254 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:42:41 ID:gZj5JP3E

佐天「御坂さーん」
初春「こんにちわー」
美琴「ん?あ、二人とも久しぶり!」
佐天「お買い物ですか?あ、クリスマスプレゼントとか!」

 12月25日の日中に皆でパーティーをしようという約束があった。
 もちろん画策したのは黒子だ。

美琴「え?う、うん。ままま、まぁね。あなたたちあてのは先週買っちゃったけどね」
初春「わぁぁ。セレブな御坂さんからプレゼントを貰えるだなんて感激です」
美琴「えっと……私のセンスにあまり期待しないでね。ははは……」
初春「そんな謙遜しないで下さいよー。私達は丁度さっき買ったところです」

 袋詰めされた大きな荷物を掲げる初春。

佐天「あれ?てことは今選んでるのは白井さんあてですか?」
美琴「えっ?いや、黒子のも先週買っちゃったんだけど、今のは他の奴向けで……なんていうか、先々週から悩んでるんだけど決まらなくてさ……」

 佐天と初春が互いに顔を見合わせる。

佐天「誰あてなんですか?」
美琴「えっっ?あ、うんと……二人は多分知らない人。別にどうでも良い奴なんだけど、一応色々世話になったというか、
    あげなくてもいい奴なんだけど……なんていうか、義理みたいなもので」
初春「は、はぁ。そんなに悩んでるんでしたら、及ばずながら私達も選ぶの手伝いましょうか?」
佐天「そうですよ御坂さん。セレブリティな物以外ならあたし達も協力できます」
美琴「ははは、そうね。さすがに私も悩みすぎて何が何だか分からなくなってきたところだから、助かるかも」
初春「決まりですね!それで、どんな方なんですか?」
美琴「へ?」
初春「贈り相手です」
美琴「………言わなきゃ……駄目、かな?」
初春「え?」
佐天「さすがに相手が分からないと………」

 言いたくないのだろうか、と思いつつおずおずと佐天が言う。

初春「好みとかは分からないんですか?」
美琴(うーん……巨乳、は好きなのかな?ってこの場合関係無いか。食べ物は……よく分からないわね。
    服装はいつも適当だし……あれ?もしかして私ってあいつのこと全然知らない!?)

 頭を抱えて考え込む美琴。

佐天「いやいや初春。相手の好みって実際言われると中々分からないもんじゃん?」
初春「確かにそうですねー。あ、じゃぁ、特徴とかはどうです?」

 『特徴』と聞かれて、美琴は目を閉じて再び考え込む。

美琴「………………………………………」
初春(あれ?何か御坂さん)
佐天(顔が真っ赤……?)
美琴「えっと、とりあえず馬鹿で鈍感な奴よ」
佐天「……ほ、他には?」
美琴「かっこつけで、見境無く他人の問題を勝手に解決しようとする……とか、自分を省みなさすぎるとか」
佐天「お節介な駄目人間ってことですか?」
美琴「え?違う違う、全然そんなことない!!あいつにも良いところはあるのよ。うんと、困った人を絶対見過ごさないとか、意外としっかりしてるとか」

255 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:43:00 ID:gZj5JP3E

 徐々に俯き、掛けていたマフラーの先を指で弄りはじめる。

美琴「誰とも分け隔て無く接するとか、私より強いとか……わた、私を守って……とか、真剣な目が……とか……」

 何かゴニョゴニョ言いながら真っ赤になっていく。
 それを見てさすがに二人は気付いた。

佐天「御坂さん、それってもしかして……ん?」

 見ると初春が佐天の袖を引っ張り、少し頬を赤らめながら首を振っていた。

初春「分かりました御坂さん。もう少しで良いプレゼントが思いつきそうです」
美琴「ほ、ほんと!?」

 パァッと美琴が笑顔になるのを見て、初春は若干心が痛む。
 しかし今は心を鬼にしなければならない。
 美琴とはそこそこの付き合いだ。「その人のことが好きなんですか!?」なんて聞いて、美琴が素直に答えるわけがないことくらいは分かる。

初春「本当です。ですが、もう少し詳しく教えて頂きたいので、とりあえずどこか座りましょう」

 初春の妙に真剣な眼差しに少したじろぎつつ、美琴は首を縦に振った。

 

 3人は別の階にある喫茶店で飲み物を買うと、その外側にある椅子に向かい合って座った。
 時期のせいか喫茶店の中は喧噪にまみれていて、重要な話をする場に相応しくないと初春が判断したためだ。

初春「それでなんですが」
美琴「うん」
初春「どういう風に出会ったんですか?」
美琴「え?それって」
初春「重要なことです!」

 初春の、さも重大そうな顔から逃れようと佐天の方を見ると、佐天も同様に重大そうな顔をして頷いていた。
 美琴は諦めたように話し出す。

美琴「6月に……馬鹿な不良10人くらいが私に絡んでた時に…………」
佐天「時に?」
美琴「助け……ようとしてくれた」
初春「お強い方なんですか?」
美琴「ん?強い……かもしれないけど一応無能力者よ」

 『見ず知らずの女性一人を助けるべく、10人くらいの不良相手に果敢に向かっていく無能力者』

佐天(そ、それって何て少女漫画?も、もう駄目初春。あたし顔がにやけるのを抑えきれない)

 と目で訴えつつ初春の背中をバシバシ叩く佐天。

初春(佐天さん我慢です我慢)

 などと目で返すが、二人の目尻はもう緩みきっている。

256 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:43:13 ID:gZj5JP3E

佐天「お、お二人の間で一番印象に残ってる出来事は何ですか?」
美琴「うーん。詳しいことは言えないんだけど、私が絶望の中にいた時に唯一あいつだけが気付いて、あいつだけが救い出してくれたこと……かな」
佐天(うは~!なにそれ。や、妬ける!)
初春「年上なんですか?」
美琴「うん。高一」
初春(ですよねー。さすが御坂さん大人!)
佐天「て、手は繋いだんですか?」
美琴「えっと、どうなのかな、繋いだと言えば繋いだし……」
初春「身長はどのくらいですか?」
美琴「私より頭半分くらい高いかな?」
佐天「き、キスはしたんですか?」
初春(ちょ、佐天さん)
美琴「ふぇ?きき、キスだなんて、何で私があいつと、そんなこと……」
佐天「してないんですか?」
美琴「………か、間接キスくらいは……ゴニョゴニョ」

 再び俯いて真っ赤になる美琴。

初春(み、御坂さんが可愛い)
佐天(なんという純情さ)

美琴「って!これちょっとプレゼントの話とは違わないかしら」
佐天「え、えーそうですかー?」
初春「あ、御坂さんは今のところどんなプレゼントを考えたんですか?参考にしたいんですが」
美琴「そうねぇ…………まず、手袋はとりあえず却下」
初春「へ?どうしてですか?」
美琴「なんというか、諸事情により…………」

 あの右手に手袋は色々まずいから、とは説明しにくい。

美琴「次に考えたのが、手編みのマフラー。実は途中まで作ってたんだけど…………」
佐天「やめたんですか?」
美琴「うん、諸事情により…………」

 ふと気付いたら模様がハート柄になっていたとは口が裂けても言えない。
 ちなみにとりあえず完成させている。

美琴「あとはセーターとか、手作りクッキーとかも似た理由により却下。他にも食べ物とか、救急セットとか、
    ゲコ太パジャマとか、開運グッズとか、もうよく分からなくなっちゃって……」
初春「えーっと………とりあえず容姿はどういう風なんですか?誰かに似てるとか」

 うーん。と美琴は考え込む。

美琴「説明するのが難しいわね。髪はツンツンしてて、体型は普通。顔は普通に卵形で、いつも不幸そうな表情をしてる……。
    身長はさっきも言ったとおりで、多分171cmくらいかな?」
上条「168cmだぞ」
美琴「あ、そのくらいか……………も………………???」

 美琴がギギギギとぎこちない動きで前を見ると、初春と佐天が二人仲良く両手で口を覆って驚いている。
 目元がにやけていて頬が赤いのは気のせいだろうか。
 再びグギギギギとぎこちない動きで後ろを振り返ると、噂の張本人がけだるそうに立っていた。
 学生服なのは補習だろうか。

257 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:43:32 ID:gZj5JP3E

上条「いっつも不幸で悪かったな」

 美琴は全力で顔を戻すと、膝を抱えて小刻みに震え出す。

佐天「ねぇねぇ初春。この人だよね、どう考えても」
初春「みたいですね。キャー超展開!」

 小声で話しているが、二人はもう興奮で何が何だか分からなくなっている。
 ふと目が合う。

初春「は、初めまして。私達、御坂さんのお友達をさせて頂いております。初春飾利と…」
佐天「さ、佐天涙子です」
初春・佐天「よろしくお願いします」

 その馬鹿丁寧な自己紹介に、上条の口は「おっ」となる。
 普通人で、かつ礼儀正しい人というのが周りにほとんど居ないせいか、こんなことにすら感動を覚えてしまう。

上条「ご、御丁寧にありがとうございます。俺は上条当麻という普通の高校生です。御坂とは………あれ?御坂、俺にとってお前って何だ?」
美琴「知らないわよ!自分で考えなさい。………ていうかアンタ、さっきの話、どどど、どこから聞いてたのよ」
上条「えーっと………俺は上条当麻という普通の高校生です。御坂とは」
美琴「だーーー!!それ以上言わなくて良いっつか無視すんなコラ!大体にしてアンタのどこが普通なのよ」
上条「別にいいだろ。良いだろ普通って!素晴らしいことじゃねぇか普通って!!」
美琴「何力説してんのよ!」
上条「……ああ、聞いてたのならツンツン頭がどうとかいうあたりだけど……お前いつまでそっぽ向いてんだ?」

 美琴はそれを聞いて胸をなで下ろし、2回ほど静かに深呼吸した後振り返る。
 何故かそれと同時に初春と佐天が顔を隠すように反対側を向いてしまったが、そんなことを気にする余裕は無い。

美琴「で、女子学生3人水入らずの所に何の用?」

 さっき上条のことを話していた時とは打って変わった態度に初春と佐天が少し驚く。

上条「お前、いつだったか『用が無きゃ話しかけちゃ駄目なの?』って怒ったことありませんでしたっけ?」
美琴「う、うっさいわね!…………ってもしかして、ほんとに用事無いのに話しかけたの?」

 用もないのに、女子中学生の輪に割って入るというのは、ただならない関係なんじゃないか?と考えて少し期待する。

上条「いや、用はあるんだけどな。ほら、俺の携帯未だにおかしくてさ-。この前の返事出せなかったから直接伝えようと思って」
美琴「……………で、何のメールよ」

 少しガッカリしつつ、返ってこなかったメールを思い浮かべながらそう尋ねる。

上条「12月24日の予定について」
美琴「うっ!」

 ちらりと初春と佐天の方を見ると、二人は直立不動でカチコチに固くなっていた。目は明後日の方を向いている。

美琴「そ、それで?」
上条「とりあえず……あのメールは本気なんでせうか?それともからかってるんでせうか?」
美琴「は?」
上条「いや、ほら!あるじゃん!『クリスマスの予定ってあるの?』って質問に期待を込めて『無いよ』って答えたら
    『やっぱりだろうと思ったキャハハー』っての!!こえぇ……女ってこえぇ!」
美琴「はぁ?」
上条「ああそうですよ、ありませんよ!土御門も青ピも何だかんだで予定あるって言うし、俺だけポッカリ状態ですよ!」

258 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:43:43 ID:gZj5JP3E

 実は上条にクリスマスの約束を取り付けようとする攻防は裏であったのだが、上条の不幸体質が大活躍した結果、
誰も予約を取り付けられないという奇跡的状況に陥っていた。美琴のメールも同様の理由だろう。
 ちなみに土御門と青髪ピアスは、「勝った。カミやんの不幸がフラグ体質に勝った!」などと訳の分からないことを言って喜んでいた。

美琴「ちょ、丁度良いわ。とあるレストランにクリスマス限定でゲコ太グッズプレゼントをやってるところがあるんだけど、
    複数人限定らしいのよ。というわけで付き合ってもらうわよ」

 早口でまくし立てる。

上条「………またそのパターンかよ。つか、そちらのお友達さんじゃ駄目なのか?」
美琴「あ……」

 マズった!と美琴は心の中で叫ぶ。
 確かにそういうキャンペーンをやるレストランはあった。あったというか全力で探した。
 しかし残念ながら「男女のペア」とは書いていなかったのだ。
 だからこそメールという、ツッコミが入れられにくい方法を取ったのだが……

美琴「アンタは…………嫌なの?」
上条「そういう事じゃねぇって、せっかくのクリスマスにグッズ目当てで俺なんかと居て良いのか?つってんの」
佐天(あ、鈍感だ)
初春(鈍感ですね)
美琴「……………………」
初春「わ、私達はその日ちょっと別の用事があるんですよ。ね!佐天さん」
佐天「え?……ああ、そうそう。そうなんですよ上条さん」

 良いタイミングで初春が助け船を出す。
 しかしどう考えても顔がにやけ状態であるのが分かっていたため、端から見ると嘘がバレバレだ。

上条「ん、そうなの?なら仕方な……って、お前そんなに頼める人少ないのか?」
美琴「んなわけ…………………」
上条「?」
美琴「やっぱそうよね。アンタもクリスマスまで私に振り回されたくないか」
上条「……何勝手に自嘲してんだよ。う、嬉しいに決まってんだろ?そうなったら」
美琴「え?」
上条「聞き返すな馬鹿。で?ホントにいいのか俺で」
美琴「…………………………」

 思いがけない展開に美琴が黙る。

美琴(これ、肯定したら色々やばいんじゃ……しかも初春さんと佐天さんの目の前で……ああもう!どうすればいいのよ。
    どうすれば………って、ああああ、アンタ、そんな私をまじまじと見るんじゃないわよ。居心地よくなっちゃうじゃないのよー)
美琴「ふにゃー」

 一瞬気付くのが遅かった。美琴から漏れた電撃は四方八方へ放たれる。
 幸い近くに人は居なく、初春と佐天の前には上条が割り込んだ。

上条「お、お前なぁ!!」
美琴「……ごめん」
上条「謝る前に電撃止めろおおおおお!」

259 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:43:53 ID:gZj5JP3E

 言いつつ美琴の左手首を掴んで事なきを得る。
 能力の暴発を友達の前でやってしまったせいか、美琴は恥ずかしそうに俯く。
 しかし初春と佐天は一瞬の出来事にほとんどぽかんとしていた。

上条「ほんと見境無しかよ」
美琴「あ、アンタが変なこと聞くのが悪いんでしょ!」

 悪態もいつもの勢いがない。
 とりあえず右手をこうしてれば大丈夫か、と上条が少しホッとしかけた次の瞬間、どこかで聞いたことのある警戒音が後ろで聞こえた。

上条(こ、このパターンは……)

 後ろを振り返ると、予想通り警備ロボが猛スピードで接近してくる。

上条「はははは……不幸だっ!」

 言い終わる前に全速力で逃げ出す。右手は美琴の左手首を掴んだままだ。
 振り返ると、一瞬遅れて初春と佐天も走り始めていた。
 一応、人にも商品にも損害はなかったようなので、警備ロボが途中で諦めてくれるだろう……なんて期待を込めつつ走る。

………………

上条「はぁ……お前と居るといつもこんな感じな気がする」

 とりあえず外へ出て、人気のない公園まで逃げまくった。
 ベンチに腰を下ろすと、昨晩雪が降ったせいかズボンがグチョグチョに濡れてしまい、仕方なく再び立つ。いつも通り不幸だ。

美琴「……………………」
上条(あれ?ツッコミなしですか)
上条「それで、手離して大丈夫なのか?」
美琴「うん」

 そっと手を離す。暴走は収まったようだ。
 初春と佐天と離れてしまったが、美琴の携帯に大丈夫だというメールが来ていたのを二人で確認して安心する。

上条「それでどうすんの?」
美琴「んえ?」
上条「24日の話」
美琴「…………私はアンタと一緒が良い」

260 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/25(金) 18:46:10 ID:gZj5JP3E

 走って疲れたためか、ずっと手を引っ張られていたおかげでぼーっとしているためか、何だか面倒になって美琴はあっさりそう言った。

上条「へ?」

 そして逆に今度は上条が混乱する番だ。

上条(あれ?ナニコレオカシイゾ。俺なにか間違えた?いや、これは罠に違いない。違い……ない?)
美琴「ま、細かいことは気にしない!アンタはせいぜい美琴センセーを喜ばせるためにプレゼントを準備しておけば良いのよ!」
上条「ん?プレゼントならもう用意したけどな」
美琴「ッ!!??」
上条「お前多分、嬉しくて卒倒します。はい」

 実はその事実だけで嬉しくて卒倒しそうだったりする。

上条「むしろその言葉、そっくりそのまま返してやろうじゃねぇの」
美琴「………あ!」
上条「ん?どした?」

 美琴は今更ながら、上条に渡すプレゼントをどうするか相談している途中だったことに気がついた。
 
美琴「ど、どうすりゃいいのよ………」
上条「だから何がだ?」

 

 ―――聖夜まで、あと3日。

_____________________________________

514 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/31(木) 17:12:38 ID:76VuflIw

 12月24日 PM6:17 晴れ

 御坂美琴は公園の前の道路に一人立ち、待ち人が未だ来ないことに苛立っていた。
 待ち合わせ時間は午後6時である。

美琴(全く、どうしてあいつはいつもいつも私を待たせるのかしら……)

 その日の美琴はモコモコした白いニットのコートに、赤を基調としたプリーツスカート、ニーソックスに猫の刺繍が入った手袋
といった出で立ちであった。そのコートはボタンが小さな花の形をしていたり、丸いぽんぽんが付いていたり、フードが動物の耳
のような形をしていたりと、相変わらず趣味が全開している。丈は股下あたりまであり、スカートがチラチラ見えている。
 もちろん中は制服でないため校則違反だ。
 その可愛らしい服装とは裏腹に、美琴の眉間は徐々に険しくなっていく。

上条「わりぃ御坂」

 駆けてくる足音と共に横から声を掛けられる。

美琴「アンタねぇっ!……………」

 用意していた文句を放とうと声のする方を向いたが、上条の姿を見た瞬間、出しかけた言葉を飲んでしまった。
 その代わり溜息が漏れる。

美琴「はぁ……でアンタ、今日はどんな事件に巻き込まれて、どんな女の子を救ってきたわけ?」

 上条はこの寒空の下、学ランだけの格好であった。こんな日にそんな格好なのもツッコミたいところだが、美琴の目は別の物に引かれる。
上条の体には所々擦り傷があり、よくみると顔も一部腫れていたのだ。

上条「い、いや。違う!断じて違います!これは………なんというか、男の友情を確かめ合うために拳を交えたというか何というか」

 それでも美琴は睨み続ける。
 上条はその視線から逃れつつ「さ、さぁ寒いしささっと行こうぜー」と美琴の脇をすり抜けようとする。
 が、美琴はそ上条の制服を掴むことでそれを制した。

美琴「ほんとのこと言いなさいよ」
上条「ほんとです」
美琴「………………………」
上条「………………………わ、分かった分かった。詳しく話す。だからそんな悲しそうな顔すんな」
美琴「別にそんな顔…………ん?」

 上条が目の前に1メートルくらいの大きな紙袋を差し出す。

上条「今日補習があって、その後コレの仕上げを学校でやって、一旦帰って着替えてから来ようと思ったんだけど、 途中でダチに捕まっちまったんだよ」
美琴「……で?」
上条「『上条当麻。そのあからさまにプレゼントっぽい物はなんだ?吐け、吐かねぇと絶対帰さねぇ』とか糞真面目な顔で言われて……
    粘ったんだけど、そいつらがあまりにしつこくてさ、仕方なく言ったら……」

 美琴が先を促すと、上条は少し恥ずかしそうに視線を逸らす。

上条「『常盤台のお嬢様とイブにデートだと!?』、『ぎゃー負けた。カミやんの不幸がフラグに負けたー!』、『殺す!!』とか言われて……」
美琴「…………」
上条「襲ってきたので、殴り合ってました。ごめんなさい」
美琴「…………嘘くさー」

 とりあえず『デート』という単語には触れないでおく。

上条「嘘じゃねぇって!このアザは土御門の馬鹿、こっちの傷は青髪の馬鹿だ!あいつら……今度覚えてやがれ」

 思い出して上条は怒りに震える。

美琴「まぁ、今回は信じてあげるけどさ。アンタ、あんま隠し事すると承知しないわよ?」
上条「ん、良いけど。何でお前がそんなに怒るんだ?」
美琴「ッ…………あ、アンタが馬鹿だからよ!」
上条「……わけ分かんねー」
美琴「ほら!」

 美琴は自分の足下に置いていた、上条の物より一回り小さい袋を漁ると、
中から白と水色のストライプ柄をした小包を取り出し、上条の胸めがけ投げつけた。
 上条はそれを危うく取ると、数秒して察したかのような顔をする。

515 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/31(木) 17:13:17 ID:76VuflIw

上条「ん、これって、クリスマスプレゼント」
美琴「じゃないわよ」
上条「へ?」
美琴「アンタあてじゃなかったんだけど、たまたま余ったのよ。アンタに貸すわ」

 美琴が開けるように促し、上条が赤いリボンをほどくと、出てきたのは黒っぽい手袋であった。
手の甲の部分には猫のマスコットが刺繍してある。
 上条はその愛らしい(悪く言えば子供っぽい)デザインに少しげんなりする。

上条「気持ちはありがたいけど、受け取れねぇよ、だって」
美琴「アンタが右手の能力を使ったら破けちゃうからって?じゃぁ今日は使わなきゃ良いじゃない」
上条「いやお前」
美琴「それとこれも」

 そう言って今度はオレンジの小包を投げてよこす。
 開けてみるとそれは青緑色のマフラーであった。
 何やら刺繍がしてある。

上条「……TOMAはーと?」
美琴(や、やば!1カ所直し忘れた!?)
美琴「か、勘違いしないでよね。それも同じ理由。親戚の『とうまくん8歳』にあげる予定だったけど、
    色々あって駄目になったから、今日だけ貸してあげるってだけよ!」
上条「……………」
美琴「返事は?」
上条「いやだからさ、俺が借りるのはまずいって。最近だって、不幸体質のおかげでどんどん防寒具が奪われていくんだぞ。
    預けてたら1時間くらいでボロボロになるのが目に見えてるっての」

 上条の何かを諦めたような表情を見て、美琴は少しイラつく。

美琴「……………………私が良いっつってんだから良いの。それとも柄が嫌なわけ?」
上条「いやそう言う訳じゃ」
美琴「ならありがたく受け取っておきなさいよ。はいはいさっさと付ける、ほら!」

 そう言って無理矢理上条をマフラーでぐるぐる巻きにすると、上条も渋々と言った感じで手に持っていた可愛い手袋を付けた。

美琴「あとこれ、ついでにあげるわ」

 美琴は何やらカード状の物を上条の左手に握らせた。
 どうやらお守りのようだ。

上条「………恋愛成就???」

 形はお守りだが、ピンク色のそれにはケロヨンとピョン子が描かれ、その間には『恋愛成就(はぁと)』と書かれてあった。
―――ように見えた。
 一瞬手袋のような物が目の前をサッ!と超高速で移動したかと思うと、
手に握られていたお守りは『幸福守』と四つ葉のクローバーが描かれたものに変わっていた。

上条(あ、あれ、幻視?俺、疲れてるのかな………)

 美琴の方を見ると、何故か上条を背にしてうずくまっている。

上条(何やってんだこいつ?つか、こいつってこう言うの信じるキャラだったっけ?)
上条「えっと……………さ、サンキュ」

 とりあえず好意は受け取っておく。
 一応右手では触れない方が良いかも、と思い左手でポケットに仕舞う。

美琴「安かったから、ついでに買っただけよ。これもクリスマスプレゼントじゃないから」

 何のついで?とは敢えて聞かないでおく。

美琴「さて!」

 美琴は立ち上がって静かに3回深呼吸すると、上条の方を振り向く。

美琴「左手出しなさい」
上条「?」

 言われるまま左手を差し出すと、美琴がそれを手袋をした右手で掴む。
 上条はふと、美琴のしている手袋の柄が自分のしているものと同じであることに気付いて少し可笑しくなる。

美琴「宣言するわ」
上条「ん?」

 美琴は上条を不敵に見つめる。

516 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2009/12/31(木) 17:14:13 ID:76VuflIw

美琴「今日は、アンタに能力使わない」
上条「………できればいつも使わないようにしていただけませんでせうか」
美琴「文句あんの」
上条「いや、無ぇけど」
美琴「んで、今日はアンタも右手の能力を使わない」
上条「へ?」
美琴「使ったら手袋が破けるでしょ。だから使っちゃ駄目。今日の私はアンタに幸せを届ける美琴サンタなのよ。
    だからアンタに降りかかる不幸は私が」

 バシャッ。
 話している途中で、昨夜降った霙で出来た大きな水たまりの上を車が猛スピードで走り、二人に大量の冷水を掛けていく。

上条「………」
美琴「………私が振り払うから!」
??「キャー!避けてー!」

 美琴が声に反応して上条の後ろを見ると、公園の隣にあるマンションから茶色い花瓶が放物線を描いて飛んできていた。
 このまま行くと上条の頭にクリーンヒットしそうである。

美琴(どうやったら花瓶がそんな軌道で飛ぶような状況になるのよ!!)

 思うが早いか頭の先から電撃を放とうとする………が、数瞬遅れて上条も気付いたらしく、「あぶねっ!」と言って美琴を押し倒す。
美琴は花瓶の方を見ていたためそれに対応できず、真後ろに倒される。
 カシャンッという妙に小気味良い音が二人の横50cmくらいの所で響いた。

美琴(う……あれ?酷い倒れ方したと思ったのに痛くない)

 美琴の頭や体と地面の間には上条の腕が挟まれていた。
 その事により美琴の真っ白なコートは泥まみれにならずに済んだが、代わりに上条の制服が泥まみれになり、そればかりか
さらに傷が増えることになった。
 美琴は出鼻を挫かれた事と、それを防げなかった自分に腹を立てる。

上条「御坂、大丈夫か?」
美琴「わー!耳元で囁くな馬鹿!」

 美琴は立ち上がりながら上条の制服の泥を手で払う。

美琴「アンタ、もうちょっと私の力を信用しろっての」
上条「しょうがないだろ。咄嗟だったんだから」
美琴「今日くらいはこの御坂美琴センセーを頼んなさい。アンタを不幸じゃなくて幸福にするってのが私からのプレゼントなんだから」
上条「へ?」
美琴「あーあー。血出てんじゃないのよ。ちょっと待ってなさい。救急セット持ってるから」

 上条は少し面食らう。
 考えてみれば、さっきの状況でビリビリしてこないのは美琴らしくないな、と美琴が消毒液を探すのを眺めながら思う。

美琴「ちょっと何でこのセット、消毒液が入ってないのよ!」
上条「俺に怒るなよ」

 美琴はキッと上条の方を睨んでから、逡巡してガーゼを取り出し、それに口を付ける。
 どうやら唾液で消毒しようとしているらしい。

上条「お、おい、それくらい自分で」
美琴「うっさい何赤くなってんのよ!任せろっつってんでしょうが」
上条「赤くなんかなってねーよ!」

 ギャーギャー文句を言い合いながらも、美琴は手際よく消毒し四角い絆創膏を貼り終える。

美琴「全く、さっさと行くわよ。ほら、左手」
上条「なんつか、気持ちはありがたいけどさ、あんま無理すんなよ」

 実は内心かなり嬉しいのを抑えてそう言う。

美琴「無理なんかしてないわよ。レベル5舐めんな」

 そう言って上条の左手を乱暴に取る。
 敢えて左手なのは上条に能力を使わないという誓いを忘れないためであり、かつ上条の不幸に対抗するためには能力が必要であったためだ。
恐らくそこは伝わってるだろうと美琴は考える。
 手袋越しとは言え、手を繋ぐという行為に内心ドキドキしつつ、それを抑えるため気付かれないように何度も深呼吸をする。

美琴「行くわよ、ってもうこんな時間じゃん!走らないと」
上条「お、おい、ちょっと待て」

 上条が道路に横たわっていた大きな紙袋を掴むのを確認すると、美琴も自分の袋を持って二人で走り出す。

601 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:06:58 ID:zDD4oKyw

12/24 PM6:51 晴れ


美琴(なんつーか、こいつの不幸を舐めてたわ)

 あれからも色々あった。
 車に轢かれそうになること2回、不良に絡まれた女の子を助けること2回、因縁を付けられること1回、財布を落しかけること1回、
女性にフラグを立てること5回(内2回は美琴に対して)などなど。
 その全てを電撃や深呼吸、さらには素数を数えたりして乗り越えてきた。
 一度上条に本気でビンタしかけて、寸前で止めたのは御愛敬。

上条「そろそろ止めた方が良いんじゃねぇかなー、と上条さんは提案してみるんだけど」
美琴「しつこいわね、辞めないわよ。この程度の逆境むしろ望む所よ。それにそろそろ慣れてきたところだわ……」

 ふふふ。と美琴は不気味に笑う。
 体力というより心労でどうにかなりそうだったが、それでも今まで致命的な不幸は回避できているはずだ、と自分を励ます。
 不意に、上条の手を引く美琴が立ち止まる。

上条「今度は何だ?」
美琴「着いたわよ」

 言われて見上げると、そこには一件のファミレスがあった。大きさはジョナサンと同じくらいだろうか。
 普段は本当に何の変哲もないであろう外観だが、クリスマス仕様なのかツリーやらイルミネーションやらで彩られている。

美琴「予約……6時半なんだけど」

 悪い予感しかしないな……と二人で同じ事を思うが、そこはお互い口にせず黙って入店する。

店員「御坂様ですね……申し訳ございません。御予約されていたお席の方がですね、現在埋まっておりまして。
    ただいまからですと2時間待ちになってしまうんですよ。別のお席でしたらすぐに御用意できますがいかがいたしましょうか?」

 予感的中。
 いかがいたしましょうかと言われても、二人は頷くしかない。
 二人は中年女性の店員に先導されて間仕切りがあるスペースへ通される。

店員「こちらになります。料理の方はコースになっておりますので、随時ご用意いたします」

 その空間を見て二人は言葉を失った。
 薄暗い2畳程度のスペースはデコレーションリースやチカチカ光るランプなどで飾られ、窓からは外のツリーが見えている。
中央にはテーブルが置かれ、その上には星形のキャンドルやスノーマンの人形が飾られていて、いかにもクリスマスという幻想的
な雰囲気を演出していた。
 そこまでは良かったのだが、問題なのはテーブルの前にあるソファであった。

美琴(……何で一つしかないのよ、これに二人で座れっての?)

 そのソファは二人で座ると少し窮屈と思える程度の幅しかなく、肘掛けも付いているため密着は必至である。

美琴「あのー」
店員「それではごゆっくりどうぞ。ふふっ」

 店員は妙な笑みを残しながら行ってしまった。
 そこでやっと気付く。

美琴(わわっ!私達いつまで手繋いでるのよ。思いっきり勘違いされて変な気回されただけじゃん!)

 二人が通されたのは恋人向けに設えられた席であった。美琴が予約したのは普通の席である。
 慌てて二人は手を離してみたが、それで何かが解決するわけでもない。
 さてどうしようか、と二人は考えたが、考えたところでどうしようもないのは目に見えていた。
 お目当てのグッズは後で渡すと言われていたし、上条にしてもこのまま何も食わずに帰るという選択肢はあり得ない。
席を替えてもらおうにも、店は嘘偽りなく混んでいて望み薄だろう。
 美琴がそっと上条の方を見ると、似たようなことを考えていた上条と目が合う。上条は気まずそうに目を逸らす。
 どちらにとってもかなり気まずい。上条はとりあえず適当なことを言って誤魔化すことにする。

602 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:07:13 ID:zDD4oKyw

上条「しかし、あちーな」
美琴「そ、そうね」

 学園都市は電力の多くを風力発電から得ているため、基本的にエコなどという感覚は薄い。
 結果的に冬は暖房の設定温度が高くなる。
 美琴はコートと手袋を、上条はマフラーや手袋、ついでに汚れていた制服の上着を脱ぎ、備え付けのハンガーに掛ける。
 ふと上条が美琴の方を見ると、着ているセーターには可愛い犬のキャラクターが描かれていた。
 上条は何気なしにそれを見つめてしまう。

上条(やっぱこういう可愛い系のキャラ物好きだよな、こいつ)
美琴「な、何見てんのよ」

 美琴はその視線に居心地が悪くなり身をくねらせる。

美琴「悪かったわね子供っぽい服で。どうせ見せることないと思ったのよ」
上条「いや、んなこと考えてねーって」
美琴「どうだか」

 などとやってると、間仕切りの戸がノックされる音がした。

定員「お料理お持ちいたしました」
上条「し、仕方ねぇ、座るか」

 ここでオロオロしていてもどうしようもないし、店員に「おやおや(笑)」などと思われるのも癪だったので、上条はとりあえず座ることにする。

美琴「あ、アンタこっち。私こっち」

 美琴は慌てて上条を引っ張り、ソファの左側に座らせる。
 上条は不審な顔をしたものの、別段拒否する理由も無いのでそのまま座る。
 普通に座ると本当に密着しそうなので、二人はお互いに出来るだけ端に寄ろうとするが、肘掛けがあるので寄るに寄れず
更に真ん中が少し窪んでいるためどうしても両者の距離は空かない。お互いの肩と肩の間は5cmあるかという程度である。

店員「失礼します」

 少しでも動くとくっついてしまいそうなため、二人は姿勢良く固まりつつ料理が並べられるのを見守った。
 やがて店員が出て行く。

美琴「えーっと」
上条「あっ、そうだ!」

 居たたまれなくなったのか、いきなり上条がおどけたような明るい声を出して、美琴はそれに驚きビクッとする。

美琴「なな、何よ」
上条「先にこれ渡しておくべー」

 上条はソファの左側に置いていた大きな紙袋を持ち上げた。
 美琴も実はかなり気になっていたのでそちらを向く。

美琴(わ、顔近っ)

 が、顔を真横に向けると上条の頭がほんの近くにあることに気付き、顔の向きは戻し、目だけそちらを向いた。

上条「卒倒するとか前言ったけどよ、過度な期待はしちゃ駄目ですぞ?」
美琴「分かってるわよ」

 それを確認すると、上条は大きな紙袋からどうにか中身を取り出して美琴の目の前へ差し出す。

美琴(……クマ?)

 大きな、頭からお尻までで70cmはありそうな、お手製のクマのぬいぐるみであった。
 テディベアと言うには少し素人くさいかもしれないが、そこが逆に愛嬌があって可愛い。

美琴「……………」
上条「どした?」

 しかも、クマの顔はどことなく上条にそっくりであった。

美琴「……………」
上条「おーい………もしかして気に入らなかったか?」

 美琴は黙って静かに両手を上げ、そのクマを受け取ると、静かに抱きしめる。

美琴「……………やばい、嬉しくて卒倒しそう」
上条「ほ、ほんとか?やー良かった良かった」
美琴「アンタ、よく私の好みが分かったわね。しかも何気に上手いし」
上条「いやお前の好みって、モロバレだろ……。上手いのはアレだ、家の隣の奴に少し手伝ってもらった」
美琴「……………女?」
上条「……………俺が住んでるのは男子寮です」
美琴「ふーん」

603 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:07:26 ID:zDD4oKyw

 実は美琴の想像したとおり、手伝ってもらった相手は女で、しかも美琴の知り合いである土御門舞夏であった。
 ぬいぐるみの顔が上条似なのは舞夏の仕業である。

上条(俺は嘘は言ってない。言ってないぞ…………って何で俺は言い訳してんだ?)

 実は今回のプレゼントで上条はかなり悩んでいた。
 『常盤台のお嬢様』にプレゼントの金額で見栄を張ってみたところで意味はないし、そもそも張れるわけもない。
 そこで思いついたのが美琴の可愛い物好きであった。初めはゲコ太シリーズだけ好きなのかとも考えたが、色んな言動や御坂妹の例なども考えて、
可愛い物は全体的に好きなのだろうという結論に達し、オーソドックスかつ安上がりであろうクマのぬいぐるみにしたのだ。
 
上条(しかし、手作りにしたら安く済むかと思ったけど甘かったな。まぁ喜んでるみたいだから良いか)

 美琴はふかふかしたぬいぐるみをひとしきり堪能して、再びぬいぐるみの顔を見つめる。
 見れば見るほど上条にしか見えない。見つめてる内に何だか体がポカポカしてきて、徐々に居心地が良くなっていく。

上条「ま、お前のには負けるけどな」
美琴「え?」

 その言葉は美琴にとって意外だった。

美琴「なんだ、アンタ喜んでたの?てっきり迷惑なのかと思ってたけど」
上条「いや、まぁ、何というか、俺の不幸が誰かを傷つけるのは正直嫌なんだけど。
    そうやって、俺の不幸体質に一緒に立ち向かってくれた人ってのは…………ほとんど居なかったろうからさ。多分」
美琴「………………」

 言い淀み、自分のことを『だろう』で話した理由を察して、美琴は黙る。

上条「だからさ、ありがとな」

 それでもすぐ近くで上条の笑顔を向けられて、美琴は再び居心地が良くなる。

上条「御坂?」
美琴「うん」
上条「御坂さん?」
美琴「な、なによ」

 二人は見つめ合う。

上条「ビリビリを仕舞ってください」
美琴「ふぇっ!?」

 気持ちが高ぶりすぎたのか、電気が少しずつ漏れていってるのを指摘されてようやく気付く。

美琴(マズイ!)
 
 慌てたせいか、頭の先を中心に電撃が飛び散りそうになる。
 咄嗟に、美琴は上条の右手を左手で上から掴んだ。電撃が止まる。

美琴「………………ごめん、ギブ」
上条「左様ですか」

 何がギブアップなのか分からないが上条は適当に答える。最近美琴が漏電体質になっていることは分かっていた。
 美琴はとりあえずそのまま深呼吸を繰り返してみるが、どうにも上手く出来ず、単に息が荒い人みたいになってしまう。
 左手の感触がやけに鮮明に思えて、鼓動は速まるばかりだ。
 徐々に頭が霞がかっていき、まるで上条に酔っているような気分になる。

美琴(にゃゎー。もう駄目。限界)

 美琴は何かを諦めて脱力し、頭をコテッと上条の肩に載せる。
 頭、肩、腕、脚が軽くくっつき、そこから相手の体温が伝わってくる。

上条(ちょ、ちょっと御坂さん!?)

 その感触や、美琴から漂ってくる良い匂いに上条は慌てる。
 美琴はというと、何故か不思議と落ち着いていくのを感じていた。
 今なら普段言えないことでも言えそうな気がする。

604 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:07:37 ID:zDD4oKyw

美琴「アンタさ」
上条「……な、何ですか」
美琴「もっと私を頼んなさいよ」
上条「むしろ体重は今頼られてるぞ」

 上条は体の重心を美琴と反対側に少しずらしてみるが、もたれ掛かった美琴はそのままくっついてくる。
 仕方なく重心を元に戻すと、より密着状態になる。

上条(何してんだ俺はっ!頑張れ……頑張れ俺の理性)
美琴「私はアンタが記憶喪失だって知ってんだから、辛い時は辛いって言っていいし、知りたいことがあれば聞けばいい。
    愚痴だってこの御坂美琴お姉様が聞いてあげるっつってんのよ」
上条「…………その話か」

 少しシリアスな話に、上条はやや落ち着きを取り戻す。

美琴「それだけじゃない。アンタは私に変な気を使う必要なんかこれっぽちも無いんだからね。隠し事もしなくて良いし、何でも正直に話せばいいのよ」
上条「…………そうだな。美琴サンタだもんな」
美琴「そうよ…………で?」
上条「ん?」
美琴「何か聞きたいこととかある?アンタが覚えてないこととか………もっかい言うけど、気兼ねなんかしなくたっていいんだからね。つかすんな」
上条「……………そうだなぁ。なんつうか、知りたいってのもあるけどさ、知っても何がどうなるってわけでもないし、
    短いとは言え、今の俺が俺であるのはあの日からの記憶によるものが大きいからな。別にいいよ」
美琴「……………」
上条「ま、気持ちだけ受け取っておくよ」
美琴「……………アンタさ」
上条「ん?」
美琴「まだ私に気を使うつもり?」
上条「……………」

 図星である。
 美琴はまだ上条がどの段階で記憶喪失になったかを明確には知らない。
 上条の美琴に対する態度は、まだ『周りを傷つけないようにする』というスタンスを脱していなかった。

美琴「あーもういいわ。アンタが記憶を無くしたのはいつ?」
上条「……………」

 上条にとってこれは一番されたくない質問だったかもしれない。
 そこさえ知られなければまだ誤魔化しようはあったはずだ。自分のためだとか偽って、周りを壊さないことも出来たはずだ。
 美琴にもそれは分かっている。分かっていて、敢えてその質問をしたのだ。
 長い沈黙。何も動いていないはずなのに、テーブルのキャンドルが揺れて、それに合わせて二人の影もゆらゆらと動く。

上条「言わない」

 その返答に美琴は溜息をつく。

美琴「アンタ、まさかその程度で私が傷つくんじゃ……とかくっだらないこと考えちゃってるわけ?」

 わざと小馬鹿にした態度で言う。
 なのに美琴の表情は驚くほど真剣であった。しかしその顔は上条からは見えない。

美琴「見くびってんじゃないわよ」

 今度は重く、上条を殴りつけるように言う。
 二人の間に再び沈黙が流れる。遠くにある厨房の音が妙によく聞こえた。

上条(はぁ。見くびんじゃないって………お前、さっきから手震えてんじゃん)

 触れていないと分からなかっただろうが、美琴の左手は微かに震えていた。本人は気付いていないかもしれない。
 しかし、だからこそ、美琴の気持ちが解かった。
 それならば、上条は拒絶するべきではないと考える。
 どちらも辛いのであれば、せめて本人の望むべき方を取らせた方が良いだろう。
 上条も覚悟を決める。

上条「俺の記憶で、最初にお前に会ったのは、8月10日。自販機前。御坂妹と白井が居た時だ。覚えてるか?」

 瞬間。美琴の脳は上条の記憶の中から、上条が覚えていないであろうものを割り出す。
 予想はしていたが、その抗いようもない事実に胸を刺されたかのような衝撃を受け、体がこわばる。上条の右手を握り直し、指を絡ませより強く握る。
 それに気づき、上条は静かに歯噛みする。そして、ただ美琴の左手を強く握り返した。

上条「おい、御坂?」

 美琴は顔を伏せてしまって震えている。

上条(まさか、泣いてんのか?)
美琴「ププッ」
上条「は?」

605 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:07:52 ID:zDD4oKyw

 美琴は突然ニヤニヤした笑顔を上条に向けた。
 上条はかなり面食らう。

美琴「てことはアンタ、『アレ』覚えてないんだ。ふーん。こりゃーからかいがいあるわ」
上条「……ちょっと待って下さい御坂さん。そういうのは反則ではないでせうか。死人に鞭打つような酷い行為ではないでせうか」
美琴「いやいや、だって『アレ』覚えてないんでしょ?あの、アンタが、あんな、裸で…………あいや、ごめん!言わない方がアンタのためかな」
上条「うわ、なんだそれ気になる!でも知りたくない!っつか嘘だろ?な?嘘だよなぁ御坂。嘘と言って下さいお願いします!!」
美琴「ま、嘘ってことでいんじゃないのー?」
上条「ぐあああああああああああやめろおおおおおおおおおおおおお」

 さすがに上条はちょっと泣きそうにな顔をする。
 いきなり元気を取り戻して、さっきのは一体何だったんだろう―――なんて、さすがの上条でもそんなことは思わない。
 美琴の手は未だ震えているのだ。
 だから、強く握り返しておいて明るく振る舞う。美琴がそれを望むのなら。

上条(何だよ。結局こいつだって俺にいらねぇ気使ってんじゃねぇか)

 しかし今日だけは咎めないでおいてやる、と心の中で独りごちる。
 今日の美琴は幸福を運ぶサンタクロースであるから仕方がない。

美琴「つか私お腹空いたわ。さっさと食べちゃいましょ。後でケーキも来るし」
上条「そうだな…………」

 上条はそう言って、今や恋人繋ぎ状態の右手を持ち上げてぶらぶらさせる。

美琴「あ、それで、アンタの昔のことは食べながらながら話してあげるわよ。まずは『~出会い編~』からね」
上条「おい」
美琴「6月頃だったかしら、私が夜」
上条「無視すんな!俺はサウスポーじゃねぇぞ!」
美琴「………ごめん。無理。今離すと多分ビリビリ出ちゃう」
上条「………どうすりゃいいんだよ」

 目の前に御馳走があるのに食べられない。そのうえ、正直この状態は恥ずかしすぎた。
 しかしここで離して、またビリビリされても困るのは確かである。
 仕方がないので右手から出来るだけ意識を逸らし、食べ物の方へ向く。

上条「よし!」

 右手を負傷して左手のみで生活していた時もあったのだ、やれば出来るはずである。
 上条は左手で割り箸を持つと、とりあえず唐揚げを摘み上げてみた。

美琴「お、上手い上手い」
上条「てめ、他人事みたいに……あっ」

 口の近くまでどうにか運んだは良いが、一瞬気が美琴の方に逸れたせいでポロっと落す。
 
美琴「おっと、はい」

 それを下で美琴がキャッチし、そのまま摘んで上条の口元に持って行く。
 悔しそうな顔をする上条。

美琴「ほら、あーんは?あーん……ッ!」

 自分で言っておいて美琴は猛烈に赤面する。

美琴(何馬鹿なことやってんの私。この状態って100%恋人同士じゃないのよ)

 しかし上条としては小馬鹿にされているようで更に悔しい。
 だから、腹いせに思い切って美琴の指まで豪快に咥える。

美琴「うわっ!ば、ばば馬鹿何やってんのよ」

 上条の柔らかな唇の感触に美琴は驚き、素早く右手を引っ込める。

上条「うむ。美味。お前の指含めて」

 意地悪そうに言う。

美琴「…………」
上条「っておい、無言で手ぇ離そうとすんな!」

 そっと離そうとした美琴の左手が、上条の右手に握り返される。
 本気でやる気かどうかは知らないが、この近距離での電撃攻撃はかなりまずい。

美琴「……おしぼりか何か拭くもの無いかしら」

 上条をジト目で見つつ、油が付いた右手の指を中空でワキワキしながら尋ねる。
 ハンカチは持っていたが、コートの中であった。

上条「いや……なんか無いみたいだぞ、ってスプーンあるんじゃねぇか」

 テーブルの上を見回した上条は先割れスプーンを見つけ、それに手を伸ばす。

美琴「そ、そう。無いなら仕方ないか」

 そう小声で言って指を舐める。そして舐めてからまた猛烈に赤面して後悔する。

美琴(だから私は何やってんのよー!!)

606 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:08:03 ID:zDD4oKyw

 やはりどうにも上条とこの距離で、しかも手を繋いでいるなんて状況だと自分の言動がおかしい。
 幸いにも上条は料理と格闘中で気付いていないようであった。
 一人で赤面していてもしょうがないので美琴も割り箸を手に取り食べ始めるが、
こんな状況で美味いのか不味いのかなんて分かるわけもなかった。仕方がないので箸を休め、元の話に戻る。

美琴「で、さっきの話。アンタは聞きたい?」

 一応念を押してみる。
 上条は一瞬、話すのは辛いんじゃないかと思い躊躇うが、先ほどのやりとりを思いだしてそれを振り払う。

上条「まぁ知りたいですな。いつ頃だって?」
美琴「6月中頃。私が夜、繁華街を歩いてる時に、ナンパに会ったのよ」
上条「…………………へ?」

 まさか、それが俺?と上条は絶句する。
 夜の繁華街で、常盤台の中学生をナンパ。今の自分からは考えられない。それほどの違いがあるのか、と。

美琴「10人くらいの馬鹿な不良に」
上条「…………び、びびった」
美琴「私がナンパされたことが?」
上条「違う違う。俺がナンパしたのかと思って」
美琴「…………ふーん。アンタが私をナンパするってそんな驚くようなことなんだ。ふーん」
上条「ん?した方が良かったのか?」
美琴「し、知らないわよそんなの!勝手にすればいいじゃない馬鹿!!」
上条「わけ分からんキレ方すんな。しかしそいつらつくづく馬鹿だな。よりによってお前に絡むなんて」
美琴「そうね。でも、それより馬鹿な奴が、私を助けようとかアホなこと考えて割って入ってきたのよ」
上条「うーわ、真性の馬鹿ですな。放っといても解決するというのに」
美琴「それがアンタ」
上条「……………………………と、とてもナイスなガイですね。10人くらいの不良に掛かっていくなんて惚れちゃいそう」
美琴「不良を倒したのは私だけどね」
上条「か、かっこ悪すぎる。上条さんったら本気で落ち込むぞ」
美琴「それ以前に掛かっていくも何も、アンタは『知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦』とか何とか言って
    誤魔化そうとしただけよ。アレはどう考えても無理あったわ」
上条「……………………………ま、まぁ、10人相手ならそうするしかねぇからな」
美琴「その作戦を私がぶち壊して」
上条「…………」
美琴「不良に絡まれたアンタは、何か不良を説得し始めたわ。私をガキだのガサツだの反抗期だの罵って」
上条「ははは。大正解………痛っつ!」

 美琴は上条の足を踏みつけた。
 能力は使わないと言ったが、攻撃しないとは言っていない。

美琴「そんでアンタもろとも焼いてやったんだけど、アンタにだけ効かなかったのよ!ムカついたからそれから随分追い回してやったわ」
上条「なんだ、やっぱガキでガサツで反抗期なんじゃ………っと」

 再び足を踏もうとするのを上条は避ける。
 避けられて美琴は表情をムッとさせて、プイっとそっぽを向く。

美琴「ま、ちょっと嬉しかったけどね」

 そしてボソっと呟く。

上条「へ?」
美琴「はいはいおしまーい。それが『~出会い編~』よ。他に何か聞きたいことは?」
上条「う、うーん。聞いて良かったような悪かったような……あ、そうそう、俺がお前を打ち負かしたってのは何だったんだ?
    まさか俺がお前殴り倒したとか……」
美琴「………………悔しいからあんま言いたくないんだけど」
上条「なら別にいいよ」
美琴「話さないなんて言ってないでしょ!……私の攻撃、本気の一撃も打ち消されて、私がアンタにビビって勝手に負けを認めただけよ。
    アンタは結局私に一回も攻撃してこなかったけどね。ムカツクことに」

 その言葉に上条は少し安堵する。

上条「ほ、本気の一撃って何だよ……雷でも落したのか?」
美琴「そうよ。でっかい奴ね」
上条「……………俺に?」
美琴「アンタに」
上条「……………お、俺よく生きてたな。つかお前それ殺人未遂じゃん」
美琴「びっくりね」
上条「少しは悪びれろよ」

 まぁ今に始まったことじゃないか、と上条は時系列を無視して独りごちながら、再び料理に手を付ける。

607 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:08:15 ID:zDD4oKyw

上条(しかしそんな一撃を食らわした奴と、今こうして恋人同士のような状況になってるというのはどういうことなんだ)

 と少し考えるも、上条的には『昨日の敵が今日の友』となるのは日常茶飯事であったため、まぁそんなこともあるかと適当に結論づけてしまった。
 一方、美琴はぼけーっと行儀悪く箸をねぶりながら上条の行動を見つめる。

上条「御坂」
美琴「ふぇ、何?」
上条「そこのパスタみたいなの食いたいんですけど」
美琴「……ああ、はいはい」

 先割れスプーンでパスタは無理である。
 美琴は口から箸を抜き、パスタをそれに絡める。

上条「つか何でパスタがあってフォークが無いんだよ。後で店員に言うか」
美琴「まぁ食べたかったら私が食べさせてあげるわよ。はい」
上条「あん。お、いけるなこれ」
美琴「ほんと?私も食べ…………」
美琴(これ、私の箸じゃん!私ってばまたボケボケなことを………)

 再び赤面して顔が熱くなる。
 しかし薄暗いせいもあって上条は気付かない。

美琴(つか、こいつはもうちょっと間接キスにリアクション取っても良いんじゃないの?)

 だんだん自分だけオロオロしている状況に腹が立ってくる。
 そして上条も動揺させてやるという、妙な対抗心に駆られる。

美琴(負けないわよー!)

 意を決してパスタを口に運ぶ。

美琴「……………」

 味なんて分からない。
 その代わりに顔から火が出そうだ。

上条「な、旨いだろそれ」
美琴「そそそそ、そうね。他には何食べたい?」
上条「え、いや取れるものは自分で取るって」
美琴「遠慮してんじゃないわよ。手がふさがってるのは私のせいなんだから」
上条「………んじゃぁ……それ」
美琴「………はい」
上条「んー、ちょっと味薄すぎだな」

 自分でも食べてみる。
 どっちみち味はよく分からない。
 その代わりに目は回った。
 そんなことを数回繰り返した結果、美琴自身が満身創痍に陥る。

美琴(な、何なのこいつ。鈍感にも、程が、あるでしょ……)

 心の中でどうにか叫んで、上条をトロンとした目で見つめる(本人は睨んでるつもり)

美琴(………ん、あれ?)

 薄暗くて今までよく分からなかったのだが、よくよく見ると上条の顔が赤い。
 試しにパスタを少しだけ箸に絡め、上条の口へ無言で持って行く。

上条「み、御坂?俺はそろそろもういいって。なんつか、その……ケーキもあるんだろ?腹いっぱいになってもアレだしさ」

 上条は目を逸らしそわそわしている。

美琴「んじゃー私が食べるわ。あん」

 そこでチラッと上条を見ると、うわーそれお前そんな舐めちゃうのうわー、とでも言いたそうな間抜け面をしている。
 それを見て美琴は心の中でガッツポーズする。

美琴(やった。ついに勝ったわ、ざまーみやがれっつのこの鈍感野ろ……………あれ?)

 ちょっと待てよと考える、上条が鈍感なのは確かだが、それでもどこかからかは気付いていたらしい。
 それなのに自分は一膳の箸をさも当然の如く使い回していた。
 それが上条からはどう見えただろうか。
 『アンタとの唾液交換くらいどうってことないわよ』などと思われなかっただろうか。
 そこまで考えて突然焦り出す。

美琴「あの、あのさ!違うの、あの、その、勘違い勘違い!!」

 急に狭いソファの上で美琴が意味不明なことを言いながら暴れ出す。声は裏返っている。
 今まで蓄積された上条成分のおかげで美琴の頭はもはや真っ白だった。

上条「おまっ、いきなりなんだ!割り箸振り回すなあぶねぇ!!」

 突然目の前でぶんぶん箸を振り回されたため、慌てて上条は左手で美琴の右手首を掴む。

美琴「えっっ!!??」

 能力を封じられた状態で、両手の自由を奪われるという状態に美琴はさらに混乱する。
 力では上条に勝てるわけがない。

上条「ん?つかお前、顔真っ赤じゃねぇか」
美琴「う、うん」

 思わず甘えた声で肯定してしまう。

608 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:08:28 ID:zDD4oKyw

美琴(えっと、うんと。こいつが『唾液交換くらいどうってことない』って思ってて、『私が顔真っ赤』と分かってるなら……)

 そして恐ろしく変な方向に勘違いした美琴は、そっと目を閉じる。
 緊張して体が少し震えた。

上条(へ?は??あれ???ちょっと待ってこれどういう状況ですか………いや、慌てるな、上条さんは知っている。
    俺はこんなおあつらえられた状況で素直にホイホイ間違うほど今まで柔な経験してねぇんだぜ!!)

 ここで勘違いによりキスなんかして、また雷を落されるような事態になるのはごめんである。

上条(落ち着け。落ち着いて考えろ上条当麻。まず、御坂は顔が赤い。これは間接キスの影響かもしれないが、よく見てみろ、
    御坂は震えてるじゃねぇか。具合が悪いのかもしれない。そして、俺はさっき顔が赤いことを指摘して、そしたらその後
    御坂が目を閉じたんだ。ここから導き出される答えは何だ!?)

 ハッ!!と気がつき上条は生唾を飲む。
 いくら上条が鈍感だと言っても一応健康な男子である。アレを気軽にするなんて出来ない。
 しかし美琴が本当に具合が悪いなら放っておくことも出来ない。
 意を決して上条は美琴に顔を近づける。
 美琴は僅かな気配でそれを察して、息を止めた。瞼に力が入る。

上条(ち、近い………)

 顔に掛かる髪の毛が一本一本数えられるくらいまで近づく。
 美琴の顔から発せられる熱が感じ取れる。
 そして…………………おでことおでこがくっつけられた。

上条「えっと………………ね、熱は無ぇみたいだぞー。多分」

 ふとした何かの間違いで口と口が触れるのではないかという僅かな距離で話し掛けられ、美琴は意識が飛びそうになり、思わず前のめりに倒れる。
 頭が上条の肩に落ちた。

上条「うわ、御坂?やっぱ具合悪いのか?」
美琴「………………………………う、うん」

 色んなことが頭の中を巡って、美琴にはそう応じるのが精一杯だった。


―――5分後


上条「落ち着いたか?」
美琴「…………うん。大丈夫」

 美琴は上条が体の上に掛けたコートに顔を埋めて、上条の方を見ずに言った。
 落ち着くにしたがって、さっきまでの自分の行動を振り返って憂鬱になる。正直そこから逃げ出したいくらいだった。
 そんな状態のなか、再びノックがされる。

店員「しつれーしまーす。ケーキお持ちしましたー」
上条「あ、はい」

 店員が入ってくると、美琴は未だ恋人繋ぎ状態の左手をサッとコートの中に隠した。
 上条の右手が美琴の太ももに触れて、上条は内心ドキッとする。

店員「あ、こちらもお先にお渡ししますね」

 若い女性店員は小さめのホールケーキを置くと、ついでトレイから透明な袋に入ったカエルのフィギュアを上条と美琴の前に置いて出て行った。

美琴「来たっ!」

 それを見て美琴が突然元気になる。
 実はクリスマス仕様の限定フィギュアというのは知っていたが、実際にどういうものか見るのは美琴も初めてだった。
 手が片方塞がってるので、右手で自分の前に置かれた物を見る。

美琴「ふむふむ。限定物にしてはクオリティ高いわね。可愛い!」

 手に取ったのはピョン子がサンタクロースの格好をしているフィギュアだった。
 出来は良かったが、左に妙な凸凹が付いている。
 もしやと思い、上条の方に置かれたものを見ると、サンタクロースの格好をしたケロヨンの右側にも似たような凸凹が付いていた。

上条「それ、繋がるのか?」

 どうやらその通りらしい。

美琴「ちょっと手伝って」

 手が塞がっているので、美琴の右手と上条の左手でそれらをくっつけてみと、見事に一つのフィギュアが完成する。

美琴(なんだか、ケロヨンとピョン子が恋人っぽく見えるわね)

 男女ペア限定とは書いていなかったが、その実このプレゼント企画は結局ほとんど恋人向けであったのだ。
 美琴は再び外して、ピョン子の方だけをポケットに仕舞う。

609 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:08:44 ID:zDD4oKyw

美琴「そっち、アンタにあげるわ」
上条「ん?これって両方無いと意味ねぇんじゃねぇの?」
美琴「良いから。今日付き合ってくれたことのお礼よん。こんなレア物、そうそう手に入らないんだから」
上条「つか、俺にはカエル趣味ねぇし……」
美琴「細かいこと言ってんじゃないわよ。私が良いんだから良いの」
上条(……いや、それだと今日の目的がよく分からなくならないか?)
美琴「あ、でも無くしたら殴るからよろしく」
上条「……………何だよそれ」

 上条はその理不尽な発言に脱力したが、面倒なのでとりあえず携帯にでも付けておけば無くさないかな、とか考えつつポケットに仕舞う。

上条「さて、ケーキ食うか。切るぞ?いやその前に味見」
美琴「あ、ずるっ!私も」

 二人は上に付いていた生クリームを指ですくい舐める。

上条「!?」
美琴「!?」

 二人仲良く絶句。

上条「な………何だこれ、美味すぎるだろ。俺こんなケーキ食ったことねぇ!!何この滑らかな舌触り!?」
美琴「何これ、学舎の園にあるケーキ屋さんより美味しいじゃないのよ。何なのよこの絶妙な甘さ!何なのよこのファミレス!?」

 二人してぎゃーとひとしきり叫んだ後、妙な静寂が二人の間に流れた。

上条「と、とりあえず切り分けるぞ」

 上条がナイフを左手に持ち、小さいホールケーキを半分に切ろうとする。
 しかし左手なためか、それとも欲望が顔を出したのか、ナイフは正確に真ん中を捉えず少し右へずれる。

美琴「ちょっと!アンタそりゃ無いでしょう!」

 あまりのケーキの美味しさのせいか、臆面もなく叫ぶ。
 幸いケーキはまだほとんど切られていなかった。

上条「ご、誤解だ誤解!手元が滑ったんだ!」
美琴「いい、私が切る!」
上条「ちょ、ちょっと待て、やっぱずれてないか?」
美琴「どこがよ」
上条「ちょっと貸せ」
美琴「嫌よ」

 仕方がないので上条はナイフを持ったままの美琴の右手を掴んでギリギリと右へ押す。

上条「こうだろ?」
美琴「こうよ!」
上条「ならこうだ!」
美琴「もうちょっとこうよ!」
上条「まぁ、それだな。よし、切るぞ。いいか?まっすぐ切るぞ」
美琴「ちょ、ちょっと待って!!」
上条「あん?」

 ナイフが1cmくらい沈んだところで、初めて美琴は冷静になった。

美琴(ちょっと待ちなさい。え?何これ何?これってアレでしょ?アレよね!?…………結婚式の)

 自分でも馬鹿なことを考えているなと思うが、意識してしまうともう止まらない。
 緊張して手が震える。

上条「おい御坂!そんな緊張するな。大丈夫だ、ケーキは逃げない。最悪切り分けた後で比べればいいことだ、な?」
美琴「う……」

 上条に相づちを打とうとして、上条との距離が物凄く近いことに気付きさらに参ってしまう。
 自分の心臓がバクバク言うのが聞こえ、震えは更に大きくなる。

上条(チィィッ!背に腹は代えられない)

 などと妙なテンションで心の中で叫びつつ、右手を美琴の左手から一瞬離し、美琴の肩に回す。
 それに美琴はビクッと震え、さらにカチコチになる。

上条「御坂、落ち着け、深呼吸だ。深呼吸。はい一緒に、ひっひっふー!!」

 上条も相当ハイになっているためか、意味の分からないことを口走る。

美琴(ちょ、お願い。やめて、息が掛かる。もう、死んじゃうぅぅ)
上条「ええいもうどうにでもなれクソ!」

 むしろ震えが大きくなった美琴を見て、上条はほとんどやけくそ気味に美琴の右手ごとナイフを押し込み、ケーキを両断した。

上条「ふう。完璧に真っ二つだ。意義無いよな御坂」

 美琴は喋らず思い切り縦に首を振る。
 上条が右手を肩から離すと、すかさず手を左手で握り直す。正直今幻想殺しが無ければ上条どころか店がやばい気がする。
 二人は座り直すとケーキを食べ始める。上条は左手だったが、ケーキくらいは食べることができた。
 両者それぞれ色々混乱したものの、そのケーキの美味しさはそれらを帳消しにするくらいの出来映えだった。
 これがデフォルトのメニューなら定期的に通いたいと思える程である。

617 :■■■■:2010/01/02(土) 11:06:08 ID:HWWRhasU
ケーキ入刀とかニヤニヤが止まらない

614 :■■■■:2010/01/02(土) 09:11:07 ID:20kET7z6
こういう時の「ひっひっふー」は鉄板だなw

610 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:09:00 ID:zDD4oKyw

美琴「はぁ、御馳走様」
上条「御馳走様。これ単品でねぇかな。追加注文したい」
美琴「クリスマス限定って書いてるし無理だと思うわ……ってアンタ、口の横に生クリーム付いてる」
上条「ん、どこだ?」

 どれだけむしゃぶりついたのか、上条の口の脇には結構な量の生クリームがベッタリ付いていた。
 本人はどこに付いてるか分かっていないようである。見当外れな場所を左手でペタペタ触っている。

美琴「馬鹿ね、ここよっ」

 美琴は笑いながらそれを人差し指で拭う。
 人差し指に生クリームが付いた。

美琴「えっと………………………」

 上条と顔を見合わせる。

美琴(この後どうすれば良いんだろう?)

 美琴は考え出す。
 案一、どこかに拭う。

美琴(そんなもったいないこと出来ない!気が狂うほどに美味しいのに!!)

 案二、自分でペロリと舐める。

美琴(んな恋人のテンプレみたいな行為できるか馬鹿!!)

 案三、上条に舐めさせる。

美琴(……………………………………一番あり得ないわ)
上条「おい、どうした?固まっちまって、それどうすんだ?」
美琴「う、うっさいわね!考え中………っつか考えるまでもないわ」

 そう言って美琴は脇にあったコートのポケットから小指と親指でハンカチを取り出す。

上条「お、おい!ちょっと待て、それをどうする気だ!?馬鹿な真似はやめなさい!!」

 慌てて叫んで美琴の右腕を掴む。

美琴「な、何すんのよ。他にどうしろって言うのよ!」
上条「どうするって…………………な、舐めたい」
美琴「ちょ、ちょっとアンタ、目が血走ってるわよ?」

 上条はもはやそのケーキの虜であった。はぁはぁと息を荒げ、美琴の人差し指の先に付いたクリームをジーッと見つめている。
 今にも食いついてきそうで美琴はややたじろぐ。

上条「嫌なのは分かるが、お願いします。舐めさせて……下さい」
美琴「な、何馬鹿なこと言ってるのよ」
上条「……………………………ダメ?」
美琴「ッ!!??………………だ……………駄目、よ」

 上条の渾身のお願いにやや折れそうになるが、すんでの所で耐える。

上条「はぁ。そうかぁ、不幸だなぁ」
美琴「ッッ!!!???………………わ、分かったわよ。勝手にしなさいよもう」

 さすがにこれは今日の趣旨的に諦めざるを得ない。
 美琴はそう言うと指を突き出しそっぽを向く。

上条「さすが美琴センセー。も、物わかりが良いぜ。はぁ…はぁ………で、ではいただきます」

 そう言って美琴の人差し指をパクリとほおばる。

美琴(うわ、生暖かっ………舌が変な感じ!)

 チュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパ。

美琴「ちょっ、いつまで舐めてるのよ。や、やめっ……あっ……ば、馬鹿……」

 1ミリグラムも残すまいという程に細部まで綺麗に舐めとられる。
 肉と爪の間をペロペロしたり、指の横腹をツーと舐められたりして、美琴は初めての感覚に動揺する。

美琴「い、いい加減離せ馬鹿ー!!」
上条「ああああ。まだ味がー」
美琴「残ってないっつのこの変態!!」
上条「ぐぁ!」

 美琴は思いっきり指を引いて、その手で上条の頭に強烈なチョップをする。
 結構効いたようで、上条は頭を抱えてうずくまってしまった。
 かと思った次の瞬間にガバッと起き上がる。

上条「う!!な、何か悪い夢を見ていた気がする」
美琴「アンタ、あれだけやっておいてその言い草ってどうなのよ」

 美琴はハンカチで指を拭きながらジト目で睨む。
 さすがに今回は舐めない。舐めたら意識が飛びかねない。

上条「こ、怖ぇーこのケーキ。美味すぎて頭が馬鹿になったかと思った」
美琴「アンタ元から馬鹿でしょ。ま、まぁケーキについては同意するわ」

 もしや学園都市で開発された何かヤバイ物が入っているのでは?と思わせるほどの美味しさであった。
 中毒になってもマズイのでもう食べない方が良いかもしれない、と二人は思った。

611 :寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/01/02(土) 02:09:46 ID:zDD4oKyw

 そうこうしてる内に店員が来て、決められた時間が過ぎそうであることを告げらる。
 普段は時間制ではないが、クリスマスは特別仕様であった。
 二人は退出の準備をしようとしたが、問題は繋いだままの手である。
 来た時と同じ鐵は踏みたくない。

上条「さて、どうしたもんですかね」
美琴「ちょっと待ってて」

 美琴はそう言うとソファに深く腰掛け、目を半分閉じて動かなくなった。
 言われたとおり待ってると、2分ほどして目を開き、あっけなく手を離した。

美琴「前に学校で禅を習ったのよ」

 そう言うと立ち上がって伸びをする。

上条(何故それを最初にやらないんだ???)

 甚だ疑問だったが、今更そこを責めてもどうにもならないと思い、すっかり美琴の手の感触が染みついてしまった右手をワキワキと解すことにした。

美琴「あ、そう言えば、アンタお金大丈夫なの?何なら私が奢ろうか?」
上条「いやいいよ、さすがに自分の分は自分で払う。最近食費が浮いたからちょっとくらいは大丈夫だ。
    ほんとは俺が全部奢ってやるーって言いたいところだけど」
美琴「私の都合で来たんだからそれは遠慮するわ」

 そう言うと思った。という顔をして上条も立ち上がる。

美琴「んで」
上条「あん?」
美琴「次どこ行く?あ、帰るとか言ったら殴るから」
上条「…………………先に言うなよ」

 二人は店を後にする。

261 :■■■■:2009/12/25(金) 18:57:47 ID:mgTPk3l2
初春&佐天にGJ

264 :■■■■:2009/12/25(金) 20:49:22 ID:ksNSZgck
GJ、萌え死にそうです

266 :■■■■:2009/12/25(金) 21:44:18 ID:hC4VpDRU
ものすごくニヤニヤした

613 :■■■■:2010/01/02(土) 03:15:00 ID:Pms1xUM2
GJ!
輸血ー輸血ー血がたんねーぞー


616 :■■■■:2010/01/02(土) 10:40:19 ID:eeScYzNo
GJ
美琴可愛すぎ


619 :■■■■:2010/01/02(土) 14:54:19 ID:d/20rRNs
GJです!

269 :■■■■:2009/12/25(金) 23:25:52 ID:F74voByE
最高のクリスマスプレゼントをありがとう(;ω;)
一人で2828してました



当麻と美琴の恋愛サイド ―幸福の美琴サンタ―2続く