March 24, 2010

正鵠を得たウォルフレン論文

永田町異聞で紹介されているのですが,アムステルダム大学教授カレル・ヴァン・ウォルフレン氏が「日本政治再生を巡る権力闘争の謎」という論文を中央公論に寄稿しています.ネット上で閲覧できることは大変喜ばしいことですが,ほとんどのメディアには無視されたままです.この論文がいかに日本の現状と課題を精確に捉えているかは,お読みになればわかることですが,結びの言葉だけを引用させていただきます.

 日本のメディアは自由な立場にある。しかし真の主権国家の中に、より健全な民主主義をはぐくもうとするならば、日本のメディアは現在のようにスキャンダルを追いかけ、果てはそれを生み出すことに血道を上げるのを止め、国内と国際政治の良識ある観察者とならなければならない。そして自らに備わる力の正しい用い方を習得すべきである。さらに政治改革を求め、選挙で一票を投じた日本の市民は、一歩退いて、いま起こりつつあることは一体何であるのかをよく理解し、メディアにも正しい認識に基づいた報道をするよう求めるべきなのである。

 名古屋市議会の定数削減と,減給が盛んに報道されています.市議の年収1,600万円が不当に高いのか,現在の75議席が多過ぎるのか,私には分かりません.しかし確かなことは給与を半減し,議員定数を半減しても年間およそ3億円しか節約できないということです.ところが名古屋市には2万人近い市職員がいるようなのです.河村市長は,ロスアンゼルス議会の議員定数はたった15人だ,といっていますが,議員定数を減らしても大きな歳出削減に繋がるとは思えません.

 先日トヨタのリコール問題で豊田社長がアメリカ下院の公聴会に出席しましたが,印象的だったのは豊田社長の公聴会がアメリカ運輸省長官との会談に先立ち行われたことです.下院公聴会はテレビで見ても,明らかに下院選挙を意識した素人臭いものでした.しかしおそらくアメリカの有権者は役人の言葉よりも,自らが選挙で選んだ議員を信頼するのでしょう.

 少なくとも日本では役人は横領とか,収賄,あるいは破廉恥な事件を起こさない限り辞めさせられることはありません.しかし議員は会期が終われば,選挙という有権者の選択を受けざるを得ません.いつでも有権者は議員を辞めさせることができるのです.果たして今の日本の閉塞感の原因は,政治家の無能さや,政治とカネなのでしょうか.

 おそらく日本の最大の問題は,官吏が不必要なほど権限を握って手放さず,しかも閉鎖的な役所の中で育った官吏が現代の諸問題を解決する能力や手腕を持たないことだと思います.その兆候はすでにバブル経済の頃から現れていたのに,20年近くたっても一向に変わらない.それはウォルフレン氏が書いているようにメディアなどが官僚と癒着しているからですが,最大の問題は役人にとって代わる指導層がいつまで経っても生まれないことなのでしょう.

 共通一次試験,全国統一試験で文字通り日本の高等教育は全国レベルで統一化されました.研究費の配分も平等化し,私立,公立,国立といった大学の特色も希薄化したように思えます.しかし古くは手塚治虫氏や,ライブドアのホリエモンもソフトバンクの孫正義氏もいわばドロップアウトの落ちこぼれです.本当に異常なほどに緻密な日本の教育制度が優れているのか,その保障は一切ありません.いまだに四字熟語や,漢字の書き順を小学生に熱心に教えているのを見聞きするたびに,日本全体がコイン・ポリッシャー化しているように思えます.

いくら十円硬貨を磨き上げても,所詮十円は十円でしかありません.いくら四字熟語や漢字の書き順を知っていても,その知識は日本国内でしか通用しないでしょう.もちろん四字熟語を知っていることは良いことです.しかし切磋琢磨し,競わせるほどのことなのか.銀行に就職した新入社員がお札を数えるのも同じです.銀行員が紙幣を大切にするのは良いことですが,お札を正確に数える銀行員よりも,しっかり利益を出し,お金を貸してくれる銀行員のほうが顧客には助かります.日本では「型」を重視しますが,過剰な様式美は,「仏像作って魂入れず」になりかねません.どれも同じような報道を繰り返すテレビや新聞,顔の見えない役所,駅弁大学と揶揄される大学,綺麗だけれど,魂のない仏像が乱立しているといえないでしょうか.

 江戸時代末期にもやはり当時の支配層であった武士は,ペリーの開国要求や安政地震,そして飢饉に対処する能力を失っていました.むしろ商人や下級武士の方が新しい知識を貪欲に吸収し,発想の転換もできたのでしょう.しかし残念ながら今の日本にはそのような下級武士が育っていない.昨今のマスコミのように,検察など官僚にべったりで,報道する内容は,愛子さまの不登校とか,鳩山邦夫氏の離党,民主党副幹事長の辞任騒ぎといった,いわばゴシップばかりです.これでは報道の自由というようなものではなく,一杯飲み屋で上司の悪口や噂話をするサラリーマンと同じです.酔っていない分,話を聞かされるほうは白けるだけです.

 民主党政権に失望したといっても,もはや今の自民党にかつての力はありません.靖国参拝,刺客,改革の本丸といった小泉劇場という空疎な,その場限りの興奮には懲りたはずです.政治とカネ,辞任騒ぎ,新党結成といった表面的な騒ぎに右往左往するのは,もう止めた方が良い.じっくり考え,振り返ることが重要なのです.振り返れば中曽根内閣の臨調以来,ずっと政治家も,財界もマスコミも「改革」を口にしてきました.しかしそのような支配する側からの「改革」とは,逆に支配を強化するためのものだった,とそろそろ国民は気づいて良い時期に来ているのではないでしょうか.大学紛争を契機に始まった入試改革が,おそらく最も分かりやすい好例なのだと思います.



tnakadat at 21:34│Comments(3)TrackBack(0) 記事,事件 

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この記事へのコメント

1. Posted by LE   April 06, 2010 22:11
お久しぶりです。イギリスもようやっと5月に総選挙となります。

このごろつくづく思うのですが、戦後ずっと妙な「平均化」教育が平等でよきこと、としてすすめられたことで、指導力と知力をともに身につけた指導者層を生み出せなくなったことにも、『敗因」があるのではと。

フランスもイギリスも、ヨーロッパはまだまだエリート社会ですが、誰もが同じになれっこないのですから、現実的に指導者はそれなりのキャパのある人がなれるような社会のほうが、まだマシなのじゃないかしら。

日本の将来はほんとに暗澹としているとおもいます。年金も払ってもらえそうもないし、国籍変えることにも昔程抵抗がなくなりつつあります。亡国を憂いたくないですけれど、どうなるのでしょうねぇ?

物事を自分の頭で考えることができる人があまりにも少なくて、ほんとに心配です。真似ばかりはしていられない時代ですから。
2. Posted by LE   June 02, 2010 22:04
鳩山さんの突然の辞任にあれあれというところです。しばらくご更新がないようですが、お元気だといいとおもいます。
3. Posted by えり   October 11, 2010 07:49
懐かしい岩手・盛岡の写真や記事も日々楽しみにしていました。
日記は閉じられたのでしょうか・・?
(ぶしつけな質問で申し訳けないのですが)

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