April 18, 2006

イラン攻撃の可能性−暴走する軍事テクノロジー

ニューヨーク原油先物市場は1バレル70・77ドルまで上昇し,昨年8月末につけた取引中の最高値である70・85ドルにも迫る勢いである,と読売新聞は伝えています.国内ではこの動きを受けてガソリン価格の値上げが決まりました.イラン核開発問題に加え,ナイジェリアの政情不安があると書いていますが,急騰の最大の原因はアメリカがイランの核施設を攻撃する,しかもイラク情勢で人気の低下する一方のブッシュ政権とネオコンが11月の中間選挙前に,行うのではないか,という憶測のせいだと思います.
 田中宇氏の国際ニュース解説では,雑誌「ニューヨーカー」にセイモア・ハーシュ氏が「アメリカは間もなくイランを核兵器で攻撃する」という記事を載せたと書いています.イランが核開発を行っているイラン中部のナタンズの施設は深い地下にあるとされ,通常の兵器では破壊できないので,破壊力の大きな小型核兵器(核バンカーバスター)を使う予定なのだ,と書かれています.この核バンカーバスターというのは日本ではほとんど取り上げられませんが,ブッシュ政権下で開発が進められてきた兵器です.しかしこの兵器は驚くほど旧式なテクノロジーの固まりである可能性が高いと思われます.
 元々このバンカーバスターを開発したのはイギリスです.硬いコンクリートで固められた要塞やブンカー(現在の巡航ミサイルの先祖であるV-1やU−ボートの基地)を破壊するために巨大な爆弾を高高度から投下し,衝撃力で破壊するというものです.当時のヴィッカース社の主任ウォリスが提唱したもので,トールボーイ5トン爆弾は全長9m,グランドスラムは全長11mという巨大なものです(大内建二著:ドイツ本土戦略爆撃より).湾岸戦争当時このようなバンカーや地下構造物を破壊するために廃棄されていた203mm榴弾砲の砲身を使用し,内腔に炸薬を充填したものがアメリカ版のバンカーバスターBLU−113です.全長は5.8m,炸薬量は286kgで,トールボーイの炸薬量5.4トン,グランドスラムの炸薬量7トンに比べれば大分見劣りがします.イランの核施設が数十メートルの地下にあれば貫通しない可能性が高いといえるでしょう.それでは劣化ウランの弾体を用いればよい,という考えもある(実際に作られているようです)かもしれませんが,劣化ウランを用いれば,質量増加によって貫通する力は増大するでしょうが,爆発の衝撃力は変わらないか,むしろ減少するはずです.劣化ウランは非常に重い金属で,爆撃機のペイロードを考えれば,炸薬を減らさざるを得ないからです.ではどうすれば良いか.
 そこで核弾頭の登場です.核兵器であれば,重量に対し通常兵器とは桁違いの破壊力が期待でき,それこそがこぞって核弾頭を開発し,保持しようとする所以です.この核弾頭には最も旧式なガンバレル方式が使われるはずです.このガンバレル方式は世界最初の原子爆弾で,広島に投下されたリトルボーイと呼ばれる核爆弾の形式です.臨界に達しない量のウランを両端に置き,火薬で衝突させ,超臨界に達し,核爆発を起こさせるというものです.このタイプの原子爆弾の欠点は恐ろしく効率が悪いということで,その後長崎に投下されたファットマンといインプロージョン方式が現在ではデファクト・スタンダードになっています.しかしこのガンバレル方式の数少ない長所は,確実に核爆発を引き起こすというところにあります.インプロージョン方式は爆縮レンズというもので超臨界に達するわけですが,もしこの形式を弾頭に使えば,弾頭が硬い岩盤やコンクリートに突入した際に変形し,計算どおりの爆縮レンズを形作らない可能性があります.一方ガンバレル方式はそのような可能性が少ない.効率は悪くとも通常兵器とは比べものにならない破壊力を持ち,周囲は核物質で汚染されるから半永久的に施設は使用不可能になります.核バンカーバスターにはガンバレル方式が使われるだろうという推測の根拠は以上の点です.
 それではこの核バンカーバスターをどうやってイラン核施設上空まで運ぶのか.電波妨害をかけて,通常爆撃機で投下するという戦術は取らないでしょう.今までのアメリカのやり方からして,宣戦布告もしないで攻撃するつもりでしょうから,使用するとすればステルス爆撃機です.イスラエルはかつてF-16でイランの原子炉を破壊しましたが,この攻撃は建設途中の原子炉だったから低空飛行で接近し,ポップアップして通常爆弾を投下するだけでよかった.バンカーバスターは高空から投下する必要があります.となるとステルスしかないのです.ところが通常型のバンカーバスターでも搭載できるのはF-111が退役した今,B-1,B-2,F-15ストライクイーグルしかありません.この中でステルス能力を持つものはB-2爆撃機しかありません.消去法からB-2を使用せざるを得ないわけです.このB-2はすでに生産を終了しており,21機しか稼動状態にないそうです.後継機種はありませんから,この爆撃機が使える時期にしか核バンカーバスターは使用できず,やるなら今しかない,という声がネオコンには強いかもしれません.
 しかしそれにしてもここまでくるとやはり常軌を逸している,と云う他ありません.確かに技術的には既存の技術の集大成で,効率的でもあり,人的被害も少ない,アメリカ人が好む「外科的手術」です.相変わらずコラテラル・ダメージのない,クリーンな戦争ができるとネオコンは思っているのでしょう.しかしそれはアメリカ人だけが思っていることで,他国,特に攻撃された人間から見れば,徹底的に卑怯で非人道的な行為です.ステルス技術が模倣されない,あるいはステルス戦闘機を探知する技術が完成する前に,軍事的優位を世界に対して見せつけたい,と考えているのでしょうが,核兵器を宣戦布告もなしに使用してしまえば,テロも紛争も,限りなくエスカレートするでしょう.世界はキリスト教や,イスラム教や,ユダヤ教ではなく,もちろん仏教や儒教ですらなく,「目には目を,歯には歯を」というハムラビ法典の世界に逆戻りしてしまいます.何でもありとなれば,アメリカのみならず,その同盟国に対する経済封鎖も,原油の輸出停止も容認されます.アメリカ経済のみならず,世界経済は一気に縮小するでしょう.双子の赤字を抱えるアメリカの信用は失われ,世界から流れてきた金の流れは,一転して止まってしまうでしょう.ヨーロッパや中国がその穴埋めとなるかもしれませんが,大きな犠牲を伴うことは間違いありません. 我々日本人は唯一の被爆国と云いながら,現代の核戦略についてどの程度知っているのでしょうか.あるいはマスコミは取り上げてきたでしょうか.イランやインド,パキスタン,北朝鮮の核だけを問題視するのはおかしなことです.唯一核兵器を使用し,これからも使用し続けると宣言する,アメリカの危険性についてもっと知る必要があるのではないか,賛成とか反対とか,政治的に反応する前に,彼らの戦略を知ることが必要ではないか,と思います.彼らの戦略は一貫してるのです.核と航空兵力による覇権,この一語に尽きます.決して強いドルというのは自然に発生したものではなく,軍事力の支えがあって生まれたものであると思います.日本の世論はあの惨めな敗戦以後,分断され,混乱したため,この問題を直視できなくなっただけに過ぎないのです.小泉首相はイラク戦争前にブッシュ大統領と会見した際に,四股を踏んで見せて,「横綱は自分からは仕掛けない,アメリカは横綱相撲をするべきだ」といったそうですが,そんな卑屈な態度からは,何も生まれなかったことは,歴史はすでに証明しています.

tnakadat at 18:32│Comments(0)TrackBack(3)記事,事件 

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1. アメリカがイランを空爆するという恐怖の悪夢  [ 時事を考える ]   April 18, 2006 20:32
愛読紙日刊ゲンダイにアメリカがイランを空爆するというコラムが載っている、ま外務省
2. 全ては中国オイルロード分断に通ず  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   April 19, 2006 23:37
米大統領、イラン核攻撃の可能性否定せず=イラン大統領は徹底抗戦 思えば9・11同時テロ以降のアメリカの動きを見ていると、シルクロードの現代版オイルロードを中国に建設させないための長期戦略なのかと思えて来る。
3. 中東  [ 共通テーマ ]   April 20, 2006 07:15
紛争が続くイラン、イラク、パレスチナ、レバノン・・・ 中東の政治、経済、社会、文化について語ってください。

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