September 2008

September 30, 2008

民主主義が,資本主義を打ち負かした日

グローバル化した資本主義は,あたかも巨大な竜のように,ちっぽけな民主主義を飲み込み,人々の生活や,社会の絆をずたずたに引き裂き,呵責の無い生存競争の波が世界中に拡がるしかない,21世紀はそのような悪夢の世紀であると,世界中の誰もが思っていました.社会主義は希望を失い,アメリカも一握りの資本家が政治を動かし,零落した中流階級が,兵隊として戦地に赴く,かつての日本のような国となりつつありました.ところが金融安定化法案を巡り,アメリカの草の根保守は,このような資本主義についに叛旗を翻したのです.今日はアメリカの民主主義が,資本主義に勝った記念すべき日です.しかしそれは同時に,世界同時多発テロを上回る株価の下げ幅をも,もたらしました.アメリカ民主主義の輝かしい勝利を歌う旋律は,同時に大恐慌への不気味な前奏曲となり,世界中に響き渡っています.

tnakadat at 21:53|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 記事,事件 

パックス・アメリカーナの終わり

 米下院で金融安定化法案が否決されました.これまで法外な金を稼いできた金融会社を,国民の税金で立て直すというのでは,選挙を控える議員たちが二の足を踏むのは当然です.ニューヨーク株価は世界同時多発テロ当時に迫る下落幅で,アルカイダなどテロ組織よりも,行過ぎた資本主義や,無謀なイラク侵攻の方がアメリカにも,世界にも有害であることが示された形です.

 この期に及んで,いまだにアメリカ追随を続けようとする麻生新内閣.昨日の所信表明演説では異例の逆質問を行いました.追い詰められた自民党は,中山元国交相の不規則発言などに見られるように,もうなりふり構わずです.この逆質問でどうしようもなく滑稽なのは,「日米同盟と,国連決議のどちらを優先させるのか 」という項目でしょう.

 おそらく小沢代表は「日米同盟と,国連決議が食い違う場合は,国益,国民の意思を優先させるべき」とでも答えるでしょう.彼も民主党も,この質問に隠された意図は熟知しているからです.「アメリカに背いた政治家の末路を知ってるのか」と.故田中角栄を師とも,父とも慕う小沢氏が,このことを忘れるはずもありません.

 なぜこんなアメリカ追従の踏み絵のような質問が,日本の最高責任者たる内閣総理大臣,しかも一番最初の所信表明演説から発せられるのでしょう.情けないというしかありません.この発言だけを見ても,自民党はパックス・アメリカーナの終焉という歴史的事実を見ようとしていないことが分かります.「日教組をぶっ壊す」といったコップの中の議論に騙されてはいけません.

tnakadat at 07:28|PermalinkComments(2)TrackBack(1) 記事,事件 

September 29, 2008

成田より横田,横須賀


大きな地図で見るこの航空写真はグーグルのマップです.横田基地周辺の三ツ木地区.まさにリトル・アメリカ.広大な敷地,広々とした駐車場と芝生,それに引き換え狭苦しい住宅地と,細々とした道路.まさにOccupied Japanそのものです.戦後教育を見直す前に,サンフランシスコ講和条約で占領が終了したという,偽りの歴史を見直すのが,本来の「右翼」,「国士」ではないか.交通の利便性からいっても成田と横田は比べ物になりません.日本最大の「ごね得」と「がん」は,成田ではなく,横田や,小泉元首相の御膝元,横須賀にあるのです.

tnakadat at 11:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 記事,事件 

森永ヒ素ミルク事件

 昭和30年に森永ヒ素ミルク事件という,大きな事件がありました.中毒を起こした乳児の数は1万3000人以上,死亡者130名という,日本の中毒事件でも特筆すべき事件です.粉ミルクがヒ素で汚染された原因は,工業用リン酸ナトリウムを,酸度安定剤(緩衝液ということでしょう)として使用したところ,リン酸ナトリウムにヒ素が混じっていたという,中国のメラミン混入とよく似た事件です.

 類似点はこのような工程だけに留まりません.まず急速な経済の発展があります.工業化によって社会に進出するのは,農家の男性だけではありません.製品の組み立て,繊維製品など女性の労働力も大量に動員されます.母乳から人工栄養への転換は,このような社会の変化がなければ生まれなかったでしょう.

 さらに価値観の変化があります.かつて授乳は列車の車内などで,よく見られたものです.むずがる乳児に乳房をくわえさせるというのも,よく見かけたものでした.ところがこのような授乳が恥ずかしいこと,いつまでも母乳を与え続けると,子供の独立心が育たないという,いささか根拠薄弱な説が流布し,このような光景は日本の社会から消滅してしまいました.「たらちね」は母にかかる枕詞ですが,漢字では垂乳根です.乳房はセックスのシンボルというよりは,母性のシンボルであったのです.このような素朴な,,美しい感情がいつの間にか,欧米型のタブーや,羞恥心に置き換えられてしまったのは,悲しいことです.

 アジアの性に対するタブーは,極めて緩やかで,大らかです.それに対しキリスト教の影響の強い欧米は厳しい一面を持ちます.このような意識の変化が,中国でも起きているのではないか,と推測されるのです.言い古された言葉ではありますが,まさしくグローバル化です.

 中国でこのような事件が起きたのは,ちょうど日本の高度経済成長で社会が大きく変わった時に,森永ヒ素ミルク事件が起きたのと同じです.おそらく中国版イタイイタイ病や,ヘドロ,光化学スモッグも起きることでしょう.このような中国の変化に対し,日本は落ち着いた対応をすべきです.なぜならかつて我々が経験してきたことだからです.

 一方我が国が直面している問題は,このような高度経済成長を経て,なお脱工業化社会,成熟した市民社会にいまだ至っていないということです.個人や,個性が尊重され,個性豊かな実り多い,流言飛語に流されない,しっかりとした社会が形成されていないということです.いまだに官尊民卑という,中国王朝が作り上げた官僚制が幅を利かし,生き生きとした,自立する市民社会が育っていない,と言い換えてもよいでしょう.

 この期に及んで「日本のモノづくり」にしがみつく財界,自分たちを棚に上げて,一部の人間を「ごね得」,「がん」と言い放つ大臣.「自民党をぶっ壊す」といいながら,臆面もなく跡目相続をする元首相.戦後日本の最大の過ちは,民主主義教育でも,日教組でもなく,このような厚かましい,さもしい人間が何ら恥じることもなく,それこそごね得でまかり通ることを許してしまったことです.

tnakadat at 10:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 記事,事件 

September 28, 2008

もっと真面目な教育議論を

中山国土交通大臣が辞任しましたが,昨日の記者会見で「日教組をぶっ壊す」と述べていました.小泉首相の「自民党をぶっ壊す」は自らの所属する政党を破壊するということですから,それも可能でしょうが,教職員組合を「ぶっ壊す」というのは一体どういうことなのでしょう.明らかに選挙区向けのアジテーションでしかありません.

昨日も書きましたが,教育問題を選挙に使うのは自民党の常套手段です.昨年から行われている全国一斉学力テストの結果が示すものは,日教組の組合加入率でも,親の收入でもなさそうです.私は学力の優劣と知性とは別物ではないか,と思いますが,それでも秋田県がトップ,大阪などが下位に位置する現状は,やはり日本の教育制度の問題を示していると感じざるを得ません.

世界との比較で,日本の教育費は決して少なくなく,親の負担が多いのが特徴です.日本の子供ほど塾通いや,予備校通いの多いのは韓国を除いてないでしょう.地方には塾や予備校,有名私立校はないとは言いませんが,少ないのが現実です.ところがそういう地方でも,都市部と比べ差がないどころか,上回る県もあるのです.これは戦前や,高度経済成長期には考えられなかったことです.地方の教育を担っているのは,いうまでもなく公立校です.地方の健闘は,公教育の健闘と評する他には無いのではないでしょうか.

 本当に塾や,予備校が必要なのか,都市部の「お受験」と称する,過熱気味の受験戦争が本当に効果があるのか,もっと真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか.受験産業は,出版,放送,IT企業にまで裾野が拡がり,彼らの重要な市場となっています.彼らにとっては教育は金がかかれば,かかるほどよく,公教育は国鉄,郵便局と同様,非効率的で不経済である,という議論が好都合なのです.

 しかしこういう教育における新自由主義は,大学や大学院はともかく,初等教育にはマッチしません.初等教育は社会人として必要最低限の知識や,受容する能力を植えつけるものです.一部の裕福な師弟だけが獲得できて,貧困層は恩恵を受けることができないというのでは,全体のレベルが低下します.公教育はダメで,私立校に入れなければ落ちこぼれ,というのでは,公立校が空洞化,荒廃するのは当然です.当然ながら私立校のない地方では,そのようなことは起こり得ません.冷静に考えれば全国一斉学力テストの地域差は,このような説明しかない,と思うのですが,いかがでしょうか.橋下知事のように府下の市町村の成績を公表し,競わせる,ということで解決することではないように私には思えます.

 すなわち自民党がぶち上げて,日教組が反対し続けていた全国一斉学力テストの結果は,皮肉なことですが,戦後の(内容はともあれ)均質で,民主的な教育の成果を図らずも示したというべきです.一方過剰なまでの都市部での受験戦争は,一部の子供の学力向上には寄与しているかもしれませんが,全体としては功罪相半ばすると考えることができるように思えます.あのフィンランドだって,塾や予備校でなく,学校教育が基盤になっていることを見てもわかるではありませんか.

 新自由主義が適用されるべきは,むしろ既得権益に守られた文部省や,教育関連産業だと思うのですが,検定教科書のように省益や,関連企業の権益は,がっちりと守られているのですから,お笑いというしかありません.少子化,経済成長の限界を迎えた日本は,費用対効果は,教育でも重要な要素です.新自由主義は,サブプライムローンの破綻で,その限界が明らかになりました.橋下知事の「くそ教育委員会」,中山国交相の「日教組は日本のがん」といった下品な論議ではなく,もっと真剣な教育論議が望まれるのです.

tnakadat at 09:17|PermalinkComments(2)TrackBack(7) 記事,事件 

鉄腕ATOM

ATOMマザー今でも新幹線で移動するときは,シャープのメビウスPC-MM2ムラマサを愛用しています.薄型,軽量で,発熱の少ない優れものです.このパソコンのCPUは,トランスメタ社のエフィシオンという低電力を売り物にしたもので,演算速度が低いため,動画処理などには不向きで,いつの間にか市場から姿を消してしまいました.とはいっても外出先で動画を見るよりは,仕事に使うユーザーが圧倒的に多い筈で,低電力,軽量ノートパソコンを求める人は多かった筈です.

 最近どっと市場に出回っているのは,インテルの低電力CPUであるATOMを導入した安価で,軽量なノートパソコンです.ASUSや,ヒューレット・パッカード,MSIといったメーカーから5万円代の製品が次々に発表されています.このATOMを内蔵した,ベアボーンの小型デスクトップを買いました.写真はマザーボードに載ったATOMです.冷却ファンもアルミ製のヒートシンクもとても小さいことが分かるでしょう.ハードデスクは2.5インチ,光学ドライブは薄型のノート用を使用します.メモリーソケットは一つだけ.簡単に組み上がり,ウィンドウズXPのインストールまで数時間というところです.大きさはかつてのIBMシンクパッド程度.これからLinaxのUbuntuをインストールしようか,と考えています.かつての優秀作がメード・イン・ジャパンの,日本IBMのシンクパッドや,シャープのメビウス,東芝リブレット,あるいはソニーのバイオとするならば,現代の優秀製品はほとんどが台湾製,中国製です.モノづくりの現場は,完全に中国に移動してしまいました.

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September 27, 2008

自爆テロで自滅

 中山国土交通相は辞任の意向を示したそうです.「日教組が教育委員会を牛耳っている大分県は学力が低い」,「成田闘争は戦後民主主義教育のせいで,ごね得」,「日本は単一民族」.これらを大臣就任記者会見で述べたことも驚きですが,今日になって「日教組は解体しなければいけない」とまで述べて,夜になると辞任の意向とはもはや自爆テロと呼ぶしかありません.

 組合の加入率と,学力テストの間に関連性が無いことは今朝の朝日新聞に取り上げられていましたが,成田闘争は1960年代に始まっていますから,支援団体はともかく,三里塚の農民たちは戦後教育を受けた人たちとは言い難いでしょう.むしろ実態は戦後の開拓農民であり,これは戦後教育ではなく,敗戦が生んだものと考えるべきです.「日本は単一民族」など論評する気にもなりません.

 奥野法務大臣以来自民党は窮地に陥ると必ず,靖国問題と教育問題を持ち出してきました.ところが今年は靖国参拝がほとんど話題にならなかったように,いまや靖国,教育を持ち出しても駄目なのです.このような問題でいわゆる「左翼」や「進歩的知識人」の反発を誘い,彼らが騒ぎ立てることで,保守層の歓心を買うというのが,自民党の常套手段でしたが,日教組や,社民党,「左翼」,「進歩的知識人」といった勢力はすっかり弱体化してしまいました.朝日新聞や岩波書店もすっかり影響力はなくなり,一方当面の敵である民主党はこのような挑発には乗らないのです.

 結局中山氏の発言は見事に空回り.小泉氏は引退,参議院の田中直紀氏の自民党離党と,麻生自民党は出だしから厳しい情勢です.解散時期を先延ばししようにも,臨時国会では汚染米や経済問題で紛糾することは確実で,しかもアメリカでは金融不安からブッシュ大統領はおろか,共和党マケイン氏も不利な情勢です.民主党オバマ大統領となれば,小沢民主党がさらに勢いがつくのはほぼ確実です.何のためにここまで問題発言を繰り返したのか,私には確信犯としか思えないのですが,これで失地回復が図れると考えているとすれば,愚かとしか言いようがありません.

tnakadat at 22:45|PermalinkComments(1)TrackBack(1) 記事,事件 

September 24, 2008

悪代官対決は,いいことだ

第92代総理大臣は麻生太郎氏に決まりました.あとは衆議院選挙をどのタイミングで行うかですが,いずれにしても自民党麻生太郎,民主党小沢一郎の一騎打ちです.麻生氏にしても,小沢氏にしても,はっきりいって悪人面です(ご存知のとおり,出自は二人とも悪くはないどころか,麻生氏などはまさに「口に銀のスプーン」の生まれなのですが).どちらも水戸黄門シリーズや必殺シリーズでは,悪徳御用商人か,悪代官の役どころでしょう.麻生氏は故戸浦六宏(とうらむつひろ)氏や,故天知茂氏を彷彿とさせるし,小沢氏は先日理事長を辞任した北の湖親方にその仏頂面がよく似ています.いずれも小泉劇場の再現は難しいし,おそらくその方が日本にとって幸せなことでしょう.旧来の日米関係を維持しようとしても,何しろアメリカ経済は火の車です.中国やロシアとの関係を深めようとすれば,アメリカが思わぬ心理戦を仕掛けてくるのは,間違いありません.下手にいい男,いい女がテレビに露出して,国の運命を思わぬ方向に持って行くよりは,理性を失わせない悪人面の政治家の方が,よっぽどましです.忍術,奇術,くの一などはもう結構.「背水の陣内閣」が逃げ出すような「水遁の術」も願い下げです.小泉元首相,前原元代表,元刺客小池氏の出番がないのは良いことで,お二人の悪人面は,日本の将来には幸いです.

tnakadat at 17:02|PermalinkComments(0)TrackBack(1) 記事,事件 

毟られ,ついばまれる禿鷹たち

 リーマンブラザーズが業務停止に追い込まれ,モルガンスタンレーや,ゴールドマン・ザックスも投資銀行から,通常の銀行へ移行するという厳しい決定がされたようです.さらに三菱UFJファイナンシャルグループがモルガン・スタンレー株を買い,野村がリーマン・ブラザースのヨーロッパ部門を買収するというニュースも入ってきました.かつて禿鷹ファンドといわれた企業が,今度は毟られ,啄ばまれる立場に逆転したわけです.資本主義が弱肉強食,自然淘汰の場であるならば,それも止むを得ません.

 しかし私が疑問に思うのは,このアメリカ型マネーゲームの敗戦は,単にサブプライムローンという国内要因だけなのか,ということです.ノンリコース・ローンにしても,莫大な経常収支の赤字,国債の乱発は今に始まったことではありません.なぜこのような体制を日本や,中国,ヨーロッパが反感を持ちながらも,支え続けたかといえばアメリカ経済が破綻すれば,共倒れになってしまうからでした.そしてもう一つは,アメリカの持っている圧倒的な情報でしょう.

 国防省,CIA,FBIなど多くの国務機関が世界中の情報を収集し,特に冷戦終結後には,自国の産業を守るため外国企業や,政府の情報を収集していた,というのはもはや常識です.さらに世界同時多発テロ以降は,悪名高い愛国者法で国内の電話,電子メールの盗聴を議会は承認しましたから,一層その傾向が強まった筈です.アメリカ国内だけの話だろうと思うかもしれませんが,通信のトラフィックというのは,AOLなど米系企業が多いですから,国内を経由する電子情報は全て愛国者法の対象になるわけで,実際東京三菱UFJ銀行は,イラン国営銀行との取引を自粛せざるを得ませんでした.

 暗号化されていても,決して安心はできません.現在の暗号は素数の積によるもので,原理は分かっていても,そう簡単に破れないことになっています.ところが暗号化や,鍵の生成過程をマイクロソフトなり,AOLが国防総省に情報提供すればどうでしょうか.愛国者法で電子情報を盗聴できるとすれば,自国の企業に情報提供を求めることなど,問題になるはずはありません.

 投資というのは,金融工学のみならず,情報がモノをいう世界です.インサイダー取引は,ばれなければ合法です.おそらくアメリカの投資グループには,アメリカが巨費を投じて作った情報網からの,膨大で貴重な情報が流れていたのだ,そう推測するしかありません.もちろん証拠はないし,政府も企業も認めないでしょう.でもそう考えなければ説明がつかないのです.ところがいつの間にか,アメリカには資金だけでなく,情報も流れなくなった.ドバイや上海,シンガポール,そういうところに金も情報も集まるようになったのではないか.資金のみならず,情報も迂回するようになったのではないか.相次ぐアメリカ金融企業の破綻は,金融テクノロジーのみならず,アメリカの覇権そのものが揺らぎ始めたのではないか,そんな気がするのです.

tnakadat at 15:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 記事,事件 

September 23, 2008

小阪修平:思想としての全共闘世代

思想としての全共闘世代 (ちくま新書)

 チベットで騒乱が起きていた頃に,全共闘世代の後半に当たる世代の先輩とテレビニュースを見ていたところ,その先輩が「商店を壊したり,車を横転させ,放火するのは,やはり野蛮だなぁ.国民性の違いかな.」というので,私が「国民性というより,こういう行為はテレビの影響が強いのではないか.フランスで起きた暴動でも多くの車が放火されたし.」というと,「いや,少なくとも日本の学生運動では,商店や一般市民の車に放火などしなかった.」と全共闘世代丸出しの反論をするので,私の悪い癖であるけれど,「商店を壊すのは野蛮で,車を横転,放火するのが野蛮だというのなら,投石や火炎瓶で結果的に被害が出るのは野蛮ではないのでしょうか.いずれもそう変わらないと思うのだが.」と応えたところ,「本気で戦ったのは,俺たちの世代までだ.その後はすっかり飼いならされたのだ.」とすっかり自分の殻に籠もってしまったので,この話題は尻つぼみで終わってしまい,何だか気まずい雰囲気だけが残りました.

 全共闘というのは,このようにたとえ酒の席でも,いまだに話題にし難い微妙な雰囲気があります.また全共闘,あるいは全学連運動をまともに扱った書物の異常なまでの少なさには驚きを感じます.太平洋戦争や,湾岸戦争,あるいは冷戦終結を扱った書物と比べれば一目瞭然です.著者の小坂修平氏は1947年生まれ.「三丁目の夕日」の作者である西岸良平氏も1947年生まれなので,映画「三丁目の夕日」は実は全共闘に行き着くのです.鈴木オートの一平君は,年から言えばちょうど全共闘世代に当たる筈です.西岸氏の初期の作品には,そういう学生が登場するのですが,映画には恐らくならないでしょう.あのフォレストガンプのような,ほろ苦さすらない,甘ったるい企画しか日本では通らないようです.

 全共闘世代には申し訳ないのですが,日本の学生運動は,戦後大衆運動の最大,最悪の敗北といって良いのではないか,と思います.本来はヤクザに適用される筈だった凶器準備集合罪が,学生の逮捕に適用されたように,当時の政府は徹底して学生運動を取り締まりました.それに呼応するかのように,尖鋭化,分派化し,内ゲバを繰り返し,自滅したというのが,全共闘世代を後ろから見ていた私の結論です.山岳ゲリラといっても,そこには山岳民族や,未開部族が住んでいるわけでもなく,四方を海に囲まれた我が国では支援を受けることも,ゲリラの拠点を維持することもできません.都市ゲリラといっても,東京の山谷,大阪の西成区にもヤクザや官憲が入り込んでいて,とてもゲリラなど出來ないことは,当時いくら学生が世間知らずであったとは云え,分かり切っていたことです.

 それにもかかわらず,なぜ突っ走ったのか,妥協や現実的な思考を「プチブル」,「修正主義者」,「日和った」と自己批判,あるいは「総括」させるというのは,戦前戦中の青年将校と何ら変わりません.あるいは裏切り者を粛清したオウム真理教とも通じるものがあります.この作者は当時の心理を「時代につかまれた」と表現しています.正直な感想かもしれませんが,これはずるずると戦争の道を進んだ日中戦争,太平洋戦争と重なるものがあります.この当時の学生が,理念や概念として「自由」や「民主主義」を知ってはいても,それは実際の行動や生活には無縁であったことが,大衆団交などで,大学関係者の人権を,いとも簡単に踏みにじったことで分かります.

 純粋であったかもしれないが,動機が純粋で正しければ,何をしても許されるというのは,傲慢です.このような心理を生んだのは何だったのでしょうか.著者自身が書いているように,60年代の学生運動が「日本最良の息子,娘たち」といわれたのに比べると,残念ながら全共闘運動の変質,混乱の罪は重い.その後の混乱の後遺症はいまだに日本の民主主義に暗い影を残している,と言わざるを得ないのです.産経新聞のような一方的な総括ではなく,真摯な全共闘の「総括」を望むのは私だけなのでしょうか.

tnakadat at 11:29|PermalinkComments(6)TrackBack(0) 書評