2023年4月に開講した3期は、5回目8/2北海道・層雲峡でリアルとリモートのハイブリッド形式のゼミで各チームの研究発表をもって修了しました
*北海道大雪山系層雲峡リアルゼミの会場でパチリ!
◆午前中は、自然写真家・写真絵本作家:佐藤圭さんとミッキー先生の対談◆
・『山の園芸屋さんエゾシマリス』の絵本は2021年ほぼ同時期に出版された二神慎之介さんの『ヒグマの旅』を地元でお世話になっている絵本専門店で見かけて以来気なっていたが、まさかミッキーゼミでリアルに佐藤圭さんのお話を聞けるとは、大変興味深く拝聴した。
・佐藤圭さんは、北海道留萌市在住で美容師もされている二刀流の自然写真家。
<自然写真家になるきっかけは・・・>
・地元留萌市の夕日の美しさに気付き、日本一の夕日を撮る!と心を決めた。その後、一眼レフを覗くうちに絶滅危惧種のオオワシをはじめナキウサギ・エゾリス・エゾモモンガそして希少な植物が群生している大雪山系に魅せられフィールドが広がっていった。
<お話をお聞きして・・・>
・野生動物の生態系や大雪山系の気候・地形・植生などを熟知しているからこその一枚であることがお話からよく分かった。また、何時間でもその場所で待つ大変さより、圭さんの目の前にいるエゾシマリスや小動物の一瞬のしぐさや愛くるしい表情を捉える瞬間の喜びがあると伝わってきた。この『エゾシマリス』の写真絵本は、北海道の中央部にある大雪山系に住むエゾシマリスの親子の一年をストーリー仕立てで追っている。野生動物と植物との共生の関係や多くの天敵との闘いや厳しい気候の中でかしこく力いっぱい生きる姿が生き生きと描かれて、子どもから大人まで楽しめると思った。野生動物に寄り添い本物を子ども達に伝えたいという思いが大自然の厳しさの中でも、圭さんが耐えうるエネルギーになっていると感じた。
<『秘密の絶景in北海道』を拝見して>
・こんなにも美しい北海道に私自身が住んでいることに改めて感謝の念が生まれた。昨今、気候変動が急速に進み温暖化ではなくて沸騰化というワードになったとニュースで聞いたが、北海道のいや世界の自然の中で繰り返される生命の営みが永遠に続いてほしいと切に願うと共に私たちがこの環境を守る立場であることをもっと意識しなければならないと感じた。
【ネイチャーポジティブ】という用語を最近聞き調べてみると、自然生態系の損失を食い止め回復させていくこととあったが、現在既に世界の生物多様性は減少し続け1970年来約68%の生物多様性が失われたそうだ。(LIVING PLANET REPORT2020より)自然資本とか生物多様性の危機というワードも耳にするが、正直に言うと私は見て見ぬふりをして自然環境団体や民間企業に任せているような現状だ。次世代にこの自然の素晴らしさを残すために絵本(写真絵本、科学絵本なども含めて)を媒体にして私自身が取り組む活動を考えてみたいと思った。
*佐藤圭さんの『エゾシマリス』本当にリスの表情が可愛い!もう一冊は黒岳ロープウェイのお土産コーナーで見つけました。私の大好きなえぞりすの写真集!
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ここからが本番!!
◆各チーム特色ある研究を発表した◆
チーム1🐞Ladybird➡3期のテーマ世界の絵本賞を学んだ中から振り返りと新たな知識をつけるクイズ形式で絵本力アップ!
チーム2:にこわこ➡「いのちと絵本」をテーマに授業形式で発表。
チーム3:Rabbit➡3回のケイト・グリーナウェ賞を受賞したアンソニー・ブラウンを探求して発表。
チーム4:GOOD LUCK➡絵本賞ノンフィクションに目を向けピーター・シスの人物像や作品の深堀りを発表。
チーム5:にじいろペンギン🐧➡アストリッド・リンドグレーン賞について探求して発表。
◆自分たちチーム1の発表の振り返り‥‥◆
・私たちチーム1🐞 Lady birdの6人は「3期の学びのエッセンスを取り入れた楽しい発表をしたい」という思いからクイズ形式で発表することに決めた。
・コルデコット賞やケイト・グリーナウェ賞に留まらず広く世界の賞を見直し、受賞した作家の生い立ちや画風、時代背景など様々な視点を調べ、常識的なものからユーモアのあるもの、そして知識力が問われるものなど3期の学びのポイントを押さえて作成した。当日会場で回答用紙を配布し、リモートで参加する人には事前にpdfで送る工夫もした。正答率の高かった人には賞状とメダルも用意した。受講者の沢山の笑顔が見られ、取り組んだ私たちも楽しく3期の学びを振り返ることができたと思う。優秀者はミッキー先生とゆりりんとおこちゃんの3名。「いつの間にかこんなに絵本力が身についていたとは思わなかったです。」というおこちゃんのコメントからミッキ―絵本探究ゼミの収穫を大いに感じた3期ゼミでした。
*半年間一緒に学んだチーム1🐞Ladybird 北海道・群馬・東京・三重からZoomでつないで学びました。
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◆印象深かった発表◆
・私は5つの発表のなかでも特にチーム4のピーター・シスの発表に刺激を受けた。
・まず、世界の賞でもノンフィクション賞という分野に目が留まったこと、そしてピーター・シスの作品の素晴らしさに気付いたチーム4の皆さんの選書眼に脱帽。作品の中から「かべ」というキーワードにたどり着きさらに探究を深めていった過程の話もワクワクして聞き入りました。当日は実際に沢山のピーター・シスの作品を目の前で丁寧に解説してくださり、これぞ絵本の探究発表だと思いました。
・私は自宅に戻りすぐにピーター・シスの絵本『THE WALLかべ』と『マドレンカのいぬ』を2冊購入しました。とにかく探究発表のアーカイブを見ながらもう一度この2冊の絵本を見たかったからです
*チーム4のピーター・シスの発表から学んだことをまとめて5回目のリフレクションとする。
1.ピーター・シスの生い立ち
・1949年チェコスロバキアのブルノで生まれ、プラハで育つ。
(シスが生まれる1年前1948年にチェコスロバキアは共産主義国となりソ連の支配下に置かれ国境は封鎖された。)・幼い頃から絵を描くことが好き。冷戦時代は妹と共産主義の少年少女団に入っていた。学生時代はロックに熱中したがソビエト連邦の共産体制に組み込まれてからラジオ・ロックミュージックは禁止となり絵を描くことに打ち込んだ。プラハの美術工芸大学とロンドンの王立美術大学で絵画と映画製作を学ぶ。アニメーション作家としてチャンスが訪れ1981年アメリカへの亡命。センダックの導きもあり絵本作家の道に進む。1989年アメリカの市民権取得その年1989年11月9日ベルリンの壁崩壊。1990年アメリカで結婚2児の子どもを授かる。
2003年マッカーサー賞を絵本作家として初めて贈られる。
2. 『THE WALLかべ』―鉄のカーテンに育ってー(作:ピーター・シス訳:福本由美子2010年/BL出版)
・この絵本は、第二次世界大戦後、冷戦時代のチェコスロバキア、「鉄のカーテン」に閉ざされた厳しい世界で苦しみ悩みながら成長し、自分の夢を最後まであきらめなかったピーター・シスの自伝的絵本である。
・表紙の真ん中に赤い星型の壁に囲まれた男の子がいる。題名がタイポグラフィ描かれていて壁を強調しているように感じる。見返しには、西側諸国と東側諸国が描かれている。共産党の支配下にあったことが強調されていて、鮮明な赤が使われている。本ページからは、出生時から時系列に社会情勢とシスが「鉄のカーテン」を超えるまでが描かれている。目の前に起こる事実に対するシスの思いや考えが絵本の下部に文章で書かれている。
・P45~46のページでは、見開きを上下に分断するように中央真ん中に有刺鉄線と壁が横に描がき、
上段を光・希望・正義・幸福・開放・・・など壁を超えた世界が暖色で描かれている。右上にニューヨークマンハッタンの自由の女神が見える。下段は、疑い・愚かさ・恐怖・ねたみ・・・など闇の部分を寒色で描いている。ETのように自転車に乗って空を飛ぶ男の子がスケッチブックを抱えているのが印象的。ラストのページは、1989年11月8日ベルリンのかべ崩壊が描かれている。
*この絵本を書いた理由をシスは、「アメリカで当たり前に自由の中で育った我が子に自分が(シスが)アメリカに移住した理由をできるだけ忠実に伝えたいと思ったから」と述べている。
*『THE WALL かべ』は2012年コールデコット・オナー賞を受賞している。
3.ピーター・シスにとって「壁」とは?
・鉄のカーテン➡ 立ちはだかるもの・越えられないもの・支配・強制・束縛など。
・生まれながらにして鉄のカーテンが立ちはだかる環境の中で育ちあらゆることに強制を受けて育つ。比較的裕福な家庭で育ち家の中では自由に絵を描くことが許されていたが、アニメーション作家としてアメリカに亡命し、ニューヨークで暮らすうちに自由な窓・開放的な窓があることに気付き、自伝的絵本でわが子を含め世界中の子ども達に「教わることが全てではないこと」「自由を諦めないこと」「越えられない壁はない」など多くのメッセージが込められている。
4.この作品に向き合い感じたこと
*私はこの作品から人間は人間の思考までは支配できない、自由を諦めずに生きる先には必ず壁は越えられる。壁を越えた先には希望・自由・未来があることを子ども達に伝える使命があるとピーター・シスが感じたのだと思う。絵本を手渡す立場の私たちは創作絵本や昔話絵本だけではなく、このようなノンフィクション作品を読み、手渡していかなければと思った。『三つの金の鍵 魔法のプラハ』も是非読みたいと思う。
ミッキー先生の解説
絵本を見る時に大切なことは、ポイントビュー!
何を書くか?What?・どう描くか?How?
1. ポイントビューは何か?
2. ナラティブ どの視点で誰が語るのか?
・壁は横から見ると越えられないもの、しかし上から見ると囲っているもの、つまり守るものに変わる。
・自分の視点を変えられると、越えられないと思っていた壁が違う物に見えてくる。
・『マドレンカ』シリーズについては、自由の心を持っている女の子が主人公でこれは娘のマドレーヌを描いている。多民族・多言語、未来への希望の象徴。大人は壁を作るが子どもは作らない。
壁は超えられるという視点を持つと壁の意味が変わる。ガリレオ・ガリレイなど自分の意思をどんな困難なことがあっても変えない。立ちはだかる勇気をもって超えていく。つまりロールモデルは偉人達。彼らの伝記や生き様から影響を受けた。ポイントビュウーは何か?を考えるとその絵本から見えてくるものが分かる。
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・◆ピーター・シスの作品に触れて、調べた1冊の絵本◆
・私は、ピーター・シスの『THE
WALL かべ』に触れて、1969年ドイツのハンブルグに生まれ育った絵本作家のブリッタ・テッケントラップの作品『かべのむこうになにがある?』の絵本を思い出した。私はこの作品は多くの人たちに勇気と希望について考えるきっかけになると思っているのでよく使っている。今回この機会に概要をまとめてみた。
◆作品:『かべのむこうになにがある?』『Little Mouse and the Red Wall』作:ブリッタ・テッケントラップ訳:風木一人(2018年BL出版)
◆あらすじ
大きな赤い壁がどこまでも続いていました。いつからなのか?どうしてあるのか?誰が作ったのか?ねずみが疑問を持ち仲間に聞くが誰一人答えられる者はいなかった。ある日飛んできた青い鳥と一緒に赤い壁を超えたらそこには美しく素晴らしい世界が広がっていた。不思議なことに戻ってくると壁が消えていた。「あると思えばある。ないと思えばない。本物を見る勇気があれば壁は消える」。という青い鳥の言葉が胸に響きます。
壁の向こうを知りたいという自らの疑問解決のために勇気をもって行動し、仲間と共に新しい世界へいくことができたねずみのお話。
*絵本のカバーを外すと別の世界が現れます。ブリッタ・テッケントラップの絵本は美しいです。
◆作品の特徴
・カバーと本体の絵が違う・カバーは裏まで大きな赤い壁が描かれている。カバーを外すと一変して鳥や蝶が舞うカラフルで美しい世界が描かれている。
・献辞は「勇気ある人たちにそして、壁のない世界に。」と書いてあり、特定の人ではなくて、この絵本を開いた人全てに届けたという思いが伝わってくる。
・この絵本は、表紙の赤い壁から始まって 赤・青・黄色の色の三原色を基本に使っている。
・物語の始まりでは、大きな赤い壁以外は、寒色系で描かれていて 動物たちはみんな下を向いている。
・クライマックスの場面では対照的に 暖色系を多く使って明るい緑や色とりどりの花が咲く 森の中を描いています。ラストの場面は、両脇に青と緑の大きな木、そして正面には穏やかに続く地平線と
空には大きな太陽が描かれていて、そこに向かってちいさいねずみが歩いていくシーンが描かれています。このラストシーンから ちいさいねずみの未来は明るく希望に満ちていることが伝わり、読み終わったあとに読者が穏やかで希望に満ちた気持ちで
絵本を閉じることができると思う。
・表現技法は、独自の印刷技術を使っている。テクスチャ付きの紙と形状を決め、次に手でコラージュを作成してコンピューターにスキャンする。つまりデジタルと手作りのコラージュの組み合わせを使っている。
・画面構成は、遠近法や空間表現を上手に使っていて、 子どもでもよくわかるような時間経過や場面展開になっている。登場人物の位置や大きさ
配置だけでも十分にページターナを意識していると感じる。特に主人公のちいさいねずみと後ろ向きな生き方をしている動物たちの 言葉のやり取りや 青い鳥との言葉のやり取りから
この先はどうなるのだろうと 物語の先が気になり、ページターナーの役割を担っていると思う。
◆作品の背景
・ブリッタ・テッケントラップは、ハンブルグで生まれ ロンドンの大学で学び、現在ベルリンに住んでいます。 彼女はこの『Little Mouse and the Red Wall』を描いたあとに、ある著書にこう語っている。
「『Little Mouse and the Red Wall』この新しい絵本では、今や私の人生のすべてとなってきた特に強い話題に捧げられています。 私は不可能な壁に囲まれた国で育ったからです。多くの人々が自由に生きるためにこれを克服しようとしましたが、とても難しい問題でした。」この一言からこの絵本は、とても大きなテーマが根底にあることに気づかされる。ちいさいねずみが大きな赤い壁を超える勇気の物語だけではなく、かつて壁のあった街で生きてきた作者ブリッタ・テッケントラップが、今や貧富の差が拡大し、イギリスがEU離脱に向かい、移民問題がヨーロッパを覆わんとしている今、世界情勢への差し迫った危機感を感じて、子どもに伝えるのが難しいことを承知の上で
この「壁の絵本」書いたのではないかと言われている。
◆作品のテーマと感想
私は、この絵本のテーマは【壁は心の中にある】ということだと思う。精神的な壁の象徴。しかし「壁」が守ってくれるものと思う人もいる。このテーマは、大人なら自分の経験や価値観から色々な感情や感想を持つことができると思うが、幼い子どもたちには
少し難しいテーマかもしれない。しかし、ちいさいねずみが、自分の抱いた疑問や未知なる世界への探求心と冒険心を持って生きていくという視点で捉えるならば、子どもたちに勇気と希望を与える1冊になると思う。頭で考えるより子ども達はきっとこの作品からなにかを感じ取ってくれると思う。
ピーター・シスの『THE WALL かべ』と『かべのむこうになにがある?』という作品と向き合い、「壁」という同じワードが出てくるが、ブリッタ・テッケントラップの「壁」は自分の内側を自ら乗り越える勇気。ピーター・シスの「壁」は外にあり、その「壁」を乗り越える勇気を持ち続けること。どちらも子ども達に夢と希望を諦めないことを伝えたい!そこが共通点だと思う。
私たち日本人が当たり前にある自由の世界で、どう生きているだろうか・・・と考えた。
自分の枠に捉われ本当の自己表現が十分にできていない大人が多いと感じる。それこそ「壁が自分の心の中にある」と気付くべきではないだろうか?私は、この作品は多くの大人が必要とする作品だと思うので、引き続き大人にも読み届けたいと思う。
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◆3期ゼミを終えて・・・
・2023年4月に開講した3期は、コルデコット賞やケイト・グリーナウェ賞を中心にカテゴリーごとの特徴や絵本の詩学・美学の比較から選書眼を磨いた。今年の北海道のように暑い暑い・・・アツイアツイ内容の半年間でした。
私は受講目標を3つ上げたが、達成にはまだ至らなかったと感じています。
①の絵本学の学びは、学べば学ぶほど深く、まだまだ学んだことを言語化して伝えるには訓練が必要だと感じています。②3期FT(統括)としての働きは楽しく精一杯させて頂きました。3期から4期継続の人数を見る限りでは、3期のFAさん達の頑張りのお陰もあり、受講生の皆さんにとって実り多い絵本探究ゼミとなったと思います。4期継続希望についてはそれぞれのフィールドがあり人生のミッションもあるので個々のお考えを尊重したいと思います。4期継続を希望しない方も3期一緒に学べた時間や繋がりはこれで終わりではないので、これからも共に学んだ繋がりを大切にしたいと思っています。③新たなチャレンジとして「黒岳の登山」を上げていましたが悪天候のためロープウエイまでしか行けず残念でした。その代わり人生初のラフティングに挑戦できました!
ミッキ―絵本探究ゼミは、なんて体育会系なのでしょうか?と思う人がいるかもしれませんが、絵本学を学ぶにはそれなりの体力と精神力がいるということが分かってきました(*^-^*)
4期は、ミッキー先生の真骨頂!絵本の絵を読む、そして翻訳についての講義です。9月開講はすぐです。私の好奇心がすでに高鳴っています。
ミッキー先生!4期もよろしくお願い致します。