【いよいよミッキ―絵本探究ゼミ4期がスタート!】
昨年1期10名で開講された通称ミッキ―ゼミは、9月10日に4期40名でスタートしました。
★受講動機
① 2022年4月から1期2期3期と学び4期も継続した理由は、この探究ゼミ2期の時にイギリス児童文学のフレッド・イングルスの「幸福の約束」の一説をミッキー先生にご紹介頂いた時に「絵本は一生かかっても学ぶべき価値がある」と感じた。またこの探究ゼミが絵本理論を学ぶだけではなく、常に自分に問いを立て主体的に学び、自分の言葉でアウトプットするという「知識を本物のチカラにするゼミ」だと感じたので継続を決意した。
★受講動機②
★目標宣言★
①5回のリフレクションをすべて提出する
②noteにチャレンジする
③絵を読む力を養う
④4期統括としてFAに力をお借りしながら40名のゼミ生が最後まで自分の目標にチャレンジできるようにサポートしたい。
イギリス児童文学フレッド・イングルスの「幸福の約束」
4期のテーマは以下の通り、大変興味深い!
1,「絵本の翻訳」
2,「絵本の絵を読み解く」
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【第1回目のリフレクション】
【事前課題:自己紹介を兼ねて翻訳絵本を1冊用意する。】
・私は、今回の課題は翻訳絵本ということで、私自身の心の中に心地よく響いている語りや言葉が耳に残っている翻訳絵本はなにか?という視点から選んだ。
『こすずめのぼうけん』『THE SPARROW WHO FLEW TOO FAR』
ルース・エインズ・ワース作石井桃子訳・堀内誠一画1976年(出版から46年)
◆選書の理由:楽しい語りの翻訳絵本は?と考えた時に一度聞いたら忘れられない「ちゅんちゅんちゅんてきりいえないんです。」というフレーズがすぐに聞こえてきた。また「あの、すみませんが なかにはいってやすませていただいて いいでしょうか?」というフレーズも蘇ってきた。こんな丁寧な表現を使った子ども本はそう多くないと思う。すぐにこれはあの『こすずめのぼうけん』のワンフレーズだと思い出し改めて読み直した。耳に響く言葉や語りは、頭の中に描くイメージしやすく、子どもの想像の域を広げてくれる。また対象は子ども!という設定がはっきりしている文体で翻訳されている絵本だと思う。子ども達がこの本を読み終わった後に何度も「読んで!!」という言葉が聞こえてくるのが理解できる。
耳触りの良い絵本だと感じたので、更に調べてみると、このお話はストーリーテリングでよく語られるお話だった。そして誰の翻訳かな?と絵本の表紙を見ると石井桃子さんの訳でした。
場面設定も分かりやすく、繰り返しが多いので子どもの心の成長に寄り添っていると思う。それも3度ではなく4度も挑戦するこすずめのいじらしいほどの頑張りに、絵本を読んでいる子ども達は自分を重ね合わせて冒険とスリルを楽しみ、最後はお母さんの羽の下でゆっくり眠る安堵感を味わえると思った。
<自己探究課題―『こすずめのぼうけん』>
今回この絵本を選んで原書が読みたいと思った。ミッキー先生の著書「石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか?」P251~263を読んであの名セリフ「いいえ ぼくちゅんちゅんてきり いえないんです。」の原文を見つけた。この名セリフは「No . I can only say Cheep! Cheep!」と書かれていた。!こすずめの様子を聞き手の幼い子が鮮明に想像できる。このセリフは200冊以上翻訳した石井桃子さんの作品の中でも私はピカイチだと私は思う。
このこすずめの「いいえ・・・」のセリフは4回出てくるが、すべて同じ訳ではない。それはなぜかというと昔話の繰り返しを意識してはいるが、単に言葉の繰り返しだけではなく、その時その時の状況や事実の表現として「語りの文体」を大切にしている石井桃子さんの訳だからだと思う。
さらに自己の探求課題として 『こすずめのぼうけん』について深めたいと思っている。
◆自己紹介を兼ねて『こすずめのぼうけん』を選んだ理由は、【チームの仲間が、このこすずめのように好奇心をもって学び、自分の羽で飛べるようになってお母さんであるミッキー先生の巣から飛び立ち、それぞれのフィールドで活躍できたらいいな】と思ってこの絵本を選びました。
◆チーム6ティアラのメンバーが選んだ翻訳絵本の紹介
『こねこのぴっち』ハンス・フィッシャー :としさん
『わすれられないおくりもの』スーザン・バーレイ :かのんさん
『星の使者』ピーター・シス:ていあいさん
『わたしとなかよし』ナンシー・カールソンあっけちゃん
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』バージニア・リーバートンじゅんじゅん
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【子どもの本の翻訳者・研究者としての石井桃子の功績とは?】
石井桃子1907~2008年(没101歳)
作家・編集者・研究者・実践者・翻訳家・活動家
・児童文学の川上から川下へ
・約200冊以上の翻訳書
・現在も石井桃子の翻訳絵本が読み継がれている本が多い。
・子どもの本はロングセラーが多い。『ピーター・ラビット』生誕120周年。『クマのプーさん』『ちいさいおうち』など、古典でありながら現代も読み継がれている。
・以上のことから石井桃子は、20世紀の日本の児童文学を牽引してきただけではなく、リリアン・スミスなどとも交流をして日本に新しい児童文学を取り入れるなど歴史的役割がとても大きかった。
また石井桃子の翻訳で育った子ども達から翻訳者・編集者が生まれている。このことにより次の世代にも繋がる大きな功績を残したことになる。
◆以下「石井桃子の翻訳はなぜ現代も多くの子どもや大人を惹きつけるのか!」という視点からミッキー先生の講座を振り返りまとめる◆
【翻訳絵本の留意点~子どものために翻訳するということ~ (R.オイッティネン)】
1,原書の世界観を損なわない
・判型・絵本の向き・絵の配置・反転
2,対象年齢の子どもの経験値を考え、理解できる言葉を使う
・子どもの読みに合った翻訳
・子どもは細部を見る、興味のあるものに目がいく
・大人はストーリーを追う、主人公を追う傾向がある
・大人と子どもの絵の見方文章の読み方捉え方は違う
*子どもの読みとは?
・知識や経験がないので季節は後追い
・物事の捉え方が大人と異なる➡季節・時間・死・地球の自転・重力などは子どもに分かりやすい物語にすると理解できる
つまり想定読者の認知力・年齢・立場・時代等を考えながら言葉と文章の関係を組み立て翻訳する。
◆『The Little House』NY:Houghton Mifflin,1942
『ちいさいおうち』バージニア・リーバートン石井桃子訳/岩波書店1954年
この絵本のテーマは【時間】つまり時間の概念を絵本に表したものが『ちいさいおうち』。
目に見えない時間をどのように子ども達に伝えたのか・・・・?
◆脳科学者:時実俊彦『脳と人間』を石井桃子は時の処理の参考にした。
「人間は3歳から6歳ころまで空間を処理する能力は発達し場所を物理的に理解できるが
時間を処理する部分は未発達で、今ないもの(つまり過去から未来の繋がりなど)を論理的に組み立てて処理する抽象概念は10歳以降にならないとうまく繋がらない。」
5.6年生で歴史を論理的に理解できるようになる。つまり「時間の概念の確立は10歳くらい。
◆『ちいさいおうち』の対象者は4歳から8歳(コルデコット賞受賞の際にバートンのスピーチにより)
抽象概念のない想定読者(4歳~8歳)に対して目に見えない時間を絵で見えるように描いている。
*時の認知の仕方*
・一日は太陽の動きを見開きのページで表した
・1か月は月の満ち欠けを見開きのページで表した
・時代という時間は、見返しの絵で表した
「ちいさいおうちを主人公として時間を超えてどう生きるか!」がテーマだと石井桃子は言った。
・石井桃子の師弟である斎藤惇夫は、「石井の視線の先には、常に読者である子どもの存在、自己同一化して物語を楽しむ子どもの読みがあった。」と述べている。
◆就学前の文字を持たない文化の子ども達は声の文化に生きている。
・文字が読めないのでお話を耳で聴く
・目は細部まで絵を見る・興味を持っているものに目がいく
・文字も絵の一部として見る(ビジュアルデザイン)タイポグラフィー
・大人は主人公に目がいく・ストーリーを追う
◆子どもはテクストをどのように見ているか?
・文字の読めない子どもは文章も視覚言語として眺める。
・2パターンのなだらか(曲線)とジグザグ(直線)にシンメトリーというタイポグラフィー(文字の視覚的特徴)に着目してその効果をバーバラ・エルマンとミッキー先生二人の仮説を絵本の絵を追いながら比較した。
<バーバラ・エルマンの仮説>
①
パターンA曲線は田舎の静けさ
②
パターンB直線➡都会の無秩序
<ミッキー先生の仮説>
① パターンA曲線➡なだらかな丘 明るい太陽の光
②
パターンB直線➡夜・真っ暗な夜はギザギザ?
またはちいさいおうちにとって夜同然の状態
*比較の結果、
・直線のタイポグラフィーは7場面在り、夜の場面が5場面で残りの2場面は都会の中でお日様の光が届かない場面だった。ゆるやかな曲線のタイポグラフィーは昼間の明るさを表現している。
バージニア・リーバートンの絵本の特徴であるタイポグラフィーをしっかり見ることで更にみえてくるものがある。大切なことを伝えるための効果だったのかと知ることができた。
◆『ちいさいおうち』は昔話的な文体で繰り返しが多い
・決まり文句・・・むかしむかし
・ある日・・・という始まり
・冒険して冒険して行って帰ってくる物語
◆『ちさいおうち』は「生きて帰りし物語」
・「時代」という分かりにくい時間の概念を使って「行きて帰りし物語」を表現している。
・ちいさいおうちが動き出すような能動的に直接話法を使って田舎から都会へ冒険に出かけるというイメージを出している。
・大人が見る「ちいさいおうち」はおうちの周りが動いて時代が変わるノスタルジアとして見ているが、子どもは田舎と都会は違う場所。田舎からと都会、都会から田舎へと冒険するちいさいおうちを絵やタイポグラフィーを使って描いている。
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<4期ゼミ1回目のまとめ>
石井桃子の翻訳絵本は心地よい表現が耳に残り一度聞くと忘れられない言葉が多い。子ども達が思わず「もう一回!」と言いたくなるような言葉の表現が豊かで楽しい。
それは、石井桃子が一番大事にしていた自己同一化つまり子どもが絵本を読んだ時に主人公になりきって作品の世界溶け込むこと、常に聞き手の子どもたちに寄り添い、耳で聴く文化の時代の子どもたちにそれが目に見えるように生き生きと子どもたちの心に届く言葉を心掛け、対象年齢の想定をはっきりさせその年齢に合った文体で言葉を紡いだからだと理解できた。
また『ちいさいおうち』の翻訳については作者のバージニア・リーバートンの描いた世界観をよく理解しているからこそこの翻訳絵本が60年以上続くロングセラー絵本であり、何度も読まれる絵本なのだと思う。タイポグラフィーの効果についても先人(バーバラ・エルマン)の仮説に対してミッキー先生の先鋭的な分析の仕方が分かりやすく勉強になった。翻訳絵本は文章の読解だけではなく、絵を読み解くことも必要であり何より読み手の子どもたちのシチュエーションを想定して子どもたちがお話の世界で楽しめるように文体を考え言葉を紡ぐのだと知りました。
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備忘録:【『ちいさいおうち』の絵本と私】
・私とこの絵本『ちいさいおうち』との出会いは私の幼少の頃ですが、青い表紙の真ん中のおうちが笑ったり悲しんだりしていて、文字(テキスト)が踊っていたように見えていたことを覚えています。
この絵本との再会は、わが子を連れてよく通っていた文庫です。あった!あった!とすぐにこの絵本を借りて娘に読みました。
私の子育て世代は当時、日本の社会の流れは,男女雇用機会均等法が改定されて女性の社会参加が以前より注目され私の周囲の女性達も次々に社会に出ていきました。私は専業主婦だったので、少なからず社会から取り残された気持ちと自己への無力感を味わっていました。
子育ての中で再びこの絵本に出会った時、子どもの頃に読んだあの青い表紙と円の真ん中に佇むちいさいおうちがひとつも変わらずに描かれていました。驚いたことに!そのお話は、季節の移り変わりや時の流れが美しく描かれていただけではなく、子どもの頃には全く気付かなかった自然破壊や大気汚染に警鐘を鳴らしていました。そしてこの物語が1世紀にも及ぶ長い時間だったことに大変驚きました。
また、この絵本の著者が女性であることや書かれていた時代背景が、20世紀初頭のアメリカで工業化に伴い、都市化か進み、世界一の工業国として発展し人々の生活が大きく変わっていた時代だったとその時知りました。
更にバージニア・リーバートンが世界恐慌や第二次世界大戦という激動の時代にも関わらず、絵本作家、妻、母、デザイナー、染色家など多忙の中で、歴史的な時間の広がりや時が過ぎていくという概念を1冊の絵本にして、真の幸せは何か?という問いを世界に投げかけていたとを知り、この絵本の存在の意味を感じ、わが子に読み継いでいかなくてはならない絵本だと感じました。
「ヴァージニア・リーバートンの世界」ギャラリーエークワッッド/小学館児童2018年に「彼女が英語版の表紙に『HER-STORY』と記したことは「HISTORY」歴史は男性だけが作るものではなく、女性もまた歴史の主人公であるというメッセージだ」と書かれています。バージニア・リーバートンが書く絵本はいつも女性が主人公です。この「ちいさいおうち」も女性だと知り、子育て中の自分が女性であり、人を育てる母であることに誇りを感じられました。そして専業主婦であっても視野を広く持ち、社会の流れや世界情勢にも目を向け、のちにそれが未来ある子供たちの上にどのように影響を与えるのかなど、長いスパンで物事を考えられるように主体的に生きていきたいと考えさせられた絵本でした。
・現在私は、子育てのお母さんや幼・保育士の先生たちに絵本の講座をさせて頂く立場ですが、絵本を紹介するにあたり、なぜこの絵本を勧めるのか?しっかり絵本の時代背景や作家の生き方などを自分の中に落とし込んで言語化できるようになりたいと思っています。
『HER-STORY』と書かれています。
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【4期1回目のゼミのリフレクションを終えて】
翻訳とは何か?石井桃子さんの翻訳の魅力と共に「ちいさいおうち」に描かれている技法や内容を深め、バージニア・リーバートンのこの絵本に託した思いも再確認する機会となりました。
そして、なぜ私が「ちいさいおうち」を後世に読み継ぎたい絵本の1冊に選んでいるのか、自分に問いかけその思いを言語化することができました。
【すぐれた絵本は、子どもの本であると共に、読み手の大人にとってもかけがえのない物語体験になる】という松居直さんの言葉を思い出しました。
第1回目のゼミから翻訳絵本の講義は大変興味深くて燃えました~
次回2回目も、テーマは「翻訳絵本」です。更に翻訳絵本の深さを知ることになると思います。