January 10, 2012

エンディングノート

自分らしく自分を完結するための‘段取り’。
エンディングノート



■・・・・・・・・・・・・・・・・・・
監督: 砂田 麻美
製作: 是枝 裕和
2010年 日本 90分
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■

昨年10月公開作品だが、
わが町にやってきたのはつい最近。
とても身近な家族の死をみつめたドキュメンタリーだ。


2009年12月。
一人の男性が息を引き取った。
その前後の一部始終は、彼の葬儀直前の光景から始まる。
死を迎えたのは、長年サラリーマンとして生きて来た69歳の男性。
撮ったのは彼の次女。

69歳の5月、砂田知昭氏は定期健診で癌が見つかった。
治療に専念していたが、秋になって彼はとある教会を訪ね、
自分を送る儀式をここで行いたいこと、洗礼を受けたい旨を伝える。
そして、日々衰えてゆく肉体と付き合いながら、
自らの「エンディングノート」を作成する。


是枝裕和監督の助監督として活躍している砂田麻美氏が
初めて監督した作品。
彼女の実父の、癌告知から葬儀までの日々を追っている。
彼女はもとより(というか、そういう環境だったからこそか)
砂田氏は家族の行事などを映像に残すという習慣があったらしく、
決して一般的でなかった時代から、
家族の様子を映像に収めて来られた方らしい。
高度成長期を支えた世代の、いよいよゆとりある余生を、と思った矢先の死を
昭和40年代の、まさか公開することなど考えたことがないであろう映像も含め、
冷静だが、愛情あふれる視点で見つめ、綴っている。

1人の男性の死を扱っているのだが、
感じ取れるのは、「愛に満ちた家族」であり、ひいては「幸福」である。
確かに、ご長寿の母上より先に逝かれたし、
69歳は決して長い人生だとは言えないだろうが、
家族に愛され、看取られて逝く、人生の閉じ方は、
ある意味とても羨ましいお姿でもある。

描かれているのは、自分には縁もゆかりもない方で、
送って来られた人生は、我が家からするととても豊かで
わたしには無縁の世界であるなぁとは思う。
けれど、たとえどんな生活や地位であろうとも、
誰にでも平等に死を迎えるのであり、
孫が誰より何より可愛いのも同じであるとも思う。
もっと人生は長くてもよかろうと思われたのでは、とか、
聡明そうな可愛いお孫さんたちをとてもかわいいのだろうな、とか、
とても当たり前のことを砂田氏に感じた時、
全く無縁であるはずの砂田氏の死出の旅が
それはとても普遍的なものであり、ひいては自分の物語となる気がした。


自分の父の、年齢と病気で衰えてゆく姿を撮影するのは、
娘としてとても辛いものもあっただろうが、
反面、彼女が冷静な視点を持って撮影し続けたからこそ、
ひとつの「作品」ができあがったのである。
娘として、作品を作る者として、
いちばん手近な分、一見簡単そうに感じるが、
実は、いちばん難しい作業であったのではないだろうか。
つまり、家族としてのプライベートフィルムを
不特定多数の人間が観るための「作品」とするという、
技術を超えたところにあるものとのの対峙である。
けれど、それをクリアできたからこそ、
国内で、海外で、高い評価を得られたのではないか。

次はフィクションの映画を作りたいという砂田麻美監督。
どんな作品を作り出してくれるだろうか。
その作品を、本当は一番観たかったはずの父上は、
きっと、あの悪戯っぽい表情で、空のどこかで見守られるだろう。


tinkerbell_tomo at 16:29│Comments(6)TrackBack(8) 日本の映画 

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砂田知昭。 医者の息子として愛知県の田舎に生まれ、化学関係の会社に就職。営業マン

この記事へのコメント

1. Posted by KLY   January 11, 2012 17:19
コメントありがとうございました。
そしてご挨拶が遅くなりまして失礼しました。
今年も色々と映画話にお付き合い頂けたらと思います。よろしくお願いします。

この作品、私は長男故にやはり監督のお兄様の気持ちが身に染みました。母を、妹を、家族を背負って悲しくたって自分がやらなきゃいけないんだと頑張っていた様子が切なかったのです。私の父も監督のお父様と同世代です。恐らくそう遠くない将来に同じ経験はすることになるでしょう。もちろんずっとそうならないことが望ましいですが。理屈で解っていても突きつけられた現実に戸惑いを感じたのも事実です。
2. Posted by ノラネコ   January 11, 2012 22:29
死別は悲しいことですが、最後には「良い人生でしたね」と思えるのは、やはり愛する家族が撮ったレクイエムだからなのでしょうね。
亡くなった砂田さんは、ちょうど私の父と同い年だった事もあり、何だか他人事とは全く思えず、ずっと自分と家族に置き換えて観ていました。
世代によって少しづつ視点を置くところは違いそうですが、色々な事を考えさせてくれる作品でした。
3. Posted by 葉月   January 12, 2012 09:37
年が明けてアッと言う間に月半ばとなり今年もこの調子で明け暮れるのでしょうか、
悠雅さん〜本年も色々と楽しいお話を宜しくお願いいたします。
この映画は昨年観た中でベスト5にはいります、
苛酷な宣言を受けて期限のある「生きる」事に向かい合った親子の姿は〜全く同じ経験を持った私にはよく分かりました「to doリスト」を冷静に整理する父は流石企業戦士を思わせる、その姿を映像に残す娘の心情を想像して切なかったのですが、悲愴感はなくてむしろユーモアさえ感じていい映画でした、
高齢の母への最期の電話や孫との別れを思う時には涙が止まらず〜父は初監督の娘にエールを、彼女は最愛の父を素晴らしい形で見送ったのですね、
お二人に「あっぱれ!」と拍手を送りたい気持ちです。
4. Posted by ◆KLYさま   January 12, 2012 10:24
こちらこそ、年末年始のご挨拶がいい加減になってしまって失礼しました。
今年も、相変わらずですが、どうぞよろしくお願いいたします。

この作品は、観る年齢、立場で家族の誰に視点が重なるか、ですが、
やはり、同年代でご長男という立場の方はご長男の目線で
ご覧になったのだろうと想像できます。
わたしは、80過ぎて健康な人間の、嫁いで長い長女であり、
もしかしたらそう遠くない時期に夫を送るのかもしれない妻であり、
最期に孫の笑顔が観たいと願う婆であるので、
また男性方とは違う観方となったでしょう。

女性は男性とは違う、ある意味の割り切り方を持っているのかもしれません。
わが身に置き換えながらも、自分の時は自分なりに受け止める・・・
そんな気がしながら観た作品でした。
5. Posted by ◆ノラネコさま   January 12, 2012 10:30
普段は全く考えないことでも、、よくよく思えば、
いずれ何等かのかたちで自分も受け入れざるを得ない「死」。
これほどに愛情に満ちた一家の長であるお父様は、きっと幸福であった、と
そのお姿を観ながら思った作品でした。

ノラネコさんも、↑のKLYさんとご同様の感想をお持ちになったのは、
やはりよく似た環境にいらっしゃるからなのでしょう。
わたしはまた同じことの繰り返しをするようですが、
完全に女の立場で観ておりました。
この正念場で踏ん張るべきは自分だ、という感覚で観るのと、
大事なところは長男や夫に任せる立場にいる女とでは、
自ずと観方が違ってきますね。
6. Posted by ◆葉月さま   January 12, 2012 10:37
何とか改善しなくっちゃ、と思いながら、ちっとも改善できないことって、
やっぱり自分には無理のあること。
きっと、日々に追われる時も、ぼんやりできる時もありながら、
「おや、もうこんな時間」「あらら、月半ばだわ」と言いながら、
日々の明け暮れを繰り返すのが、わたしたちらしい生き方なのでしょう。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、この作品は、まだ実父も義父も健在で、
年齢には直接関係ないとは思いながらも夫もまだ砂田さんの年齢に達していず、
自分は長男ではなく…という、半ば傍観者的な立場で観ていました。
生活の様子は違っても、どんな時でもユーモアと愛情が大事なのだと
やはりちょっと離れた視点からだったかと思います。

わたしは全く女の立場で観ていましたが、孫と会いたいという思いは同じ。
彼女なりに「死」を受け止めようとするお孫さんの懸命な姿に
わが孫の顔が重なり、どうしても涙が溢れました。
いつか、わたしもあの孫たちと別れる日が来るのだなぁ、と
未だにそんなことを思ってしまいます。

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