2019年2月21日(木)、福島市アクティブシニアセンター「AOZ(アオウゼ)」視聴覚室で、第147回ふくしま復興支援フォーラムを開催しました。
吉田樹氏(福島大学経済経営学類准教授)から、「地域復興を支えるモビリティ・イノベーション」をテーマに、報告いただきました。
関心のある20名の方が参加し、熱心な質疑応答がなされましたが、当日のレジュメと会場で文書提出されたご意見・ご感想は以下の通りです。参考にしていただけると幸いです。
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【レジュメ】(図表が取り込めないので,図表は省略しました)
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地域復興を支えるモビリティ・イノベーション
吉 田 樹(福島大学 経済経営学類 准教授)
国土交通省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」メンバー
1.地方部のモビリティが抱える課題
u 自家用車の運転可否による活動機会の格差:
Ø 地方部は,鉄道駅の周辺に住宅や目的地施設が集中して立地しているわけではない。自家用車の保有で高いモビリティを獲得してきた。
Ø 運転免許返納が叫ばれるが,自家用車の運転を継続する生活と中止する生活との間には,物理的・心理的「ギャップ」が存在。
u 多様化・小口化するニーズ:
Ø 駅,学校,大型店,総合病院といった「最大公約数」の目的地施設ではカバーできないニーズが拡大している。(人口減少(施設の集約),「かかりつけ医」,都市の外延化・・)
u 「担い手不足」の顕在化:
Ø 生産年齢人口が減少(過去20年間:8,000→7,000万人)し,モビリティを支える担い手(運行+運営の両面で)の不足が顕著に。
u 南相馬市における75歳以上住民の「5年前の外出状況との比較」(2015年8月調査):
Ø 運転可否に関わらず「行きたい場所が少なくなった」と回答。
Ø 免許を持たない高齢者は「外出がおっくうになった」「外出頻度が減少した」と答える割合が有意に高い。(下表)
2.高まる地域公共交通の供給制約
u 乗務員獲得競争:
Ø 中間貯蔵施設への搬入(自動車運送事業者のダンプ登録台数は4年間で1.71倍に)
Ø 大型免許保有者の減少→旅客・物流・中間貯蔵で獲得競争に。生活交通にも影響。
u タクシー乗務員の減少:
Ø 過去の実働率(稼働率)と比較して,直近の実働率は総じて低下
Ø 福島県内における「タクシー特需」の収束
3.情報技術の高度化によるモビリティサービスの多様化
u MaaS(Mobility-as-a-Service;モビリティのサービス化)
Ø 情報技術を活用し,公共交通を中心に複数のモビリティをインテグレートしたサービスを提供。利用シーンに応じて、最適なモビリティを選択できる環境をつくり,自家用車保有に代わる価値観の創出を目指す。
Ø MaaSの構成要素:モビリティの統合基盤の形成×革新的なモビリティの導入
モビリティの 統合基盤の 形成 |
l 複数のモビリティや公共交通事業者を束ねる仕組み(地域公共交通会議による交通調整や「企画乗車券」など,アナログは既に存在) l 地域ごとに展開されるインテグレートサービスのローミング(この部分は情報技術が不可欠) |
革新的な モビリティの 導入 |
l 自家用車と在来の公共交通の物理的なギャップを緩和するモビリティ(超小型モビリティ) l 歩行者になじむモビリティ(グリーンスローモビリティ) l 自動運転技術 l 公共交通のサブスクリプション(定額サービス)化 l モビリティのシェアリング,運用の高度化(AI活用) |
u 情報技術の高度化により,乗用タクシー(≠乗合タクシー)や自家用車を活用した移動サービスに注目が集まる。(MaaSが注目される契機となった,MaaSアプリ「whim」のユーザーも「タクシー」利用に強いインセンティブを持った)
4.福島版MaaSの構築と定額タクシーの実証実験
u 福島大学重点研究プロジェクト(福島大学foR-Fプロジェクト)として,「超高齢社会における『福島版MaaS』の構築」が採択(2018~20年度)。
u 吉田研究室が2014~15年にかけて,埼玉県秩父地域で実証実験を行った「回数券タクシー」の結果から,「固定価格」によるタクシーの選択性向上を確認できたことを踏まえ,福島県内3地域で「定額タクシー」の実証実験(47都道府県最多の事例数)を展開。
南相馬市(原町区・鹿島区)定額タクシー「みなタク」
l 2018年3月1日より,同市原町区,鹿島区を対象とした定額タクシーサービス「みなタク」を開始。各区内の中心部に指定された目的地(と会員登録時に1箇所に限り登録できる任意の目的地)と自宅との相互間を定額料金で利用できるタクシーサービス。
l 平日の午前7時~午後7時(乗車時刻ベース)が対象時間。約6,000人の市民が会員登録を行っているが,概ね110回/日の配車があり,増加基調にある。
【実施状況】
l 導入後のヒアリングから,年金により生活する高齢者世帯は,一日(一ヶ月)の交通費を差し引いて,食費等に充てる生活費を決定するケースが少なくないことが示された。公共交通の価格を「見える化」することで,公共交通の利用促進に止まらず,運転免許返納促進や外出や購買機会の増進による地域経済の活性化が図られる可能性がある。
5.地方版MaaSの構築に求められる視点
u 一般的なMaaSの成長過程(Lv.0からの段階的な成長)に対し,地方部では,公共交通サービスのネットワーク密度や運行回数が少ないため,それだけでは,自家用車の保有・運転に代わる選択肢を提示することにはならないのではないか?
u 他方で,地方部では,すでにLv.3に相当する取り組みを「アナログ」で実施しているケースもある。また,先に述べた「定額タクシー」のようなサブスクリプションもLv.3の一つに位置づけられる。すなわち,地方版MaaSでは,「Lv.3のデジタル化」というリンクが存在する(下図)。
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【ご意見&ご感想】
★ 移動手段が多様化していること、単なる移動だけでなく、交流機会や外出の楽しみも併せて考えていくものであることなど、初めて聴く内容、視点が多く、楽しく拝聴した。相乗りにより、小回りがきき、効率的に移動できるなど、各地域に副ったMaasが構築されれば、特に過疎地域や避難地域に居住する住民の生活の質の向上に大きく貢献すると期待しています。吉田先生の御活躍をお祈りしています。(S.Y)
★ モビリティ/土地利用、交通手段、コミュニティ、共同手段、考えることがたくさなるなー(H.S)
★ ドライバー不足の現状、今後の見通しを有意義に聞こえてきた。生活を支えるのも産業の視点が大切だとわかりました。(K.S)
★ 福島大学におられ、今回受講した「学術分野」に取組まれておられる先生がおられますと、今後さらなる「地域振興」に寄与されますことをご祈念申し上げます。(K.F)
★ #147ふくしま復興支援フォーラムを開催して頂き有り難うございます。車社会の学問的解析、今後の課題等、わかり易く説明して頂きました。超高齢化社会のモビリティーの課題を考えていかねばと思いました。(T.S)
★ 多種多様な移動手段、車や電車、バスなどをシームレスにつないでいくことが、地域の足を確保することにつながっていきます。モビリティ・イノベーションの可能性を感じました。
★ たいへんおもしろかった。都市計画をもう何回かお願いします。他には、駅周辺の開発をどのように考えているか。(C.I)
★ 現在の地方におけるモビリティが抱える課題、福島特有の困難のお話から、Maasの可能性、そして小高で実際行われている事例まで、とても分かりやすく説明して頂きました。実際の第一線でご活躍の吉田先生ならではの切り口満載で、とても興味深かったです。(N.M)
★ 私は福島市の北端部に住んでいる。公共交通機関は午前、午後2便のバスのみである。高齢化が進み、支所、病院、買物に行くにも、車に頼らざるを得ない。地区の今後を考えると、先生のご講演は有益であった。(R.N)
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