November 09, 2007

連合政権とゲーム理論

昨日の続きで,民主党と自民党の連立構想について書きます.実は連立政権への学問的なアプローチはもう40年以上前になされているようです.アメリカのウィリアム・ハリソン・ライカーという政治学者が,The Theory of Political Coalitionsという著書で,連立形成をゼロサム・ゲームと見做し,「どの政党が欠けても過半数を割るような政党の組み合わせによる連立が成立する可能性が最も高いこと」を示したそうです.彼はこの組み合わせを,最小勝利連合と名付けました.

 この論文は政治学にゲーム理論を取り入れた最初の論文なそうです.ウィキペディアの内容はなかなか面白く,参考になります.この中で今回の党首会談を画策した,渡邊恒雄読売主幹が参考にしたといわれる,ドイツの大連立が検証されています.ドイツの大連合も当初は最小勝利連合を模索し,決してライカーの理論が間違っていないことを示しています.現在の民主党の衆議院での議席数は113,社民党は7,共産党は9,国民新党が4,新党日本が1,対する与党は自民党が306で,公明党が31.これまで民主党が獲得した,最大の議席数は第43回の177名で,野党連合でも198,公明党が入っても229で過半数には達しません.民主党の大躍進というのは,結局自民党が大敗北するような,安倍政権のような失策がなければ期待できない数字です.政権とは関係ない参議院選挙で勝ったから,衆議院選でも勝てる,政権は間近,と喜ぶのは,真珠湾で勝ったから,もう勝ったと思った日本軍と同じです.小沢代表の「民主党は未熟」発言の意図はそこにあるのだ,と思います.

 今回の騒ぎで露呈したのは,民主党の未熟さでも,小沢代表の密室政治でもありません.小沢代表は党首会談で態度を保留し,党に持ち帰って態度を決めたのですから,密室政治というのは当たらないと思います.むしろマスコミや,政治学者のあまりに情緒的な態度が問題です.議員が連立に反発するのは当然です.これは企業の合併を考えればよく分かります.役職に就いている人間ほど,合併には消極的なのは,合併でポストが減るからに他なりません.ライカーのモデルでも,第一党と第二党の連立は,メンバーにとって最も利得の少ない組み合わせです.しかし連立は政権獲得と,ポストの獲得という議員自らの利得との兼ね合いで決定される,というライカーの仮定から,全く外れていないことも事実です.

 自由民主党も,自由党と保守党の合同から始まったように,その実態は緩やかな連立政権だったのだ,と思います.それは民主党も同様でしょう.連立の損得をそれこそ派閥の領袖や,キングメーカーが密室で決めていただけのことです.そこにマスコミの政治記者が入りこみ,いわばインサイダー情報の形で情報を取ることが,優れた記者の要件だったのでしょう.そのトップが渡邊恒雄氏です.

 分析能力よりも,インサイダー情報の方が,確かに内向きの日本社会では有用だったかもしれません.しかしこのような取材は癒着や,歪曲を生み,また国際的に通用する報道や,先を見通す目が育つとは思えません.日本のマスコミがいかに能力に欠けるかを,今回の騒動が端的に示しています.最後は謀略に走るしかないわけで,渡邊恒雄氏はマスコミのドンや,政界のフィクサーを気取っていますが,報道の自滅としかいえません.残念なことに政治も遅れているのかもしれませんが,政治記者のほうがもっと遅れている,と言わざるを得ないのです.

tnakadat at 10:03│Comments(4)TrackBack(21)記事,事件 

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今日のサンデープロジェクトの特集は先週に続いて「限界集落」 今回は都市の「限界集落」も取り上げられた。

この記事へのコメント

1. Posted by OHTA   November 11, 2007 18:29
はじめまして、トラックバックを送らせていただきました。

その衆院勢力のデータは、2005郵政選挙を受けたものですね。得票率49%で76%もの議席を与党が獲得したあの選挙です。

そもそも民意を反映していません。与野党は票数の上ではもう互角の段階です。死票の少ない選挙制度なら野党は十分勝利可能です。

民主党は、自民の存続を前提にする保守二大政党制と、それを担保する小選挙区制を支持するのではなく、真の野党共闘に必要な比例代表制ベースの選挙制度に乗り換えるべきだと思います――という主張を有権者は盛り上げていくべきですね。
2. Posted by tananmen   November 12, 2007 10:23
OHTAさん:初めまして.トラックバック有り難う御座います.私はもし衆議院選をやったら,自民党は議席の三分の二は取れないが,過半数は取るだろう,という予測です.そうすると公明党の議席を合わせても三分の二を取れなければ,法案が参議院で通らない限り全て廃案です.これを国民が許すでしょうか.民主党にとっても,この状況は痛いと思います.先日朝日新聞に山口二郎北大教授と,カン東大教授の対談が載っていて,「このような捻れは連立で解消すべきものでなく,時間をかけて解消するしかない」と山口氏が主張していましたが,問題は時間です.ドルが急激に値下がりし,アメリカの覇権が急速に衰え始めている現状で,じっくり時間をかけられるかどうか.船が沈み始めている時に,乗せる順番を討議する暇などありません.昨今の政治議論にいささか違和感を感じるのです.
3. Posted by OHTA   November 15, 2007 07:50
確かに、政治のスピードは無視できませんね。政策、法案ごとの協議そのものはしなければなりません。それは当然です。

問題は、ここに有権者が関与することです。すでに情報化社会はできあがっています。政党さえその気があれば、常設の有権者・政党協議機関を設けることが可能です。

政党は、政治的イニシアティブを取る組織であって、有権者の主権を白紙委任する相手ではないのですが、日本というか、アジアといっていいのでしょうか(ビルマなどもまだあんな状態)まだまだ民主主義が未成熟で、ここに正面から向かいつつ、政治のスピードなりも考えないと、政治は発展しないでしょうね。選挙制度は、土台ですから。

時期衆院選ではさて、自公はどうなるでしょうかね。私としては、野党が護憲の方向で連合してほしい、というのが願いなのですが。
4. Posted by tantanmen   November 15, 2007 08:04
OHTAさん:同感ですね.政党が有権者と対話できる場所は,講演会や,タウン・ミーティングだけではない筈で,ネットや,携帯などもっと活用出来る筈です.ただ最近の政治談議でもっとも滑稽なのは,「アメリカ」が外れていることです.わざと外しているといっても良いと思います.ドル安で,アメリカ国債はどうなるのか,テロ特措法の数十倍の予算規模の「思いやり予算」はどうなっているのか,守屋事務次官と山田洋行の事件に,ゼネラル・エレクトリックや,アーミテージは関わっていないのか.こういう問題を誰も語ろうとしません.だから何ともリアリティーがないのです.

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