July 29, 2006
ジャーヘッド
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出演: ジェイク・ギレンホール
ピーター・サースガード
ルーカス・ブラック
ジェイミー・フォックス
クリス・クーパー
ジェイコブ・ヴァーガス
ブライアン・ケイシー
監督: サム・メンデス
2005年 アメリカ 123分
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もうあれから
そんなに年月が経つのか。
遠い地で始まり、遠い地で終わった…
そんな思いが残るばかりの湾岸戦争。
決してニュース映像には登場しない、
彼らの「戦争」が、そこにあった。
物語は。
1989年、カリフォルニア州の基地に配属された
アンソニー・スオフォード。
父はベトナム戦争に従軍していた。
スオフォードは、
大学進学と迷った末、憧れの海兵隊へ入隊した。
だが彼は、新兵の訓練の段階で、
入隊を後悔し始める。
非人間的な扱い、命がけの訓練、
トイレに隠れて小説を読むような青年には
海兵隊は居心地のいい場所とは言えなかった。
それでも、彼の狙撃の腕を見込まれ、
斥候狙撃隊の8人のひとりに選ばれ、
サウジアラビアへも派遣され、
いよいよ、現場での戦闘だと意気込むのだが…
この作品の主人公が、後に体験記を発表。
それが映画化された作品だ。
戦争を扱う作品だけれど、
戦闘場面がないと聞いていた。
それは、過去に観た、
『戦場のメリークリスマス』や
『エンド・オブ・オール・ウォーズ』、
『タイガーランド』『ジャスティス』などもそうだったが、
予備軍や捕虜収容所などでの物語だった。
これは、
戦闘地域へ到達しながら
戦闘場面が登場しない物語なのだ。
どんなふうに登場しないかは、
DVDでご覧いただくほうがいいだろう。
規定の刈り上げ頭の、ビンのような形を指す、
俗称、ジャーヘッド。
だが、中身もビンのように空っぽだ、と呟く主人公は、
優秀な狙撃手として従軍しながら、
彼が遭遇したものは、
入隊した時に思い描いていた光景ではなかった。
何もない砂漠での生活は
言われてみれば、それはそうなのか…と
思うようなことだらけだ。
虐待紛いの訓練と、命綱の水分補給。
常軌を逸したかと思うような馬鹿騒ぎ。
人間がいれば必ず存在するものの処理…
過酷で出口のない日常に、
徐々に心を蝕まれていく隊員たち。
それは、いろんな形で表面化する。
狂気に走る一歩手前で、自衛本能から、
馬鹿騒ぎをしてしまっているようにも見える。
彼らは何のために集められ、
何のためにそこに居るのか。
物語が進めば進むほど、
その思いが強くなる。
あのような形で従軍した兵士は
きっと各国で数知れないのだろう。
さらに、
ここに描ききれないたくさんのことが
あるに違いないのだ。
爆弾がどんどん破裂して
たくさんの人や物が壊されて、
地獄のような光景を見せる戦争映画とは
明らかに一線を画す作品である。
だが、
こういうアプローチで作られても、
ちょっとした場面にも想像力を広げ、
「戦争」というものを真面目に捉えて考え、
自分の意見をさらに強くすることができる、
特異な存在の作品だろう。
それぞれの人生を生きる、
どこの町にも居そうな、ごく普通の男たちが、
あの砂漠の闘いの場に居た。
そう思わせる終わり方が余韻を残す。
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公開時に観ようとしていて
ついうっかり、見逃してしまった。
DVDが出てやっと観ることができた。
『ブロークバック・マウンテン』の後。
ジャックの雰囲気をすっかり消し去り、
ジェイクはビンみたいな頭になっていたが、
知性と狂気が入り混じる、極限状態の兵士を演じ、
あの雄弁な青い眼はここでも美しかった。
スオフォードとペアを組む相棒、
トロイには、ピーター・サースガード。
わかっていても、ふたりが並ぶと
おお、義兄弟!!(笑)
さらに、クリス・クーパーの顔も見える。
『遠い空のむこうに』の、
頑固一徹な父親をどうしても思い出す。
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この記事へのコメント
たくさんの戦争映画があるけれど、私はこういう描写の仕方の戦争映画がとても好きです。
記事の中にも書きましたが、睦月が敬愛するキューブリックの『フルメタルジャケット』にタイプが似ている気がしました。
戦争は、もちろん目に見える物理的な描写もとても残酷なのだけれど、もっと凄まじいのは、そこに足を踏み入れた人間の精神状態だと思っています。
この作品は、そういう部分をクローズアップして、かなり乱痴気騒ぎに描いているようで、実はとても悲しく空しい・・・。
ギレンホールの豊かな表現力を再認識した作品でした。
TB返し、どうもありがとう。
何度も何度も予告を観たこの作品、今頃やっとDVDで観ました(>_<)
戦争というと、現場を何も知らないのに、直結するイメージがあって
それとは全く違う描写のこの作品は、予想を上回る驚きでした。
戦争で心を病むこと…今までいろんな映画の中でそんな男が登場したけれど、
今まさに壊れんとするギリギリのところ、
そんないっぱいいっぱいの彼らを目撃したようで、
どうしても兵士たちの母の目で彼らを見つめてしまい
胸が痛み、苦しくなりました。
うん。
ジェイクの幅の広さを感じますね。
まだまだこれから先がどんなに楽しみなことでしょう。。。
ねえ、いい映画でしょう、としか言いようのない映画だと思います。
たくさんの人に観てもらいたい映画ですね。
TBとコメント、ありがとうございました。
やっと観れました。
うん、いい映画ですねぇ。
派手な場面を好む方には薦めないけれど、
戦争映画だから観るのをやめようと思う方には観てもらいたいです。
休日も朝7時半から「セミ取り行くでー」と呼びに来る子の友人たちにひっくり返る毎日の武田です(笑)
この作品は、監督目当てで観に行ったのですけど、優れた戦争映画であると同時に青春映画でもあるなあと感じました。
勝手にヒーロー視されてしまうバスのシーンで、彼等の最後の繊細な部分も引き裂かれてしまったのではないかと胸が痛かったです。TBさせていただきますね。
こんにちは♪
わが家の近所の小さなお宮さんのでっかい木に鈴生り(?)の蝉の声が、
目が醒めた瞬間から襲ってきます。ああ、しんど…
これは、最初は全くチェックしてなかったけれど、
予告をイヤ、っちゅうほど観て、急に興味を持ったのに、
ついうっかり、見逃してしまいました。
っていうのは、わたしの予測に反して上映期間が短かったんです。
あんまり興行的にはよくなかったのかな…
でも、内容は評判通りにいい作品でしたね。
戦闘場面を描かずに、戦争の怖さ、虚しさを感じさせ、
同時に、若い男たちをも描いてゆく。
もし、戦争に行く必要がなかったら、
彼らの青春やその後の人生はどうだったのだろう…
戦争映画を観るたび、
どうしても兵士を送り出す母の立場で観てしまいます。
立川基地という名前は聞いたことあるのですが、
馴染みがないので調べてみたら、
たくさん資料はあるのに、読んでいても頭に入らなくて、
かつて、米軍の基地があったということしかわからない…
軍隊はおろか、自衛隊さえまともに観たことがないまま
呑気に長い人生を生きてきてしまいました。
軽い気持ちでは観れない作品の様ですね。
戦争映画がそんなに苦手なワケではないのですが、やはり少し身構えてしまいます。
でも湾岸戦争はおろか、今のイラクの事ですらどこか別世界の事の様に思っている、
そんな自分が居るのも事実なんですよね〜。
考えても仕方ない事。と言われれば、確かにそうなのですが・・・・
と、珍しく少し真面目にそんな事言ってる割には
ジェイクとピーター兄さんが観れるので、観るしかない!とか思ってます。複雑!笑
だけど 観てみたいな、、等と思っているうちに
やっぱ 見逃してしまった1人です。シュールでナイーブでめちゃめちゃで 汚い言葉も一杯出てくる
映画だけど等身大のありのままのスオフォードが
身近に感じました。DVD発売の前に待ちきれなくて 原作読んだくちですが、お薦めします。
、、、やっぱジェイクうまいよな〜、、、
(おいおい そこかい!、、の世界でした。)
劇場で見てからもう随分時間が経ちますけど、
またあの砂漠の風景が蘇ってきました。
戦闘シーンのない戦争映画、それでもちゃんと戦争の愚かさが伝わってくる作品でしたよね。
息子と同じ年頃の青年が苦悩する作品は、どうしても激しく感情移入して点が甘くなりがちなんですが、それを差し引いてもこの映画はかなり面白いと思いました。DVDになったんですね〜もう一回観なくては。。
この作品、映画館で見逃し、レンタル初日に観たのですが、なかなか記事にできませんでした。
クリス・クーパーは登場時間は少なくとも、彼が出てくると、ぐっと映画が締まる感じがしましたね。
特典映像が豪華らしいので、とっても観たいです。
あ〜、次は『プルーフ』だわ♪楽しみです。
では、また遊びに来ますね。
こんばんは。お返事が遅くなってごめんなさい。
一口に戦争物、といっても様々な表現方法があるものなんですね。
悲惨な殺戮の場面はないのに、恐怖を強く感じます。
きっと、強いメッセージを託された気がすると思います。
ただ、
こうして映画にしてくれると、身近に感じるけれど、
普段は直接的に自分に関わりがないと思えるものだから、
つい、他人事だと思ってしまうのは仕方ないことなのでしょう。
ジェイクもピーターも、とってもいいです。
どちらも凄いなぁ、と思う、表情だけの演技が素晴らしいです。
そう、わたしもです。
低い音程の、静かな繰り返しのリズムの男性コーラス。
あれだけでぐぐっと引き寄せられるのに、
期間限定ファントム祭りを一週間やってて、
終わったら、こちらも終わってました。。。
みなさん、原作をたくさん読んでらっしゃるのですよね。
わたしは、本当に読書一辺倒だったのに、
最近はとんと読書とはご無沙汰です。
どこにも読書を楽しむ時間の余裕がなくて(T_T)
うん・・
ほんと、ジェイクは巧いです。
もうそれは間違いなしです。
映画は、いつ上映が終わるかわからないモノだと知りつつ、
気がついたら上映が終わっていてとっても後悔しました。
でも、DVDででも観れる、今という時代はありがたいものです。
そうなんですよね…
同じ年頃の男の子が戦争に行く、というだけで、
戦地へ送り出す、出征兵士の母の気持ちになって観てしまうんです。
何もかも棄てて帰って来なさい。
彼らを観て、そんなことばっかり考えてしまいました。
こんばんは。いつもTBとコメントありがとうございます。
わたしはレンタルで観たので
(『ロード・オブ・ドッグタウン』は買ったのに!)
Disc2の特典がなかったのですよ。ちょっと残念!
『プルーフ〜』
同じ監督作品の『エリザベス』を期待していた方には
肩透かしだったらしいけれど、わたしは好きな作品でした。
何より、これがまた、ジェイクが可愛いだけじゃない、
とっても素敵な男なんですよ。
設定では1歳違い、だけど画面ではどう観ても、
随分年上のオネエサン…というのは忘れるとして(笑)
わたしもレンタルが出たら、また観てしまう気がします。
ジェイクが出たから興味しんしんで観たこの作品。
おっしゃるとおり,追い詰められてゆく彼の雄弁な碧い瞳に釘付けでしたけど
物語そのものにも すっかり惹きこまれてしまいました。
兵士から見た湾岸戦争の等身大の真実を,ここまで描ききってくれた監督,
というか,原作者のスウォフォードさんにも
感謝したい気持ちになった方はおおぜいいらっしゃったのではないでしょうか・・・?
『ブロークバック』公開前、予告を散々観ていながら
結局、映画館鑑賞のタイミングを外してしまったので
DVDが出るのを待ってレンタルしてきた作品でした。
ジェイクは、生まれ持った目と、その演技力で
台詞がなくてもきちんと演技できる人だと、
改めて思いました。
戦闘場面がない、異色の戦争映画なのだけれど、
だからこそ、今まで知り得なかった当事者たちの現場を知ることができて、
なるほど、こういうことがあるのだと、新しい見方をする機会にもなりました。
現場を伝えてくれた原作者にも、感謝ですね。