めめさんの絵本 de TeaTime

 大人になって絵本を開いたことはありますか? 絵本は、大人の心に優しい風を送ってくれます。 ちょっと一息,絵本deTeatimeしませんか?                    

インフィニティアカデミア絵本探究ゼミ4期*1回目リフレクション

 【いよいよミッキ―絵本探究ゼミ4期がスタート!】

昨年110名で開講された通称ミッキ―ゼミは、9月10日に4期40名でスタートしました。

 ★受講動機

① 20224月から123期と学び4期も継続した理由は、この探究ゼミ2期の時にイギリス児童文学のフレッド・イングルスの「幸福の約束」の一説をミッキー先生にご紹介頂いた時に「絵本は一生かかっても学ぶべき価値がある」と感じた。またこの探究ゼミが絵本理論を学ぶだけではなく、常に自分に問いを立て主体的に学び、自分の言葉でアウトプットするという「知識を本物のチカラにするゼミ」だと感じたので継続を決意した。

 

★受講動機② 

認定絵本士の講師の依頼を受けているので、子ども達に直接絵本を手渡す立場にいる図書館司書や 幼保育士さん達に、絵本が持っている豊かなチカラや可能性を具体的に伝えるために私自身が学び続ける場としてこのミッキーゼミを継続したい。

★目標宣言★

5回のリフレクションをすべて提出する

noteにチャレンジする

③絵を読む力を養う

4期統括としてFAに力をお借りしながら40名のゼミ生が最後まで自分の目標にチャレンジできるようにサポートしたい。

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イギリス児童文学フレッド・イングルスの「幸福の約束」

4
期のテーマは以下の通り、大変興味深い!

1,「絵本の翻訳」

2,「絵本の絵を読み解く」

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【第1回目のリフレクション】

【事前課題:自己紹介を兼ねて翻訳絵本を1冊用意する。】

・私は、今回の課題は翻訳絵本ということで、私自身の心の中に心地よく響いている語りや言葉が耳に残っている翻訳絵本はなにか?という視点から選んだ。

 

『こすずめのぼうけん』『THE SPARROW WHO FLEW TOO FAR

ルース・エインズ・ワース作石井桃子訳・堀内誠一画1976(出版から46)

 

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◆選書の理由:楽しい語りの翻訳絵本は?と考えた時に一度聞いたら忘れられない「ちゅんちゅんちゅんてきりいえないんです。」というフレーズがすぐに聞こえてきた。また「あの、すみませんが なかにはいってやすませていただいて いいでしょうか?」というフレーズも蘇ってきた。こんな丁寧な表現を使った子ども本はそう多くないと思う。すぐにこれはあの『こすずめのぼうけん』のワンフレーズだと思い出し改めて読み直した。耳に響く言葉や語りは、頭の中に描くイメージしやすく、子どもの想像の域を広げてくれる。また対象は子ども!という設定がはっきりしている文体で翻訳されている絵本だと思う。子ども達がこの本を読み終わった後に何度も「読んで!!」という言葉が聞こえてくるのが理解できる。

耳触りの良い絵本だと感じたので、更に調べてみると、このお話はストーリーテリングでよく語られるお話だった。そして誰の翻訳かな?と絵本の表紙を見ると石井桃子さんの訳でした。

 

場面設定も分かりやすく、繰り返しが多いので子どもの心の成長に寄り添っていると思う。それも3度ではなく4度も挑戦するこすずめのいじらしいほどの頑張りに、絵本を読んでいる子ども達は自分を重ね合わせて冒険とスリルを楽しみ、最後はお母さんの羽の下でゆっくり眠る安堵感を味わえると思った。

<自己探究課題―『こすずめのぼうけん』>

今回この絵本を選んで原書が読みたいと思った。ミッキー先生の著書「石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか?」P251263を読んであの名セリフ「いいえ ぼくちゅんちゅんてきり いえないんです。」の原文を見つけた。この名セリフは「No . I can only say Cheep! Cheep!」と書かれていた。!こすずめの様子を聞き手の幼い子が鮮明に想像できる。このセリフは200冊以上翻訳した石井桃子さんの作品の中でも私はピカイチだと私は思う。

このこすずめの「いいえ・・・」のセリフは4回出てくるが、すべて同じ訳ではない。それはなぜかというと昔話の繰り返しを意識してはいるが、単に言葉の繰り返しだけではなく、その時その時の状況や事実の表現として「語りの文体」を大切にしている石井桃子さんの訳だからだと思う。

さらに自己の探求課題として 『こすずめのぼうけん』について深めたいと思っている。

 ◆自己紹介を兼ねて『こすずめのぼうけん』を選んだ理由は、【チームの仲間が、このこすずめのように好奇心をもって学び、自分の羽で飛べるようになってお母さんであるミッキー先生の巣から飛び立ち、それぞれのフィールドで活躍できたらいいな】と思ってこの絵本を選びました。

◆チーム6ティアラのメンバーが選んだ翻訳絵本の紹介

『こねこのぴっち』ハンス・フィッシャー :としさん
『わすれられないおくりもの』スーザン・バーレイ :かのんさん
『星の使者』ピーター・シス:ていあいさん
『わたしとなかよし』ナンシー・カールソンあっけちゃん

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』バージニア・リーバートンじゅんじゅん

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【子どもの本の翻訳者・研究者としての石井桃子の功績とは?】

石井桃子19072008年(没101歳)

作家・編集者・研究者・実践者・翻訳家・活動家

・児童文学の川上から川下へ

・約200冊以上の翻訳書

・現在も石井桃子の翻訳絵本が読み継がれている本が多い。

・子どもの本はロングセラーが多い。『ピーター・ラビット』生誕120周年。『クマのプーさん』『ちいさいおうち』など、古典でありながら現代も読み継がれている。

・以上のことから石井桃子は、20世紀の日本の児童文学を牽引してきただけではなく、リリアン・スミスなどとも交流をして日本に新しい児童文学を取り入れるなど歴史的役割がとても大きかった。

また石井桃子の翻訳で育った子ども達から翻訳者・編集者が生まれている。このことにより次の世代にも繋がる大きな功績を残したことになる。

 

◆以下「石井桃子の翻訳はなぜ現代も多くの子どもや大人を惹きつけるのか!」という視点からミッキー先生の講座を振り返りまとめる◆

【翻訳絵本の留意点~子どものために翻訳するということ~ (R.オイッティネン)】

1,原書の世界観を損なわない

・判型・絵本の向き・絵の配置・反転

2,対象年齢の子どもの経験値を考え、理解できる言葉を使う

・子どもの読みに合った翻訳

・子どもは細部を見る、興味のあるものに目がいく

・大人はストーリーを追う、主人公を追う傾向がある

・大人と子どもの絵の見方文章の読み方捉え方は違う

*子どもの読みとは?

・知識や経験がないので季節は後追い

・物事の捉え方が大人と異なる➡季節・時間・死・地球の自転・重力などは子どもに分かりやすい物語にすると理解できる

つまり想定読者の認知力・年齢・立場・時代等を考えながら言葉と文章の関係を組み立て翻訳する。

 

◆『The Little HouseNY:Houghton Mifflin,1942

『ちいさいおうち』バージニア・リーバートン石井桃子訳/岩波書店1954

この絵本のテーマは【時間】つまり時間の概念を絵本に表したものが『ちいさいおうち』。

目に見えない時間をどのように子ども達に伝えたのか・・・・?

 

◆脳科学者:時実俊彦『脳と人間』を石井桃子は時の処理の参考にした。

「人間は3歳から6歳ころまで空間を処理する能力は発達し場所を物理的に理解できるが

時間を処理する部分は未発達で、今ないもの(つまり過去から未来の繋がりなど)を論理的に組み立てて処理する抽象概念は10歳以降にならないとうまく繋がらない。」

5.6年生で歴史を論理的に理解できるようになる。つまり「時間の概念の確立は10歳くらい。

 

◆『ちいさいおうち』の対象者は4歳から8歳(コルデコット賞受賞の際にバートンのスピーチにより)

抽象概念のない想定読者(4歳~8歳)に対して目に見えない時間を絵で見えるように描いている。

*時の認知の仕方*

・一日は太陽の動きを見開きのページで表した

1か月は月の満ち欠けを見開きのページで表した

・時代という時間は、見返しの絵で表した

「ちいさいおうちを主人公として時間を超えてどう生きるか!」がテーマだと石井桃子は言った。 

・石井桃子の師弟である斎藤惇夫は、「石井の視線の先には、常に読者である子どもの存在、自己同一化して物語を楽しむ子どもの読みがあった。」と述べている。

 

◆就学前の文字を持たない文化の子ども達は声の文化に生きている。

・文字が読めないのでお話を耳で聴く

・目は細部まで絵を見る・興味を持っているものに目がいく

・文字も絵の一部として見る(ビジュアルデザイン)タイポグラフィー

・大人は主人公に目がいく・ストーリーを追う

◆子どもはテクストをどのように見ているか?

・文字の読めない子どもは文章も視覚言語として眺める。

2パターンのなだらか(曲線)とジグザグ(直線)にシンメトリーというタイポグラフィー(文字の視覚的特徴)に着目してその効果をバーバラ・エルマンとミッキー先生二人の仮説を絵本の絵を追いながら比較した。

バーバラ・エルマンの仮説>

   パターンA曲線は田舎の静けさ

   パターンB直線➡都会の無秩序

<ミッキー先生の仮説>

   パターンA曲線➡なだらかな丘 明るい太陽の光

   パターンB直線➡夜・真っ暗な夜はギザギザ?
              またはちいさいおうちにとって夜同然の状態


*比較の結果、

・直線のタイポグラフィーは7場面在り、夜の場面が5場面で残りの2場面は都会の中でお日様の光が届かない場面だった。ゆるやかな曲線のタイポグラフィーは昼間の明るさを表現している。

バージニア・リーバートンの絵本の特徴であるタイポグラフィーをしっかり見ることで更にみえてくるものがある。大切なことを伝えるための効果だったのかと知ることができた。

 

◆『ちいさいおうち』は昔話的な文体で繰り返しが多い

・決まり文句・・・むかしむかし

・ある日・・・という始まり

・冒険して冒険して行って帰ってくる物語

  

◆『ちさいおうち』は「生きて帰りし物語」

「時代」という分かりにくい時間の概念を使って「行きて帰りし物語」を表現している。

・ちいさいおうちが動き出すような能動的に直接話法を使って田舎から都会へ冒険に出かけるというイメージを出している。

・大人が見る「ちいさいおうち」はおうちの周りが動いて時代が変わるノスタルジアとして見ているが、子どもは田舎と都会は違う場所。田舎からと都会、都会から田舎へと冒険するちいさいおうちを絵やタイポグラフィーを使って描いている。


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<4期ゼミ1回目のまとめ>

石井桃子の翻訳絵本は心地よい表現が耳に残り一度聞くと忘れられない言葉が多い。子ども達が思わず「もう一回!」と言いたくなるような言葉の表現が豊かで楽しい。

それは、石井桃子が一番大事にしていた自己同一化つまり子どもが絵本を読んだ時に主人公になりきって作品の世界溶け込むこと、常に聞き手の子どもたちに寄り添い、耳で聴く文化の時代の子どもたちにそれが目に見えるように生き生きと子どもたちの心に届く言葉を心掛け、対象年齢の想定をはっきりさせその年齢に合った文体で言葉を紡いだからだと理解できた。

また『ちいさいおうち』の翻訳については作者のバージニア・リーバートンの描いた世界観をよく理解しているからこそこの翻訳絵本が60年以上続くロングセラー絵本であり、何度も読まれる絵本なのだと思う。タイポグラフィーの効果についても先人(バーバラ・エルマン)の仮説に対してミッキー先生の先鋭的な分析の仕方が分かりやすく勉強になった。翻訳絵本は文章の読解だけではなく、絵を読み解くことも必要であり何より読み手の子どもたちのシチュエーションを想定して子どもたちがお話の世界で楽しめるように文体を考え言葉を紡ぐのだと知りました。


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備忘録:【『ちいさいおうち』の絵本と私】

・私とこの絵本『ちいさいおうち』との出会いは私の幼少の頃ですが、青い表紙の真ん中のおうちが笑ったり悲しんだりしていて、文字(テキスト)が踊っていたように見えていたことを覚えています。

この絵本との再会は、わが子を連れてよく通っていた文庫です。あった!あった!とすぐにこの絵本を借りて娘に読みました。

私の子育て世代は当時、日本の社会の流れは,男女雇用機会均等法が改定されて女性の社会参加が以前より注目され私の周囲の女性達も次々に社会に出ていきました。私は専業主婦だったので、少なからず社会から取り残された気持ちと自己への無力感を味わっていました。

子育ての中で再びこの絵本に出会った時、子どもの頃に読んだあの青い表紙と円の真ん中に佇むちいさいおうちがひとつも変わらずに描かれていました。驚いたことに!そのお話は、季節の移り変わりや時の流れが美しく描かれていただけではなく、子どもの頃には全く気付かなかった自然破壊や大気汚染に警鐘を鳴らしていました。そしてこの物語が1世紀にも及ぶ長い時間だったことに大変驚きました。

また、この絵本の著者が女性であることや書かれていた時代背景が、20世紀初頭のアメリカで工業化に伴い、都市化か進み、世界一の工業国として発展し人々の生活が大きく変わっていた時代だったとその時知りました。

 

更にバージニア・リーバートンが世界恐慌や第二次世界大戦という激動の時代にも関わらず、絵本作家、妻、母、デザイナー、染色家など多忙の中で、歴史的な時間の広がりや時が過ぎていくという概念を1冊の絵本にして、真の幸せは何か?という問いを世界に投げかけていたとを知り、この絵本の存在の意味を感じ、わが子に読み継いでいかなくてはならない絵本だと感じました。

 

「ヴァージニア・リーバートンの世界」ギャラリーエークワッッド/小学館児童2018年に「彼女が英語版の表紙に『HER-STORY』と記したことは「HISTORY」歴史は男性だけが作るものではなく、女性もまた歴史の主人公であるというメッセージだ」と書かれています。バージニア・リーバートンが書く絵本はいつも女性が主人公です。この「ちいさいおうち」も女性だと知り、子育て中の自分が女性であり、人を育てる母であることに誇りを感じられました。そして専業主婦であっても視野を広く持ち、社会の流れや世界情勢にも目を向け、のちにそれが未来ある子供たちの上にどのように影響を与えるのかなど、長いスパンで物事を考えられるように主体的に生きていきたいと考えさせられた絵本でした。

・現在私は、子育てのお母さんや幼・保育士の先生たちに絵本の講座をさせて頂く立場ですが、絵本を紹介するにあたり、なぜこの絵本を勧めるのか?しっかり絵本の時代背景や作家の生き方などを自分の中に落とし込んで言語化できるようになりたいと思っています。


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HER-STORYと書かれています。

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【4期1回目のゼミのリフレクションを終えて】
翻訳とは何か?石井桃子さんの翻訳の魅力と共に「ちいさいおうち」に描かれている技法や内容を深め、バージニア・リーバートンのこの絵本に託した思いも再確認する機会となりました。
 そして、
なぜ私が「ちいさいおうち」を後世に読み継ぎたい絵本の1冊に選んでいるのか、自分に問いかけその思いを言語化することができました。

【すぐれた絵本は、子どもの本であると共に、読み手の大人にとってもかけがえのない物語体験になる】という松居直さんの言葉を思い出しました。

 

◆1回目の参考文献はコチラ

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第1
回目のゼミから翻訳絵本の講義は大変興味深くて燃えました~
次回2回目も、テーマは「翻訳絵本」です。更に翻訳絵本の深さを知ることになると思います。



インフィニティアカデミア絵本探究ゼミ3期5回目最終回!

◆インフィニティアカデミア絵本探究ゼミ3期5回目のリフレクション◆

20234月に開講した3期は、5回目8/2北海道・層雲峡でリアルとリモートのハイブリッド形式のゼミで各チームの研究発表をもって修了しました

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*北海道大雪山系層雲峡リアルゼミの会場でパチリ!

◆午前中は、自然写真家・写真絵本作家:佐藤圭さんとミッキー先生の対談◆

・『山の園芸屋さんエゾシマリス』の絵本は2021年ほぼ同時期に出版された二神慎之介さんの『ヒグマの旅』を地元でお世話になっている絵本専門店で見かけて以来気なっていたが、まさかミッキーゼミでリアルに佐藤圭さんのお話を聞けるとは、大変興味深く拝聴した。

・佐藤圭さんは、北海道留萌市在住で美容師もされている二刀流の自然写真家。

<自然写真家になるきっかけは・・・>

・地元留萌市の夕日の美しさに気付き、日本一の夕日を撮る!と心を決めた。その後、一眼レフを覗くうちに絶滅危惧種のオオワシをはじめナキウサギ・エゾリス・エゾモモンガそして希少な植物が群生している大雪山系に魅せられフィールドが広がっていった。

<お話をお聞きして・・・>

・野生動物の生態系や大雪山系の気候・地形・植生などを熟知しているからこその一枚であることがお話からよく分かった。また、何時間でもその場所で待つ大変さより、圭さんの目の前にいるエゾシマリスや小動物の一瞬のしぐさや愛くるしい表情を捉える瞬間の喜びがあると伝わってきた。この『エゾシマリス』の写真絵本は、北海道の中央部にある大雪山系に住むエゾシマリスの親子の一年をストーリー仕立てで追っている。野生動物と植物との共生の関係や多くの天敵との闘いや厳しい気候の中でかしこく力いっぱい生きる姿が生き生きと描かれて、子どもから大人まで楽しめると思った。野生動物に寄り添い本物を子ども達に伝えたいという思いが大自然の厳しさの中でも、圭さんが耐えうるエネルギーになっていると感じた。

 

<『秘密の絶景in北海道』を拝見して>

・こんなにも美しい北海道に私自身が住んでいることに改めて感謝の念が生まれた。昨今、気候変動が急速に進み温暖化ではなくて沸騰化というワードになったとニュースで聞いたが、北海道のいや世界の自然の中で繰り返される生命の営みが永遠に続いてほしいと切に願うと共に私たちがこの環境を守る立場であることをもっと意識しなければならないと感じた。

【ネイチャーポジティブ】という用語を最近聞き調べてみると、自然生態系の損失を食い止め回復させていくこととあったが、現在既に世界の生物多様性は減少し続け1970年来約68%の生物多様性が失われたそうだ。(LIVING PLANET REPORT2020より)自然資本とか生物多様性の危機というワードも耳にするが、正直に言うと私は見て見ぬふりをして自然環境団体や民間企業に任せているような現状だ。次世代にこの自然の素晴らしさを残すために絵本(写真絵本、科学絵本なども含めて)を媒体にして私自身が取り組む活動を考えてみたいと思った。
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*佐藤圭さんの『エゾシマリス』本当にリスの表情が可愛い!もう一冊は黒岳ロープウェイのお土産コーナーで見つけました。私の大好きなえぞりすの写真集!

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 ここからが本番!! 

◆各チーム特色ある研究を発表した◆

チーム1🐞Ladybird➡3期のテーマ世界の絵本賞を学んだ中から振り返りと新たな知識をつけるクイズ形式で絵本力アップ!

チーム2:にこわこ➡「いのちと絵本」をテーマに授業形式で発表。

 チーム3Rabbit➡3回のケイト・グリーナウェ賞を受賞したアンソニー・ブラウンを探求して発表。

チーム4GOOD LUCK➡絵本賞ノンフィクションに目を向けピーター・シスの人物像や作品の深堀りを発表。

チーム5:にじいろペンギン🐧➡アストリッド・リンドグレーン賞について探求して発表。

 

◆自分たちチーム1の発表の振り返り‥‥◆

・私たちチーム1🐞 Lady bird6人は「3期の学びのエッセンスを取り入れた楽しい発表をしたい」という思いからクイズ形式で発表することに決めた。

・コルデコット賞やケイト・グリーナウェ賞に留まらず広く世界の賞を見直し、受賞した作家の生い立ちや画風、時代背景など様々な視点を調べ、常識的なものからユーモアのあるもの、そして知識力が問われるものなど3期の学びのポイントを押さえて作成した。当日会場で回答用紙を配布し、リモートで参加する人には事前にpdfで送る工夫もした。正答率の高かった人には賞状とメダルも用意した。受講者の沢山の笑顔が見られ、取り組んだ私たちも楽しく3期の学びを振り返ることができたと思う。優秀者はミッキー先生とゆりりんとおこちゃんの3名。「いつの間にかこんなに絵本力が身についていたとは思わなかったです。」というおこちゃんのコメントからミッキ―絵本探究ゼミの収穫を大いに感じた3期ゼミでした。
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*半年間一緒に学んだチーム1🐞Ladybird 北海道・群馬・東京・三重からZoomでつないで学びました。
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◆印象深かった発表◆

・私は5つの発表のなかでも特にチーム4のピーター・シスの発表に刺激を受けた。

・まず、世界の賞でもノンフィクション賞という分野に目が留まったこと、そしてピーター・シスの作品の素晴らしさに気付いたチーム4の皆さんの選書眼に脱帽。作品の中から「かべ」というキーワードにたどり着きさらに探究を深めていった過程の話もワクワクして聞き入りました。当日は実際に沢山のピーター・シスの作品を目の前で丁寧に解説してくださり、これぞ絵本の探究発表だと思いました。

・私は自宅に戻りすぐにピーター・シスの絵本『THE WALLかべ』と『マドレンカのいぬ』を2冊購入しました。とにかく探究発表のアーカイブを見ながらもう一度この2冊の絵本を見たかったからです

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💛帰宅後この2冊を即購入!!⤴

*チーム4のピーター・シスの発表から学んだことをまとめて5回目のリフレクションとする。

1.ピーター・シスの生い立ち

1949年チェコスロバキアのブルノで生まれ、プラハで育つ。

(シスが生まれる1年前1948年にチェコスロバキアは共産主義国となりソ連の支配下に置かれ国境は封鎖された。)・幼い頃から絵を描くことが好き。冷戦時代は妹と共産主義の少年少女団に入っていた。学生時代はロックに熱中したがソビエト連邦の共産体制に組み込まれてからラジオ・ロックミュージックは禁止となり絵を描くことに打ち込んだ。プラハの美術工芸大学とロンドンの王立美術大学で絵画と映画製作を学ぶ。アニメーション作家としてチャンスが訪れ1981年アメリカへの亡命。センダックの導きもあり絵本作家の道に進む。1989年アメリカの市民権取得その年1989119日ベルリンの壁崩壊。1990年アメリカで結婚2児の子どもを授かる。

2003年マッカーサー賞を絵本作家として初めて贈られる。

 

2. THE WALLかべ』―鉄のカーテンに育ってー(作:ピーター・シス訳:福本由美子2010/BL出版)

・この絵本は、第二次世界大戦後、冷戦時代のチェコスロバキア、「鉄のカーテン」に閉ざされた厳しい世界で苦しみ悩みながら成長し、自分の夢を最後まであきらめなかったピーター・シスの自伝的絵本である。

・表紙の真ん中に赤い星型の壁に囲まれた男の子がいる。題名がタイポグラフィ描かれていて壁を強調しているように感じる。見返しには、西側諸国と東側諸国が描かれている。共産党の支配下にあったことが強調されていて、鮮明な赤が使われている。本ページからは、出生時から時系列に社会情勢とシスが「鉄のカーテン」を超えるまでが描かれている。目の前に起こる事実に対するシスの思いや考えが絵本の下部に文章で書かれている。

P45~46のページでは、見開きを上下に分断するように中央真ん中に有刺鉄線と壁が横に描がき、

上段を光・希望・正義・幸福・開放・・・など壁を超えた世界が暖色で描かれている。右上にニューヨークマンハッタンの自由の女神が見える。下段は、疑い・愚かさ・恐怖・ねたみ・・・など闇の部分を寒色で描いている。ETのように自転車に乗って空を飛ぶ男の子がスケッチブックを抱えているのが印象的。ラストのページは、1989118日ベルリンのかべ崩壊が描かれている。

 

*この絵本を書いた理由をシスは、「アメリカで当たり前に自由の中で育った我が子に自分が(シスが)アメリカに移住した理由をできるだけ忠実に伝えたいと思ったから」と述べている。

THE WALL かべ』2012年コールデコット・オナー賞を受賞している。

 

3.ピーター・シスにとって「壁」とは?

・鉄のカーテン➡ 立ちはだかるもの・越えられないもの・支配・強制・束縛など。

・生まれながらにして鉄のカーテンが立ちはだかる環境の中で育ちあらゆることに強制を受けて育つ。比較的裕福な家庭で育ち家の中では自由に絵を描くことが許されていたが、アニメーション作家としてアメリカに亡命し、ニューヨークで暮らすうちに自由な窓・開放的な窓があることに気付き、自伝的絵本でわが子を含め世界中の子ども達に「教わることが全てではないこと」「自由を諦めないこと」「越えられない壁はない」など多くのメッセージが込められている。

 

4.この作品に向き合い感じたこと

*私はこの作品から人間は人間の思考までは支配できない、自由を諦めずに生きる先には必ず壁は越えられる。壁を越えた先には希望・自由・未来があることを子ども達に伝える使命があるとピーター・シスが感じたのだと思う。絵本を手渡す立場の私たちは創作絵本や昔話絵本だけではなく、このようなノンフィクション作品を読み、手渡していかなければと思った。『三つの金の鍵 魔法のプラハ』も是非読みたいと思う。

 

ミッキー先生の解

絵本を見る時に大切なことは、ポイントビュー!

何を書くか?What?・どう描くか?How?

1. ポイントビューは何か?

2. ナラティブ どの視点で誰が語るのか?

・壁は横から見ると越えられないもの、しかし上から見ると囲っているもの、つまり守るものに変わる。

・自分の視点を変えられると、越えられないと思っていた壁が違う物に見えてくる。

・『マドレンカ』シリーズについては、自由の心を持っている女の子が主人公でこれは娘のマドレーヌを描いている。多民族・多言語、未来への希望の象徴。大人は壁を作るが子どもは作らない。

壁は超えられるという視点を持つと壁の意味が変わる。ガリレオ・ガリレイなど自分の意思をどんな困難なことがあっても変えない。立ちはだかる勇気をもって超えていく。つまりロールモデルは偉人達。彼らの伝記や生き様から影響を受けた。ポイントビュウーは何か?を考えるとその絵本から見えてくるものが分かる。


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・◆ピーター・シスの作品に触れて、調べた1冊の絵本◆

・私は、ピーター・シスのTHE WALL かべ』に触れて、1969年ドイツのハンブルグに生まれ育った絵本作家のブリッタ・テッケントラップの作品『かべのむこうになにがある?』の絵本を思い出した。私はこの作品は多くの人たちに勇気と希望について考えるきっかけになると思っているのでよく使っている。今回この機会に概要をまとめてみた。

◆作品:『かべのむこうになにがある?』Little Mouse and the Red Wall作:ブリッタ・テッケントラップ訳:風木一人(2018BL出版)

◆あらすじ

大きな赤い壁がどこまでも続いていました。いつからなのか?どうしてあるのか?誰が作ったのか?ねずみが疑問を持ち仲間に聞くが誰一人答えられる者はいなかった。ある日飛んできた青い鳥と一緒に赤い壁を超えたらそこには美しく素晴らしい世界が広がっていた。不思議なことに戻ってくると壁が消えていた。「あると思えばある。ないと思えばない。本物を見る勇気があれば壁は消える」。という青い鳥の言葉が胸に響きます。

壁の向こうを知りたいという自らの疑問解決のために勇気をもって行動し、仲間と共に新しい世界へいくことができたねずみのお話。

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*絵本のカバーを外すと別の世界が現れます。ブリッタ・テッケントラップの絵本は美しいです。


◆作品の特徴

・カバーと本体の絵が違う・カバーは裏まで大きな赤い壁が描かれている。カバーを外すと一変して鳥や蝶が舞うカラフルで美しい世界が描かれている。

・献辞は「勇気ある人たちにそして、壁のない世界に。」と書いてあり、特定の人ではなくて、この絵本を開いた人全てに届けたという思いが伝わってくる。

・この絵本は、表紙の赤い壁から始まって 赤・青・黄色の色の三原色を基本に使っている。

・物語の始まりでは、大きな赤い壁以外は、寒色系で描かれていて 動物たちはみんな下を向いている。

クライマックスの場面では対照的に 暖色系を多く使って明るい緑や色とりどりの花が咲く 森の中を描いています。ラストの場面は、両脇に青と緑の大きな木、そして正面には穏やかに続く地平線と 空には大きな太陽が描かれていて、そこに向かってちいさいねずみが歩いていくシーンが描かれています。このラストシーンから ちいさいねずみの未来は明るく希望に満ちていることが伝わり、読み終わったあとに読者が穏やかで希望に満ちた気持ちで 絵本を閉じることができると思う。

 

・表現技法は、独自の印刷技術を使っている。テクスチャ付きの紙と形状を決め、次に手でコラージュを作成してコンピューターにスキャンする。つまりデジタルと手作りのコラージュの組み合わせを使っている。

・画面構成は、遠近法や空間表現を上手に使っていて、 子どもでもよくわかるような時間経過や場面展開になっている。登場人物の位置や大きさ 配置だけでも十分にページターナを意識していると感じる。特に主人公のちいさいねずみと後ろ向きな生き方をしている動物たちの 言葉のやり取りや 青い鳥との言葉のやり取りから この先はどうなるのだろうと 物語の先が気になり、ページターナーの役割を担っていると思う。

 

◆作品の背景

・ブリッタ・テッケントラップは、ハンブルグで生まれ ロンドンの大学で学び、現在ベルリンに住んでいます。 彼女はこのLittle Mouse and the Red Wallを描いたあとに、ある著書にこう語っている。

「『Little Mouse and the Red Wallこの新しい絵本では、今や私の人生のすべてとなってきた特に強い話題に捧げられています。 私は不可能な壁に囲まれた国で育ったからです。多くの人々が自由に生きるためにこれを克服しようとしましたが、とても難しい問題でした。」この一言からこの絵本は、とても大きなテーマが根底にあることに気づかされる。ちいさいねずみが大きな赤い壁を超える勇気の物語だけではなく、かつて壁のあった街で生きてきた作者ブリッタ・テッケントラップが、今や貧富の差が拡大し、イギリスがEU離脱に向かい、移民問題がヨーロッパを覆わんとしている今、世界情勢への差し迫った危機感を感じて、子どもに伝えるのが難しいことを承知の上で この「壁の絵本」書いたのではないかと言われている。

◆作品のテーマと感想

私は、この絵本のテーマは【壁は心の中にある】ということだと思う。精神的な壁の象徴。しかし「壁」が守ってくれるものと思う人もいる。このテーマは、大人なら自分の経験や価値観から色々な感情や感想を持つことができると思うが、幼い子どもたちには 少し難しいテーマかもしれない。しかし、ちいさいねずみが、自分の抱いた疑問や未知なる世界への探求心と冒険心を持って生きていくという視点で捉えるならば、子どもたちに勇気と希望を与える1冊になると思う。頭で考えるより子ども達はきっとこの作品からなにかを感じ取ってくれると思う。

 

ピーター・シスのTHE WALL かべ』と『かべのむこうになにがある?』という作品と向き合い、「壁」という同じワードが出てくるが、ブリッタ・テッケントラップの「壁」は自分の内側を自ら乗り越える勇気。ピーター・シスの「壁」は外にあり、その「壁」を乗り越える勇気を持ち続けること。どちらも子ども達に夢と希望を諦めないことを伝えたい!そこが共通点だと思う。

 

私たち日本人が当たり前にある自由の世界で、どう生きているだろうか・・・と考えた。

自分の枠に捉われ本当の自己表現が十分にできていない大人が多いと感じる。それこそ「壁が自分の心の中にある」と気付くべきではないだろうか?私は、この作品は多くの大人が必要とする作品だと思うので、引き続き大人にも読み届けたいと思う。

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3期ゼミを終えて・・・

20234月に開講した3期は、コルデコット賞やケイト・グリーナウェ賞を中心にカテゴリーごとの特徴や絵本の詩学・美学の比較から選書眼を磨いた。今年の北海道のように暑い暑い・・・アツイアツイ内容の半年間でした。

私は受講目標を3つ上げたが、達成にはまだ至らなかったと感じています。

①の絵本学の学びは、学べば学ぶほど深く、まだまだ学んだことを言語化して伝えるには訓練が必要だと感じています。3期FT(統括)としての働きは楽しく精一杯させて頂きました。3期から4期継続の人数を見る限りでは、3期のFAさん達の頑張りのお陰もあり、受講生の皆さんにとって実り多い絵本探究ゼミとなったと思います。4期継続希望についてはそれぞれのフィールドがあり人生のミッションもあるので個々のお考えを尊重したいと思います。4期継続を希望しない方も3期一緒に学べた時間や繋がりはこれで終わりではないので、これからも共に学んだ繋がりを大切にしたいと思っています。③新たなチャレンジとして「黒岳の登山」を上げていましたが悪天候のためロープウエイまでしか行けず残念でした。その代わり人生初のラフティングに挑戦できました!

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*人生初となった石狩川のラフティングは最高の思い出!!

ミッキ―絵本探究ゼミは、なんて体育会系なのでしょうか?と思う人がいるかもしれませんが、絵本学を学ぶにはそれなりの体力と精神力がいるということが分かってきました(*^-^*)

 

4期は、ミッキー先生の真骨頂!絵本の絵を読む、そして翻訳についての講義です。9月開講はすぐです。私の好奇心がすでに高鳴っています。

ミッキー先生!4期もよろしくお願い致します。

          

インフィニティアカデミア絵本探究3期2回目

◆インフィニティアカデミア絵本探究3期 2回目のリフレクション◆

*第2回目の講義の流れ*

1,チームブレイク1回目

コルデコット賞作品を1冊持ち寄り、選書理由をシェアする

➡メインルームでコルデコット賞受賞作品の講評を聞く

 

2,チームブレイク2回目

コルデコット賞についての感想や質問をシェアする

➡メインルームで各チームの発表を聞く

 

3,講義:ケイト・グリーナウェイ賞とその起源

 

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2回目の講座ではミッキ―先生が時代背景と共にコルデコット賞受賞作品の特徴を年代別に解説してくださった。そのリフレクションは後日とし、私が選んだコルデコット賞受賞作品についての考察を先にまとめたい。

 

今回選んだコルデコット賞作品は、

コルデコット賞を2回受賞しているクリス・ヴァン・オールズバーグの『急行北極号』

1985年初版 1986年受賞 ・2003年初版 村上春樹:訳 / あすなろ書房

(ボストングローブ・ホーンブック賞オナー賞・ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞)

・映画化「ポーラ・エキスプレス 」200411月公開(CGアニメーション)

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★あらすじ:Xmasイブの夜ある男の子の家の前に「北極号」が現れ沢山の子ども達とサンタクロース

がいる北極点に向かう。男の子はその年の最初にサンタクロースからプレゼントを受け取る子どもに

選ばれトナイカイについた鈴をもらう。帰りに鈴を無くしてがっかりするが翌朝クリスマスツリーの下

に山と積まれたプレゼントの中にサンタクロースからの手紙と一緒に鈴を見つける。その壊れた鈴の音

はパパやママには聞こえなかったが妹と僕には聞こえた。

 

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★作者について:1949年アメリカのミシガン州グランドラピッツ市生まれ。

 少年時代は野球と模型作りのほか、絵を描くことにも関心があった。

ミシガン大学・ロードアイランド大学で美術修士号を取得。木彫・樹脂形成・彫刻技術を学び、RISDでイラストレーションの教授も務めた。彫刻家としてキャリアを積みながら個展を開いたり、友人や妻の勧めで絵本の制作にも着手した。

1979年に出版社ホートン・ミフリンから初めて出版した『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』 が1980年のコルデコット賞オナー賞に選ばれたことが絵本作家・イラストレーターとして活動の幅を広げていくきっかけとなった。作品はホイットニー美術館、近代美術館に展示されている。

 

*初めて出版した絵本でコルデコット賞オナー賞した。

『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』 1979年初版 1980年受賞

1981年日本初版 辺見まさなお:訳/ほるぷ出版(2005年あすなろ書房から新訳出版)

(コルデコット賞オナーブック・ボストン・グローブ・ホーンブック賞・ニューヨーク・タイムズベストイラスト賞)

 

*オールズバーグは、コルデコット賞を2回受賞している。

『ジュマンジ』 1981年初版 1982年受賞

 1984年日本初版 辺見まさなお:訳 /ほるぷ出版

 (ボストングローブ・ホーンブック賞オナー賞・ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞)

・映画化「ジュマンジ」1995年米国

(参考資料:やまねこ翻訳クラブ クリス・ヴァン・オールズバーグ翻訳作品リスト)

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★今回この絵本を選んだ理由・・・

2018年絵本専門士養成講座で藤本朝巳先生が、「世界の有力な絵本賞を学ぶことで現在までに至る欧米の絵本の原型と絵本の歴史を知ることができる。」と話され、その際にコルデコット賞を取ったオールズバーグの『行北極号』絵本を読んでくださった。この時私は、ファンタジーの世界に入り込み、大人の私でも絵本の世界を楽しんでいる自分に驚き、すぐれた作品の持つ力の素晴らしさを実感したことを鮮明に覚えている。平面の絵本の中でバーチャル体験に近い感覚になったこの作品を選んで探究してみようと思った。

 

★この絵本の魅力・特徴・・・

オールズバーグのファンタジーの世界の描き方は、視覚表現・視点移動・カメラワークや遠近法・立体描写など視覚的仕掛けの面白さと迫力が魅力的である。またオールズバーグは「日常の中で、非日常が起こる」というストーリーが多い。「行きて帰りし物語」ファンタジーの基本的パターンを用いてる。だれもが体験する機会があるという不思議さに魅力を感じる。またこの作品の終わりは、「大人になると子どもの頃に聞こえていたものや見えていたものが見えなくなる。存在しない事でも信じることによって現実となる空想の世界があるのだ。」ということを暗示するように物語が静かにフェードアウトしていく。これは、物語の結末を明らかにせず、結論を読者に委ねるオープンエンディングまたはオープンエンド(open end)という手法である。オールズバーグと同じアニメーションや映画、テレビの影響を受けていると言われる世代の『かようびのよる』のデヴィット・ウィズナーもこの手法を用いた作品が多い。

 

(参考文献:『絵を読み解く絵本入門』藤本朝巳・生田美秋編著ミ/ネルヴァ書房P108203切り取られた一瞬と広がる空間より一部抜粋)

★なぜ?この絵本がコルデコット賞を受賞したのか?

受賞背景:1985年以降のアメリカの社会情勢をみてみると・・・。

1980年代半ばから1970年代後半にかけて、アメリカの社会・経済は大きな変化があった。特に1970年代後半は経済的不況がさらに進み古くからの慣習や規律が崩され新しい生活の基準や考え方が生まれ浸透していった。コルデコット賞の意義や理念は創立以来変わらないが絵本に求められる要素が多様化していったと言われる。

リー・キングマンは、創立当初求められていた子どもの想像力を刺激し、育てる内容だけではなくこの時代の不安定な世の中に対する慰めや安心感を彼らに与える要素も子どもの本に求められるようになったと言及していた。同時に本以外で子ども達が興味を抱く新しいメディア、テレビ、ビデオに対抗し得る本が重要であり、かつ難しい問題だと指摘していた。この時代「子どもの本離れ」の傾向が起こり始めていた。出版社は、理想主義から実用主義に変わり「売れる本・しかも短命である本」が量産される時代になったといわれている。

 

1976年から1985年のコルデコット賞受賞作の傾向について,唯一の例外を除いて全ての作品が,昔話や寓話あるいは伝統的な要素を題材として用いたものであると指摘している。この受賞作品のパターンの傾向は既に60年代から始まり,特に70年代から顕著になっている。 これはベーダーやマーカスが述べる様にアメリカの当時の社会の風潮も反映してのことではあるが,賞の傾向として「斬新な作家・作品」が選ばれるのではなく,定番の作家,一定のパターンの作品が賞を受賞しやすい,という保守的な面が強くなってきているといわれていた。

 

1985年までは昔話や伝説などに素材をとった作品が主流,という受賞作が一定の内容に偏る傾向が見られたが,この時代の作品群の内容には多様な要素が見られるようになり,前の1960年代1970年代に見られるようないわゆるオーソドックスな作品群と新たな画家による斬新な作品が混在していることが分かる。 1982年に本賞を受賞し,1966年から1975年の10年間の間で唯一異色の作品であるとべーダーに評価されたJumαnji(『ジュマンジ』)の作者クリス・ヴァン・オールズバーグ(AllsburgChris Van)の1986年のThePolarExpress(『急行「北極号」」)での2度目の受賞を皮きりに,新しい作家の斬新な作品が受賞作の中に現れる様になった。オールズバーグは絵本創りは映画の製作と共通するものが多いと自ら述べ,映画のディレクターが用いるカメラワークの角度を意識した描写を試み,極あて独創的な作品を創り続けている,と評価される画家である。

(「コルデコット賞の変遷とその背景:アメリカの児童図書館員による賞」汐﨑順子より抜粋)

 

以上の文献や資料から「急行北極号」が1986年にコルデコット賞を受賞したのは、

コルデコット賞が創設された60年代からコルデコット賞の受賞傾向は、昔話や伝説などを素材として描かれてきた作品が多かったが、1980年代ころからアメリカの経済不況の陰りが見え国民や子ども達に求めるものが変わっていき、この時代の不安定な世の中に対する慰めや安心感を彼らに与える要素も子どもの本に求められるようになってきたからではないだろうか。またオールズバーグのカメラワークの角度を意識した独創的な作品は、従来の絵本の概念を大きくはみ出した物語の構成や独創的な表現方法は、当時新しい作家による新しい時代の到来と共に斬新な絵本が受け入れられる転機となった。なので
受賞においては、この点が評価されたと思う。


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最後にオールズバーグが1986のポーラー・エクスプレスでのコルデコット・メダル受賞スピーチの一部を書いて2回目のリフレクションを終えたいと思う。

「・・・・大人になると私たち全員が抱く合理性により、空想を信じることは不可能ではないにしても困難になります。赤いスーツを着て空飛ぶそりを操縦する陽気な太った男がいることを知っている子供たちは幸運です。私たちは彼らを羨ましいと思うはずです。そして、火星人が裏庭に着陸することを確信しており、裏口のそばに装填済みのポラロイドカメラを置いている人々を羨ましく思うべきです。空想的なものを信じようとする傾向は、論理の破綻やだまされやすさのように思われる人もいるかもしれませんが、実はそれは賜物なのです。ビッグフットやネス湖の怪物がいるかもしれない世界は、明らかにそうでない世界よりも優れています・・・。」

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*オールズバーグの絵本はほとんど村上春樹の翻訳が多かった。

★リフレクションを終えて

今回コルデコット賞作品『急行北極号』を選び、作品を改めて味わうと共になぜこの絵本がコルデコット賞を受賞したのかを考察することで作品が作られた時代背景やこの作品に込められたオールズバーグの子ども時代の記憶や感性を大切にしていることが分かった。

オールズバーグの視覚的描写が斬新で独創的な作品だったことは時代に求められる斬新さがあったと思うがそれだけではなく、彼の作品の目線は、いつも日常の生活の中で起こりうるような不思議な体験なので、子どもの想像の世界は日常と隣り合わせで、誰でもその入り口から想像の世界を楽しめる作品だからこそ読者の中心にいる子ども達の心に響き今尚読み継がれていると思う。そして、私たち大人にも

「大人になって忘れてしまうものを想像すること」の大切さを伝えてくれている。

彼が「想像することの大切さ」を重視して絵本を創作してきた作家と言われる所以が分かったように思う。今回10冊ほどオールズバーグの絵本を図書館で借りて読んだが、村上春樹が翻訳したのがほとんどだった。ミッキ先生がおっしゃったように『ジュマンジ』を訳した、へんみまさおさんならどのように表現していただろうか?と考えた。作者が誰に向けて描いているのか、子ども向けに翻訳するので

あればその文体も変わってくる。今後は、誰が訳者なのか、どのような表現しているか、その辺りにも意識を向けたい。
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 *オールズバーグの作品は日本でも人気があり、『詩とメルヘン』や1996年のMOE9月号で特集が組まれていた

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*オールズバーグは比較的近代の作家なので資料が見つけやすかった。

<参考文献>

『英米絵本のベストセラー40』編著者:灰島かり/ミネルヴァ書房P86~P89

『絵を読み解く絵本入門』藤本朝巳・生田美秋編著ミ/ネルヴァ書房P108203切り取られた一瞬と広がる空間より

『はじめて学ぶ 英米絵本史』桂宥子編著/ミネルヴァ書房P216217

BOOKEND2019『特集:R.コルデコット賞 受賞作品を楽しむ』P18~21
「コルデコット賞の変遷とその背景:アメリカの児童図書館員による賞」汐﨑順子
やまねこ翻訳クラブ





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