January 15, 2009

坂井三郎:零戦の最期

零戦の最期 (講談社プラスアルファ文庫)
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 映画トップガンでトム・クルーズが演じた,マーべリックこと,ピート・ミッチェルはlieutenant,すなわち海軍大尉です.劇中で父親のことがあり士官学校に行けなかったために,彼は負い目を負ったと僚友グースが語っていますから,海軍パイロットとしては彼ははみ出し者だったのです.一方トップガンのインストラクターであるバイパーことマトカフは中佐です.アイスマンを救い,ミグ戦闘機を撃墜したマーべリックはトップガンのインストラクターを希望,アメリカ軍は「ポストによって階級が動く」制度ですから,おそらくマーべリックは少佐か,中佐になったことでしょう.

 第二次世界大戦中に零戦を操り,64機を撃墜した故坂井三郎氏は,知らぬ人はいない日本海軍パイロットのエースです.しかし佐世保海兵団という兵卒上がりの彼は12年間激戦を闘いながら,終戦時の階級は何と中尉で,しかも特務士官という海軍独特の制度でこれ以上の昇進は事実上閉ざされていたのです.何という不合理でしょう.彼は海軍乙事件という古賀連合艦隊長官と,福留参謀長官が二式飛行艇で長官機が行方不明,福留機が着水に失敗,フィリピン人ゲリラに捕捉され,作戦書が米軍に奪われた事件でも,この海軍の不合理を糾弾しています.

 兵学校卒と予科練との格差など,海軍の不合理は,戦後日本の社会にも受け継がれました.大卒,高卒,一般職と総合職,公務員におけるキャリア,ノンキャリアなどです.このような固定化された職制の弊害はいくつもあります.一つは社会の変化に対応できない,ということです.パソコンが導入されても上司は使えない,従って相変わらず許可を取るために紙媒体が幅を利かせる.今は少なくなったかもしれませんが,オフィスからいつまでたっても紙が追放されないという状況はまだまだ残っています.

 さらにもっと悪い弊害は,人を見る目,判断する力が育たないことです.年功序列でない社会では,人事は人物や,業績を評価しなければ始まりません.人物を評価するというのは,逆に評価する側も評価されるのです.無能な人物を抜擢すれば,業績が悪化しリーダーの評価が下がります.入社は大学の成績,大学入試は統一試験,統一試験を受けるまでは予備校の模擬試験,では誰が人物を評価しているか分からなくなります.日本の社会では厳しい人物評価を避けて通っているのでしょう.それは人口稠密な社会風土では,人と人との摩擦を避ける上で良いことなのでしょうが,論理的思考能力という点,何よりトップの能力を磨くという点では大きなマイナスです.おそらく欧米のビジネスが強い理由は,常に評価し,評価される厳しさ,しかもそれが上に行けば行くほど求められる構造から生まれるものだと思います.

 一方日本の企業の強さは,一般社員の頑張りや,均質な能力に負うところが大きい.順調な時はトップが無能でも,極端な場合不在でも構わない.ところが一たび流れが変わるや,突然右往左往し始め,収拾がつかなくなり,自滅する.これはいみじくも旧ソ連のジューコフ将軍が語ったという「日本軍は兵卒は優れているが,士官や将軍は愚かだ」という評価と一致します.今ワーキング・プアと,ノン・ワーキング・リッチという二極化が問題になっていますが,それは単純に労働法や組合だけでは解決しないことではないか,と思うのです.この問題の根は深く,日本社会に潜む歴史的な背景があるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか.

tnakadat at 15:42│Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!書評 

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