764 :D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/01/06(水) 08:18:29 ID:Rs96k4GE

美琴が卒業式を控えたある日のお話。


「……プロム?」
上条は聞き慣れない単語を耳にして、首をひねる。

「そ。アンタ招待するから来てよね。スーツくらい持ってるでしょ?」
 上条の向かいでお茶を出しているのは美琴だ。お茶を啜りつつ、コイツがもうすっかり部屋の風景に溶け込んでいるあたりなんだかなー、と上条はつい思ってしまう。
 上条も美琴も進級し、美琴に至ってはもうすぐ卒業式を迎える。窓の外にはぽつりぽつりと桜が咲き、ああもうそんな季節だよな、と上条は一人感慨にふける。ところで、

「……プロムって何だ? 常盤台の掟か?」
「そっから説明しなきゃダメだったのね……」
 美琴がおでこに手をやる。

「プロムってのはね、卒業記念のフォーマルなダンスパーティのこと。共学の高校だったら当たり前に知ってると思ってたけど。もともとはハイスクールの行事みたいなもんだし」
「……意味がわからん。ともかくうちの学校にそんな行事はないな」
 上条当麻は記憶喪失だ。
 だからプロムについても『知らない』。一年余の学園生活を経て一通りの学校行事はこなし知識と思い出を蓄えたつもりだが、奇怪な単語にはとんと聞き覚えがなかった。

「で……、ダンスパーティが何だって?」
「この日はごく一部だけどうちの学校も外部に門戸を開くの。何て言うのかな? 常盤台の教育の一環というか、社交界で通用するかどうか卒業生は品定めされるのよ」
 ようはお嬢様学校のしきたりみたいなもんか、と上条は納得する。

「けどさ、それと俺が結びつかないんだが」
「……あのね、ダンスパーティなんだから相手を連れて行かなくちゃダメなの。で、アンタにその、エスコートを頼みたい……んだけど」
 美琴が口ごもる。

「ちょっと待て。常盤台は女子校だから、普通この場合招待されるのは生徒のお父さんじゃないのか?」
「まぁその……本当はそうなんだけどね。うちのお父さんは世界を飛び回ってるから忙しくて無理みたいなの。ほかに男の人の知り合いもいないし」
 美琴が本気で困っている、というのは何となく理解した。
 美琴にはこれまでさんざんいろんな面倒(と思っているのは上条だけだが)を持ち込まれた経験もあって、上条はそれを思い出すたびに胃が痛くなる。しかし、父親が参加できないという理由があったのでは断る気にもなれない。父兄参観日に親が来なくて寂しい思いをするのと同じか、と思う。

「そういうことならやむを得ないからいいけど、俺踊れないぞ?」
「やむを得ない、か……」
 美琴がどことなく残念そうな声で呟く。直後、ぱっと表情を切り替えて

「まぁいいわ。ダンスは私が教えてあげるから大丈夫よ」
「ところでそのプロムってのはあとどれくらいで開かれるんだ? ダンス覚えるほど時間あんのか?」
「二週間後。正式な招待状は後で届けるけど、遅れるんじゃないわよ?」
「……へいへい」
 面倒くさいことになりそうだな、と思いつつ上条は頷くことにした。ここで美琴の機嫌を損ねるとろくなことがない、というのが上条の経験則だった。

765 :D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/01/06(水) 08:19:14 ID:Rs96k4GE

 三月某日。
 夕暮れに染められていく常盤台中学のダンスホールで、美琴と上条は腕を組んでフロアを眺めていた。そこには紳士淑女、というよりはタキシードを着込んだ妙齢の男性と色とりどりのドレスを身にまとったお嬢様が視界を埋め尽くしていた。

「御坂? お前何でさっきから震えてるんだ? ずいぶん薄いドレスだけど寒いのか?」
 先ほどから無言の美琴を見やり、上条が尋ねる。
 日頃の言動がアレだからつい忘れがちだけどそういやコイツもお嬢様だったっけな、というのがドレス姿の美琴を見た上条の感想だ。無論、それを口にした直後盛大にヒールで足を踏んづけられたが。

「……そうじゃないわよ」
「じゃあ何だ」
「アンタに、一つ言ってなかったことがあんのよ」
「言ってなかったこと?」
「えーっとね……うちは女子校で、卒業生の招待客はそのほとんどが家族。まぁ父親だったり兄弟だったりね。でも、ごくわずかだけど彼氏を呼んでる子もいるのは見てわかるでしょ?」
「たしかに、兄妹と呼ぶには無理がある組み合わせもちらほらいるな。それがどうした?」
 美琴が何やらもごもごと口を動かす。

「うちのプロムで親兄弟以外をパートナーに呼ぶ場合……えっと、そのね? その相手はステディって相場が決まってんのよ」
「ステディ……? おいおいステディってのは」
 ステディというのは一対一で親しく付き合っている相手のことを指すが、常盤台中学の場合はもっと踏み込んでいてニュアンス的に『婚約レベル』の一対一を示す。

「そ、そうよ! 学校側にそう言ってアンタのことを招待したの! 悪い?」
 美琴が恥ずかしさと自分への怒りで肩を震わせて叫ぶ。

「お前さ、それってここの連中に俺を『恋人です』って紹介するようなもんじゃねぇか。いいのかよ、お嬢様の隣に立ってるのが驢馬で。後で『あれがお姉様の彼氏?』とか冷やかされんのお前だぞ? せめてもっと見栄えの良い奴を選ぶとかだな……」
 美琴がぷい、と視線をそらせる。

「だってそれしか方法がなかったんだもん。……、そもそもアンタしか誘うつもりなかったんだから……」
 半分涙目の美琴を見て上条はふぅーっ、と大げさにため息を吐いた。それは悪いとか何とか言う話ではないだろう。そう言う事は前もって教えて欲しいところだが、教えたら上条が確実に逃げ出すと美琴が思うのも、また無理からぬ話だ。

「だって兄弟親戚ってごまかしたって、書庫のデータでバレるじゃない」
 上条はポリポリと頭をかいた。フォーマルな場には合わないしぐさだが、今のところそれに気づいた来客はいない。

「まぁいいさ。今日はお前のその、ステディとやらのふりをすれば良いんだろ? 海原相手の恋人ごっこよりは簡単だ。お前と踊ってりゃ良いんだから」
 金星の光を浴びたレーザー攻撃も来なけりゃ変な弓でぶち抜かれたりもしない。あの頃よりはよっぽど気楽だと上条は思う。だが美琴は、そのあたりの背景を知らない。

「……そうよ! 今夜は私に付き合いなさい! あ、アンタは私のこっ、恋人役なんだからね!!」
 美琴がぎゃああっ! と吼える。肩むき出しのドレス姿で叫ぶなよお嬢様、と上条は美琴をなだめつつ、

「何カリカリしてんだ? カルシウム足りてるか? 牛乳もらってこようか?」
「足りてるわよ! だいたいパーティに牛乳なんかあるわけないでしょ!! 馬鹿にすんなあっ!!」
「そうやってふくれるところは一年前と大して変わらないんだな」
 上条は美琴の前で居住まいを正し、軽く一礼する。

「……、お嬢さん、ダンスの相手をお願いできますか?」
 美琴が引きつった顔でズバン!! と後ろに下がる。

「ちょ、あああアンタ何マジモード入ってんのよ?」
「この一年お前にいろいろ付き合わされたから作法なんかも詳しくなった。だからお前の相手として、礼儀正しくダンスの相手に誘ってんだよ」
 上条は美琴に恭しく手を差し出す。

「ほらステディ、手を出せ手を。それっぽくしないとまずいんだろ?」
「――――」
「どうした? 踊らないのか? 曲が始まったぞ」
「……、踊るわよ。足踏んだら承知しないんだから」
「はいはい」

766 :D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/01/06(水) 08:20:57 ID:Rs96k4GE

 二人は手を取り合い、輪の中に入る。ボストン・ワルツではなくウィンナ・ワルツを選ぶあたりお嬢様学校の格式は伊達ではないなと即座にわかるのが、上条の二週間の特訓成果を物語っている。

「…………本当は」
「ん?」
 うつむいたまま美琴が口を開く。
 美琴の首筋から軽く香水が漂うのを嗅ぎ取り、『何か高そうな匂いだな』と上条は苦笑いを浮かべる。

「この二週間でアンタと正式な……ステディって言うか、恋人になれれば良かったんだけどね。そうしたら何の問題もなかったんだけどさ」
 問題はそこなのか? と上条は思いつつ、右足をかかとから踏み出す。美琴がそれに合わせて足を引き、ナチュラルターンが始まる。
 何も言わない上条を、瞳を上げた美琴が不安そうに問いかける。

「――何とか言ったらどうなのよ」
「逆に俺は今年が来るのを待ってた、かな」
「何よそれ」
 今年に何か意味あんの? と美琴が首をかしげる。上条が右足を引き、美琴の踵が回ってターンが終わる。

「お前今年で一六だろ?」
「……それが何? わかりきったこと言ってんじゃないわよ」
「何でもねぇよ。お前が一六歳になったら教えてやる」
 いち、にい、さん、いち、にい、さんとリズムに合わせて教えられたとおりのステップを刻む。おお、俺結構うまくできてるじゃんと上条は内心でガッツポーズを作る。

「意味がわかんないけど、その言葉は忘れるんじゃないわよ」
「わかんねぇからお前はお子様中学生なんだよ」
 直後、美琴のヒールが上条のつま先に突き刺さった。

「痛たたたたた!? 馬鹿てめぇ、パートナーの足を踏むんじゃねぇ! そこのステップ違うだろが!」
 激痛に顔をしかめながら、上条は律儀に次のステップを繰り出す。

「まあいいわ……。もう一つ言うことあったの思い出した」
「まだ何かあったのか?」
 何度やってもホールドは肩がこる。
 手を添える位置が決まらず美琴の背中をペタペタ触っては『馬鹿変態触んじゃない!』と蹴りをもらったのも今はいい思い出、じゃねぇよと上条は一人でツッコむ。

「パートナーチェンジには応じるんじゃないわよ。応じたらその場で電撃だかんね」
 対面の赤い顔をした少女が、上目遣いで睨んできた。
 ああこれ怒ってんじゃなくて照れてるんですね、と上条は美琴の表情を読み取った。つくづく、慣れというのは恐ろしい。

「……おいおい、パーティの場で電撃は止めろって。それにあれだ、俺が覚えたのは付け焼き刃のワルツとチャチャチャだけなんだから、パートナーチェンジに応じても俺が恥かくだけだろが。心配すんな」
「べっ、別に心配なんて、アンタが他の誰かに取られるとか心配なんてしてないわよ! ダンスを教えたのは私なんだから、アンタのへっぴり腰で他の人と踊られたら私まで良い迷惑ってことだから誤解しないでよね! それに、アンタは私だけのエスコートをするんだから! ……わかってんでしょうね」
 常盤台の最強電撃姫こと今宵のクイーンは、喋るにつれ言葉が気弱に先細っていく。
 対する上条は美琴の腰に回した手に少しだけ力を込めた。そして美琴に気づかれないように薄く笑みを浮かべ、

「ダンスパーティでもこれかよ。……あーあ、不幸だ」


完。
ワルツのシーンが怪しいんでツッコミお待ちしています。

767 :■■■■:2010/01/06(水) 08:48:37 ID:/HSu0Cts
GJ!

16歳?
まさか、結婚するつもりか旗男め!


........おめでとう

768 :■■■■:2010/01/06(水) 08:50:16 ID:5o3Lz5hY
この上条ちゃん結婚考えてやがる…
もっと!

769 :■■■■:2010/01/06(水) 09:08:00 ID:pNu4xIh.
GJ
おいおい、妻16夫18で結婚とかこのカミやん腹据わってんな

770 :■■■■:2010/01/06(水) 12:31:56 ID:SXUwhuto
GJである

771 :■■■■:2010/01/06(水) 13:05:36 ID:YmATn12g
GJですの

772 :■■■■:2010/01/06(水) 13:09:42 ID:ddNU.SAA
超GJって感じですね。