雨野小夜美のブログ

君の人生にとって、役に立つ事は何も描かない。

連載打ち切りのお知らせ&新しい詩集ができました


あまりにも人気が出ないもので、連載を中止します。


あと、新しい詩集ができました。イラスト付きです。
下の画像をクリックすると、無料で読めます。
あと、無料でダウンロードも可能です。

最後のリリックレター 表紙 圧縮

最後っていうのは、私はある人に向けて、数百もの詩を書いていたんです。
でも、もうやめようと思ってるんですよ。

自由の中に、立ちすくむ ジーン編3

毎週土曜日午前9時更新。





 その朝も、ガイは遊びに療養所へ来ていた。ガイは他に友達いないのだろうか。 そもそも、ガイは力があり、健康なのに働いていないのだから、それをいい目で見てくれる大人など、あまりいないのだろう。あと、この前の馬も、ガイがどこかへもっていった。盗品だったのだろうか?
 ガイの今日の持ち物は、手のひらにのるくらいの小さな壺だった。
「ほうら、壺。中に湧き水入れてきたぜ! 飲む?」
「ありがとう」
 古そうな壺に口をつける。かすかにホコリが浮かんでいる。
 とても清涼感のある、冷たい水。
「これは、おいしい水だな」
 オレはその頃、上半身を起こせるくらいに回復していた。それでも火傷跡が痛まないように、そろっと飲んだ。
 その時、後ろから何かざわざわと音がした。それはだんだん、近づいてくる。思わず、白い壁の方を見た。それは、壁を過ぎて、オレの前で止まった。
 馬に乗るのは、女村長。
「お前がキャメルかの」
「前にも会った事ありますが。忘れましたか?」
「気が強くて、良い事だ。今日は、二つ用件があっての」
 後ろから、派手な衣装に身を包んだやせた老人がやって来た。赤い手綱。
 ガイは、それを見ている間に壺ごといなくなっていた。
 オレは腕を組んだ。
「いったい、どういう用件で?」
 東ザータの女村長が口を開いた。
「お前は、塔のある西ザータの出身じゃが、この村を大火から救った。英雄として、剣と家をやろうと思う。調査により、外人でない事もはっきりした。ここに永久に住んでくれればよいぞ。治療費は全て村が負担するから、心配は要らぬ」
「英雄。そうですか」
 オレにはあまり、興味が無かった。なんとなく、ここに永久にいられると思っていなかったので。だからどうする、という事は何も決めていなかったけれど。それに、オレはハーフなのだが、どんな調査が行われたのだろうか? 失笑しかけた。
 後ろから来た、やせた老人が口を開いた。馬が少し老人の骨ばった体を揺すった。
「そして私が、お前の塔のあるディザータ王国南方集落西部、俗に言う西ザータの村長だ」
 初めて会った。なんとなく頼りない感じの村長だ。しかし、話し方はしっかりしている。
「お前を塔から出すと決定したのは、私だ。当然西ザータに来ると思っていたが、想定外じゃった。まさか、ここに来て英雄になるとは」
「わたしも知らんかったよ。ほほほ」
 女村長が頬の肉を揺らして笑った。女村長の喋り方には、少し重みがある。もともと金持ちだったのだろうか、なぜかわからないが、しっかり教育を受けている女性だ。
「用件の二つ目は、この西ザータの村長が、英雄のお前に会ってみたいと手紙をよこしての。わたしも付き合いが長くて、あまり仕事の無い今日を選んで一緒に来たのじゃ」
「そうですか」
 西ザータ。塔のある村の村長。やせているのに、大きすぎる豪華な衣装にくるまれている。
 その村長がしわしわの口を開いた。
「受けとめよ。お前の父は、放火殺人を犯した。しかし、我々はお前を歓迎する。城塞都市などには行かない方が良いだろう。ここでゆっくり傷を癒しなさい。そして、これがお前の剣じゃ。英雄の証じゃ」
「これを、オレに渡して、いいのですか?」
 村長の金銀の衣装にも負けないほど、昼の光を受けて輝くさやだ。名前はわからないが、いろいろな石が埋めこまれている。オレは、金色のつかをそっと握って、さやから剣をおそるおそる抜いた。天にかざした。太陽さえ切り裂くように剣は輝く。
「この剣であなたを、オレは切るかもしれないけれど?」
「そんなはずは無い、若者よ。私はお前を信用しておる」
「信用されていましたか」
 オレは剣をさやにおさめ、塔のある村の村長をじっと見た。
 『村の決定』。オレは、世話係のオヤジのその言葉をまだ覚えている。西ザータの村長であれば、この老人がオレを幽閉したのだ。しかし、幽閉されたのには、何か理由があったのだろうから、この老人が憎たらしくても、何も手を出せないでいた。
「剣をいただけるのはありがたいです。しかし、オレには一つ、疑問があるのです。なぜ、オレは十五年間、あの塔に幽閉されたのですか? 村長のあなたには、わかるでしょう」
 この痛みが。
「おお、それか」
 村長はしわで狭くなった目を見開いた。
「あの村の家は木造で、密集しておる。だから何十年かに一度、大火が起こるのじゃ。前村長の捜査の結果、犯人が見つかった。お前の父じゃ。ここまではよろしいかの?」
「二つ、質問してもいいですか?」
「どうぞ。この村長のおっさんは意外と気さくなところもあるよ」
 女村長は少し笑顔で答えた。
「それは、オレの刺した、父の事でしょう? なぜ、オレまで幽閉されたのですか?」
「話を最後まで聞け。若者よ。お前の父は、凶悪じゃ。もう外に出すわけにいかん。だから、息子と共に、幽閉された」
 西ザータの村長は、なぜかベッドの方を見ている。
「あんたこそ、オレの話を聞け!」
 右手をベッドについて体を起こそうとした。しかし、突然体を起こすのは、まだ難しいようだ。しびれるような痛みがある。
 豪華な衣装の村長が馬に乗ったまま、答えた。
「それは、お前が変異種だったからだ」
「それは、どういう意味ですか」
「変異種は、変異種という事じゃ。ふふ」
 女村長も意味のわからないあいづちを打った。
 西ザータの村長は去って行こうとして、馬ごと背を向けた。
 オレはまったく納得がいかなかったので、あの監視塔があった西ザータの、村長の背に問いかけた。
「待ってください。受けとめよ、と言いましたね。それでも、あんたらは結局何も喋ってない。父が犯罪者で、幽閉されたという話はわかりました。でも、なぜオレも一緒だったんですか? そこを、聞かせてください」
 朱や趣味の悪い金色の、不思議な衣装を着た村長が、顔だけ振り返って、口をゆがめて笑った。そういう表情の老人かもしれないが。
「お前が、変異種だったからじゃ。それ以上は、答えられぬ」


自由の中に、立ちすくむ ジーン編2

毎週土曜日午前9時更新。




 目を開けて、また閉じた。まっ白の景色だ。
 ここには、時間が無いようにさえ感じる。左斜め前にある大きな木と机。葉っぱが揺れている。眠いのでもう一度、目を閉じた。
 それから、どれくらい経ったのだろう?
 朝焼けなのか夕焼けなのか。視界に、看護の女性の顔が映る。髪の結い方が不思議だ。東ザータの人じゃないな。なんとなく、そんな事を思った。
 視界が、ほんのり赤い夢の中にいるようにかすんで見える。この女性の顔をよく見る。看護の女性は、他にいないのか。わからない。彼女の顔。次に、スプーンが出てくる。ミルクでやわらかくなったオートミール。細切れのパンとジャム。毎日、そればっかりだ。
 でも、オレはそんな毎日が好きだった。
「どうかしましたか?」
 突然、オレの目から一筋涙がこぼれた。
「どうもしてないよ」
 自分が何をしているか、わからなくなっただけだ。
 オレは実の父を消した。そして東ザータの英雄としてたたえられた。
 なぜ?
 ここへ運ばれて来たとき、ベッドのそばでささやいた女村長の言葉が忘れられない。
『英雄とは、人々に都合良く人を殺した者の事じゃ。忘れるな』
 オレは、考えすぎなのだろうか。都合良く殺せば、殺すのも自由。自由って何だ?
「ご、ごめんなさい」
 女性は、顔を引っこめて、頭を下げた。
「わたしが何か、気に障るような事を言ったようで」
「言ってない。それより、他の人の食事はいいのか?」
「あの――」
「何?」
「もう少し、ここにいていいですか」
「ヒマならいいよ」
 オレは首だけ動かして、赤い夕闇に包まれたその女性を見た。


自由の中に 3 PNG


「名前、何?」
「ジーンです。あなたは、キャメルさんですよね。すみません、あの黒い人が、いつもいつもあなたを呼んでるものでね」
 そういえば、オレは首をわりと自由に動かせるようになった事に気がついた。下を見ると、ベッドの脇にまるい椅子が一つ。その女性は、なるほど、いつもそこに腰かけてオレの食事の世話をしているのだろう。
「それにしても、きれいですね」
「何が?」
「あなたが」
 オレは目を見開いた。ガーゼと、オレの片目をのぞきこむジーンという女性の顔。
「オレがきれい? 変な女だな」
「わたしは変わり者ですからね」
 その時、誰か男の呼ぶ声がした。たぶん、一番遠くのベッドだ。
「ジーン、行かなくていいのか?」
「わたしは、行かなくていいけど。でも、そういう仕事なので。行ってきますね。あと、ごめんなさい」
 オレにはよく意味がわからなかったので、とりあえずうなずいた。
「わたしが何か、思い出させてしまったのかもと思ってね」
 ジーンは、視線をオレから外した。
「ごめんなさい」
「別に、何も思い出していないけど」
「じゃあ、さっき何で泣いたんですか?」
 ジーンは、悲しそうな顔をした。そんな風に見えた。
「言いたくない」
 オレは、目線を毛布の方へやった。
「そうですか……すみません」
 ジーンは、夕闇の中を早足で歩いて、その患者の方へ行った。
 その時、少し遠くの白い皮の木をガイが伝ってきて、枝から飛び降りた。
「あんた、何やってんだ」
「看護係の女と話してただけ」
 オレは表情を変えずに答えた。というより表情を変えるとあごが、まだ少し痛いからだ。首は大丈夫なのにな。
「てめえなあ――」
 ガイはひたいに手をあてて悩むようなあきれたような表情をした。
「あの看護係の姉ちゃん、貧しそうな服装だけど、めっちゃ美人じゃん。クールだけど上品。すばらしい! 他の胸元見せびらかして歩いてる金持ちっぽい女と、違う魅力があっていいんだよ。そして、なんか意外と、優しそう。俺、あの姉ちゃんを狙ってたのに! たぶんあの姉ちゃん、お前を気に入ってんだよ。『きれいですね』って、けっこう大胆なところあるんだなって思って、さらに興味がわいたぜ。それで、本題。お前、何でそんなに女に興味無いの? おかしくね?」
「女? オレはただ看護係の人と話していただけだ。女だからって何とも思わないが。ガイは、違うのか?」
 命の恩人。とりあえず食事を、もらえる。ありがたい事だ。それだけだ。
 ゆっくり身体を上に向かせた。ゆっくり。でないとまた痛くなる。ラクダ色とガイが言った、その髪が夕闇の中で顔にかかり、赤っぽく見える。
 ガイが変わった表情をする。そろそろ顔も見えなくなる頃だ。
「あんた、出逢った頃と、人格変わったな。それとも、元がそれだったのか?」
「知らねえ。興味が無いな」
「あのね――」
 ガイが手をバッと広げた。ガイの身振り手振りはいつも大きい。
「あんた、いつまで女にモテると思ってんだ? 人はいつかおっさんになる。俺みたいな。その前に美人を見つけたらさっさとストックしとけよ。お前だってきっといつまでもその顔じゃねえぜ。いつか老けて、ハゲて、太って、シワができてくるぜ? 自然はそういう風にできてんだ」
 ガイは手を動かしながら喋る。それが少し面白いと思うようになった。
 オレは今、とても人間らしい生活をしているような気がする。塔の中にいた時よりずっと。ほとんど動けないのだが、それでも自然は美しいものだと、ここにいても思う。どこかに、消えてくれない気持ちがあるだけだ。
 オレは、短命? なぜわかる? 長く生きられない? なんとなく、女村長の言葉をガイの向こうの黒く染まった木に描く。夕方はいっそう陰になり、暗い療養所。ランプがつくまでは。
「で、お前は何しに木から下りてきたんだよ」
「いや、キノコを採りに来てたのさ。お前は知らないだろうけど、ここの村人は、どれが食べられるキノコか、っていうのを幼少の頃から親に教えられて、知ってるのが当然なんだぜ。キノコは毒もってるのもあるから、初めて採るならここの村人と一緒に行ったらいい。お前、自然とか世界の話、好きだろ。キノコ採りは本当に自然の恵みをもらってるように感じて、一度やったらやめられなくなる。自然を知りたいならまずキノコ採れよ」
 ガイは、いつも背負っている麻の袋を広げて、僕の顔に近づけて見せた。
「ガイ」
「何?」
「暗すぎてよく見えないけど」
「ははは!」
 話すうちに、いつの間にか日は暮れ、夜になっていた。
「ジーンの姉ちゃんに明かりをつけてもらわなきゃな。ははは!」