無事に犯人を逮捕。シカゴでの大規模テロを未然に防ぐことに成功します。しかしコルターは「まだやり残したことがある」と言って、グッドウィン大尉(ヴェラ・ファーミガ)に「もう一度転送してくれ」と頼みます。

グッドウィンは「たとえ皆を救っても、それはこの世界に何の影響も及ぼさない。過去は変えられないのよ」と反対しますが、「量子力学か。君は間違っている」と諦めないコルター。結局グッドウィンは了解、しかもコルターは更にあることを依頼します。「8分が経ったら、生命維持装置を切って欲しい」


そしていよいよ最後の転送です。手慣れた様子でさっさと爆弾を処理し、あっという間に犯人を確保。犯人から奪った携帯電話で父親に電話するコルター。元の世界では自分はほぼ死んでいるのでどうすることもできなかったが、この世界なら父と話ができる。想いを伝えることができる。「本当は謝りたかった」と…。


ミッション8ミニッツ (4)


最後の8分間が終了するまで残りわずか。クリスティーナの所へ戻ったコルターは彼女に尋ねます。「もしもあと1分の命だったら、君はどうする?」 少し考えて答えるクリスティーナ。「意味のある1分にするわ」 周りを見ると、乗客皆が楽しそうに笑っている。

変えられないはずの世界を変えることができた。大勢の人の命を救うことができた。充実感と共に彼女を抱きよせるコルター。「しばらくこうしていたい。ここがきっと“僕らの場所”だろうから…」 そしてキスをする二人。その瞬間、全ての時間が静止。グッドウィンが生命維持装置のスイッチを切ったのです。止まった時間の中をゆっくり浮遊するカメラワーク(このシーンは本当に美しい)。


しかし次の瞬間、再び時間が動き始めました。驚き、そして自分の仮説が間違っていなかったことを確信するコルター。いったい、何が起こったのでしょうか?爆弾を処理し、犯人を捕えたことにより、「列車は爆発せず、乗客が全員助かった世界」(世界E)が新たに生成されたのです。しかも、コルター自身の身にもある変化が…。

犯人を捕まえた時点では、まだコルターの肉体(母艦)が生きているので、宿主であるショーンとコルターの意識が同居していました。もしグッドウィンが生命維持装置を切らなかったら、コルターの意識はソースコードによって元の世界へ引き戻され、代わりにショーンの意識が覚醒していたでしょう。その場合、ショーンは8分間の記憶を失っていますが、後は何事も無く普通にその世界で生活を継続できたはずです。


ところが、生命維持装置を切った瞬間、帰るべき母艦(肉体)を失ったコルターの意識(プログラム)はショーンの肉体に常駐することになり、そのままショーンの意識を上書きしてしまったのです(時間が静止したように見えたのはその間にデータを書き変えていたから)。つまり、事実上ショーンの人格は消滅したことになるわけです(ダンカン・ジョーンズ監督も同様の事を述べているので、この解釈でほぼ正解だと思いますが、ショーンがちょっと可哀想な気も…)。


その後、列車はシカゴに到着。コルターとクリスティーナが向かった先は、ミレニアム・パーク広場でした。そこでコルターが見たものは、アニッシュ・カプーアの野外彫刻作品「クラウド・ゲート」。全体が湾曲した鏡面で構成されたこの不思議なオブジェは、周囲の景色や人物を反射し、アトラクションのように歪んだ像を映し出しています。コルターはこの彫像に見覚えがありました。それは、何度も転送を繰り返す刹那に表れていたフラッシュバック。

そう、もしも二人が生き残っていたら辿り着けていたかもしれない未来を、彼はいつも見ていたのです(理屈としては、量子コンピューターが予測可能な複数のイメージをアウトプットしていたらしい)。でも、コルターはそこに”偶然ではない何か”を感じました。「…運命って信じるかい?」というコルターの問いかけに、「マグレなら信じるわ」と微笑みながら答えるクリスティーナ。オブジェの鏡面に二人の姿を捕えながらこのシーンは終了します。


ミッション8ミニッツ (2)


次に場面が変わって研究施設の中。何事も無かったかのようにグッドウィンが出勤してきますが、彼女は「元の世界」(世界A)のグッドウィンではありません。「列車爆破テロが起きなかった世界」(世界E)のグッドウィンなのです。そこへ突然メールの着信が…。

「もし、君がこのメールを読んでいるなら、例のアクシデントの話を聞くことになるだろう。僕たちが爆破テロを阻止したんだ。ソースコードは君が思っている以上の機能を発揮する。君らは過去の8分間を創造したと思っているかもしれないが、それは違う。全く新しい世界を作り出していたのだ。施設のどこかでコルターがミッションの開始を待っているはずだ。もし彼がいたら伝えて欲しい。”きっと全てうまくいく”と…」


そのメールはショーンの肉体と同化したコルターが、パラレルワールドの存在を知らせるためにグッドウィンに送ったものです(二人とも「世界E」に存在しているので送ることが可能だった)。メールには(イタズラではないことを証明するために)犯人の名前やグッドウィンしか知らない情報も記載していましたが、重要なのは「この世界ではテロが起きていない」ということ。つまり、ソースコードがまだ使用されていないのです。


過去の実験で、この装置が「並行世界へアクセスできる」ということぐらいは知っていたのかもしれませんが、新しい世界を作り出せるとか、8分以上も世界を継続できることなどは実証されていないはずです。慌ててソースコードが設置してある部屋へ見に行くグッドウィン。そこには、機械に繋がれ何も知らずに眠り続けるコルターの姿が…。つまり、この世界Eでは、「ショーンの肉体を乗っ取ったコルター」(コルターA)と「生命維持装置に繋がれたコルター」(コルターB)が同時に存在しているのです。


映画はここで終わりますが、パラレルワールドが存在することを知ったグッドウィンはこの後どのような行動を取るでしょうか?おそらく、世界Aのグッドウィンと同じようにコルターに協力するのではないかと思います。もしかしたら、世界Aのグッドウィンも、事前に別の並行世界のコルターからメールで何かを知らされていたのかも…。だからこそ、あれほど親身になって協力してくれたのかもしれませんね。


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