2006年09月12日

日本沈没3

「日本沈没」               小松 左京





出だしは、面白そうだという期待を持たせてくれる。が、最初の100ページほどは、はっきり言って退屈である。しかし、前半の途中から、物語は急展開を見せはじめる。中規模の地震がひんぱんに起こり、休火山が次々に噴火する。そして、災害はその規模を増していき、ついに「その時」が来る…

東海地震、東南海地震、南海地震が同時に起こるかもしれないと懸念されている今、この小説の描写は決して絵空事ではない。

ひとつの国が消滅するということがいかに大変なことか、この本は明確に示してくれている。国土を失うということは、単に生活が不便になるなどというなまやさしいものではない。国という存在によって私たちのアイデンティティーは成り立つ。それを失うということは、自分を作っている基盤が崩壊するということである。自分を取り戻すためには、自己の根底にあるものを再構築しなければならないのだ。それがどれだけ難しいかは、考えてみれば分かるだろう。

この作品の中に、「世界雄飛」という言葉が出てくる。戦後、日本の社会はマイホーム化し、厳しさが失われてしまったというのである。日本人は、過保護でぬるま湯のようになった日本社会から脱し、世界という荒々しい外部の社会に出て行くべきなのだと。それが「世界雄飛」の意味である。

私は、著者がこの一言を伝えたいがために、この小説を書き始めたという気がしてならない。読めば読むほど、その思いは強まっていく。日本沈没というショッキングな現象、そこから生じるさまざまな問題も、世界雄飛という思想に裏打ちされていると考えることができる。そうとらえれば、日本に対する警告としてのSF小説というよりも、日本人の将来への希望を込めた啓蒙小説としても読める。

いろいろなメッセージが込められた力作である。一読されることを薦める。


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tn581jp7 at 09:54│Comments(0)TrackBack(0) SF 

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