October 05, 2005

蝉しぐれ

20年、人を想いつづけたことはありますか。

Semishigure

 




■・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

出演: 市川染五郎 木村佳乃 
    緒方拳 原田美枝子
    石田卓也 佐津川愛美 
    ふかわりょう 今田耕司
    渡辺えり子 大滝秀治

監督・脚本:黒土三男  2005年 日本 131分


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■



長年、仕事一筋でやって来た実母が体調を崩して1年。
なかなか完治しない上に、気も滅入って来たので、
気分転換に映画でも、と誘い出した。
趣味もなく、好きな俳優もいないので、とりあえず、
これなら何とか観れるんじゃないかと思って選んだ「蝉しぐれ」。

わたしが観る洋画は、100名入るハコでもがらんとしているのに、
「夫婦50割引」や「65歳以上はいつでも¥1000」の
恩恵に浴している方々でいっぱいの本日のシネコン。
市川染五郎主演、藤沢周平原作、という以外、
何も予備知識を持たずに行ったのだが、
テレビドラマ放送もあったということで(後から知った)、
原作か、ドラマか、または両方のファンらしい方々で埋まっていた。


さて、お話は、江戸時代の東北地方のとある藩。
15歳の牧文四郎は下級武士の義父に育てられた。
隣家のふくとは、お互いに淡い恋心を抱いていた。
ある時、藩のお家騒動に巻き込まれた父は、無実ながら切腹。
文四郎と母は、謀反者の家族として家を追われる一方、
ふくは江戸の殿の側室として上京する。
数年後、成人したふたりは、思いがけない再会を果たすことになる…


観ている間で感じたことは、
これは長い原作の骨組みだけではないだろうか?
もっと伏線や枝葉があるだろうが、2時間に収まらないのだろう…
だった。
これも後で知ったことだが、どうもそれは正解なようだ。
原作を何も知らないために、それなりに観れたのだが、
どうにも希薄な感じが否めなかった。

主人公文四郎の少年時代を演じた石田卓也は、
これでスクリーン・デビュー。頑張っているのは充分見てとれるが、
その分、見事なまでに初心者である。
その代わり、と言っては何だが、数少ない出番にも関わらず、
実力とキャリア充分のベテラン俳優たちが豪華で、
「え、この人、このシーンだけ?」という使い方が随所に…

案外、評価がいいようなのだが、
文四郎の親友を演じる、ふかわりょうと今田耕司、
彼らを起用しなければならなかった理由は何だろう。
彼らが画面に出ただけで、本筋に無関係に客席から笑いが起こってしまった。
本職ではないのだから仕方ないが、
「映像で観せる」ための被写体として、
まだ練れてない感が強く、とても違和感を感じてしまった。

それから、
全編通じて、多用される四季折々の風景も美しいのだが…
特に前半は流れが悪く、脚本への不満や不安もあった。

だが、後半、成人した文四郎、市川染五郎が登場して、
空気が一変する。
立ち居振る舞いの美しい、腰の据わった武士が動き始めると、
物語が哀切に彩られ、緊張感を一気に増加させる。
伊達に長年舞台に立ち続けてきたわけではない、
観客に観せる力を持った人なのだと感じずにはいられない。
「歌舞伎役者が、映画で歌舞伎を見せてる」
そんな感じを受けるのも確かだが、
クライマックスの美しさと切なさは絶品だった。
それにしても染五郎は、
何とお父さんにそっくりな声と話し方だろう!

よく比較される「たそがれ清兵衛」は、
綺麗にまとまっていたが、どこか軽い感じが否めなかったが、
これは、きっと原作は長くて深いのだろうと思わせた。

不満な部分もある代わりに、これはとても素晴らしい、というシーンもあり、
バランスの悪さもやはり感じるものの、
全体の印象は決して悪くないのである。
それはきっと、20年という歳月の果ての、
あの立場の男と女の心情が、とても印象的な台詞で表現されることが、
観客の胸に迫るからなのだろう。


「20年、誰かを想いつづけたことはありますか」
というキャッチコピーは、この物語の一部にしかすぎないはずだが、
その想いが強く心に沁みて、切ない気持ちで劇場を後にした。

20年、想いつづけてしまったら、どうしましょう…



tinkerbell_tomo at 20:05│Comments(10)TrackBack(17) 日本の映画 

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藤沢周平の傑作と呼び声高い、この作品。黒土三男監督が15年の歳月を費やして、映画化した情熱も、「…凄い!」だったのですが、 2003年、NHK金曜時代劇も評判よく(主演、内野聖陽、ふく役、水野真紀)多くの賞を受賞。 さらには、宝塚歌劇によって舞台化されてるのも

この記事へのコメント

1. Posted by 梨の花   October 06, 2005 13:44
20年想いつづけたら…きっと幸せですよ。

違う世界の人だからこそ、はがゆい想いをしながらも
自分の気持ち、大事にできそうで。

文四郎とふくも、不本意ながらそれぞれの道を行き
そのうえでお互い想いを持ち続けたのだし。

染五郎ではちょっと線が細いかなと思ってましたが…
原作は情感溢れながらも清冽な流れがあり、好感が持てました。
「この世に悔いを持たぬ人などいないのでしょうから。」と、ふくが語るラストシーンは
取り戻すことのできない20年の時の重さを考えさせられます。
抗うことなく流れのままに、運命を静かに受け入れた二人の生き方が
せつない想いを抱かせるんでしょうね。

観に行っても良さそうですね。
2. Posted by michiyo   October 06, 2005 16:06
>20年、想いつづけてしまったら、どうしましょう…
20年で足ります???

3. Posted by coton   October 06, 2005 16:16
20年か‥。
想いが遂げられぬままなら、そのくらいは持ちそうな気もする。
ある映画に一緒になればきっと長続きしない
けれど離れていればこの想いは一生続く。
というような台詞があった。
そして後者を選ぶ主人公。

さっき一等いとおしい男がクオカードになってやってきた。
思い続けるにはやはり逢わないほうがいいのだろうか。
あ、まだ本当には逢ってなかったんだった♪
逢わないことには始まらないやね。
しかし、そうなるとよけい逢うシチュエーションは大切にしたいとも思う。
が、そんなこといってたらいつ逢えるんだ?というのも事実‥(腕組み)
4. Posted by 聖舞   October 07, 2005 00:31
TB有難うございました。

私は原作は読んでいませんが、舞台とドラマは観ていたのでとりあえずの予備知識があり、映画で描けなかった部分をうめて観ていました。このストーリーをあの時間に収めるためには仕方なかったのかな〜とは思いましたね。

観客の年齢は高かったですね。
5. Posted by 悠雅   October 07, 2005 13:04
>梨の花さま
20年の彼方にいたのは、生涯忘れ得ない唯ひとりの人
たとえそれが、ただ想いを伝え合うだけの別れになったとしても
再会できたふたりは それでも幸せだったのだと思う

いつまでも終わらない想いの果てに
彼がいることを夢に見ているのも悪くない
これからの20年
気が遠くなるけれど
6. Posted by 悠雅   October 07, 2005 13:06
>michiyoさま
>20年で足ります???
あぁ…どぉ〜でしょ〜?
20年経ったら…考えたくない
7. Posted by 悠雅   October 07, 2005 13:18
>cotonさま
>一緒になればきっと長続きしない
>けれど離れていればこの想いは一生続く。
きっとそれは正解でしょう。
離れていた時間が長いほど、いちばん大事な想いだけが生き続けてしまう。
夢は叶えられれば日常になって、夢でなくなるのだから。
そんなことがあってもいいだろう、ただ一度の人生。
だけど、やっぱり…悲しいよね。

わたしたちにあるのか?
長い想いの果ての、あの男との出逢い





8. Posted by 悠雅   October 07, 2005 13:30
>聖舞さま
コメントありがとうございます。
小説の映画化は、洋の東西を問わず、また大なり小なり、
映画化に際して削ぎ落とされる部分があるのは仕方ないこと。
だけど、やはりそう感じてしまうほど、物語の骨格だけで精一杯だったのでしょうね。

でも。ふたりの変わらない想いが貫かれた主題が、胸を打ち切ない想いが消えないです。

>観客の年齢は高かったですね。
主に、わたしの両親の年代層でした…^^;
9. Posted by aki   September 27, 2007 22:07
悠雅さん、こちらにもこんばんは〜^^

ちょっと場違いな場所に来たような…
実は最近観た『隠し剣鬼の爪』が事のほか面白くて、自分の中ではプチ藤沢周平祭り開催中なので寄らせて頂きました。
この作品はNHKのドラマで観ただけで、映画はまだ未見なのです。終わってみると報われない純愛ドラマだったというなんとも切ないお話ですね。
でも、心の中ではお互いにずっと思い合っていた。
そんな2人が羨ましくもあったりします。
染五郎さんの演技は舞台でも出色だと何かに書いてありましたが、悠雅さんの記事で映画も観たくなりました。
そして、藤沢周平作品を見ているとぜひアン・リー監督にやって欲しいなぁって思ってしまうような作品が結構あるんですよね…。
10. Posted by ◆akiさま   September 29, 2007 11:54
こんにちは。仰る通り、普段とはちょっと違う場所ですね。

夫が藤沢周平ファンだというのに、わたしはちっとも読んでないですが、
これは偶々、母が観たいと言ったので付き合ったのです。
英国の時代劇なら喜んで観るのに、わが国の時代モノは
何だかつい敬遠しがち。
でも、時代背景がこうであったからこその、純愛物語なのだから、
食わず嫌いもよくないなぁと思ったものでした。
染五郎さんは、舞台俳優然とした演技。いつか舞台も観たいと思う1人です。

なるほど…アン・リー監督と藤沢作品って、合いそうですよね。
どんどん妄想が膨らんで、またまた楽しくなります。

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