November 21, 2012

その夜の侍

光に飛び込む虫。他愛もない会話。全力で作る平凡。
その夜の侍1




■・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
出演: 堺   雅人    山田 孝之
    綾野   剛    新井 浩文
    高橋   努    田口トモロヲ
    安藤サクラ    でんでん
    坂井 真紀    谷村 美月
監督: 赤堀 雅秋
2012年 日本 119分
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■


何と言葉にしたらいいのか・・・
感情が掻き乱されていて、まだ言葉にならない。

これは是非観たかったので、
近くで上映がないところ、他の用事も絡めて県外遠征。
でも、その甲斐がありました。



物語は。


ある年の8月10日。
買い物先から電話をかけて来た妻の声を聞きながら、
ちょっとした煩わしさや後暗さから
わざと電話に出なかった夫、中村健一。
妻が健一に呼びかける声は留守電に残され、
その直後、妻は轢き逃げ事故で即死した。

5年後の夏。
加害者の木島が転がり込んでいる団地の一室に、
「お前を殺して、俺も死ぬ。決行まであと〇日」という手紙が毎日届いた。
思い当たるのは、中村以外にいない木島は、
健一の妻の兄に、「決行」を阻止するよう脅かす。
妻の兄は、何とか健一に幸せになってほしいと、
同僚の女性を紹介するが、健一はにべもない返答しかしない。

5年間、木島への憎しみだけを胸に、
妻の残した留守電を繰り返し聞いていた健一の、
「決行」の日が数日後に近づいてきた・・・



妻が轢き逃げに遭って死亡してから、
犯人への憎しみだけを胸に生きて来た男の「復讐」の顛末。
突然奪われたささやかでも豊かな幸せ・・・
その喪失感と孤独の大きさから一歩も抜け出せず、
もがき苦しむ男の復讐を追い、非情な加害者を追う。

主人公健一を演じるのは、堺雅人。
前評判で、「これまでに観たことがない堺雅人」という言葉を見聞きしたが、
まさに、その通り。
堺雅人のイメージというと、「曖昧な笑顔」という方も多いと思うが、
わたしが一番強く感じるのは、「隠しようもない知性と品性」だ。
演技であれトーク番組などであれ、
言葉や立ち居振る舞いの端々にそれらが滲んでいるのだが、
今回の役どころは、知性的ではないとは言わないが、
何よりも、汗臭く、無様で空虚であることが前面に出る。
髪はぼざぼさで、分厚いレンズのめがねは曇っており、
いつも作業服を着ていて、視点が定まらず、
3ついくらの安いプリンを3つ纏めて喉に流すように食べる。
ささやかで可愛いくらいの小市民で、
プリン休憩(?)以外は仕事も真面目だったが、
自分を支えてくれる妻がいなくなった今は崩壊寸前である。

堺雅人という人は、演技力の高い人だと知っているし、
鼻持ちならない嫌味な奴や、やんごとなきお生まれの美しい方や、
とっても可愛いゲイだって観たこともあるけど、
こんな姿の、こんな表情をする、こんな声を出す彼を、
これまで、本当に観たことがなかった。
聡明であったり、美しい姿に惹かれるのは当たり前だが、
こんな不細工な、惨めな姿の彼が
強引なまでにお話の中に引き摺り込んで最後まで離さないことに、
何ということか、改めて驚かされた。

それは、
この作品の脚本を書き、自らの劇団で主人公を演じた赤堀監督が、
堺さんの人生でこれほどのダメ出しは初めて、というくらい、
徹底した演出をされた賜物なのだろう。
ここまで最初っから最後まで圧倒し続けて、
観終わった後、掻き乱された感情が言葉にならない作品で、
ご自身とは違うタイプの人を、
まさにこの作品の主人公に相応しく描かれた力量が凄いと思う。
映像に表情が映っていなくても、
そこに居合わせる人間の表情を感じさせるシーンが幾度もあったり、、
演劇的な演出を思わせる長回しが多かったり、、
思いがけず、クスッと笑ってしまうところがあったり、と
作品の作り方に情熱を感じさせる。
海外の映画祭でも好評を得て、
このたび、新藤兼人賞(新人監督に贈られる賞)で、金賞を受賞したことも
その証明となるだろう。
(ちなみに、銀賞は『ヘルタースケルター』の蜷川実花。
  舞台挨拶で、新井浩文さんが、
 「その両方に出ているウチと綾野くんのほうが凄いと思う」と言って、
 会場の笑いを取っていたというが、わたしもそう思います)

さて、そんな監督と主人公に対し、
主人公が憎しみを持ち続ける「加害者」である木島を、
これもまた、山田孝之がこれ以上ないほど不気味に演じている。
この人も大変にファンが多いのを承知の上で正直に言えば、
わたし個人はかなり苦手としている人だったので、
終盤まで、必要以上に堺雅人に肩入れしてしまったりした。
冷静に考えれば、好みの問題はともかく、
それもまた、監督の術中にハマったということなのだろう。
だってね、何ったって、コイツが本当に嫌な奴で・・・
でもそれも、何らかの理由があってのことだ、というのは、
終盤にならないとこちらは気づけないの・・・


この作品は、とにかくたくさんのことを感じるのだが、
言葉にするのがとても難しい。
とてもよくわかる心情も、
何をどうひっくり返っても理解不能な人物も、
よくわからない描写もあって、
それらが観終わった後も、不意にフラッシュバックしてくる。
まるで、作品に追いかけられているようでさえあるが、
お話の筋書きは予想以上にシンプルだ。
何度となく観た予告でもある通り、
「決行」の夜は土砂降りで、
ただ、その夜に向けて進んでゆくのを、
ほぼ時系列通りに並べてあるのだが、
筋書きはそれだけ、と言えば本当にそれだけだ。
3日間ほどの時間を、当事者の2人とその周囲の人間たちは、
どのように過ごし、どのような決着を見るのか、
途中から、全く予想がつかなくなってゆくので、
こちらはもう、祈るような気持ちで観ているほかないのだ。
そういう意味では、
大雨の中の文字通りのぶつかり合いは凄まじいし、
さて、どう結ぶのかと思って固唾を飲んでいたラストは、
そうくるのか、という意外なもの。
さらに、画面が暗転してお話が終わる寸前の、
最後の最後の健一の台詞(?)が決定打ね。
これがあるとないとでは、絶対に違う。

それにしても、
変わったところもあるが、真面目な「被害者」と
手のつけようがないが、何かの裏返しである「加害者」。
正反対に見える2人なのだが、共通点があるのね。
彼らは身近な人間たちに見捨てられていない、っていうか、
何故だか、他人を惹きつけてしまう、っていうか。
一番近くにいる人間が、何らかの理由で付かず離れずの位置にいて、
それを嫌っていない。
ただ、それを当人たちがあまり重要視していなかったりもするが、
それらは、皆、孤独の裏返しなのだろう。
寂しさから逃れるためには、目を瞑るものが大きすぎても、
それは特に障害にはならないというか。
世の中には、こんな形で埋め合わせられる孤独が多いのだと、
たくさんの見本を並べられた感じでもある。
そして、そんな1人1人を観ていると、
人間というものが愛おしくなってくるから不思議なのである。

さらに、配されるキャストたちも見事。
1人1人のキャスティングも、それぞれの演技もどれもリアルで、
役者たちが演じているというよりも、
その時、そこにその立場で居た人たちという風にしか見えない。
5年前の事故当時とは、印象がすっかり変わっているけれど、
相変わらず木島を拒否しない小林@綾野剛。
この人、本当に巧いなぁ・・・あの、思いつめて張り裂けそうな表情がいい。
登場時間はそう多くないけど、ちゃんと求められた仕事をしてる。
また、強い印象に残るのは、安藤サクラ。
スタイルもいいし歌も巧い。
さらに、全く会話になっていない台詞の応酬も必見だし。
ほかに、新井浩文、高橋努、でんでん、谷村美月、田口トモロヲなど、
本当にまぁ、見応えあることったら。


感想を言葉にするのが難しい上に、
ちっとも作品の内容やテーマについて書けてないのが、
我ながら、いつもながら不甲斐ないけれど・・・
もし、これが近くで上映されていたなら、
もう1回は観に出かけると思う。
未だ、頭の中では様々な光景の再生が続いているのだし。。。
全国、どこででも観れる作品ではないけれど、
もし、機会があるならこれだけは是非。



◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この作品のタイトルは、『その夜の侍』。
エンドクレジットに流れるUAの『星影の小経』が
ずっと頭の中に流れる中、映画館の外へ歩き始めた。
溢れ出さんばかりの、この映画のたくさんのシーンのフラッシュバックに、
「侍、かぁ。。。」と思い、眩暈しそうな不安定さのまま、
大阪の雑踏に紛れたところで、何故か唐突に
1978年の沢田研二のヒット曲、「サムライ」の冒頭のフレーズを思い出した。

 片手にピストル  心に花束
 唇に火の酒  背中に人生を・・・ あああ あああ あああ・・・


という、ジュリーの艶っぽい声が頭の中で鳴り始めたのだが、
そこでふと、これまで観たことがなかった、
汗臭く、無様で空虚な堺雅人@中村健一を思い出したら、
つい、こんな替え歌が思い浮かんでしまった。。。

 片手に包丁  心に留守電
 唇に三連プリン  ポケットにブラジャーを  あああ あああ あああ


何てことだ自分。

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tinkerbell_tomo at 00:03│Comments(4)TrackBack(14) 日本の映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by haru   November 21, 2012 08:37
5 はじめまして。
お部屋いつも楽しく拝読させて頂いております。
映画「その夜の侍」感想
「そうそう!そうなのよ!」
拙い私の文章では書きたくても書けない、伝えたいけれど伝わらない想いがいっぱい詰まっていて、嬉しさの余り、興奮の余りコメントさせて頂きました。
初日に観ましたが、まだ余韻がさめやりません。
素晴らしいとか面白いとか…そういうことではなく、星影の小径のメロディのように胸に沁み入る感じなのですよねー。

堺雅人という俳優はこれまでも大好きでしたが、何か決め手が欠けていると漠然と思っておりました。
そしてこの映画で
「これだっ!この堺雅人だっ!」
と開眼いたしました。(笑)

これからも梁朝偉 堺雅人 加瀬亮 
井浦新 綾野剛…もろもろ記事楽しみにさせて頂きます。





2. Posted by ◆haruさま   November 21, 2012 17:23
初めまして。コメントありがとうございます。
いつも覗いていてくださったことを何も知らずにごめんなさい。

ご覧になっている方が多くないけれど、
ご覧になった方はどう感じられたのだろう?
わたしの観方は飛び抜けて妙だったりする?と思っていたので、
同じように感じられた方がいらっしゃってホッとしました。
それに、こうしてコメントいただけたこともとっても嬉しいです。

わたしは都合で公開日には行けなかったので、
昨日まで頑張って我慢でしてたんですが、
遠出したことも含めて、待ってた甲斐があった作品でした。

何かを「こう観て下さい」という押し付けのない、
観客の感性や経験や性別、年代などにも感想は左右されそうですが、
あまりそれを意識せず、精一杯誠実に頑張って作られた感じを強く受けました。
観終わってから、何度も起こるフラッシュバックに付き合っているうちに、
観ていた時には感じなかったものが感じられたり、
ふと思いつくことがあったりして、いろんな意味でこれは凄いぞ、と思いました。
この作品で、堺さんの幅というか奥行きというか、
これまでとは違う面を観れたことに妙に感動したりして・・・
本当に観ることができてよかったです。

あはは・・・
好きな俳優が数多く、あっちフラフラこっちフラフラ、
いつもいい男たちの噂をしてるのが何よりの楽しみ。
またお喋りにお付き合いくださいねヽ(*´∀`)ノ
3. Posted by RYO   November 23, 2012 21:09
悠雅さん、こんばんは

「その夜の侍」遠征して見られたんですね
私の住んでいるところでは、何と来年1月じゃないと来ないんです(>_<)
隣県でもまだ公開してないし、しかたないので来年までおとなしく待ちます
今日は「ワーキングホリデー」を観てきました
映画というよりドラマっぽかったのですが
綾野さんのこの役はちょっと黒崎裕と似ていて好き♡
久しぶりに「クレオパトラな女たち」をリピしたくなりました
4. Posted by ◆RYOさま   November 24, 2012 00:09
こんばんは。

これだけは絶対観たいから、と、ちょっと遠出してきました。
考えたら、大阪の真ん中までとっても便利に行けるのに、
平日でも酷い人混みの中に行くのか、と思うだけでへばってしまうので(^^ゞ
度々行くことができなくて・・・
でも、わたしはこれを逃したら、わが町にはきっと来ないと思うから、
頑張って出かけて来ました。

これを観た後、『ワーキングホリデー』の上映館へ移動する手もあったのですが、
いろいろ予定があったものだから、こちらを優先しました。
きっと、裕を思い起こす役柄かな、と思ってたのです。
また、いつか何かの機会で観るのを楽しみにしてますね。

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