2007年06月28日
◆ジョッキーと、著者と、競馬ファンのそれぞれの幸運
赤と青のブックデザインがすごくいい!と思う。
店頭で見た瞬間、どうしても欲しくなり買ってしまった。
コンパクトな文庫本なのも好ましい。
なんていうか、本そのものに惹かれた感じ。
こういうことも珍しいです。
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その本とは↓
『武豊インタビュー集スペシャル(勝負篇)/(名馬篇)』(島田明宏、廣済堂出版、2007年4月発行、各650円・税込み)。
ユタカのデビュー20周年記念ということで、これまでに島田明宏さんがまとめた三冊のインタビュー集(『戴冠』『美技』『躍動』、いずれも廣済堂出版)を再構成・加筆したスペシャル版だ。
私はどれも読んでいるが、ユタカの発言はやっぱりおもしろい!と今回あらためて思った。
これはイチローや、かつての中田英寿などにも通じる感覚かもしれない。
でも彼らのように「難解ふう」でないところがユタカの真骨頂。
ごくごく普通そうなのに、じつはスゴイやつ!
という感じだろうか。
赤が「名馬篇」で、青が「勝負篇」。
この中で語られるユタカの騎乗論は「なるほど。。。なるほど!」と興味は尽きない。
また、著者も同行しているユタカの海外遠征の日々は、文句無しに楽しめます。
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このシリーズの内容の濃さは、なんといっても島田さんとユタカの密着度がなせるわざだろう。
加えて島田さんのライターとしての優れた資質。
私、彼が書く競馬の文章を初めて幾つか読んだとき、「競馬のギョーカイにも、ようやく新しい才能が出てきたんだなあ」と思いましたもん。
サッカーの書き手、金子達仁さんが颯爽と登場したときと印象が似ているような気がするんですが。。。どうでしょう?
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内容的には単行本で、すでに読まれた方も多いとは思う。
それでもこうしてまとまった形で読み直してみると、また違って圧倒的なものがある。
今回初めて収録された文章(ディープインパクト関連など)もあるので、ぜひ読まれることおススメだ。
ひとりのジョッキーについて書かれたもので、これ以上のものはないのでは?と私は思う。
インタビューで構成したことも、この本が優れたものになった大きな理由だろう。
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私たちは競馬場で、あるいはテレビで。
ユタカの騎乗する姿をありふれた風景でも眺めるように、毎週見ることができる。
それが幸福な時間であることは、彼がいなくなったときのことを想像すればすぐにわかるはずだ。
そんなジョッキー⇒武豊のいろんなことが、島田明宏という書き手を得て、こういう形でまとめられたことは幸福な、というよりも、むしろ幸運なことだったと言ったほうがいいのではないか。
誰にとっての幸運?
それは武豊本人はもちろん、著者である島田明宏さん、そして私たち競馬ファンにとっての幸運。。。
ジョッキーと、著者と、競馬ファンが織り成す三位一体のハッピーだ。
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ところで。
作家の伊集院静さんが、「週刊大衆」連載のエッセイの中で、島田さんとその作品を評価した後でこんな感想をもらしている。
「この人は、いつまで馬券がどうしたとか、そんなことを書いてゆくつもりなんだろう?」
つまりは「小説を書いたらどうなの?」ということなんだろうけど。。。
ちょっと待って!
スポーツ(ギャンブル)を書くということをなによりわかっているはずの伊集院さんに、こんな寂しいこと言ってほしくない!
そのココロは理解できますが、それは少し違うんじゃないですか?
まあ、いずれは島田さんも「書く」ことにいろんな可能性を探るようにはなるんでしょうけど。