February 25, 2007

北極の氷が溶けると,海水面は上昇するか

氷−1氷−2リサイクル幻想」という本を書いた武田邦彦氏が「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」という本を出したそうです.この中で温暖化で北極の氷が溶けても海水面は上昇しない,と書いていることを池田信夫氏が紹介しています.

 で写真はコップに氷を浮かべたもの.左が浮かべた直後.右はその1時間後です.御覧のように水は溢れません.この理屈は武田氏が「北極の氷とアルキメデスの原理」という記事で述べてある通りです.確かに北極海に浮かんでいる氷山が温暖化で溶けようと,海水面は上昇しない.しかし武田氏は肝心なことを忘れているようです.それではこの北極海の氷山はどこでできたのか,ということです.

 豪華客船タイタニックに衝突した氷山は,グリーンランドの氷河が北極海に落ちて生まれたもののようです.つまり氷山の多くは,高緯度地方の氷河が離岸して出来たものなのです.地球上の水の97.3%は海水,残りのたった2.7%が陸上にあります.陸上の水のうち,氷河が2.1%,その他が0.6%と見積もられています.氷河の水は数千年前のものと考えられており,これは地下水よりも古い.川の水や,湖沼の水のターンオーバーとは比較にならない,寿命の長さが氷河の特徴です.これが溶けるか,増えてゆくかは,海水面の上昇に影響を与えるのです.海水が蒸発し,雲となり,雨になる.陸地に降った雨は,やがて川になり,また海に還る.しかし氷河はその循環が極めて遅い.ですから寒冷化すれば,雪は氷河となり,ごく僅かしか海へ戻らない.海水面は下がります.逆に温暖化すれば,海水面は上昇し,低地は水没します.

 事実氷河期にはアリューシャン列島や,アラスカが地続きになっていたわけですし,日本列島も中国大陸と地続きだった.上海蟹とモクズガニは遺伝子的に同一と呼ばれていますし,日本に生息する多くの動植物は,この時期に大陸から移動してきたものです.縄文時代には世界的な温暖化の影響で,縄文海進という現象があったことは,疑いようの無い事実です.

 確かに武田氏の「北極海に浮かぶ氷山が溶けても海水面は上昇しない」という主張は科学的に正しい.しかし北極海に浮かぶ氷山が溶ける時,極地方の氷河も減少し,その水は最終的には海に注ぐ.従って海水面は間違いなく上昇する.「北極海の氷山が溶けると海水面が上昇し,南の島が水没する」という環境保護グループの主張はプロパガンダかもしれませんが,アルキメデスの原理を持ち出して「変わらない」と主張するのも,これまたプロパガンダです.海水面が上昇するにせよ,それがどの程度かは,予測するシミュレーションの方法と,入力する数値による,と答えるのが良識ある科学者として相応しい態度なのではないでしょうか.

 武田氏は地質学と考古学の常識を無視しているのか,知らないようです.この武田氏はさる国立大学の教授らしいのですが,専門以外のことは興味が無いのでしょうか.もし知っていて,このような珍説を広めているとすれば,困ったことです.

tnakadat at 22:57│Comments(6)TrackBack(1) 記事,事件 

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1. 「環境問題」と「クリキンディ」  [ 101Blog ]   February 26, 2007 09:56
子どもが生まれて親となり、僕なんかでも子ども達の世代の環境問題に危惧を抱いたりす...

この記事へのコメント

1. Posted by happyman   February 26, 2007 12:36
こんにちは。

この本を読んだわけではありませんが・・・名古屋大学の武田邦彦教授のサイトで色々書かれています。

http://www.numse.nagoya-u.ac.jp/F1/proftakeda/kankyou/kankyoutojinsei/index.htm

武田教授は別に地質学を無視した考察をしているわけではないように僕は印象を持ちました。

池田信夫氏が引用すると、なんとなしに何かが誇張されているような気がしますが・・・

地質学の学生をやっていた僕から見たら・・・どうなんでしょう。地球で起きている事象の何%を人間は理解しているのでしょうか・・・ほとんどまだ解ってないことばかりではないかと思っています。

環境問題論者のいうような、CO2が増えれば、気温上昇なんて短絡的な話にはならないと僕は思います。
環境問題が一時の流行になっている今の状況の方が問題なような気がします。
2. Posted by c.c   February 26, 2007 15:28
環境問題って、流行なんでしょうか。
歴史を辿ってみると、どんな時代も人々は、環境を保全することに力を注いできました。たとえば、江戸という大都市が、循環型の理想的環境にあったことは、歴史学上、周知のことです。縄文の遺跡からでさえ、排水溝のようなものは出てくるし。
「一時の流行」と見えるのは、上のかたがおっしゃるようにCO2とか海面上昇とか、あまりにも規模が大きすぎる不確定要素が入ってきた。「わからないから議論ばかりで実行がすすまない」表層だけのことでしょう。「わからないから私のようなシロウトも意見が言える」のが、一時の流行のように見えてしまうのだろうと思います。
でも私のようなシロウトは、それが無駄だろうと、化石燃料を減らしゴミの分別をしていきたい。環境って、お掃除やお洗濯、さらには自尊心と同じで、愚直でないと守れないと思います。
3. Posted by tantanmen   February 26, 2007 20:19
happymanさん:環境問題を取り上げる勢力を大きく分けるとすれば,三つに分けられると思うのです.一つは純粋に将来の環境に不安を持ち,節約や質素な生活を心がけようとする人々.もう一つは政治,外交の手段として利用しようとする人々.これはグローバル化や,世界的な市場経済に反発するヨーロッパ,ことにドイツや北欧に強く感じられます.最後のグループはビジネスチャンスと考える勢力です.それは新しい市場を狙う企業であったり,学者であったりします.私は武田氏のリサイクルは資源を節約していない,という主張は尤もだと思います.ペットボトルの生産量はこの5年以上で2倍になっているそうですから.でもそれは真面目な環境論者のせいでしょうか?私はこの消費経済が最大の原因と思うのです.武田氏の一連の記事は,やはり欺瞞ではないか,と私には感じられます.
4. Posted by tantanmen   February 26, 2007 20:31
c.cさん:地球温暖化をアル・ゴア氏が「不都合な真実」という名前で映画を作ったのは,明らかに政治的な効果を狙ってのことでしょう.しかしこういう手法でもとらない限り,誰もがガソリンを節約しようとは思わないし,より贅沢な暮らしを望むものです.地球は閉じた有限の空間なのだから,貧しい人々が豊かになるということは,これまで豊かな人々は相対的ではなく,絶対的に貧しくなる,ということです.政府の掲げる持続的な成長など,詭弁です.そして特にアメリカなどの富裕層を優遇するような制度は,やはりおかしい.格差は成長の糧となる,とニューズウィークなどは書いていますが,人間に必要な栄養や,生きるために必要な資源にもこれまた上限があるのです.ただそれを真正面からいうと,特にアメリカではアカ(コミュニスト)呼ばわりされます.そういう部分が今の環境問題にはあるように感じました.
5. Posted by happpyman   February 28, 2007 13:20
happymanです。
環境問題を取り上げる勢力区分に3つあるのは僕も同意見です。いろんな考えの人が混在しているのは仕方ありません。

消費経済ですが、僕の家は給料も安いので、出来るだけ出費しない経済になってしまいました。
住んでいるところが比較的公共交通機関が発達していますので、自家用車の購入は無期限延期になっています。
ペットボトルのお茶は購入せず、家から湧かしたお茶を持参しています。

まあその他色々ありますが、節約して貯金していこうモードに入っていますが、こんな微々たる節約も、インフレになったら、吹っ飛んでしまうんだろうなあと思う今日この頃です。
6. Posted by tantanmen   February 28, 2007 17:42
happymanさん:ブログにも書かれていましたが,ニューヨーク市場で全面安になりましたね.何故円高なのか,素人の私にもとんとわかりません.緊急避難的に円が買われたのでしょうか.私も通勤は専ら自転車です.歩きや自転車,公共交通機関で,大方が通勤できれば良いのですが,昨今の住環境ではそうも行きませんね.本当にインフレになれば,ささやかな利上げなど吹っ飛んでしまいます.どうなるのでしょう.

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