翌2日、午前9時。
正人は自宅の二階、自分の部屋で爆睡していた。
彼は昨日の元旦、家に帰って仮眠をとると、親戚廻りや家の行事で一日を過ごした。
舞の事が気になっていたのでメール送ると、彼女らしい元気な返信が届く。
試合に負けた事や、お仕置きのショックは感じられない。
正人は、ホッとした。
やり取りをしていると、舞から、2日空いているか訊ねて来た。
空いている、と返信すると、嬉しそうな文章で、初詣の誘いがきた。
正人は、即OKの返事を返し、会う時間は舞に任せた。
で、約束は午前9時。
正人の母「正人~、可愛い彼女が迎えに来てるわよ~。」
その一言で目が覚めるのは、さすがと言うべきか。
「やべっ、寝過ごしたっ!」
彼は、慌てて着替えると、部屋を飛び出した。
その勢いのまま、転がるように階段を駆け降りて来た。
舞「まーちゃん、改めてあけおめ~。」
彼女の元気な声が響く。
「ご、ごめんっ、ごめんっ、明けましておめで…」
言いかけて、正人は息をのんだ。
『舞…綺麗だ…』
彼の目の前には、晴れ着を着た舞が微笑んでいる。
ふと正人は、帯を引っ張り、舞を回して晴れ着をはだけさせたい衝動にかられた。
が、正月早々の己の馬鹿さ加減に、自分で自分の頬をはたき、何とか自制する。
舞「あははっ、何やってんのっ、まーちゃんっ。
それよりどう?似合うかなー?」
正人「似合う、似合うっ、ハッキリ言って、凄く綺麗で可愛いよっ!」
彼は普段、この類の誉め言葉を使わない。
舞は、真っ赤に照れながら、
「もうっ、まーちゃんは上手いんだからー。
でも、ありがとっ!
じゃ、行こっ!」
そう言うと、自分の腕を、正人の腕に絡めた。
神社まで、談笑しながら歩いていく。
正人「なあ舞、俺に言いたかった事って、何だった?」
すると舞は、ちょっと慌てて、
「あっ、それは女王さんに勝ってからっ!
それまで待ってて。」
正人は、首を傾げた。
告白かと思っていたが、現在既に付き合っているようなものだ。
『女王さんに勝って、改めて言いたいのかな?
舞らしいと言えば、舞らしいけど。』
初詣で賑わう神社。
正人「よっしゃ、大吉だ!」
舞「私もよっしゃ!」
正人「おっ、舞も大吉?」
舞「ううん、凶っ。」
正人「何で凶で、よっしゃ、なんだよ。
引き直す?」
舞「ううん、いらない。
だって凶ってなかなか出ないでしょ?
ある意味、確率の低いのが当たったから運がいいかもっ。」
正人「じゃあ、大吉だったら?」
舞「それはそれで嬉しいよ。
私は、何がきても良い方にしか考えないからっ。」
正人は思う。
舞のポジティブな性格が、彼女の一番の魅力だという事を。
その後も、二人楽しく過ごす。
この間、舞に気付いたファンから、至る所で激励を受けた。
舞は、一人一人に感謝の言葉を述べていたが、余りにも人が増えてきたので、逃げるように神社を後にした。
舞「ふう、驚いたっ。
あ、そうだっ。
5日の昼に、バーベキューやるから二人でおいでって、女王さんからメールあったよっ。
まーちゃん、空いてる?」
正人は、舞が行くなら俺も行く、と返した。
舞「じゃ、十一時頃迎えにくるねっ。
わーいっ、まーちゃんと一緒っ!」
そして人気のない所まで来ると、舞は周囲を窺いだした。
そして何を見つけたのか、
「ねぇ、まーちゃん、ちょっと来てっ。」
と言って、正人を塀で囲われた工事現場へ誘う。
まだ正月の2日だ。
当然誰も居る筈が無い。
正人「どうした?
何かあったのか?」
舞は、正人の問いに、現場の入り口を気にしながら、
「ちょっと、お尻どうなってるか見て欲しいの。」
と言って、晴れ着の裾を腰まで捲り上げた。
正人は驚いた。
何故なら、舞の裸の下半身が、目の前に晒されたからである。
正人「ま、舞っ、お前パンツはっ!?」
舞「ん?ああ、着物だから下着つけてないよ。
それより、お尻どうなってるの?」
正人は舞の言葉に、彼女のお尻を凝視した。
女王によるお仕置きの跡であろう。
痛々しく痣が残っていた。
彼は、舞にその事を告げた。
舞「そっか~、どおりで痛い筈だもん。
あ、痛いのは少しだけだけどね。」
正人は、舞のお尻に欲情が高まるのを感じた。
舞「まーちゃん、私も見たいから携帯で撮って。」
理性が消えかけている正人は、素直に舞の言葉に従う。
至近距離で、数カット携帯に収めた。
そして彼は、舞に声をかけると、お尻に手を伸ばしかけた。
舞は、晴れ着を直すと、振り返って正人の携帯を覗き込む。
「わっ、結構残ってるねっ。
女王さんは、数日で消えるって言ってたけど、大丈夫かなー!?」
舞の声に、正人が正気に戻る。
慌てて彼女の質問に答えた。
「大丈夫だよ。
すぐ消えるから心配ない。」
この発言は、昨年末に舞からお尻叩かれた体験からきている。
正直、彼女からのお仕置きは、泣きそうなほど痛かった。
翌日、かなり痣になってたが、4日程で消えたのを覚えている。
それが彼には、不思議と嬉しい記憶で残っている。
舞は微笑むと、
「うん、まーちゃんが言うんだったら、間違いないよねっ。
ゴメンね、変なもの見せて。
行こっ!」
正人の手を掴んで、そのまま通りに出る。
その帰り道、ふと、舞が改まる。
彼女は俯き加減で、
「まーちゃん、いつも我が儘聞いてもらって、ありがとうね。
そしてごめんね。」
と、申し訳無さそうに言った
正人は、舞がいきなり何を言い出すのかと、彼女の顔を覗きこんだ。
舞「私のせいで、まーちゃんが練習出来ないもんね。
本当にごめんねっ。」
正人「そんなの迷惑と思ってないよ。
舞、気にするなよ。」
舞もその言葉に、正人の目をジッと見つめた。
「まーちゃんって、優しいよね…。
でも、時々は…」
舞は頬を染めて、瞳を潤ませた。
「私の事、叱って、お尻叩いたりしていいからねっ。」
正人は、舞の発言に驚いた。
「舞…、何言って…」
男「おうおう、お二人さん、正月もお熱いね~。」
舞と正人は、驚いて声の主を見た。
通りがかったコンビニから、ひょいと松波が出てきたのだ。
相変わらず、ヘラヘラしながら近づいてくる。
舞は、露骨に嫌な顔をして、コンビニと松波を交互に見た。
「正月早々、不快な顔見せないでよ。
で何?今日は腰巾着一人?
クロとアカは?」
クロとアカとは、松波とツルんでる黒沢と赤木の事だ。
松波「ふん、あいつらも忙しいんだよ。」
舞「あんたに愛想尽かしたんじゃないの?
あんたから金を取ると、何一つ人が寄り付く要素が無いもんね。
しかもコンビニで待ち伏せなんて、よっぽど暇なのね。
友達いないのお気の毒っ!」
松波は苦笑いを浮かべ、
「相変わらず、言うね~。
少しは口の効き方に気をつけろよ。
お前こそ、暴力だけじゃねぇか。」
鬱陶しいと感じた舞は、無言で握り拳をつくった。
それを見て松波、
「おいおい、いきなり喧嘩腰か?
今日は、お前にわざわざお礼を言いに来たんだぜ。」
舞は怪訝そうに、
「お礼~!?」
と聞き返す。
松波「試合見たぜ。」
その言葉に、舞の表情が険しくなる。
正人も、松波を睨んだ。
松波「舞、子供みたいに無様に泣いてたな。
おかげで最高の気分だったよ。
なあ、シロ。」
シロと呼ばれた白井は、笑みを浮かべて頷いた。
舞「カス波、喧嘩売ってんの?」
正人「舞、よせよ。
こんな馬鹿ほっといて行こうぜ。」
卑下た笑いを浮かべる松波とシロを無視して、正人は舞を促した。
立ち去ろうとする舞と正人に、松波の言葉が追いかけてくる。
「舞、お前がお仕置きされるシーンで、ヌケちゃったよ。
へへへ…。」
舞に対する侮辱に、正人が思わず振り向いた。
が、その時には、舞のパンチが松波の顔面を捉えていた。
松波は、口から血を流し倒れる。
舞の一撃で失神したようだ。
その光景にシロは青ざめた。
正人は、咄嗟に舞を抱き止め、彼女による松波への更なる攻撃を止めさせようとする。
舞「まーちゃんっ、離してっ!
この卑怯者に思い知らせてやるんだからっ!」
正人「落ち着け、舞っ、落ち着いてくれっ!
おいシロっ、早くその馬鹿連れて向こう行けっ!」
シロは正人の言葉にハッとすると、松波を抱えて立ち去った。
松波達が姿を消すと、舞も大人しくなった。
正人がふと見ると、彼女は大粒の涙を流して、
「…ちくしょう…
卑怯者が…」
と悔しがっていた。
正人は、舞が泣いている事に驚き、抱きしめて優しく慰めた。
そして慰めながら、松波に対する舞の敵意の強さを、異常に思う。
『確かに松波はカスみたいな奴だが、どうして舞がこれほどムキになるのか…』
そして、それとは別に、このままでは済まないだろうと思った。
高橋道場。
舞を気遣いながら、正人が元春と唯に事情を話す。
正人「多分、あいつは歯の2、3本は折れてると思います。」
元春も唯も無言で聞いていた。
二人共、正人の言いたい事はよく分かっている。
挑発されたにせよ、相手を殴り怪我をさせた事が問題なのだ。
何より、舞は普通の高校生ではない。
プロの格闘家として、あまねく世間に知られているのだ。
そのプロ格闘家が素人を怪我させた。
となると、法的に見ても厳しいペナルティは免れない。
元春は、正人に向かって、
「まーちゃん、心配かけて済まなかったな。
だが気にしなくていい。
放っておこう。」
と事も無げに言った。
正人は驚いた。
放っておいて済む話では無いはずだ。
が、唯も平然と、気にすること無い、と笑っている。
正人は、手持ち無沙汰を覚えた。
両親もこんな調子だし、舞は不機嫌にふさぎ込んでいる。
彼は、舞に言葉をかけて、お暇することにした。
正人が帰ると、元春は舞に、
「じゃあ舞、先方さんへ謝りに行こうか。
先に電話入れるから、着替えてきなさい。」
と促した。
舞は、力無く頷いた。
彼女は、正人を心配させまいとする両親の気遣いに感謝すると共に、これから松波に謝罪しなければならない事に、気持ちが沈んでいく。
数時間後、松波邸。
応接間、松波親子の向かいに、元春、舞の姿がある。
舞と松波は、互いに無言で相手を見据えている。
松波父「高橋さん、これで二度目ですな。
…お宅のお嬢さんは、ウチの政雄に恨みでもあるんですか?」
元春は、それに皮肉で応える。
「そうですな…
以前、ウチの娘が其方のご子息に、抱きつかれた事がよっぽど不快だったのでしょう。」
松波父「あ、あれは、前にも言いましたが、スキンシップの一環で…」
元春「イジメられてる生徒を庇った娘に、男が大勢で抱きつくのがスキンシップというなら、痴漢もレイプもスキンシップでしょうな。」
松波父「な、何がレイプですか…
それにあれはイジメじゃなくて、息子が仲間内で遊んでいたのを、其方のお嬢さんが…」
松波父の言い訳を、元春が遮る。
「娘が普通の女生徒ならどうなっていたか…
また、その時娘にノサれた事を根に持って、事ある毎に挑発してきたお宅のご子息にも十分非があると思いますがね。」
本来、元春は謝罪に来たわけだが、松波父の愚にもつかない物の言い方に苛立ちを覚えていた。
険は険を打ち、火を放った。
松波父「高橋さん、あなた、謝罪に来たんじゃ無いんですか?
此方も事を荒立てたくないんですけどねぇ…」
元春は沈黙した。
彼も元より、そう望んではいる。
松波父は、その様子に重ねて言った。
「そちらも示談で収めるつもりなら、治療費慰謝料は当然として、この場でお嬢さんを躾て欲しいんですよ。」
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正人は自宅の二階、自分の部屋で爆睡していた。
彼は昨日の元旦、家に帰って仮眠をとると、親戚廻りや家の行事で一日を過ごした。
舞の事が気になっていたのでメール送ると、彼女らしい元気な返信が届く。
試合に負けた事や、お仕置きのショックは感じられない。
正人は、ホッとした。
やり取りをしていると、舞から、2日空いているか訊ねて来た。
空いている、と返信すると、嬉しそうな文章で、初詣の誘いがきた。
正人は、即OKの返事を返し、会う時間は舞に任せた。
で、約束は午前9時。
正人の母「正人~、可愛い彼女が迎えに来てるわよ~。」
その一言で目が覚めるのは、さすがと言うべきか。
「やべっ、寝過ごしたっ!」
彼は、慌てて着替えると、部屋を飛び出した。
その勢いのまま、転がるように階段を駆け降りて来た。
舞「まーちゃん、改めてあけおめ~。」
彼女の元気な声が響く。
「ご、ごめんっ、ごめんっ、明けましておめで…」
言いかけて、正人は息をのんだ。
『舞…綺麗だ…』
彼の目の前には、晴れ着を着た舞が微笑んでいる。
ふと正人は、帯を引っ張り、舞を回して晴れ着をはだけさせたい衝動にかられた。
が、正月早々の己の馬鹿さ加減に、自分で自分の頬をはたき、何とか自制する。
舞「あははっ、何やってんのっ、まーちゃんっ。
それよりどう?似合うかなー?」
正人「似合う、似合うっ、ハッキリ言って、凄く綺麗で可愛いよっ!」
彼は普段、この類の誉め言葉を使わない。
舞は、真っ赤に照れながら、
「もうっ、まーちゃんは上手いんだからー。
でも、ありがとっ!
じゃ、行こっ!」
そう言うと、自分の腕を、正人の腕に絡めた。
神社まで、談笑しながら歩いていく。
正人「なあ舞、俺に言いたかった事って、何だった?」
すると舞は、ちょっと慌てて、
「あっ、それは女王さんに勝ってからっ!
それまで待ってて。」
正人は、首を傾げた。
告白かと思っていたが、現在既に付き合っているようなものだ。
『女王さんに勝って、改めて言いたいのかな?
舞らしいと言えば、舞らしいけど。』
初詣で賑わう神社。
正人「よっしゃ、大吉だ!」
舞「私もよっしゃ!」
正人「おっ、舞も大吉?」
舞「ううん、凶っ。」
正人「何で凶で、よっしゃ、なんだよ。
引き直す?」
舞「ううん、いらない。
だって凶ってなかなか出ないでしょ?
ある意味、確率の低いのが当たったから運がいいかもっ。」
正人「じゃあ、大吉だったら?」
舞「それはそれで嬉しいよ。
私は、何がきても良い方にしか考えないからっ。」
正人は思う。
舞のポジティブな性格が、彼女の一番の魅力だという事を。
その後も、二人楽しく過ごす。
この間、舞に気付いたファンから、至る所で激励を受けた。
舞は、一人一人に感謝の言葉を述べていたが、余りにも人が増えてきたので、逃げるように神社を後にした。
舞「ふう、驚いたっ。
あ、そうだっ。
5日の昼に、バーベキューやるから二人でおいでって、女王さんからメールあったよっ。
まーちゃん、空いてる?」
正人は、舞が行くなら俺も行く、と返した。
舞「じゃ、十一時頃迎えにくるねっ。
わーいっ、まーちゃんと一緒っ!」
そして人気のない所まで来ると、舞は周囲を窺いだした。
そして何を見つけたのか、
「ねぇ、まーちゃん、ちょっと来てっ。」
と言って、正人を塀で囲われた工事現場へ誘う。
まだ正月の2日だ。
当然誰も居る筈が無い。
正人「どうした?
何かあったのか?」
舞は、正人の問いに、現場の入り口を気にしながら、
「ちょっと、お尻どうなってるか見て欲しいの。」
と言って、晴れ着の裾を腰まで捲り上げた。
正人は驚いた。
何故なら、舞の裸の下半身が、目の前に晒されたからである。
正人「ま、舞っ、お前パンツはっ!?」
舞「ん?ああ、着物だから下着つけてないよ。
それより、お尻どうなってるの?」
正人は舞の言葉に、彼女のお尻を凝視した。
女王によるお仕置きの跡であろう。
痛々しく痣が残っていた。
彼は、舞にその事を告げた。
舞「そっか~、どおりで痛い筈だもん。
あ、痛いのは少しだけだけどね。」
正人は、舞のお尻に欲情が高まるのを感じた。
舞「まーちゃん、私も見たいから携帯で撮って。」
理性が消えかけている正人は、素直に舞の言葉に従う。
至近距離で、数カット携帯に収めた。
そして彼は、舞に声をかけると、お尻に手を伸ばしかけた。
舞は、晴れ着を直すと、振り返って正人の携帯を覗き込む。
「わっ、結構残ってるねっ。
女王さんは、数日で消えるって言ってたけど、大丈夫かなー!?」
舞の声に、正人が正気に戻る。
慌てて彼女の質問に答えた。
「大丈夫だよ。
すぐ消えるから心配ない。」
この発言は、昨年末に舞からお尻叩かれた体験からきている。
正直、彼女からのお仕置きは、泣きそうなほど痛かった。
翌日、かなり痣になってたが、4日程で消えたのを覚えている。
それが彼には、不思議と嬉しい記憶で残っている。
舞は微笑むと、
「うん、まーちゃんが言うんだったら、間違いないよねっ。
ゴメンね、変なもの見せて。
行こっ!」
正人の手を掴んで、そのまま通りに出る。
その帰り道、ふと、舞が改まる。
彼女は俯き加減で、
「まーちゃん、いつも我が儘聞いてもらって、ありがとうね。
そしてごめんね。」
と、申し訳無さそうに言った
正人は、舞がいきなり何を言い出すのかと、彼女の顔を覗きこんだ。
舞「私のせいで、まーちゃんが練習出来ないもんね。
本当にごめんねっ。」
正人「そんなの迷惑と思ってないよ。
舞、気にするなよ。」
舞もその言葉に、正人の目をジッと見つめた。
「まーちゃんって、優しいよね…。
でも、時々は…」
舞は頬を染めて、瞳を潤ませた。
「私の事、叱って、お尻叩いたりしていいからねっ。」
正人は、舞の発言に驚いた。
「舞…、何言って…」
男「おうおう、お二人さん、正月もお熱いね~。」
舞と正人は、驚いて声の主を見た。
通りがかったコンビニから、ひょいと松波が出てきたのだ。
相変わらず、ヘラヘラしながら近づいてくる。
舞は、露骨に嫌な顔をして、コンビニと松波を交互に見た。
「正月早々、不快な顔見せないでよ。
で何?今日は腰巾着一人?
クロとアカは?」
クロとアカとは、松波とツルんでる黒沢と赤木の事だ。
松波「ふん、あいつらも忙しいんだよ。」
舞「あんたに愛想尽かしたんじゃないの?
あんたから金を取ると、何一つ人が寄り付く要素が無いもんね。
しかもコンビニで待ち伏せなんて、よっぽど暇なのね。
友達いないのお気の毒っ!」
松波は苦笑いを浮かべ、
「相変わらず、言うね~。
少しは口の効き方に気をつけろよ。
お前こそ、暴力だけじゃねぇか。」
鬱陶しいと感じた舞は、無言で握り拳をつくった。
それを見て松波、
「おいおい、いきなり喧嘩腰か?
今日は、お前にわざわざお礼を言いに来たんだぜ。」
舞は怪訝そうに、
「お礼~!?」
と聞き返す。
松波「試合見たぜ。」
その言葉に、舞の表情が険しくなる。
正人も、松波を睨んだ。
松波「舞、子供みたいに無様に泣いてたな。
おかげで最高の気分だったよ。
なあ、シロ。」
シロと呼ばれた白井は、笑みを浮かべて頷いた。
舞「カス波、喧嘩売ってんの?」
正人「舞、よせよ。
こんな馬鹿ほっといて行こうぜ。」
卑下た笑いを浮かべる松波とシロを無視して、正人は舞を促した。
立ち去ろうとする舞と正人に、松波の言葉が追いかけてくる。
「舞、お前がお仕置きされるシーンで、ヌケちゃったよ。
へへへ…。」
舞に対する侮辱に、正人が思わず振り向いた。
が、その時には、舞のパンチが松波の顔面を捉えていた。
松波は、口から血を流し倒れる。
舞の一撃で失神したようだ。
その光景にシロは青ざめた。
正人は、咄嗟に舞を抱き止め、彼女による松波への更なる攻撃を止めさせようとする。
舞「まーちゃんっ、離してっ!
この卑怯者に思い知らせてやるんだからっ!」
正人「落ち着け、舞っ、落ち着いてくれっ!
おいシロっ、早くその馬鹿連れて向こう行けっ!」
シロは正人の言葉にハッとすると、松波を抱えて立ち去った。
松波達が姿を消すと、舞も大人しくなった。
正人がふと見ると、彼女は大粒の涙を流して、
「…ちくしょう…
卑怯者が…」
と悔しがっていた。
正人は、舞が泣いている事に驚き、抱きしめて優しく慰めた。
そして慰めながら、松波に対する舞の敵意の強さを、異常に思う。
『確かに松波はカスみたいな奴だが、どうして舞がこれほどムキになるのか…』
そして、それとは別に、このままでは済まないだろうと思った。
高橋道場。
舞を気遣いながら、正人が元春と唯に事情を話す。
正人「多分、あいつは歯の2、3本は折れてると思います。」
元春も唯も無言で聞いていた。
二人共、正人の言いたい事はよく分かっている。
挑発されたにせよ、相手を殴り怪我をさせた事が問題なのだ。
何より、舞は普通の高校生ではない。
プロの格闘家として、あまねく世間に知られているのだ。
そのプロ格闘家が素人を怪我させた。
となると、法的に見ても厳しいペナルティは免れない。
元春は、正人に向かって、
「まーちゃん、心配かけて済まなかったな。
だが気にしなくていい。
放っておこう。」
と事も無げに言った。
正人は驚いた。
放っておいて済む話では無いはずだ。
が、唯も平然と、気にすること無い、と笑っている。
正人は、手持ち無沙汰を覚えた。
両親もこんな調子だし、舞は不機嫌にふさぎ込んでいる。
彼は、舞に言葉をかけて、お暇することにした。
正人が帰ると、元春は舞に、
「じゃあ舞、先方さんへ謝りに行こうか。
先に電話入れるから、着替えてきなさい。」
と促した。
舞は、力無く頷いた。
彼女は、正人を心配させまいとする両親の気遣いに感謝すると共に、これから松波に謝罪しなければならない事に、気持ちが沈んでいく。
数時間後、松波邸。
応接間、松波親子の向かいに、元春、舞の姿がある。
舞と松波は、互いに無言で相手を見据えている。
松波父「高橋さん、これで二度目ですな。
…お宅のお嬢さんは、ウチの政雄に恨みでもあるんですか?」
元春は、それに皮肉で応える。
「そうですな…
以前、ウチの娘が其方のご子息に、抱きつかれた事がよっぽど不快だったのでしょう。」
松波父「あ、あれは、前にも言いましたが、スキンシップの一環で…」
元春「イジメられてる生徒を庇った娘に、男が大勢で抱きつくのがスキンシップというなら、痴漢もレイプもスキンシップでしょうな。」
松波父「な、何がレイプですか…
それにあれはイジメじゃなくて、息子が仲間内で遊んでいたのを、其方のお嬢さんが…」
松波父の言い訳を、元春が遮る。
「娘が普通の女生徒ならどうなっていたか…
また、その時娘にノサれた事を根に持って、事ある毎に挑発してきたお宅のご子息にも十分非があると思いますがね。」
本来、元春は謝罪に来たわけだが、松波父の愚にもつかない物の言い方に苛立ちを覚えていた。
険は険を打ち、火を放った。
松波父「高橋さん、あなた、謝罪に来たんじゃ無いんですか?
此方も事を荒立てたくないんですけどねぇ…」
元春は沈黙した。
彼も元より、そう望んではいる。
松波父は、その様子に重ねて言った。
「そちらも示談で収めるつもりなら、治療費慰謝料は当然として、この場でお嬢さんを躾て欲しいんですよ。」
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