323 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:25:13 ID:qgR5BZfU

「どうすんだ?インデックス?」
「う~~~~~~っ」
目の前には、小萌先生から貰ったパンフレット。
『初日の出を見て、豪華おせち料理をたべよう 1泊2日の旅!!』とある。
上条が行くなら勿論問題なかったが、今回は正月に両親が来るとのことで、流石に同行できない。

上条の両親をとるか、おせちをとるか?
「…ごめんとうま。わたしはシスター。初日の出という聖なる光を浴びることで、一年の始まりとするよ」
「さすがシスターさんですね」
平坦な声で答えた上条に対し、シスターの口がわずかに開いた。ギラリと歯が輝く。


そんなこんなで、大晦日は上条は一人で大掃除など、のんびり過ごしていた。
寮内はがらんとしており、土御門も居なかった。
母親の上条詩菜と電話で話した内容から察するに、上条当麻は例年帰って無いらしい。
上条の不幸体質が、親戚からも疎ましがられていたせいだろうと推測できるが、
どの道記憶喪失では、親戚の集まる場には危険すぎて戻れない。
(まあ、1日ぐらいは平和な日があってもいーんじゃないですかね)
上条はひとりごちて、ぬくぬくとコタツとミカンとネコとTVの組み合わせで、一日を過ごした。

久々にベッドに手足を伸ばした体勢で目覚め、元旦を迎える。
両親とはホテルで待ち合わせて、そこで美味しいものでも食べよう、ということになっている。

「う~ん」
9ヶ月前、入学式で使用した以来と思われる、スーツとネクタイを着けてみたが…着慣れてない感アリアリである。
そもそも記憶喪失でネクタイの結び方も調べないと分からない。
詩菜が強く、一年の始まりくらいビシッと!と珍しく主張したので、やむをえずといった所である。
「ま、こんなもんかね…さてと、いきますか」
両親は前日遅くにホテルに入ったはずである。まだちょっと両親に会うのに緊張する自分に苦笑いする上条であった。

ピロリン♪
メール着信音がなり、モノレールでうつらうつらしていた上条は内容を確認する。御坂美琴からだ。
『明けましておめでとう 今年もよろしくー』
やたらシンプルだが、まあ彼女らしいとも言える。ちゃちゃっと返信し、また目を瞑る。


ホテルは結構な人出であった。
今回の上条のように、両親が来る形の家はホテルで過ごすパターンが多いようだ。
あちこちで親子が話している光景を見かける。
(えーと、2階のサロンだったよな…)
階段はどこだ、とキョロキョロしていると。

つんつん。

遠慮がちに背中をつつかれる。
振り返ると、うつむいた振袖姿の女性である。
顔はよく見えないが、、、いや、まさか?
「み、御坂か、ひょっとして?」

「なんでこんなトコにいるの?」
御坂美琴がじっと見つめてきた。
324 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:25:37 ID:qgR5BZfU

「お父さん、久しぶりっ!」
「うんうん、さすが我が娘。美しく育っておるな!」
御坂旅掛は久々の娘との対面に目を細める。
「美琴ちゃん、パパの胸に飛び込んじゃえ♪」

大晦日、学園都市のホテルにて、親子三人水入らずの再会である。
ディナーを楽しみつつ、美琴や旅掛の話は尽きることがない。
「美琴ちゃん、彼氏の話はしないの~?」
「それは…聞き捨てならん話だな」
「な、何の話よ!いないわよそんなの!」
「じゃあ百歩譲って好きな男の子の話でも」
「ええい黙れ!アイツはそんなんじゃないって言ってるでしょ!」
「アイツ…?」
「そ、アイツっていう仲の男の子がいるのよね~美琴ちゃん」
「だからちがうッてば!」
ここぞとばかり美鈴の美琴いじりが混ざりつつ、楽しい時が過ぎてゆく。


美鈴が動き出した音で、美琴は目を覚ました。元旦の朝だ。
「あら起きちゃった?明けましておめでとう美琴ちゃん」
「うん…明けましておめでとー」
「まだ寝ぼけてるとこ悪いけど、すぐ振袖着る?」
「ううん、モーニング食べてからでいいわ…」
動きやすさを求めて短パンを履くような美琴には、長時間の振袖はややツライ.。

父親のシングルルームを訪問すると、もう身なりを整えて新聞を読んでいた所だった。
このあたり、旅慣れている旅掛は洗練されている。
「お父さん、明けましておめでと」
「おお、明けましておめでとう。そろそろ下に食べに行くか」
「うん、準備できてるよ」

「あんまり食べてお腹こわさないようにね。振袖だと色々大変よ」
「うん…でも今日はおせちバイキングよ?これ食べちゃダメって拷問だわ」
普段から来てるわけではないので比較できないが、元旦のモーニングは特別仕様らしい。
「係の人に言えば、少しなら持ち帰りできるんじゃないか?」
「そうそう。ちょっとは我慢なさい。」
「はぁい。なによその普段からガツガツ食べてるような言い方…」


部屋に戻り、しばらく雑談した後、振袖の着付けを始めた。ほとんど美鈴任せである。
帯を締めて貰っている間にぼんやりと考える。
(アイツいま何してんだろ)
そうだ!と新年の挨拶のメールを打つ。色々考えたが、初っ端から後悔しないよう、シンプルにした。
すぐ返事来るかなあ、と思ってると、携帯に即反応が!
『明けましておめでとう! 電気は大切にね!』
(あんにゃろう)
と思いつつ、浮かんでくるニヤニヤ笑いを止められない美琴であった。
「なにニヤニヤ…さては!信じられないわ、親使ってる間にラブラブメールだなんて…」
「そんなワケないでしょ!さっさと締めてよ!」
「やれやれ、新年からアテられてやんなっちゃうわ。」
そっぽを向いて赤くなっている美琴は気づかなかった。美鈴に黒い笑みが浮かんでいたことを。

着付けが終わり、メイクもバッチリ決めて貰った。今度は美鈴が支度するということで、
「ちょっとブラブラしてくるね~」
と、ロビーまで降りて、内心(みんな見て見て~)といった期待感で、周りをみわたす。

え?
後ろ姿だが、見間違え様の無い、あのツンツン頭。
か、上条当麻が居る…美琴は一気に沸点に達した。
(なんで?なんで?)
しかも正装というか、初のスーツ姿っぽい。
(と、とりあえず挨拶だけでも)
自分のカッコ、おかしくないよね?と念入りにチェックして、いざ。

背中をつついてみる。とても顔を見られない。
「み、御坂か、ひょっとして?」
「なんでこんなトコにいるの?」
美琴は、(声が震えてないかな…)と思いつつ、問いかけた。

325 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:25:52 ID:qgR5BZfU

上条当麻は息を飲んだ。
(これが御坂…か?)
普段は校則上もあるだろうがナチュラルメークであり、ボーイッシュな可愛らしさと認識していたが。
今回はメークで瑞々しさをパワーアップさせており、振袖と相まって色気まで感じさせる。
(ちょっと正視できねーな。女の子って変わりすぎだろ)

美琴は、何も答えないばかりか挙動不審になった上条を、不審そうに見つめていたが、
「え、えっと改めて。明けましておめでとう」
「あー…、明けましておめでとう」
「で、なんでココにいて、なんでそんなカッコなの?」
「いやー、親とここで会うだけだけどな。お前こそなんだよ、そのカッコ」
「わ、私は毎年、親と年末年始をここで過ごしてて…」
その時。

「あらあら~、先に会っちゃったのね~~」
上条詩菜が手を頬に当てながら現れた。

「か、母さん!」
「うふふ、明けましておめでとう、当麻さん、美琴さん」
「あ、明けましておめでとうございます」
「あけましておめでとう…じゃねーーーっ!『先に会った』てどういうことだよ!」

「あ、まっずー。もう会ってんじゃん。」
時を同じくして、ロビーに駆け下りてきた美鈴に美琴は食って掛かる。
「ア、アンタまさか…」
「偶然だと思った?美琴ちゃん」
「じゃあ…」
「そう、詩菜さんと示し合わせてね。このホテルで会ったのは偶然ではなく必然でいす」
「な、なにやってんのよ!」
美鈴はそれには答えず、上条に手を振る。
「あっけましておめでとおー、上条くん…いや、当麻くんって呼ぶわね♪」
「あ、…明けましておめでとうございます。一体何たくらんでんすか美鈴さん」

詩菜と美鈴が合流する。
「じゃあ詩菜さん、取り敢えず、予約した部屋にいきましょうか。予定狂っちゃったけど」
「そうですね~、ウチの人呼んでこないと」
「待て待てマテーーー!無視しないで答えろーー!」
上条は母親たちに叫ぶ。
美鈴はくるっと振り向いた。

「ただのお見合いよ」

「………は?」
上条と美琴はハモった。

326 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:26:22 ID:qgR5BZfU

上条家は当麻・刀夜・詩菜の順、
御坂家は美琴・旅掛・美鈴の順、で向い合って座っている。

(どうして…)
(こうなった…)
まだ、上条と美琴は呆然としている。

「さて、お集まり下さった皆様」
司会進行は美鈴が取り行うらしい。
「本日は新年サプライズ企画といたしまして、上条家・御坂家の合同お食事会を開きたいと思いまぁす!」
ぱちぱちぱち~、と詩菜だけが手を叩く。
「テーマは『当麻・美琴の擬似お見合い~』。ちなみに、パパさんたちも、今!初耳でございま~す!」
母親と子どもたちの目が父親に向かう、が、様子が変だ。

お互い探り合うような顔をしており、
上条刀夜は比較的気楽そうな表情、御坂旅掛は何やらいぶかしげな表情をしている。
(ちょっと無茶な企画だったかしら…)
(しーらない、お父さん怒らせちゃってー)
御坂母娘が居心地悪くなり始めた、その時、旅掛が口を開いた。
「そうか、ロンドンの居酒屋…か?」
「ピンポーン♪酔っ払ってたから憶えてないか、と思ったがね」
「…くっくくく。なるほどなるほど…。面白い、それならこの席もまた、一興」
「そうこなくてはね、ふっふっふ」
お互い、ニヤリと笑う。

「なんだよ、知り合いってことか?」
「ま、腐れ縁とでも思ってくれればいいさ。よろしく、上条くん。いや当麻くんと呼ぼうか。俺は旅掛でいい」
刀夜の代わりに旅掛が答えた。
「よ、よろしくです」
母親たちも父親同士が知り合いであることに驚いている。
「ねえ美琴ちゃん」
「な、何よ。」
間に父親を挟んでいるため、やや大声になる。
「母親は仲良し、父親は別ルートで知り合い、もう運命よこれ。アンタたち結婚するしかないんじゃない?」
「ばっ…・・!!」
美琴は真っ赤になって固まる。
(運命?呪いじゃないのか…?)
上条は周りがノリノリになってきた事を感じ取って、ゲンナリしていた。

(俺はどうにでもなるが、御坂は大丈夫なのか本当に)
上条は美琴を見ながら考えていた。
(好きでもない男とこんな席を設けられて、擬似とは言えつらくないのか…?)
アイツの性格からすると、直接聞いても強がるだけだろうしな、と考え込む。

(何だかアイツ、気乗りしてなさそう)
美琴はちらっと上条を見て思う。
(そりゃ私だってこんな強引な展開はちょっと…だけど。でも…)
やっぱり私とじゃ擬似とは言えこういう席はイヤなのかなあ、と少し悲しくなっていた。

327 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:26:38 ID:qgR5BZfU

詩菜が刀夜に耳打ちすると、刀夜は一瞬考え込む顔になったが、すぐに頷き、切り出した。
「えー、上条当麻の父、上条刀夜です。まずは新年の挨拶を改めて行いたいと思います。」
呼吸を整えた刀夜が一言、『明けまして、おめでとうございます』
「「「「「おめでとうございます」」」」」
何だかやたら息があったせいか、美鈴がクスリと笑い声を漏らす。

「まあ、妻たちがせっかく企画してくれたこの席、私は大いに楽しむべきだと思う。
 当麻、美琴さんもややこしい事は考えず、めったに会えぬバカな親たちに付き合ってあげてくれ。以上!」
拍手が巻き起こる。
(ま、そうだな。御坂も割りきって楽しんでくれてる、と思うしかないな)

「んじゃ俺からも。今回初めて当麻くんと会って…ということでだな。
 俺はコンサルタント業をやってる事も有り、人を見る目だけは自信がある。
 が、しかし今回に関しては、妻が当麻くんにベタ惚れであり、もはや嫉妬で判断ができない」
「さすが旦那、分かってるね~」美鈴がケラケラ笑っている。

「だから美琴、当麻くんへの判断は親の意見を取り入れず、お前が考えるんだ。
 お前の考えに俺は従うし、信じる。いい男だと思ったら、全身全霊でぶつかれ。それだけだ。」
「ちょ、ちょっと何マジになってんのよ!」
また真っ赤になった美琴が手をブンブン振り回しながら言い返す。
「ウン、まあ冗談だ。なにをマジになってるんだ?」
美琴は口をぱくぱくさせたかと思うと、プイッと横を向いてしまった。


「聞いていいのか分からないが、当麻くんは何か能力は持っているのか?」
「残念ながら無能力者ですね」
「しかし娘は君に勝てないような事を言ってたような気がするが」
美琴は真面目な顔で頷く。
「俺の右手には特殊能力がありまして、これは生まれつきなんです」
「! まさか原石か!?」
「…? 原石、ってのが何かわかりませんが、この手で触れると、あらゆる能力を打ち消せます」
「生まれつきなんだ」
美琴も初めて知った。
「それで御坂の電撃が俺には効かないんです。まあ女の子殴るわけにいかないし、俺も御坂に勝ったことないですよ」
「こうやって強者の余裕かますのよね、もう…」
美琴はジト目で上条を睨んだが、すぐ旅掛に問いかける。
「お父さん、原石って何なの?」

「簡単に言うと、天然の能力者だ。いうなれば美琴は人工の能力者だな。」
「嫌な言い方ねえ、それ」
美鈴が口を挟む。
「とはいえ、天然というだけあって非常に少ない。学園都市はその人材を集めているようだ」
「でもそれならアンタは原石と言えるんじゃないの?」
「うーん?初耳だけどなあ」
「確か、LV5の7人目が原石のはずなんだ。当麻くんも原石なら、少なくともLV0って判定にならないと思う」
「LV5って謎なのよね。7人いることだけは公表されても、誰が誰だか」
美琴は首をすくめた。
「ま、こういう席で難しい話はやめておこう。とりあえず君が最強の無能力者であることは、分かった。」

パンパン!と美鈴が手を叩く。
「じゃ、キリがいいみたいだから、皆さんそこのベランダから外へ出て、写真撮影しましょうか」
上条の顔に縦線が入る。
(こんなの御坂の引き立て役じゃねーか…もうちょっとマシなスーツはなかったのか、昔の俺。)
別段そこまでひどいわけでもなかったが、きっちり着こなしている父親勢の横では、確かに厳しいものであった…

328 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:27:00 ID:qgR5BZfU

いつも2ショットではトラブルになる写真撮影も、流石にベッタリくっつく必要の無い状況のせいか、
滞りなく終了した。振袖姿を撮って貰った美琴は上機嫌だった。
「あらあら、美琴さんホント可愛らしい~。こんな娘が欲しかったわぁ~」
「当麻くん次第で現実となるわよー。あたしだって当麻くんみたいな息子欲しいし」
キャッキャと母親同士が盛り上がっている。
「どうなんだよ、あの母親共は」
「あそこまでいくと、私も乗り切れないわよ」
2人してハーッとため息をつく。

振り返ると、父親同士も何やら話し込んでいる。
「ま、普通こういう話って父親同士が複雑な関係になりそうなモンだが…知り合いなせいか平和だな」
「ウチの父さんはクセがあるから、一般的な日本の父親じゃ合わない気がする」
御坂旅掛は長身でワイルドな風貌だ。まず雰囲気だけで圧倒されるだろう。

「ふー、ちょっとあのベンチに座るか」
「う、うん」
天気がいいせいか、さほど寒く感じない。
2人は並んで腰かけ、少しまどろむ。
「御坂、まあその…大丈夫か?」
「ん?何が?」
「無理やりこんな話になっちまってさ」
「こんなのお見合いでも何でもないでしょー。皆最初から知り合いなお見合いなんて聞いたことないわよ」
「ま、それもそうか…」
2人、黙り込む。

「アンタは…」
「うん?」
「アンタは…私と、擬似でも、こういうことするのは、イヤ、なの、かな」
美琴は言葉を千切るように問いかける。
「俺に関して言えば、お前が嫌がってないなら問題ねえ」
「ホントに?」
「ああ、好きでもない奴とお見合いなんて普通、嫌だろ。ま、普通お見合いは事前に好き嫌いも無いけどな」
何の気なしに美琴を見た上条は、固まった。美琴が目を見開いて震えていた。

「誰が?」
「?」
「誰が、誰を、好きでもない、の?」
「お前が、俺を」
「どうして?」
「って言われてもな。そうじゃないのか?」
「私そんなこと言ったことない…でしょ」
「そりゃ直接言われてないけど。俺はLV5のお前のプライドをズタズタにした男だろ?」
「…」
「まあ色んなこともあったし、嫌われてはいないとは思ってるけどな…好かれるような事もしてねえし」

限界、だった。
今までなら、電撃をぶちかまして怒るか、何らかの形で怒りを表現して立ち去っていただろう。
でも今回は、怒りでごまかせないほど、悲しみの方が大きかった。
手も足も動かせない。自分の想いがまるっきり空回りしていた悲しみに、あふれ…。

美琴はうつむくと、涙をとめどなく流し始めた。嗚咽もなく、拭おうともせず、ただひたすら。

329 :ぐちゅ玉:2010/01/17(日) 14:27:31 ID:qgR5BZfU

上条は大パニックである。
「ど、どうしたんだ御坂!」
さすがに気配で気づいた母親たちが駆けつけてくる。
美鈴と詩菜はどちらがどちらを見るか一瞬迷っていたようだが、
詩菜がカバンからタオルを取り出すと、美琴の隣に座って、何も聞かずにタオルで涙を押さえ始めた。

美鈴は上条を一定距離まで引きずると、手を頭にあて、どうしたもんかと考え込んでいる。
上条は悲痛な表情をしている。
「そうだねえ…」
美鈴はつぶやく。
「『好きでもない奴とよくこんな茶番に付き合えるなあ』みたいな事、言ったかな?」
上条はズバリ問われて驚愕する。
「な、なんで…」
「当たり?」
「まあそんな感じの…ですね」

美鈴は詩菜の言葉を思い出していた。
『あの子は、何もせずに自分の都合の良いことは絶対に起こらない、って思っているみたいなんです。
 そして、生来の不幸体質が相まって、
 何かを救い、不幸が起こらなくなった事が最大の喜びになってしまったんです。
 マイナスをゼロにすること、そこに限界点を置いてしまっているんですよ。
 ゼロからプラス…つまり好意とかですね、ありえないと最初から遮断してしまってるんです。』

(ここで、美琴ちゃんはこう思ってるのよ、ていうのは簡単だけど、この子また同じミスしちゃうわね)
やっぱり我が娘に踏み込んで貰うしかないか、と考え込んでいる上条を見つめる。


美琴はようやく落ち着きを取り戻していた。
その様子を見た詩菜は、タオルを美琴の手に持たせ、「ちょっと外すわね」と父親たちの所へ向かった。
(最低だ、私…)
今度は違う感情が自分に襲いかかる。
さっきの感情は、「なぜ分かってくれないの!」という悲しみからだったが、よく考えれば。
会っては些細なことで電撃を発し、怒鳴っていた女を、誰が好いてくれるというのだ。
少しは好意持ってくれてるのかな、等とどうして思えたのか。
そしてそんな女の行為を見て、好かれているはずがない、と、上条が思うのは、当たり前だ。
また、涙が浮かんできた。タオルで目を押さえつける。

そして、今。
あのタイミングで泣いてしまっては、自分の想いも、ほぼ最悪の形で伝わってしまった。
御坂美琴が、上条当麻を、好きであること。
あんなにボロボロ泣いてしまっては、ちょっと好きとか、気になる、程度でない事もまず気付くだろう。
もう、昨日までの、淡い、友達以上かなと思えるような付き合い方も、終わってしまう。
万が一、受け入れられたとしても、泣いて脅したようなものだ。
受け入れられなければ、…それが当然なのであるが、もはやどうなるか自分でも分からない。

(なんで…こんなことになっちゃったのかな)
涙は永遠に枯れないのだろうか、と思うほどに、美琴は泣き続けていた。今度は声を殺しながら…


意を決した上条は、まっすぐ美琴の元に歩み寄り、真横に腰掛けた。

333 :■■■■:2010/01/17(日) 15:15:51 ID:8j4qf9Fc
これぞ上条さん。

416 :ぐちゅ玉:2010/01/18(月) 20:20:07 ID:Qc3zQRFQ

上条は美琴の真横、ゼロ距離でぴったりくっつくようにして座り、話しかけた。
「…ちょっと今から俺は好きにしゃべってるから、適当に聞き流してくれ。
 この距離が嫌なら、好きに離れていいし、席を立とうと構わねえ。俺はここにいる」
美琴は泣き止んだようだが、動かない。タオルを顔に押し付けたままだ。

上条は両手を組んで、肘を腿の上に置いたやや前傾姿勢を取り、話し始めた。
「俺さ、…お前との記憶は、自販機に二千円札を飲み込まれていて、お前が話しかけてきた時からなんだ。」
(…!)
美琴の心に衝撃が走る。
「御坂妹も現れたりして、そりゃもう大混乱さ。その後、シスターズの一人が殺されたのを見ちまって…
 お前んトコに忍び込んで事情を知って、…そうだ、俺はお前に白状しなくちゃならないことがある」
「橋の上でお前はこう問いかけた。『ソレを見てアンタは私が心配だと思ったの?私を許せないと思ったの?』と。
 そこでは確かに『心配に決まっているだろ』と答えたし、ウソじゃない。でも」
一旦、言葉を切った。
「橋の上のお前を見るまでは、『許せない』と思っていたんだよ。そんな冷酷非道な女だったのかと」

美琴はそれ自体には衝撃を受けなかった。あの資料だけだとそう思うに決まっているし、だからこそ聞いたのだ。
「そう、橋の上に佇んでいるお前を見るまでは。あの絶望を形にした表情を見るまでは。
 そして俺はコイツを救う、守ってやると心に決めた。二度とあんな顔をさせねえ、ってな」
上条はうつむいた。
「だけどさ」
美琴はハッとした。上条の声が、崩れた。

「情けねえよなあ。俺の一言で、お前にまたあの絶望の顔をさせちまった」
上条が…泣いている?
「何を偉そうに御坂を守る、だよな。…二度とさせねえと誓っておいて、テメエでやらかしたんだからな」
美琴からは上条の顔は見えない。しかし泣いていることは、分かる。
「本当に、スマン…」

少し間を置いて、上条はまた話し始めた。声のトーンは戻りつつある。
「何でもかんでも記憶喪失のせいにするつもりはないけど、俺は、人に…深く関われない。
 分かんねーんだよ。俺に向ける好意が、前の俺に対してなのか、今の俺に対してなのか…
 例えば、お前も知るインデックス、いるだろ。…アイツは俺に懐いてくれてるが、」
上条は目元を拭った。
「…俺はアイツをどう助けたのか、知らない。命の恩人だと聞かされちゃいるが、覚えていないんだ。
 俺はアイツが何歳かも知らない。いつ知りあったのかも知らない。知ってるのは前の俺だけなんだ」
美琴は、衝撃の告白に驚く。

ふーっ、と上条はため息をつく。
「記憶を失った俺が目覚めたとき、初めて現れたのがインデックスだったんだ。とうまは私を助けてくれた、と。
 推測だが、アイツを救った際に、記憶を失う衝撃を食らったんだろう」
上条は両手を組み直すような仕草をした。
「俺が記憶を失っている事を知ったら、自分のせいだと知ったら、インデックスはもう俺に呪縛されてしまう。
 それは絶対にダメだ。俺がやろうとしていた事、俺がやるべき事、その結果は俺が負うべきものだ。」

美琴は思い出していた。上条への想いを確信した、あの深夜の街灯の下での会話を。

417 :ぐちゅ玉:2010/01/18(月) 20:20:30 ID:Qc3zQRFQ

「…話が逸れちまったな。お前との話に戻る。
 お前の中にある俺との出会い、そのイメージは俺の中にはない。
 過去に、俺とお前にどう関わりがあったのか分からない…
 さっきの『LV5のお前のプライドをズタズタにした』というコトバも、実のところ推測だ。
 何をしたかも分かっちゃいねえ。」

「シスターズの件から始まり、絆はそれなりにお前とは結べていったと思う。
 そして、恋人ごっこや大覇星祭や罰ゲームや事件等を経て、俺の中で感じ取れていたのは…信用、だった。」
いや、信頼かな…ま、どっちでもいいか、と上条はつぶやく。
「電撃一つにしても、他の奴には即死級のモノをお前は俺に放つ。…俺が絶対止めると信用して。
 白井をテレポーターから助けた時だって、最後は俺に任せてくれた。信用して。」
上条は一息入れて、続ける。
「でも、感情に関してだけは分からなかった…失った記憶のこともあって、判断しようがなかった。
 嫌いなら、無視すればいいだけなのに、お前は絡んでくる。
 好きなら、お前ならストレートに来るんじゃないかとも思う。
 だから…」
一瞬、後ろの美琴を見るような仕草をする。
「だから、俺は…言葉にするとちょっと違う気もするが、『兄貴』みたいに思われているのかな、と思ってたんだ。」

ここで、初めて美琴は小さく喋った。「…兄貴。」
「…ああ、宿題を聞いてくるようなダメ兄貴、人のプライドをズタズタにする兄貴、好きか嫌いかと問われると
 『好きじゃない』と即答される兄貴、でも…兄妹であるが故に、信用だけは揺るぎない、といったような」

「俺が言った『好きでもないのにお見合い』ってのは、こういった思いから出たものだけど。
 正直深い意味で言ったわけじゃない、が、言い訳にすぎねえよな。お前をここまで傷つけたんだ…」
美琴は上条の言う意味を理解した…が。

「…少なくとも私にとっては、兄貴じゃない…。」
「…そうか、そうだよな。やっぱりもうそこからズレて」
「だって、兄貴なら、夢になんて出てこない!」
「え?」
「アンタが夢に出てきて、デートしてくれたり、抱きしめてくれたり!目覚めたら悔しくて!でも1日幸せで!」
美琴の声はタオルでくぐもっていたが、明確に聞こえた。
「それのどこが兄貴よ!それはッ…!」

美琴は上条を射抜くように見つめて叫ぶ。上条も左肩ごしに振り向いた。
「アンタぜんぜん私のことわかってないじゃない!記憶とか関係なしに!
 なにが好きならストレートよ。冗談じゃないわ!
 こんな電撃娘、アンタ以外のどこの誰が相手できるってのよ!
 私の力を恐れる人、受け止められない人と一緒になれるわけないじゃない!
 ううん、こんなチカラの話なんてきっかけに過ぎなくて、
 もう理由が上げられないほど好きなのにっ!
 私は…私はアンタに否定されたら、もうそこで終わりなの!
 アンタの代わりなんてどこにもいないっ!ストレートに、なんていけるもんですかっ!」

上条は凄まじいまでの言葉の奔流に圧倒される。
「ええ、ついに言っちゃったわよ。
 脅迫よねこういうの。
 つきあってくれなきゃ死ぬ、って言ってるようなモンよね?
 あーあ、だから今のままの関係でいきたかったのに…な…」
美琴の言葉はだんだんと力を失っていき…
そして、またタオルを目に当て、肩を震わせている。


『―――そんなお姉様にとって重要なのは、自分を対等に見てくれる存在と、まぁこんな所だと思いますのよ』
白井黒子の言葉が思い浮かぶ。
俺は、御坂の中でここまで大きい存在になってしまっていたのか…。
好き嫌いを超越した、必要不可欠な存在。
そんな中学生の女の子に、俺のことを好きじゃないんだろう、と言ったんだな。
くそっ、鈍感にも程がある。ほとばしるほど泣いて当たり前だ。

418 :ぐちゅ玉:2010/01/18(月) 20:20:48 ID:Qc3zQRFQ

(言ってしまった…全部)
これでもう自分は空っぽだ。全部こぼれてしまった。
ああ、でも涙だけは無くならないなあ、と美琴はタオルに顔をうずめてぼんやり考える。
でも自業自得だ。
あーあ、せっかくの元旦をぶち壊しちゃって、親もあちらの親もたまったモンじゃないわね。
なんかもう、このまま消える方法は…

(え?)
頬を押さえられたかと思うと、額に暖かいものが押し付けられた。
「…!」
タオルをずらして見ると、上条の唇が離れていくところだった。
「ええっ!」
美琴がのけぞる。
「お前、オデコしか見せてねーんだから、しょーがねえだろ。ま、親も見てるしオデコ以外は厳しいけど…」
「キ…スした?」
「…ああ。カミジョーさんはこれ以上失言は許されないし、実際言葉じゃ足りないし。態度で。」
「ど…どうして?」
「どうしてとか意味不明。さっさと美鈴さんとこいって化粧直して貰ってこい」
そう言って、上条は美琴を腕をとって立ち上がらせ、そのまま引いて美鈴の所へ連れて行く。

美鈴は腕組みしながら苦笑いしている。
「あら~、美女台なしね。おっけー、あたしに任しといて」
「んじゃ任せました美鈴さん」
上条は手を振ってベンチに戻る。美琴は相変わらず両手でタオルを顔に当てたまま呆然としている。


「王子様のキスはどうだった?オデコだったのが残念だったけど」
「え、えと、どういうことなの?キスとか、わかんない」
美琴はまだ何が起こっているのか把握できず混乱している。
「オデコにキスぐらいでオタオタするな!」
美鈴は美琴の胸をビシッと指差す。
「話はわかんないけど、美琴ちゃんが告白したんなら、当麻くんは受け入れた、って事だわよ」
(きっちり2人でケリつけるあたり…子供は勝手に育つものねー)


「あらあら~、雨降って地固まる、かしらねー」
「そうみたいですね。父親としては大変複雑ですが、ね」
「いい娘に育ってますな。喜怒哀楽がはっきりしていて、真っ直ぐだ」
「彼もいい男ですね。ちょっとプレイボーイぽくなりそうな気はしますが」
「あらあらー、私的には否定できないところを突かれちゃいましたわ、ね?刀夜さん」
「母さん、その振り方はやめなさい…」


上条は御坂母娘がホテル内に戻るのを目で追いつつ、
(とはいえさすがに俺の心が御坂一色という段階じゃねえ…)
下手をすると、その場しのぎだったのかとドロ沼になりかねない。
そしてインデックスや記憶喪失など、抱える問題も多い。
美琴が中学生と言う精神的に引っかかる所もある。

「ま、でも、2人で解決していけばいいんだよな。焦ることはねー…」
よっ!と立ち上がり、父親たちの所へ向かった。

419 :■■■■:2010/01/18(月) 20:36:01 ID:0itzzkp.
最後の数行が無ければハッピーエンドなのにw
後編への布石ですかい。GJ


420 :■■■■:2010/01/18(月) 20:44:39 ID:HjTngCbE
後編が楽しみです。
GJ!

421 :■■■■:2010/01/18(月) 21:15:02 ID:lJ0LfykU
後編待ってます

422 :■■■■:2010/01/18(月) 21:35:57 ID:jg73UTao
GJです。後編が楽しみです。

424 :■■■■:2010/01/18(月) 22:14:34 ID:q1r/AAIQ
ぐちゅ玉さんGJです。
デコチューはギャルゲーの特権かと思ったけど別にそんな(ry

426 :ぐちゅ玉:2010/01/18(月) 22:55:14 ID:Qc3zQRFQ
皆様ご評価ありがとうございますです。
後編は「美琴逆襲編」で構築しておりますが、ちょっと時間かかりそうです。
気長にお待ちいただければと思います~。


とある両家の元旦物語2続く