June 27, 2012

夜の国のクーパー

夜の国のクーパー
伊坂幸太郎 著
東京創元社 




伊坂幸太郎氏の最新の長編。
結論から言うと、
あり得ないけどあってもいい、あったら嬉しいかも・・・な世界の、
猫目線のお話は、やっぱり、伊坂テイスト溢れるものだ。

伊坂作品は、「映像化が難しい」と言われながら、
中村義洋監督は次々に素晴らしい映画化作品を世に送り出し、
小説ファンも映画ファンも満足する作品を制作されるが、
流石に、この作品は、もし、映像化するとしたら、
あの中村監督をもってしても、ハードルが高いだろう。
もちろん、そんな企画があるのかないのかも全く知らない、
とっても無責任な意見だけれど。
ともあれ。
この、不思議な設定の不思議なお話は、文字媒体だからこそ。
是非、小説を楽しんでいただきたい。



お話は。


仕事の忙しさと、趣味の投資が嵩じたために、
妻の浮気に気づかなかった平凡な男が、
ある時、気がついたら見知らぬ場所で喋る猫と話をしていた。
猫は、自分が暮らす国や仲間のことや、
「クーパー」と呼ばれる伝説の生き物について語って聞かせた。
それらは皆、彼にとっては信じ難いものばかりなのに、
何だかすっかり納得している自分に驚いていた。

猫のトムくんの話によると、
トムくんが暮らす国と、隣の鉄国との境界には、
杉の巨木の林があって、毎年その中から数本だけが蛹になり、
やがて、大暴れする怪物クーパーに変身するのだという。
トムくんの国からは、以前は毎年、クーパーの兵士が選抜され、
クーパーとの戦いに挑んでいたのだそうだ。

しかし、最近鉄国との戦争に負けたので、
敵国の兵士たちが進駐してきて、大変なことになっているらしい。
トムくんは、国を守りたい一心なのだが・・・



あるとき、突然に予想もしない場所で、
喋る猫と会話して、やがて、予想もしない行動に出る男のお話。
それまでの生活から切り離され、
どこだかわからないまま、そこで出会った者と話すことになり、
それは、普通は人間の言葉など喋れるとは思っていない者であり…
というと、伊坂ファンなら『オーデュボンの祈り』を思い出すのではないか。
明らかに信じ難いし、有り得ないとは思うのだが、
もしかして、あったら嬉しいんじゃないかと思う設定で、
普通は、人間と対等に会話できるはずがないのに、
猫が流暢に話し、筋道を立てて考えているのだ(=‘x‘=)

だから、お話の筋はファンタジックなのだが、
やっぱりお話の中で人は死ぬし、
小さくて素朴で長閑な村は、余所者に支配されようとしているし、
徐々に追い詰められた状態になってゆくのだから、
美しくて楽しいファンタジーではなくて、
緊迫感がそれに伴っている。
けれど、主要人物は猫たちであり、
助っ人になる実力が絶望的に欠如したような男がそこにいたのだ。
呑気なのか、切羽詰っているか、判断に苦しむ状況だ。

でもね、そこが伊坂作品のいいところ。
有り得ないけど、ちゃんと実在するかのように読み進ませ、
丁寧にばら撒いてある伏線を、静かに手繰るように回収しながら、
いくつものエピソードを重ねて、テーマを浮かび上がらせてくる。
なるほど、そんな簡単なことを語りたいために、
こんな不思議なお話とその世界を作ってくれたのか。

一見、伊坂幸太郎作品「らしさ」には遠いようにも思えるが、
いやいや、見事に伊坂らしい作品だと思うよ。
見えてくる現象は違っても、
作品に触れる感触や肌触りのようなものが、まさに伊坂作品。
中盤までは、このお話の結論がどこへ行くのか予想もつかず、
謎は一向に解決しないまま、お話は広がり長引き、
さて、どうしたものか、と思う頃には、
じゃあ、っていう感じで、謎解きが始まる。
予想できたもの、全く予想できなかったものもいくつもあるだろうが、
それも含めて、
最後まで楽しく読むことができたお話だった。


タイトルにもなっている、「クーパー」とは何?
猫はこの先、どんな活躍になるの?
鉄国の人間たちの横暴に、トムたちは耐えられるのか?
その答えは、是非小説で。
これは、小説だからこそ、余計に楽しめるのだから。


tinkerbell_tomo at 14:26│Comments(4)TrackBack(2) 本のお話 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 「夜の国のクーパー」伊坂幸太郎  [ 粋な提案 ]   January 11, 2014 14:42
この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わ
2. 伊坂流、童話  [ 笑う社会人の生活 ]   February 24, 2014 16:30
小説「夜の国のクーパー」を読みました。 著書は 伊坂 幸太郎 お馴染みの伊坂作品 今作はまた新境地というか ファンタジーといえ、大人の童話というか・・・ 喋る猫、国王、兵士たち なんだかごった煮というか まさにジャンル分け不能なそんな感じながらも そこは伊坂...

この記事へのコメント

1. Posted by こに   June 27, 2012 19:37
積んであります。(*^。^*)
早く読みたいような、とっておきたいような。
楽しみです♪
読んだら、またお邪魔しますね。<m(__)m>
2. Posted by ◆こにさま   June 28, 2012 00:43
積まれてますか(+o+)
わたしも、『マリアビートル』はそんなこんなで積んだままになってますが、
やっぱり、伊坂作品は面白いです。
これまでに読んだ何作かを思い出しつつ、また違う世界に誘われて、
とっても楽しい時間を過ごしてました。
是非、またお喋りさせてください。
3. Posted by 藍色   January 11, 2014 15:44
愛する本がまたひとつ増えました。
そして読んだ後、とても優しい気持ちになりました。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
4. Posted by ◆藍色さま   January 11, 2014 21:09
TBとコメントありがとうごさいました。
良い本に出会えると、本当に嬉しくなりますね。
これは、喋る猫の存在をそのまま受け入れたくなる、
とっても素敵で可愛くて、でもやっぱり伊坂テイスト溢れる作品でした。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔