【その他】安浦のコンクリート船防波堤(広島県呉市)☆
安浦町の港に妙なモノがある。下の遠景ではよくわからないだろう。港口に伸びる防波堤が見たくてここまでやって来た。
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近づくと、防波堤を構成しているのは船のような形をした構造物であることが分かる。見たところコンクリート製で、なぜ船に似た形状にしたのか訝しく思う人もいるだろう。しかし、これは本物の船だったのだ。「武智丸」という勇ましい名前で、戦時中には瀬戸内海を出て、遠く南方まで航海したというから驚く。
大戦中の深刻な鋼材不足が、この漫画のようなRC船を生むに至った。技術的にはすでに海外で確立されていたようで、4隻が建造されお国のために働いた。こんなものが水に浮かぶのかと不思議に思うが、よく考えたら一般的な船舶は鉄で出来ている。似たような比重のコンクリ船が沈むはずもないのだ。
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戦火を生き延びた武智丸には意外な余生が待っていた。縁あってこの地に2隻が沈設され、防波堤として小さな港を守ることになったのだ。戦後70年以上を経てもシャープな輪郭を保っている堅牢な造りは称賛に価するが、それなりに劣化は進行していて、中に入ることはもちろん、防波堤にアクセスすることも禁止されている。
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遠目に見るそれは、案外肉厚で重そうだ。形状がシンプルで童話に出てくる泥船のようだが、もちろんそんなことはなく、骨格には鉄筋を用いている。表面はアスファルトで防水加工されていたようだ。
この「船」に思うことは人によってさまざまだろう。エンジン全開で勇躍南方(沖縄だろうか?)に押し出していくさまを喜劇と見るか悲劇と見るか。のどかな漁村に据えられた、異色の戦争遺物である。

所在地:広島県呉市安浦町三津口2丁目2329
見学自由

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