April 23, 2013

リンカーン

南北戦争終結。憲法修正案。過半数獲得。
Lincoln



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出演: ダニエル・デイ=ルイス
    デヴィッド・ストラザーン
    サリー・フィールド
    ジョセフ・ゴードン=レヴィット
    トミー・リー・ジョーンズ
    ジャッキー・アール・ヘイリー
    ジェームズ・スペイダー
    ハル・ホルブルック
    ジョン・ホークス
    ジャレッド・ハリス
    リー・ペイス
    ルーカス・ハース
監督: スティーヴン・スピルバーグ
2012年 アメリカ 150分
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「人民の人民による人民のための政治」。
アメリカを何ひとつ知らなくても、
この名台詞と、その言葉の主リンカーン大統領だけは
知っているという日本人も多いはず。
その、リンカーン大統領の、ある短くも重要な日々を描いた作品が、
現在公開中。
ダニエル・デイ=ルイスが3度目のオスカーを獲得した、
スピルバーグ監督作品だ。


物語は。


1865年1月。
アメリカ第16代大統領リンカーンが再選されて2ヶ月経ったが、
4年にわたる南北戦争は依然続いており、
多くの若者の血が流れ、命が失われていた。
1862年9月には奴隷解放宣言が行われたが、
リンカーンが目指す全ての奴隷の解放には至っていなかった。
南北戦争が終結すれば、奴隷解放宣言は効力を失い、
奴隷たちが解放される機会も失われてしまうため、
戦争が終わるまでに、
アメリカ合衆国憲法修正案第13条の下院での可決が必要になる。
だが、可決のために必要な票が足りないため、
リンカーンは反対票の切り崩しをする人間を雇う一方、
南軍の使節団との和平交渉の準備も進めている。

ハーバード大学で学ぶ長男のロバートは、
自分ひとりが安全な場所にいることが耐え切れず、
両親の反対を押し切り入隊してしまい・・・



アメリカ合衆国第16代大統領、エイブラハム・リンカーン
1865年1月から4月までを描いた作品。
冒頭にも記した、「ゲティスバーグ演説」はあまりにも有名だが、
この作品は、その後の演説などは全く登場せず、
懸案と念願である南北戦争終結と、
奴隷解放のための法案を同時に成立させるために
どのような「策」を取ったのか、というところに焦点が当てられている。
この作品を観る前にもれ伝わって来たのは、
リンカーンの華々しい(?)部分を描く作品ではない、ということだったが、
まさに、全くそのとおりだった。

アメリカ人ならともかく、日本人にとって、
リンカーン大統領とは、知っているようでほとんど知らない人である、と
この作品を観て改めて思った。
リンカーンを知らないのに、彼の周囲にいた人たちのことを
詳しく知っているわけがない。
なので、それまでの流れについて、
映画が始まる前に、スピルバーグ監督ご自身が登場して、
簡単な解説を入れられていたのだが、
少なくとも、日本人にとっては鑑賞の助けになるだろう。
ただ、イマイチよくわからない部分もあって、
よくわからないならよくわからないなりに、
お話の流れからあれこれを察しながら、観る必要があるかもしれない。
というのも、登場人物の多くは初めて知る人たちばかりで、
名前と肩書きや立場などを全く覚えきれないのだ。

映画を観る上で、それは致命的であるかと言えば、
それが案外そうでもなく、(最初は戸惑ったが)
気がついたら、すっかり入り込んで観ていた。
というのは、焦点が当たるのが、
目的達成のために大統領が取る作戦(?)と、
大統領といえども、悩み多き1人の男であるというところだからだ。
リンカーンの物語を描くとき、
偉業を称える半世紀を作りたいのかと思ってしまうが、
1ヶ月に満たない日々に絞り込んであるとは、正直驚いた。
だが、それこそが、スピルバーグが描きたかった、
人間としての、真のリンカーンだったのだろう。
世界を変えるほどの大きな修正案を提出している指導者ではあるが、
個人的には抱えている問題があったり、
修正案を通すためには、清廉潔白とは言い難い面も見せる。
タイムリミットの迫った中で取る作戦は、
良くも悪くも、とても人間臭いものだ。
けれど、
信念はあくまでも揺るがず、
突き進むべき方向を見失うことのない姿は、
見た目や声の繊細そうな感じがあっても、とても頼もしい。
この時代に巡り合わせ、新しい時代に進もうとするアメリカを担う男を、
人の体温をリアルに感じさせて描きたかったのではないだろうか。

リンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイスが素晴らしいのは言うまでもなく、
強気なところも、狡そうな目の光も、妻に手を焼くところも、
背を丸くして、気弱な感じで歩く後ろ姿も、
どれも皆、監督が描きたかったリンカーンそのものなのだろう。
彼のオスカー受賞はもちろん納得。
誰にも有無を言わせない力がある。
クリストフ・ヴァルツの助演男優賞受賞も嬉しかったが、
この作品でのトミー・リーージョーンズもまた素晴らしい。
彼が受賞しても文句なしだったよね。
さらに、
デヴィッド・ストラザーン、ジャッキー・アール・ヘイリー、
ジョン・ホークス、という、アカデミー賞ノミニーたち。
ジョセフ・ゴードン・レヴィット、
リー・ペイス(『
落下の王国』)、
ジャレッド・ハリス(『
シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』)など、
出演者たちも豪華。
そして、映画の冒頭、
リンカーンと語り合う白人兵士の顔、
この顔、観たことあるぞ、知ってるぞ、と考えても思い出せず、
帰ってから調べてみたら、
 刑事ジョン・ブック/目撃者』の可愛かったボク、
ルーカス・ハースだったわ。
そうそう。
奴隷の完全な解放を目指し、議会で戦う男の物語といえば、
英国の奴隷制度反対を唱え、
孤立無援の議会で意見を述べ続ける議員を描いた作品、
アメイジング・グレイス』を、
リンカーンの最期といえば、『声をかくす人』を、
やはり思い出さずにいられない。
また、南北戦争が終わり、無用になった兵器が、
日本に渡って戊辰戦争で使われたらしいというのは、
今年の大河ドラマ『八重の桜』にたびたび登場する。
作品自体は、息もつかせず、あっという間の150分だったが、
ちょっとそんなことも思い出してもいた。

南北戦争終結と、憲法修正案の下院通過。
タイムリミットが迫る、濃密でサスペンスフルな物語。
ダニエル・デイ・ルイスの演技も必見です。


tinkerbell_tomo at 22:36│Comments(0)TrackBack(10) 洋画【ら】 

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