とある両家の元旦物語2続き
522 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:46:13 ID:WCyOcKio
自分の視界に泡まみれの女の子がいる。
10数メートル先の斜め後姿なので、色々と肝心な部分はもどかしいほどに見えないが。
近づいていって、何してんのよコラ! と言われる予定調和もアリだろう。しかし……
上条当麻は動けなかった。
今まで、あらゆる女の子のあられもない姿を、ラッキーなイベントで見てきた上条である。
その後高確率で起こっている袋叩きのせいで、必ずしも本人にとっては幸せな記憶とはなっていないが……
しかし、今回は。
惹かれつつある女の子の裸体は、格が違っていた。
下手な動きは、冗談が冗談でなくなる。
(落ち着け……しっかりしろ俺! 相手は中学生! 一歩外には親もいるんだぞ!)
湯面に写った自分の顔をにらみつつ、精神統一をはかる上条であった。……が。
すぐに美琴の一糸まとわぬ後姿が思い浮かび……
(ぬああああ! 精神統一!)
その繰り返しである。
(……なにやってんのかしら)
身動きしない上条に、御坂美琴は体を洗いながら拍子抜けな気分になっていた。
コメディマンガなら主人公があの手この手で裸を見ようと画策するタイミングである。
またあの男は、自分からアクション起こさないと反応してくれないのか。
もう恋人未満の微妙な関係でもないのに。
(いっつも勝手に駆けつけたりするクセに、こういう事はほんと何もしないんだから!)
美琴は泡を洗い流しながら、ま、こんな色気の無い身体じゃね、と自嘲する。
別に何かを期待しているわけではないが、このままお話して終りでは、さっきのソファーでの会話と何ら変わらない。
今度は頭を洗いながら、思案する。……興味ないなら、どうしてくれようか。
湯当たりしたフリをして、しなだれかかったらどうするかしら? 等と過激な事まで考え始めていた。
頭を完全に洗い終えた美琴は、さすがに上条の動きの無さ、に気が付いた。
(まさか、まさかとは思うけど)
何もイベントが起こらなかった意味でのため息をつき、美琴は立ち上がる。
また前だけをタオルで隠しながら、そろそろと湯船に近づき。
(まさか、恋人と初めての混浴中に)
後ろを向きながら、湯船に入り、タオルは縁に置き。
(寝てる、なんて、)
水面を見つめている様子の、上条の横手から接近し。
上条が目を閉じ、船を漕いでいるのを見て、美琴は本年初ブチギレた!
「ありえるかっ!!! こんの馬鹿ッ!!」
剛腕一閃。
美琴の怒りのラリアットは、居眠りしていた上条のツンツン頭を完璧に捉え、上条は仰向けにぶっ飛んだ!
「ぶぁふっっっ! どぶあばばばばあああああ!!」
沈んで一瞬溺れかけたが、我に返った上条が顔を出した。
……パニック状態が収まり、睨みつけている可愛らしい女の子を認識し、……サーッと青ざめる。
「……俺、寝てた?」
「そ、そんなに私って女として魅力ないっての!? 寝てしまうほどにどうでもいいの!?」
「ち、違う違う!」
上条はゾクッとした。……来る、不幸が来る! 長年付き合って来た不幸が、予兆を知らせる!
美琴が。いわゆる大事な箇所を、右腕と左手でそれぞれ隠した姿で、立ち上がった!
◇ ◇ ◇
522 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:46:13 ID:WCyOcKio
自分の視界に泡まみれの女の子がいる。
10数メートル先の斜め後姿なので、色々と肝心な部分はもどかしいほどに見えないが。
近づいていって、何してんのよコラ! と言われる予定調和もアリだろう。しかし……
上条当麻は動けなかった。
今まで、あらゆる女の子のあられもない姿を、ラッキーなイベントで見てきた上条である。
その後高確率で起こっている袋叩きのせいで、必ずしも本人にとっては幸せな記憶とはなっていないが……
しかし、今回は。
惹かれつつある女の子の裸体は、格が違っていた。
下手な動きは、冗談が冗談でなくなる。
(落ち着け……しっかりしろ俺! 相手は中学生! 一歩外には親もいるんだぞ!)
湯面に写った自分の顔をにらみつつ、精神統一をはかる上条であった。……が。
すぐに美琴の一糸まとわぬ後姿が思い浮かび……
(ぬああああ! 精神統一!)
その繰り返しである。
(……なにやってんのかしら)
身動きしない上条に、御坂美琴は体を洗いながら拍子抜けな気分になっていた。
コメディマンガなら主人公があの手この手で裸を見ようと画策するタイミングである。
またあの男は、自分からアクション起こさないと反応してくれないのか。
もう恋人未満の微妙な関係でもないのに。
(いっつも勝手に駆けつけたりするクセに、こういう事はほんと何もしないんだから!)
美琴は泡を洗い流しながら、ま、こんな色気の無い身体じゃね、と自嘲する。
別に何かを期待しているわけではないが、このままお話して終りでは、さっきのソファーでの会話と何ら変わらない。
今度は頭を洗いながら、思案する。……興味ないなら、どうしてくれようか。
湯当たりしたフリをして、しなだれかかったらどうするかしら? 等と過激な事まで考え始めていた。
頭を完全に洗い終えた美琴は、さすがに上条の動きの無さ、に気が付いた。
(まさか、まさかとは思うけど)
何もイベントが起こらなかった意味でのため息をつき、美琴は立ち上がる。
また前だけをタオルで隠しながら、そろそろと湯船に近づき。
(まさか、恋人と初めての混浴中に)
後ろを向きながら、湯船に入り、タオルは縁に置き。
(寝てる、なんて、)
水面を見つめている様子の、上条の横手から接近し。
上条が目を閉じ、船を漕いでいるのを見て、美琴は本年初ブチギレた!
「ありえるかっ!!! こんの馬鹿ッ!!」
剛腕一閃。
美琴の怒りのラリアットは、居眠りしていた上条のツンツン頭を完璧に捉え、上条は仰向けにぶっ飛んだ!
「ぶぁふっっっ! どぶあばばばばあああああ!!」
沈んで一瞬溺れかけたが、我に返った上条が顔を出した。
……パニック状態が収まり、睨みつけている可愛らしい女の子を認識し、……サーッと青ざめる。
「……俺、寝てた?」
「そ、そんなに私って女として魅力ないっての!? 寝てしまうほどにどうでもいいの!?」
「ち、違う違う!」
上条はゾクッとした。……来る、不幸が来る! 長年付き合って来た不幸が、予兆を知らせる!
美琴が。いわゆる大事な箇所を、右腕と左手でそれぞれ隠した姿で、立ち上がった!
◇ ◇ ◇
523 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:46:26 ID:WCyOcKio
しかし、それは一瞬だった。
激昂と、これならどうだ! とばかりに思わず立ち上がってしまった美琴であったが。
冷気にさらされて我に返り、ザバン! と勢いよく座り込み、口元まで湯に浸かってしまった。
上条は、あまりの衝撃に固まっていた。
頭のどこかで、早く何かフォローする言葉を吐け、と指令が出ているのに、動けない。
しかし、顔を真っ赤にして、斜め下をみつめるように顔を背けている美琴に、ようやく言葉を絞り出す。
「す、すまん美琴。今回は、いや今回も、俺が悪い」
「……、」
「寝ちまったのは……今日は色々ありすぎたせいかな、フッと気が抜けちまった……」
ある意味寝起きだった上条の頭が、ようやく回りだした。
「ただ、絶対に勘違いしないで欲しいのは、お前は女の子として、これ以上なく魅力的だから!」
ガバッと頭を下げ、必死に言葉を搾り出す。
「ついさっきまで倫理観とか言ってた俺がさ、うかつに動けないっつーか。今も、お前の肩に手を置いて、って思ってもだな。
ほんと根性ナシで悪いけど、できねーんだよ! ……あー、何言っても言い訳になっちまうな、本当にゴメンナサイ!」
上条は、ビクビクしながら美琴の反応を待つ。……美琴がため息をついた気配がした。
「……分かったわよ。じゃあ、背中向けて」
「はい?」
「背中! 伸ばしてね!」
よくわからないままに、湯船の中で上条は背中を向け、背筋を伸ばす。
ぴたっ、と適度に柔らかく、温かいものが背中に張り付いてきた。
「…………!!」
美琴が背中同士を――肩甲骨が当たらないようにややずらして、合わせてきたのである。
「こ、こそばゆいわね」
「……や、柔らかい……だ、だからお前なあ、俺の鉄の意志を砕きにかかるんじゃねぇえええ!」
「根性ナシの鉄の意志? 硬いんだか柔らかいんだか……」
そのまま美琴は頭を上条の肩に乗せた。湿った髪が、上条の頬をくすぐる。
「はふー、しあわせ~……」
「……手を伸ばせば届くんだいい加減に始めようぜ上条当麻いやだめだ終わってねえ始まってねえ落ち着け俺……」
満ち足りた美琴の裏で、上条はブツブツとつぶやきながら理性との戦いを続けていた。
「……いい方に解釈しとくわね」
「ん?」
「こーんなシチュエーションでも、手を出してこないとか、寝ちゃったりするってことは、さ」
美琴は口に出しながら、改めて思った。
「他の女の子にも、手を出してない……出せなかったって、ね。女の子の知り合い多いみたいだからさ」
もし、自分に何らかのアクションを上条が起こしていたら、『あのシスターとは何も無い』と言う言葉を信じられただろうか?
「出すかっつーの。それ以前にそんな恵まれたシチュエーションがねえよ。……くうぅ~」
何やらまだ『何か』と戦ってるらしい背中を感じながら、美琴はまたひとつ、上条への想いを厚くしていた。
(この性格のおかげで、今まで誰とも深い仲にならず、かあ。私にとっては、とりあえず良かったと思うべきよね……)
「そろそろ戻るか。着替え考えたら1時間以上たっちまうし」
しばし背中を合わせたまま、ゆったりと思い出話をしていたが、流石に時間が気になりだしていた。
「そうね~。どっち先出る?」
「……俺、先に出るとママさん攻撃怖いから、後でいい…」
美琴は、不満を示すようにぐりぐりっと肩においた頭を上条におしつけた。
「私だって嫌よ! ……まあいいわ、じゃあ出るから。今度は絶対こっち見ちゃダメよ!」
「……善処します」
背中が離れる。
(ふ~~。女の子の背中たあ貴重な経験だったけど、俺にはまだ早ぇ……え?)
「ぬああああああああああああああ!」
美琴が上条の首に腕を巻き付け、抱きついてきた!
(あ、た、当たってる、当たってるぅーーーー)
「……ほんとこの根性ナシは! 罰とご褒美の合わせ技で、コレでもくらえっ!」
美琴が上条をいわゆるチョークスリーパーの形でロックしたまま左右に振るが、背中の感触が、全てを凌駕する。
(こ、これが伝説の『当ててんのよ』? す、擦り寄せられたら、カミジョーさんは、カミジョーさんはーーっ!)
「じゃ、また後でね♪」
ぱっ! と開放され……、ばしゃばしゃとかき分ける音が聞こえ、美琴は戻って行った。
上条は色々と固まったまま、しばらく動けなかった。
◇ ◇ ◇
524 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:50:06 ID:WCyOcKio
美琴が常盤台中の制服を着て、手を振ってきたので、上条も更衣室に戻る。
着替えながら、一糸纏わぬ後姿と、あの前を隠した姿、そして最後の強烈な感触を思い出し……
もう美琴なしには生きられない、ダメ人間になってしまった気分の上条であった。
トイレに寄ったあと、ホテルロビーまで降りて行く。
両家はもう荷物をまとめて歓談中で、パパさんズも復活していた。
「おかえり~」
そう言う美琴の顔は引きつっている。……ママさんズ攻撃か。
「もう美琴ちゃんを、他の所へお嫁に出せなくなっちゃったわねえ……困ったものだわ」
「……俺ももうお婿にいけなくなりましたから、おあいこですよ……」
「な、何言ってんのよ!」
最後はさすがにやりすぎたかな、と思っていた美琴は、真っ赤になってモジモジしていた。
「もう帰るんだよ、ね?」
「ウン。詩菜さんが車で送ってくれるって。……何、美琴ちゃん今更寂しそうな顔して。さんざいつでも会える子と遊んどいて」
「まったくだ。俺、ほとんど美琴と話してないんだがなあ」
「アンタらがそそのかしたんでしょーがあ!」
「ま、いい顔になったな美琴。その顔で、俺はまた1年頑張れる……っと、刀夜氏が」
え? と美琴が振り向くと、上条刀夜がちょうど美琴の後ろに歩いてきていた。
「美琴さん、今日はありがとう」
「あ……いえいえ! わ、私こそ、なんかもう一人で滅茶苦茶にしてしまって、その……」
「いやいや。……もうお別れの時間だし、一つだけ。当麻の事だが」
「は、はい」
「あの子の不幸体質。……一緒に居ればおそらく、美琴さんもそれに巻き込まれていくだろう。しかし……」
「……、」
「不幸から逃げなければ、必ず幸福が来る――私はそう信じている。ならば、当麻は幸福と接する機会もまた、多いと言える」
美琴は思う。当麻がもし、幸運な男なら、私が困っている時に出会いすらしなかっただろう。
不幸だからこそ、困っている私に出食わし、巻き込まれ……
「大丈夫です。不幸に耐えられないからといって、当麻さんから離れるなんて、ないですから。絶対に」
「ありがとう。……まあ実際のところ言いたいのは、私に似て女性トラブルが降りかかってく……」
「あらあら~、刀夜さん、自分は悪く無いと言ってるのかしら~? 何を美琴さんに刷り込もうとしてるのかしら?」
「い、いやいや! じゃ、じゃあ美琴さん当麻をよろしく頼むよ!」
ずざざっ! と刀夜は下がっていった。
上条詩菜はため息をつき、そっと美琴に近づいて、小さな紙切れを手渡した。
「? あ、携帯番号……ですか?」
「うふふふ。何かあったら連絡頂戴ね。これでもあの子の母親、聞きたいことがあれば、ね♪」
「あ、ありがとうございます! じゃ、じゃあ私の番号も……」
素早く美琴は携帯を取り出し、詩菜に掛けて番号登録して貰った。
(そっか、詩菜さんから、昔の当麻の話を聞いたりして……失われた記憶を埋めていくのもアリなのかな……)
一方、美琴と刀夜が話し出した所で、御坂夫妻は上条当麻に近づいて話しかけていた。
「まったく、寝てる間にまさか愛娘が混浴たあ、男親としちゃどうすりゃいいんだろな?」
美鈴が苦笑いしている横で、旅掛の言葉で上条は強ばっていた。
「ひとつ言い当てようか? さっきの風呂、当麻くんは美琴に、一切手を出さなかったろ?」
「え!? 当麻くんホント? 美琴ちゃんの胸ひとつ揉んでないの!?」
「揉みませんって! いやその、……はい、何も……」
旅掛はウンウンとうなずいている、
「元来の性格もあるだろうが、両親のいるこういう場で、後ろめたいことはできないタイプだとは分かっちゃいるんだがな」
上条は愕然とした。
根性ナシと言われようと、信用されての混浴という状況、裏切るような真似できるか! との思いがあったのは事実である。
(なんでこうあっさり、見抜かれる……?)
「ま、今回は貸しということで許してやろう。『あの件の情報』で返してくれりゃいいさ」
美鈴が上条に近づき、笑いかけながら肩をポンと叩いた。
「というわけで、当麻くん最終テストもクリアね♪ 上出来上出来♪」
525 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:52:20 ID:WCyOcKio
――そして、両家の両親は満足して帰っていった。
数時間前のお屠蘇程度では、詩菜が飲酒運転で引っ掛かることもないだろう。
4人の乗った車が視界から遠ざかると、上条は大きく伸びをし、ぶはーっと息を吐いた。
「……なんで俺、今日初対面の親父さんに、完全に見抜かれてたんだ……? 洞察力ってレベルじゃねー!」
「コ、コンサルタントってそういう技術が当たり前なんじゃ……ない?」
「勝てる気がしねえ……」
というより、御坂家全員に勝てない気分の上条であった。
上条は美琴を促して、駐車場とホテルロビーをつなぐ通路を戻り始めた。美琴も横に並んで歩く。
「あー、早く着替えてえ……そういや確認してなかったけど、家近いって事か? 送るってことは」
「そうみたい。聞いたら、大覇星祭の時に母親同士意気投合したんだってさ。
で、ジムの話したら、詩菜さんがそのジム知ってる、って所から、実は同じ区民だったって判明して。
それで、母さんがジムに勧誘して、それからはもう、しょっちゅうジムで私達のこと話してたらしいわよ……」
「今回の擬似お見合いも、そのノリか……」
上条の足がピタッと止まった。横にいる美琴をまじまじと見つめる。
「ど……どしたの?」
「親がいなくなって、何つーか、元旦イベントが終わったのに。……お前がまだいる、みたいな。変な風には取るなよ?」
「……分かる気がする」
美琴にしても、『よし、芝居終了! おつかれ!』などと言われて、夢から覚めるんじゃないかと思うほどに、現実味がない。
「ここで抱きしめて現実を確かめる、っつーのが王道ってヤツなんだろうけど……」
結構駐車場と行き交う人が多く、上条のチキンハートには荷が重い。
「……前に妹がやったみたいに、腕にしがみついて、いい?」
「妹? ……ああ、地下街の時のアレか。よし来い!」
美琴はおずおずと手を伸ばし、上条の右腕にギュッと抱きついた。
「ではミコトは素直になってみます、……なんてね」
御坂妹の時と同じく、薄い胸が肘の辺りで触れ合って上条は少しドギマギする。……あの生の感触も蘇ったのは押し殺し。
「ははっ、素直な美琴か……そういや美鈴さんにも車乗り込む前にその辺言われたな」
「そ、そーいえば、あの時何話してたの? ちょっと嫌な予感したんだけど」
先程、後部座席に乗り込むため、車の後ろから回りこもうとしていた美鈴が、その途中で上条に耳打ちしていたのだ。
「うーん、言ってもいいけどさ」
「お、教えてよ。気になる」
「『美琴ちゃん、小さい頃はホント何かっちゃママ、ママって甘えてくれてね。いっつもヌイグルミ小脇に抱えてねえ。
ところが、早くから学園都市に入ったせいか、変に自立しちゃって。更に今反抗期のお年頃でしょ?
久々に甘えられる相手なのに素直に出せないと思うから、そのサインをちゃんと拾ってあげてね。それじゃまた』、って」
「あんのバカ親! な、何言っちゃってくれてんのよ……!」
美琴は真っ赤になったが、これは完全に見抜かれていたためだ。実際、どういった形ででも、甘えたい。
だが、素直云々というよりも、甘えるキッカケが掴めそうにない。上条がリードしてくれれば万々歳、なのだが……
526 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:52:45 ID:WCyOcKio
「流石にそれを聞かされちゃ、ボンクラな俺でも、ちょっとは意識せざるをえないけど。
でもさ、人前で甘えていちゃいちゃすんのはどーも合わなくてな……美琴がそういうの好きなら考えるけどさ。
このホテルを歩くなら、手や腕を絡めるのが限界かもしれねー、俺の場合……」
「わ、私も! 今は、それで十分、幸せ……よ。ただ、」
しがみついたまま美琴は、さっきの思いをそのままぶつけた。
「ふ、二人っきりの時さえ、もうちょっとそっちから踏み込んでくれれば、……甘えちゃおかな、なんて」
「……あー。そうだよな、俺から動けば、お前のサインなんて別に……」
そこまで言って、上条は何かに気付いたような表情をした。
「あーくそ、よく考えたらこんな事さえ、親のお膳立てか。美鈴さんの情報通りにしようとしてる俺が居る! ダメだダメだ!」
上条は首をブンブンと振った。
「せっかく恋人になったのに、まだ俺が何か変われてねえ! これじゃ釈迦の手のひらの上、だ!
……よし、両家の筋書き通りの元旦物語は終わりだ終わり! こっからは俺が、いや、2人で新たな物語を作ってやる!
美鈴さんの情報はともかく、美琴を一から知って、もっと俺が美琴をリードしねえと、だよな!」
美琴は驚いたような表情をしていたが、上条の言葉が浸透すると、微笑んで彼を見つめた。
一旦絡めていた手を離し、改めて左手で上条の右手を握る。
「……他の人なら笑っちゃう台詞だけど。当麻の言葉は、有言実行。そうやって色んな人を救ってきたんだもんね。
私も当麻の事もっと知りたいし、私もできるだけ……。ウン、いい物語、作ろうねっ!」
「ああ、時間はたっぷりある。よーし、じゃあ行くかあっ!」
2人はにっこり笑いあい、お互いの手をしっかり握って、歩みだした。
私にまでクサい台詞言わせないでよっ、俺と付き合うならあんなもんじゃ済まねえぞ? と笑いあう姿は。
もうそれは、『一体何をやれば恋人っぽく見える訳?』などという疑問を差し挟む必要もない、恋人たちの姿であった。
527 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:53:43 ID:WCyOcKio
<エピローグ>
――あら、お姉様からのメール……年明け早々わたくしにラブラブメールですの?
『黒子、誰よりも先に、貴方に知らせるべきだと思ったので、メールにて。
私は今日、想い人に告白しました。彼は、それを受け入れてくれました。
もちろん彼とは、黒子も良く知る、あの人です。
今夜会えたら、話します。祝福してくれることを、願って。 美琴』
メールを開いた白井黒子は、……自慢のツインテールが逆立った!
「あの猿がァァあああああああああああ!! こっ、殺す!」
初詣の警備をしていた黒子は連絡を取り、体調不良を理由に仕事を早退した。
今、いたいけな少女がたぶらかされ、足を踏み外そうとしている。黒子にしかできない仕事が、ここにある。
足は、無人の支部に向かう。
――許可なしに書庫のデータを覗き、類人猿から猿に格上げされた上条当麻の住所を確認する。
……始末書など、何枚でも書いてやるですの!
白井黒子の姿が、消えた。
上条の住む部屋の前で、白井黒子は佇む。
人の気配はない。
激情にかられて来てみたものの、いつ帰ってくるか分からない。
しかし、あのメールを見る限り、美琴は普通に寮へ戻ってくるつもりのようだ。
門限を守ると信じれば……、上条もそう遠くない時間に戻ってくるはずだ。
……会ってどうするかは考えていない。
まあ、ちょうど考える時間ができましたわね、と黒子はひとりごちる。
その時、寮の前に一台の車が止まり、下を覗き込むと白い修道服の女の子が降りてきたのが見えた。
「じゃあシスターちゃんまたですよ~」
「こもえ、またいこうね~~」
いつまでも手を振って見送っていたシスターは、寮の入り口に入ってきた。
(……まさかここに? 男子寮ですわよ?)
しかし入ってきた以上、高確率で、ここに来るだろう。
そして、エレベーターが、この階で止まった音が、聞こえ……上機嫌なシスターが、鼻歌を歌いながら姿を現した。
「ん~? あー、いつも短髪といっしょにいる!」
インデックスが反応する。
「こんにちは、ですの。お出かけしてらしたの?」
「うん、初日の出みてきたんだよ。おせちもいっぱい食べて、楽しかったんだよっ」
機嫌よくインデックスは返事する。どうやら過去の経緯から、黒子にはそれほど敵対心は持っていないようだ。
「それでは上条さんは? ああ、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
「とうまはご両親とホテルで食事だよ。もうすぐ帰ってくるかも。カギあけるね」
カギをあける? まさか!? 一緒に住んでいる?
「知らない人いれちゃダメってとうまに言われてるけどね。知ってる人だから入っていいかも」
(なんですの?この展開!?)
部屋の中は綺麗に片付いていた。大掃除後ならではだ。
「うわー、とうま綺麗に片付けたんだー」
黒子ももっとガサツな男と思っていただけにビックリである。
インデックスは猫のスフィンクスを抱きしめて、撫でている。
「……一緒に暮らしてるんですの?」
とにもかくにも、これだけは聞いておかねば、と黒子は問う。
「そうなんだよ。イソーロー? っていうのかな」
何とも微妙な言い回しである。
さすがに夜はどうしているのかとは聞けず、黒子は部屋の中を検分する。
528 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:53:59 ID:WCyOcKio
「それで今日はどうしたの? とうまになにか用事?」
「ええまあ……先程も言いましたが、ちょっとお聞きしたいことがありますの」
「ふーん」
この様子では、100%今日のことは知らないのだろう。
「ほんの少しだけ待たせて貰ってもよろしいですの? 戻られないようでしたら帰りますので」
「私はいいけど」
上条当麻は両親とホテルで食事会。
御坂美琴は前日から泊り込みでホテルで両親と過ごしている。
上条と約束していたのなら、もう少し浮ついていても良さそうなものだが、それは無かった。
(偶然、鉢合わせ……?)
何があったのか……
「ただいま、っと。インデックス帰って来てたのか」
突然、ドアがあいた。
「おかえりとうま~、……え?」
「へ? 白井?」
「く、黒子!?」
ドアをあけた上条当麻の後ろから、御坂美琴の顔が覗いていた。
本来、上条は一人でインデックスに説明するつもりだったが、しかし。
美琴は真正面からインデックスと話さないと、今後絶対後悔すると主張し、同行した次第である。
それにしても、白井黒子の存在は想定外である。
(メール打つの早すぎたかしら……この子のこういう時の行動力、ナメてたわね)
上条に促されて、美琴は部屋に入る。
インデックスは明らかに敵対モードだ。美琴と上条を交互に睨んでいる。
黒子は……上条を睨んでいる。
上条はそのまま手際よく、ヤカンに水を入れて沸かしはじめ、
「わりい、スーツだけは着替えさせてくれ……」と着替えを持ってバスルームに飛び込んだ。
(これは怖い。何が起こるやら……)
上条は全く先の読めない女三人の修羅場の予感に、おののくばかり。
インデックスは無言で、引き続きジト目で美琴を睨んでいる。
美琴は初めての異性の部屋でキョロキョロしている。もちろん、他の2人の視線をかわす目的もある。
黒子は俯いたまま、身動きしない。少なくとも美琴は今日、黒子の言葉を聞いていない。
上条はスウェットの上下というラフな格好で、コタツの最後のスペースに潜り込んだ。
(湯のみが飛び交うこともあるかな…)
と思いつつ、お茶を入れて配る。
席としては、上条の左側に美琴、右側にインデックス、正面に黒子、といった形である。
「ま、黒子もいることだし、私から喋るわね」
美琴はお茶で唇を湿らせる。
――上条宅に戻る途中でも考えていた。
あの時――上条に同居のことを告げられた時、当然ながら衝撃はあった。
反面、心のどこかで、やっぱり……という思いもあったせいか、冷静に受け答えはできたが。
上条の本音は知る由もないが、今は自分に向いてくれている。それはそれで信じるしか無い。
問題は、このシスターの心。異国の地で上条を頼っている女の子。
(いやになるくらい、この子に非はないのよね……)
完全な悪役だ。
でもどんな結果になろうとも、いつかは向かい合わねばならない問題。
意を決して、美琴は口を開く。
「今日、私たちはハダカで愛を確かめ合う仲になりましたっ!」
◇ ◇ ◇
529 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:54:12 ID:WCyOcKio
一瞬の静寂の後。
「ちょっと待てお前!」
「どーいうこと!?」
「な、なんですっ……て!?」
インデックスと黒子の視線は美琴から上条に移る!
「どーいうこと!」 インデックスの歯が光る。
「まさか、まさか…」 白井黒子が一瞬の動きで金属矢を指に装着する。
「い、いや、お前ら勘違いしてるから! 健全だから! 美琴テメエ、なんつー説明してんだっ!」
――美琴は普通に経緯から話すつもりだった。
しかし白井黒子の様子から、最初は冗談ぽく――そしてシンプルに、簡潔に、結果だけを話す展開のほうが、
丸く収まりそうな気がしたのである。
話を小出しにしていっても、相手の感情は高ぶっていく一方だ、と。
美琴は俯きがちに、口を開いた。
「ま、それはさておき。……今日ですね、いろんな背景はあったけど、……想いを抑え切れなくて、告白、しちゃいました」
顔を上げて、上条をちらりと見て、また俯く。
「彼は、恋人として愛すると。……守ると、言ってくれました。……話ってのは、実はこれだけ、なんだけどね」
そう言って一礼した美琴を見て、インデックスの表情から怒りがすうっと消えた。
怒って済む事態ではないと気づいたらしい。
「とうま……どういう、こと?」
おびえたような表情になっている。
その横では、白井黒子が、直接に聞いたショックで動けなくなっていた。
「……美琴の言った通りだよ。今後、美琴と俺は、付き合っていく。ただ、それだけの話だ」
「――とうま、私のこと、嫌いになっちゃったの?」
「違う」
「――とうま、私、ここに居ちゃいけなかったの?」
「変わんねえ、ここにいろ」
「――とうま、ずっと一緒にいられると思ってたんだよ?」
「お前が離れない限り、一緒だ」
「わけわかんないよ、とうま! それで短髪が恋人ってなに!?」
「でも、そうなんだ。美琴は、俺の側に、今まで通りお前が居ても問題ない、と。……お前ごと、俺と付き合って行く、ってな」
「えっ……」
混乱するインデックスの目を見つめつつ、上条は静かに語りだした。
「インデックス……、俺は誰にも、お前にも話せない、秘密が、ある……。まさに墓場まで持っていく秘密、ってヤツがな。
俺だってさ、恋人は欲しいといつも思ってたけど……秘密を持ったままじゃ、そんな資格もねーよな、と思ってた」
インデックスは目にわずかな涙を浮かべつつも、上条の言葉にじっと耳を傾けている。
「そんな俺の秘密を、美琴は知った。偶然と言ってしまえばそれまでだけど。
でもそれは、そこに至るまでの過程を考えると、何かの導きと思わざるを得ないほどの、偶然の重なりだった。」
たった一週間前のペア携帯契約、繋がった電話、壊れても音声は生きていた携帯、そして拾われた会話――異常な偶然。
「そしてまた。……美琴も秘密を持っている。誰にも、親にも明かせないものが。白井にもな。
美琴には絶望に満ちた過去があり、それを俺が救った。でも、その傷は未だ癒えず、美琴に残っている。
その傷を知るのが俺だけなんだ。」
美琴が口を開く。
「私は本来なら、もう去年の8月21日に、この世を去ってたの」
美琴のつぶやきに、白井黒子の顔がこわばる。8月21日……結標淡希の言葉が蘇る。
「前に私が、当麻のことを命の恩人だって、言ったことあるよね。あの地下街で、私達4人が初めて顔を合わせた時。
『命の恩人』なんて言葉は軽いけど、私にとっては真の意味で、なの」
◇ ◇ ◇
530 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:13 ID:WCyOcKio
「ああ、すまねえ。別に暗い話をするつもりはないし、今の話はそういう背景がある、程度に思ってくれ」
そう言うと上条は、一旦お茶で喉を潤した。
「んじゃ本題な。俺が御坂美琴の告白を受け入れたのは……」
美琴も乗り出した。
唇へのキスをしてくれるまでに至った心の変節は、どうにも分からなかったから。
「美琴が、俺に『帰る』意味を与えてくれたからなんだ」
全員の顔にハテナマークが浮かんでいる。
「俺さ、想いってのが、これほどの形を持ったものだとは、知らなかったよ。
ホントなっさけねえ事に、女の子を滅茶苦茶に泣かせて、追い詰めて。
そして、ありったけの想いをぶつけられてさ……、過去のどんな物理的ダメージよりも、強烈だった。
でも、それだけに、美琴にハンパな対応は止めようと思った。
更に泣かせようとも、一時しのぎの恋人のフリをするような事だけは、絶対にすまい、と」
「その後で、酔って寝てしまった美琴を膝枕してやる時間があってさ、そこで俺は考えたんだ。
美琴は俺を選ぶに十分な理由があった。でも、俺には? そもそも俺は、恋人に何を求めているんだ?
……何か恋にまで理屈っぽいなと自分でも思ってるんだけどな、まあ、それはさておき、だ」
「俺ってさ、何でもかんでも首突っ込んで、……まあそれなりに色んな人を救えたかな、とは思ってる。
これからも、この生き方を変えるつもりはねえ。
でもそれは……たとえ恋人がいても、俺は何でも突っ込んで行くつもりということだ」
「実際もうここで条件は絞られちまうんだ。俺が求める人、すなわち恋人としては、『一人で戦える人』だと。
一人で戦えない奴を残して、他の人救いになんて行けねえよな。でもさ、一人で戦えるんなら、俺いらねえよな?
なんだ、結局矛盾して、恋人できねーじゃんと思って、改めてすやすや眠っている美琴を見下ろした時……、
スーッと、答えがさ、降りてきたんだ」
その浮かんだ答えってのはな、と上条は美琴に視線を走らせながら続ける。
「コイツは、俺が帰ってくることを糧にして、一人で戦える奴だ、と」
「美琴は誰もが知る、LV5エレクトロマスターだ。当然一人で戦える。でも……
さっきの過去の話にあるように、誰にも言わないまま死ぬ気だった時もあるくらい、美琴は実は危うい。
実際、俺がピンチだと分かったら手段を問わず戦時中でもロシアまで突っ込んできたヤツだ。
思い込んだら、何しでかすか分からない。
でも、きちんと、『俺は必ず帰る』と約束さえすれば、きっと俺の姿を見るまでひたすら我慢できる奴のはずなんだ」
「そして俺も。ほら、よくあるだろ。俺が死んでも、あの人が助かったのなら本望だ……、って奴。
俺にはもう、それが許されなくなった。美琴に帰るって約束してるんだから。
俺は助けを求める人を救いに向かい、待っている美琴を救うために、必ず帰る」
「……美琴は、俺の進みたい道の、ベストパートナーだと、心からそう、思った。その時だ。
眠っている美琴の顔も目も唇も、全てが愛しく見えたんだ。まるで、全てのフィルターが取り払われたのかのように」
今にして思うと、と上条は目を細めてつぶやいた。
「心理的ブロックというのかな、中学生であるとか、変に命の恩人であることを押し付けたくないとか、何か分かんねーけどさ。
好きになっちゃまずい、意識しちゃいけないという心理が働いていたのかもしんねーな。
でも、それが取り払われ……こんな愛しい子が目の前にいて、俺を好いてくれている。答えなんて、言わずもがな、だよな」
上条は3人を見渡した。
「だから、目覚めた美琴に心からの誓いを込めて、キスをした。……そういう、ことなんだ」
◇ ◇ ◇
目にいっぱい涙を浮かべたインデックスは、無言で立ち上がるとドアに向かって走り出した!
「インデックス!」
上条が叫ぶと同時に、白井黒子の姿が消えた。
「逃げては、いけませんの……」
ドアの前で両手を広げ、立ちはだかった黒子を前に、インデックスは立ちすくむ。
そのまま黒子はインデックスを抱きしめ、ゆっくりと戻るように促す。
だがインデックスは、黒子にしがみついて、そのまま顔を埋めて……泣き出した。
531 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:30 ID:WCyOcKio
嗚咽だけが流れる静寂の中、黒子はインデックスの頭を撫でてやりながら、つぶやく。
「……優しさは罪と言ったところでしょうか、お姉様」
「え……」
「このシスターさんごと愛す、なんて。そんな意思で向かわれては、この方は反撃すらできませんの」
美琴は黒子から視線を逸らした。
敵対されたなら、刃向かえる。でも、包み込まれたなら……。
「そして、上条さんにそう切々と語られましては、もはや言葉で返すには厳しいでしょう」
美琴がもし逆の立場だったなら。……立ち去るか、ここで突っ伏してしまうか、だろう。
そして、インデックスは立ち去ることを止められた。
黒子はインデックスをやや引き剥がし、片膝をついて話しかけた。
「でもやはり、逃げてはいけませんの。わたくしもお話を完全に把握したわけではございませんが、そうですわね……、
例えれば、今までソファーに貴方と上条さんが座られていたところに、お姉様がぎゅうっと隙間に入り込んで座ったかのような。
でも、狭くなっても、居場所は十分にあるんですの。逃げれば、もう戻ることは困難となりますわよ」
そう言って黒子は、改めてインデックスを抱きしめる。
「――お姉様。黒子は帰ります。……寮監には少々遅くなるようだと伝えておきますので、きっちりお話なさって下さいな」
「え、あの黒子? な、なんでそんな普通、なのよ? 怒ってないの……?」
「……上条さんの語りを聞いているうちに、考え方を、少し変えることができまして。
お姉様を外面ではなく、内面にある脆さ・危うさにまで考えが及んでおられる、……ならば、完全否定する必要はない、と。
そう考えた時、黒子は気づきましたの」
美琴は嫌な予感がした。このような口調の黒子は、とんでもなくネジの外れた事を語りだす……
「お姉様と上条さんとがどういう関係になろうとも、お姉様と黒子の関係性には全く関係ないことに、ですの」
「……黒子!?」
「独占欲で視野が狭くなっておりました。異性間の愛と、同性間の愛は別もの、共存すれば良い、と!
そして、わたくしも上条さんごとお姉様を愛すればいい、と! まだちょっと上条さんをお兄様と呼ぶには抵抗がございますが」
あまりの話に上条と美琴が固まってる間に、黒子はインデックスに再度、語りかけた。
「今、貴方の心を縛ってますのは、独占欲ではないですの? わたくしもそうであったように。
……まずは、落ち着きなさいな。感情的にならず、お話されれば、きっと何かが見えてくる、そう黒子は思いますの」
黒子はインデックスを元いた席までゆっくり肩を押しながら連れていき、座らせた。
インデックスは泣き止みかけつつも、しゃくりあげながらうつむいている。
「では失礼いたします。お姉様、また後ほど……」
次の瞬間、白井黒子の姿は消えた。
「あ、あー……、アイツは俺の想像以上に、ぶっ飛んでるな……」
「……テレポーターってね、感情がリミッターを超えそうになると、冷静になるよう訓練されてるらしいの」
「そうなのか」
「表向きは演算能力の維持って理由だけど、実際の所、理性を失ったテレポーターはあまりに危険だからね……」
その気になれば、触れた物全て凶器と化すテレポーター。
白井黒子がジャッジメントに属するのも、常に自分を律する……自己抑制を意識するためか。
「ま、まああの子が今、そういう状態かは分からないけど。……うん、後でフォローしとく。それより……」
上条と美琴は、インデックスを改めて見やる。
何の罪もない少女を、悲しみの底にたたき落としてしまった罪悪感が、2人を包んでいた。
白井黒子は、しばらくドアの外に佇んでいた。
もうあの話は、3人の問題であり、自分が居るべきではない。
(ふん……つくづくわたくしが、矮小な人間かと思い知らされましたわ。……何のことはない、逃げたのは、わたくし)
もはや自分の入り込む隙間は無い、と思い知らされた。あんな空間に、居続けてなど、いられない。
自分の言った言葉に嘘偽りはないが、言葉だけで心がその位置に届いていない。収まってなどいない。
「さて……お姉様が戻られるまでに……、」
黒子は小さくつぶやいた。早く熱い風呂に入って、何もかも洗い流したくて、たまらない。
気を抜くと涙が沸き上がってくる。歯を食いしばり、黒子は常盤台寮に向かって、連続テレポートを開始した。
◇ ◇ ◇
532 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:43 ID:WCyOcKio
上条は、インデックスに優しい口調で語りかけた。
「なあインデックス、……ひょっとしたら勘違いしてるかもしんねえから、言っておこうと思う。
俺は、お前と美琴を天秤に架けて、美琴を選んだ訳じゃねえぞ? お前と美琴との優劣なんざ、俺は一切見ちゃいねえ。」
「俺は、今までの経緯から、元々2人を――あまりに背負ってるものの過酷さから、何とかしてやりたいと、思ってた」
ああ、白井がいねえから、コレは言っておくか……と上条はつぶやく。
「美琴の抱えてる問題ってのはな、ほれ、お前クールビューティーって呼んでる美琴の妹知ってるだろ?
実は、本当の意味での妹じゃねえんだ。学園都市の技術で作られた、美琴のクローンなんだよ、アイツ。
他にもラストオーダーという、チビ美琴みたいなのもいるんだけどな」
何か思うことがあったのか、インデックスが顔を上げた。
「そういった美琴のクローン……通称シスターズがな、全世界に1万人ほど、いるんだよ。
10万3000冊の魔道書を抱えるインデックス、1万人のシスターズを抱える御坂美琴。な? お前達は状況は似ているんだ。
お互い、自分が望んだわけでもない運命を、背負わされてさ……運命の重さや悲劇性なんざ比較できねえが、お前達に差は」
そこまで言い募って、上条は気が付いた。
インデックスが、静かに首を横に振っている。
「インデックス……?」
「……とうま。うん、もういいよ。もう……」
戸惑いを見せる上条に、インデックスは何か悟ったような柔らかい表情で、話しかける。声はしっかりしていた。
「とうま、覚えてる? 当麻が私を助けてくれた日の、病室で、私が言ったこと。それを聞いて、私を犬猫扱いした……」
上条は頷いた。
――『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』
――『インデックスって、何? 人の名前じゃないだろうから、俺、犬か猫でも飼ってるの?』
覚えている。
忘れようもなく、胸を絞めつけたあのやり取り。失われた自分へ、向けた言葉。
そして、上条は……未だにきちんと返事をしていない。今の自分が代わりに答えるわけに、いかないから。
「何故、過去形だったか、分かる? とうま」
上条はギクリとした。
一瞬、インデックスが実は記憶喪失に気付いているのか、と思ったからだ。
しかしそれなら、自分が『秘密』と言い張っている方に突っ込んでくるんでは、と思い直す。
あの時、インデックスは上条が記憶喪失かもしれないと思いながら、話しかけていたはずだ。
だから、過去形で話していたと、思っていたが。
しかし、よく考えれば、『上条が記憶喪失でないと分かった』のなら。
どうしてあの告白と取れる言葉を、インデックスは放置しっぱなしなのか?
上条の返事を求めるでもなく。
かといって告白を受け入れられたと思っていたならば、色恋を含んだ接触をしてきてもいいはずだ。
様々な考えが浮かんだが、上条は分からず、首を横に振った。
「分かんねえ……」
「過去形ならね、言葉上は洗礼前だったとして矛盾はないから……」
「……何の事だ?」
「カトリックのシスターは清貧・貞潔・服従の誓願をたてているんだよ。主に身を捧げたからね。バチカンほど厳しくはないけど」
533 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:59 ID:WCyOcKio
上条は、インデックスにそう言われても、ピンとこなかった。
(んー……だから、何なんだ……?)
そこに美琴が上条に噛み付いてきた。
「ちょっと当麻、分かんない。この子に何言われたのよ。教えて!」
「……前にな、『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』って、言われてな。
いや、ちょっとその後もバタバタしてさ、その会話自体はそこで終わった形だけど」
美琴が驚いて目を見張る。その驚きは、このシスターの方が先に告白していたという事実、それに尽きる。
えーと、つまり……と美琴はブツブツと呟き、やにわにガバッとインデックスの方に身を乗り出した!
「じゃあアンタは、恋愛を禁じられたシスターだから、……こんな状況においても、無抵抗だっての?
現在形で告白しなかったのも、主の教えに背くからだっての!?」
「教えに、じゃなくて、カタチ上はもう主と結婚しているようなものなんだよ。禁じられたんじゃなくて、恋愛がありえないんだよ」
「そんな、何言って……!」
上条は美琴の理解力の早さに驚くとともに、インデックスの複雑な想いに、今さらながら気付いた。
今までで最も好意を表明した言葉さえ、所詮は過去形、自分に気を遣う必要はない、とでも言いたいのか――
「……うん、分かってたんだよ。とうまに、特別な人が出来たら終わる生活だってことは」
上条が、誰かに恋すれば終わる生活。
――上条がインデックスに恋したケースは、インデックスは受け入れられず、去るしか無い。主に背くことになる。
――上条がインデックス以外に恋したケースは。他に恋人ができたのに、同居が許されるはずがない。
どちらも、上条との同居生活の崩壊を意味する。
だから、インデックスは、曖昧なままの生活を望んだのだ。それならば、上条と、共に居られると――。
美琴は、黒子が座っていた側から回りこんで、インデックスの肩を掴む。インデックスは、抵抗しなかった。
「アンタも当麻のこと好きなクセに! 何やってんのよアンタ!?」
「好き……とうまのことは信頼してるという意味ではそうかも。でも、恋とは、違うかも。よくわからないし」
インデックスは、目を合わせない。
「ウソをつくのはアリなの!? 本当に好きなら、シスターなんてやめちゃいなさいよ!」
「私には……10万3000冊の魔道書があるから。それは、できないんだよ。……だから!」
インデックスが美琴を見上げた。背負わされた運命でも逃げない、という意思を持って。
「……だから、とうまと一緒に過ごす、今の生活が、ずっと、続いてくれたら、って思ってたんだよ……」
またうつむいてしまったインデックスを、美琴は胸を締め付けられる思いで見つめていた。
この少女は、今の生活が続くことを祈るしか、できなかった。
白井黒子に指摘された独占欲もないと言えば嘘になるが、本当の意味ではそうではなく。
幸せな、曖昧な生活の終わりが、来たことを悟ったから。……だから、泣くしかなかった。
「で、何で今の生活が終わりなのよ。当麻も私も、アンタがここに居ていいって言ってるじゃない?」
「……やむを得ず、だよね。私が他に行くところ、ないから。……大丈夫だよ、私はイギリスに帰るから」
「こんのバカシスター! 当麻はね、同居を告白すると同時に、同居生活は絶対に守るって言い切ったのよ!?」
「…………、」
「想像しなさいよ! アンタがイギリスに帰って、当麻と私が厄介者が消えたと、喜ぶとでも思ってんの?
逆でしょ逆! アンタがまた10万冊狙われてないかとか、不安な毎日過ごすに決まってるでしょ!
アンタはもう、当麻の一部なのよ! もうガッツリお互いの運命が噛み合っちゃってるのよ! 分かってるくせに!」
「もう、とうまは十分私を救ってくれたんだよ。とうまのおかげで、色んな事も明らかになったし」
「こっ、この……」
更に言い募ろうとして美琴は、なんとか押しとどめた。
インデックスの肩から手を離し、一旦その場に座り込む。
相手はシスターだ。おそらく、自己より他者を重んじる傾向であるのは間違いないだろう。
まさに『北風と太陽』であり、美琴が『北風』で攻め続ける限り、この心の扉は開くと思えない。
534 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:56:12 ID:WCyOcKio
「お前、イギリスっても。ここしばらくの知り合いしかいねーじゃねえか。まさか、教会頼る気か?
お前の記憶を奪い、遠隔操作を仕込むようなとこだぞ!?」
「だから、とうまが色々明らかにしてくれたから。大丈夫だよきっと。教会に戻ろうと思ってる」
口を挟んだ上条の言葉に、美琴は驚いた。
「記憶、って……? この子も、じゃなくてこの子、記憶失ってるの!?」
「……ああ。色々あってな、インデックスは約1年半程、の記憶しかない。それ以前は……消された」
「け、消された……って」
それって当麻もそうなんじゃないの!? という言葉をかろうじて飲み込む。
「とある事情で一年周期で記憶を消されてたんだけど、とうまがその循環から救い出してくれたんだよ」
……身代わり。美琴の脳裏に、その言葉が浮かぶ。この子が受ける呪いのようなものを、代わりに受けたのか?
しかし、ここで問いただすわけにはいかない。
でも、これで確かなのは。この2人の関係を、自分の存在のせいで終わらせてはいけないと言う事。
これほどの深い事情を共有する2人の物語もまた、エンディングには程遠い。
(考えるのよ、何かあるはず……、)
だからといって、自分が身を引く道理もない。引いたところで、特に解決するものもないのだ。
3人が3人とも、もう『同居』は可能ではあっても難しいと感じている。
そしてこのシスターは、同居が無理とした場合、行くところが無いようだ。
イギリスは出身というだけで、記憶の問題で特にアテがあるわけでもない……
考えろ、……誰もが笑って誰もが望む、そんな幸せな世界がきっとあるはずだ、き……っと!
美琴はそこで閃いた。
(……そうか! 無いなら作ればいいんだ!)
「よし、じゃあ」
口を開いた美琴に、上条とインデックスの視線が注がれる。
「お願い。3ヶ月だけ時間を頂戴。それまでアンタ達は今まで通り、一緒に住んでて」
「えっ?」
「考える時間と色々動く時間を頂戴。……少なくとも、衝動的な判断はお互い避けよう」
「一旦保留ってことか? ……とりあえずはそれでいいと思うけど、3ヶ月って何かあるのか?」
美琴は意を決した。
「今ちょっと考えてるのは……4月から私、寮を出てこの子と暮らす」
「「ええっ!?」」
上条とインデックスは見事にハモった。
「どんな綺麗事言ったって、この生活自体は歪すぎるわよ。でも女の子同士で暮らす分には問題ないでしょ?」
「色んな所を説得して、許可貰って、と忙しいけど。全寮制って規則だしね。まあでも何とか。一番黒子が厄介そうだけど」
美琴は苦笑いする。白井黒子にとっては、ふんだりけったりの展開だ。
「学園都市は一人暮らしの女子中学生なんてわんさかいるし。私にできないってことはないと思う」
「お、お前……」
「ただし、これは。アンタが私と住むのはゴメンだ、って言うならこの話はナシね。
さすがに、私の友達にアンタを住まわせてくれなんて頼めないし。……アンタ次第よ。それでもイギリス、ってんなら止めない」
美琴はインデックスをじっと見据えた。
「なんで、そこまでしてくれるの……? 私がいない方がいいはずなのに」
「私もよく分からないけど。でもほら、後で九三〇事件って言われた、アンタ達があのトモダチを救いに行った時、さ」
インデックスは頷いた。
「アレさ、アンタは歌で救うとかワケ分かんないこといってたけど、結局うまくいったのよね? で、私は私で妙な部隊倒して。
……当麻を支えるってのはさ、私一人じゃできないなーって。えーと魔術っての? アンタが居ればなんとかなるんでしょ?
つまりは、当麻のため。私は当麻にとってプラスになるなら、全部受け止める!」
美琴は言い切った。そして更に言い募る。
「申し訳ないけど恋人って席は絶対に譲らない。アンタの信仰は知らないけど、勝負するなら受けて立つ。
でも、アンタとの関係そのものは……対等に、当麻を支え合っていく仲間……ううん、友達、でありたい、かな」
急に声のトーンが落ちた。自分から友達になろう、といった記憶が長らくない美琴は、気恥ずかしくなったのだ。
535 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:56:36 ID:WCyOcKio
「トモダチ……」
「さあ、私はカード切ったわよ。一緒に住もう、友達になろう、ってね! 答えに3ヶ月必要だってんなら、それでもいいけど」
今まで美琴は、交友関係においては、常に受身だった。輪に入ろうとして、輪を崩す原因になりたくなかったから。
自分から動いたのは上条に対してだけだが、それすら元旦の今日、朝まで想いが伝わっていなかった。
コミュニケーション下手なのは自覚している。 恋敵だ、受け入れられないと言われればそれもしょうがない……
「ねえ、とうま」
ちょっと間を開けて、インデックスはつぶやいた。
「とうまの選んだ人は、やっぱりいい人なんだね」
「ああ。でもインデックス、お前がいい奴だから、みんなお前に惹かれるんだぞ? どうでもいー奴なら、帰れ、で終わりだ」
インデックスは上条をじっと見つめる。
「お前を傷つけたくないと、心から思えるんだ。そういうことだよ」
上所の言葉に、インデックスはゆっくり目を閉じた。
「うん、とうま、ありがとう。……恋人の短髪と仲良くやるんだよ。
私も自立できるよう頑張るけど、しばらく友達に……迷惑だと思うけど、お世話になることにする」
上条と美琴は顔を見合わせた。
「み、認めるってか、いい、のか……?」
「私の言ったこと、受け入れてくれる、の?」
インデックスはどこか吹っ切れたような表情をしている。
「さんかくかんけー、ってやつになるんだよね。むしろ、とうまが他の女の子にフラフラしなくなりそうでいいかも」
「他の子にフラフラ……?」
「ちょっとまってくださいインデックスサン!」
「あいさ・かおり・いつわ・こもえ・まいか・クールビューティーとかに知らせなくていいのかな、とうま」
「ま、待て待て! 知り合いの女の名前適当に並べんな!」
――受け入れてくれたんだ。
他の女の子の名前を出して、ちょっと照れが入っているのが可愛らしい。
「ま、その辺の追及は後でじっくりさせてもらうとして……」
美琴はスッとインデックスに手を差し出しかけて、思い止まった。
それよりも先にやることがあった。
「そういや私達って、自己紹介まだだよね。そこから始めない? なんせ初対面が『品のない女』だの滅茶苦茶だったし」
「うん、そうだね!」
コホン、と咳をして改まった美琴は、ちょっと頬を赤らめてインデックスに向かって居住まいを正した。
「私は御坂美琴。レールガン、って通り名持ってるわ。……今後は『美琴』って呼んで欲しいかな」
「みこと、ね。分かったよ、みこと」
「おいインデックス」
そのまま挨拶しようとしたインデックスに、上条が口を挟む。
「なに、とうま?」
「自己紹介の後に、ちゃんと今後の要望言っておけよ? 一緒に住むことになる可能性が高いんだ」
上条の言葉にインデックスは首をかしげていたが、うん! と頷く。
インデックスは美琴ににっこり笑いかけた。
「私の名前はね、インデックスって言うんだよ? おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな♪」
fin.
<できるだけ自然な上琴ルートENDを書こう、というのが最初のきっかけでしたが、えらい話に。紆余曲折、あー長かったw>
537 :■■■■:2010/07/21(水) 22:24:34 ID:5dFQDx4A
乙です。
美琴とインデックスの同居生活は超読んでみたいです。
538 :■■■■:2010/07/21(水) 22:35:46 ID:3N6vbkIc
GJです!!
なんだかんだでインデックスも幸せになれそうで良かったです
539 :■■■■:2010/07/21(水) 22:44:04 ID:uir.xgbA
素晴らしいの一言です。
540 :■■■■:2010/07/21(水) 22:53:31 ID:kQYPZEYA
完結乙、おめ。原作でのエンドっぽい感じがたまらないですな。
ただ好きとか愛してるっていう言葉だけではなくて
それに至った経緯について、しっかり言及されているので
すごく良いし、説得力がありますねー
続きが読みたかった作品だけに最後まで読めて最高でした。
541 :■■■■:2010/07/21(水) 23:17:03 ID:W47dWDsM
GJ!!です。
こんなエンディングがあったなんて・・・
インデックスの心情描写と美琴との絡みに感動しました。
542 :■■■■:2010/07/21(水) 23:22:15 ID:RWFg8biI
なんとかみんな幸せな感じで結末してよかったです。
原作で、美琴と上条さんが結ばれちゃったらインデックスはどうなるんだろう
ってつい考えちゃいますよね。そうなったときの一つの考え方でこうなるって感じがします。
あとお風呂場のシーンは凄くドキドキしましたw
お疲れ様でした。そしてまた新しい作品をお待ちしております。
544 :■■■■:2010/07/21(水) 23:42:08 ID:pLSQcXs.
完結お疲れ様です。
実にいい物読ませて頂きました。
545 :■■■■:2010/07/21(水) 23:48:46 ID:B6/MxSwY
GJです!
完結お疲れ様でした、色々感動して泣きそうです
次回の作品も楽しみにしてます
546 :■■■■:2010/07/22(木) 00:13:33 ID:iszFp416
読んでるこちらが感無量。
良作の超大作をありがとう!
548 :■■■■:2010/07/22(木) 05:24:55 ID:DNbdd9so
ぐちゅ玉さま
至高の恋物語とインデックスをありがとう!
549 :■■■■:2010/07/22(木) 10:37:35 ID:56tvT2ac
ぐちゅ玉さん超GJ!
最高のラストをありがとうございました!
ストックが切れましたので、申し訳ございませんがまたしばらく休止させて頂きます。
出来るだけ早く再開出来るように努力したいと思います。
しかし、それは一瞬だった。
激昂と、これならどうだ! とばかりに思わず立ち上がってしまった美琴であったが。
冷気にさらされて我に返り、ザバン! と勢いよく座り込み、口元まで湯に浸かってしまった。
上条は、あまりの衝撃に固まっていた。
頭のどこかで、早く何かフォローする言葉を吐け、と指令が出ているのに、動けない。
しかし、顔を真っ赤にして、斜め下をみつめるように顔を背けている美琴に、ようやく言葉を絞り出す。
「す、すまん美琴。今回は、いや今回も、俺が悪い」
「……、」
「寝ちまったのは……今日は色々ありすぎたせいかな、フッと気が抜けちまった……」
ある意味寝起きだった上条の頭が、ようやく回りだした。
「ただ、絶対に勘違いしないで欲しいのは、お前は女の子として、これ以上なく魅力的だから!」
ガバッと頭を下げ、必死に言葉を搾り出す。
「ついさっきまで倫理観とか言ってた俺がさ、うかつに動けないっつーか。今も、お前の肩に手を置いて、って思ってもだな。
ほんと根性ナシで悪いけど、できねーんだよ! ……あー、何言っても言い訳になっちまうな、本当にゴメンナサイ!」
上条は、ビクビクしながら美琴の反応を待つ。……美琴がため息をついた気配がした。
「……分かったわよ。じゃあ、背中向けて」
「はい?」
「背中! 伸ばしてね!」
よくわからないままに、湯船の中で上条は背中を向け、背筋を伸ばす。
ぴたっ、と適度に柔らかく、温かいものが背中に張り付いてきた。
「…………!!」
美琴が背中同士を――肩甲骨が当たらないようにややずらして、合わせてきたのである。
「こ、こそばゆいわね」
「……や、柔らかい……だ、だからお前なあ、俺の鉄の意志を砕きにかかるんじゃねぇえええ!」
「根性ナシの鉄の意志? 硬いんだか柔らかいんだか……」
そのまま美琴は頭を上条の肩に乗せた。湿った髪が、上条の頬をくすぐる。
「はふー、しあわせ~……」
「……手を伸ばせば届くんだいい加減に始めようぜ上条当麻いやだめだ終わってねえ始まってねえ落ち着け俺……」
満ち足りた美琴の裏で、上条はブツブツとつぶやきながら理性との戦いを続けていた。
「……いい方に解釈しとくわね」
「ん?」
「こーんなシチュエーションでも、手を出してこないとか、寝ちゃったりするってことは、さ」
美琴は口に出しながら、改めて思った。
「他の女の子にも、手を出してない……出せなかったって、ね。女の子の知り合い多いみたいだからさ」
もし、自分に何らかのアクションを上条が起こしていたら、『あのシスターとは何も無い』と言う言葉を信じられただろうか?
「出すかっつーの。それ以前にそんな恵まれたシチュエーションがねえよ。……くうぅ~」
何やらまだ『何か』と戦ってるらしい背中を感じながら、美琴はまたひとつ、上条への想いを厚くしていた。
(この性格のおかげで、今まで誰とも深い仲にならず、かあ。私にとっては、とりあえず良かったと思うべきよね……)
「そろそろ戻るか。着替え考えたら1時間以上たっちまうし」
しばし背中を合わせたまま、ゆったりと思い出話をしていたが、流石に時間が気になりだしていた。
「そうね~。どっち先出る?」
「……俺、先に出るとママさん攻撃怖いから、後でいい…」
美琴は、不満を示すようにぐりぐりっと肩においた頭を上条におしつけた。
「私だって嫌よ! ……まあいいわ、じゃあ出るから。今度は絶対こっち見ちゃダメよ!」
「……善処します」
背中が離れる。
(ふ~~。女の子の背中たあ貴重な経験だったけど、俺にはまだ早ぇ……え?)
「ぬああああああああああああああ!」
美琴が上条の首に腕を巻き付け、抱きついてきた!
(あ、た、当たってる、当たってるぅーーーー)
「……ほんとこの根性ナシは! 罰とご褒美の合わせ技で、コレでもくらえっ!」
美琴が上条をいわゆるチョークスリーパーの形でロックしたまま左右に振るが、背中の感触が、全てを凌駕する。
(こ、これが伝説の『当ててんのよ』? す、擦り寄せられたら、カミジョーさんは、カミジョーさんはーーっ!)
「じゃ、また後でね♪」
ぱっ! と開放され……、ばしゃばしゃとかき分ける音が聞こえ、美琴は戻って行った。
上条は色々と固まったまま、しばらく動けなかった。
◇ ◇ ◇
524 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:50:06 ID:WCyOcKio
美琴が常盤台中の制服を着て、手を振ってきたので、上条も更衣室に戻る。
着替えながら、一糸纏わぬ後姿と、あの前を隠した姿、そして最後の強烈な感触を思い出し……
もう美琴なしには生きられない、ダメ人間になってしまった気分の上条であった。
トイレに寄ったあと、ホテルロビーまで降りて行く。
両家はもう荷物をまとめて歓談中で、パパさんズも復活していた。
「おかえり~」
そう言う美琴の顔は引きつっている。……ママさんズ攻撃か。
「もう美琴ちゃんを、他の所へお嫁に出せなくなっちゃったわねえ……困ったものだわ」
「……俺ももうお婿にいけなくなりましたから、おあいこですよ……」
「な、何言ってんのよ!」
最後はさすがにやりすぎたかな、と思っていた美琴は、真っ赤になってモジモジしていた。
「もう帰るんだよ、ね?」
「ウン。詩菜さんが車で送ってくれるって。……何、美琴ちゃん今更寂しそうな顔して。さんざいつでも会える子と遊んどいて」
「まったくだ。俺、ほとんど美琴と話してないんだがなあ」
「アンタらがそそのかしたんでしょーがあ!」
「ま、いい顔になったな美琴。その顔で、俺はまた1年頑張れる……っと、刀夜氏が」
え? と美琴が振り向くと、上条刀夜がちょうど美琴の後ろに歩いてきていた。
「美琴さん、今日はありがとう」
「あ……いえいえ! わ、私こそ、なんかもう一人で滅茶苦茶にしてしまって、その……」
「いやいや。……もうお別れの時間だし、一つだけ。当麻の事だが」
「は、はい」
「あの子の不幸体質。……一緒に居ればおそらく、美琴さんもそれに巻き込まれていくだろう。しかし……」
「……、」
「不幸から逃げなければ、必ず幸福が来る――私はそう信じている。ならば、当麻は幸福と接する機会もまた、多いと言える」
美琴は思う。当麻がもし、幸運な男なら、私が困っている時に出会いすらしなかっただろう。
不幸だからこそ、困っている私に出食わし、巻き込まれ……
「大丈夫です。不幸に耐えられないからといって、当麻さんから離れるなんて、ないですから。絶対に」
「ありがとう。……まあ実際のところ言いたいのは、私に似て女性トラブルが降りかかってく……」
「あらあら~、刀夜さん、自分は悪く無いと言ってるのかしら~? 何を美琴さんに刷り込もうとしてるのかしら?」
「い、いやいや! じゃ、じゃあ美琴さん当麻をよろしく頼むよ!」
ずざざっ! と刀夜は下がっていった。
上条詩菜はため息をつき、そっと美琴に近づいて、小さな紙切れを手渡した。
「? あ、携帯番号……ですか?」
「うふふふ。何かあったら連絡頂戴ね。これでもあの子の母親、聞きたいことがあれば、ね♪」
「あ、ありがとうございます! じゃ、じゃあ私の番号も……」
素早く美琴は携帯を取り出し、詩菜に掛けて番号登録して貰った。
(そっか、詩菜さんから、昔の当麻の話を聞いたりして……失われた記憶を埋めていくのもアリなのかな……)
一方、美琴と刀夜が話し出した所で、御坂夫妻は上条当麻に近づいて話しかけていた。
「まったく、寝てる間にまさか愛娘が混浴たあ、男親としちゃどうすりゃいいんだろな?」
美鈴が苦笑いしている横で、旅掛の言葉で上条は強ばっていた。
「ひとつ言い当てようか? さっきの風呂、当麻くんは美琴に、一切手を出さなかったろ?」
「え!? 当麻くんホント? 美琴ちゃんの胸ひとつ揉んでないの!?」
「揉みませんって! いやその、……はい、何も……」
旅掛はウンウンとうなずいている、
「元来の性格もあるだろうが、両親のいるこういう場で、後ろめたいことはできないタイプだとは分かっちゃいるんだがな」
上条は愕然とした。
根性ナシと言われようと、信用されての混浴という状況、裏切るような真似できるか! との思いがあったのは事実である。
(なんでこうあっさり、見抜かれる……?)
「ま、今回は貸しということで許してやろう。『あの件の情報』で返してくれりゃいいさ」
美鈴が上条に近づき、笑いかけながら肩をポンと叩いた。
「というわけで、当麻くん最終テストもクリアね♪ 上出来上出来♪」
525 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:52:20 ID:WCyOcKio
――そして、両家の両親は満足して帰っていった。
数時間前のお屠蘇程度では、詩菜が飲酒運転で引っ掛かることもないだろう。
4人の乗った車が視界から遠ざかると、上条は大きく伸びをし、ぶはーっと息を吐いた。
「……なんで俺、今日初対面の親父さんに、完全に見抜かれてたんだ……? 洞察力ってレベルじゃねー!」
「コ、コンサルタントってそういう技術が当たり前なんじゃ……ない?」
「勝てる気がしねえ……」
というより、御坂家全員に勝てない気分の上条であった。
上条は美琴を促して、駐車場とホテルロビーをつなぐ通路を戻り始めた。美琴も横に並んで歩く。
「あー、早く着替えてえ……そういや確認してなかったけど、家近いって事か? 送るってことは」
「そうみたい。聞いたら、大覇星祭の時に母親同士意気投合したんだってさ。
で、ジムの話したら、詩菜さんがそのジム知ってる、って所から、実は同じ区民だったって判明して。
それで、母さんがジムに勧誘して、それからはもう、しょっちゅうジムで私達のこと話してたらしいわよ……」
「今回の擬似お見合いも、そのノリか……」
上条の足がピタッと止まった。横にいる美琴をまじまじと見つめる。
「ど……どしたの?」
「親がいなくなって、何つーか、元旦イベントが終わったのに。……お前がまだいる、みたいな。変な風には取るなよ?」
「……分かる気がする」
美琴にしても、『よし、芝居終了! おつかれ!』などと言われて、夢から覚めるんじゃないかと思うほどに、現実味がない。
「ここで抱きしめて現実を確かめる、っつーのが王道ってヤツなんだろうけど……」
結構駐車場と行き交う人が多く、上条のチキンハートには荷が重い。
「……前に妹がやったみたいに、腕にしがみついて、いい?」
「妹? ……ああ、地下街の時のアレか。よし来い!」
美琴はおずおずと手を伸ばし、上条の右腕にギュッと抱きついた。
「ではミコトは素直になってみます、……なんてね」
御坂妹の時と同じく、薄い胸が肘の辺りで触れ合って上条は少しドギマギする。……あの生の感触も蘇ったのは押し殺し。
「ははっ、素直な美琴か……そういや美鈴さんにも車乗り込む前にその辺言われたな」
「そ、そーいえば、あの時何話してたの? ちょっと嫌な予感したんだけど」
先程、後部座席に乗り込むため、車の後ろから回りこもうとしていた美鈴が、その途中で上条に耳打ちしていたのだ。
「うーん、言ってもいいけどさ」
「お、教えてよ。気になる」
「『美琴ちゃん、小さい頃はホント何かっちゃママ、ママって甘えてくれてね。いっつもヌイグルミ小脇に抱えてねえ。
ところが、早くから学園都市に入ったせいか、変に自立しちゃって。更に今反抗期のお年頃でしょ?
久々に甘えられる相手なのに素直に出せないと思うから、そのサインをちゃんと拾ってあげてね。それじゃまた』、って」
「あんのバカ親! な、何言っちゃってくれてんのよ……!」
美琴は真っ赤になったが、これは完全に見抜かれていたためだ。実際、どういった形ででも、甘えたい。
だが、素直云々というよりも、甘えるキッカケが掴めそうにない。上条がリードしてくれれば万々歳、なのだが……
526 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:52:45 ID:WCyOcKio
「流石にそれを聞かされちゃ、ボンクラな俺でも、ちょっとは意識せざるをえないけど。
でもさ、人前で甘えていちゃいちゃすんのはどーも合わなくてな……美琴がそういうの好きなら考えるけどさ。
このホテルを歩くなら、手や腕を絡めるのが限界かもしれねー、俺の場合……」
「わ、私も! 今は、それで十分、幸せ……よ。ただ、」
しがみついたまま美琴は、さっきの思いをそのままぶつけた。
「ふ、二人っきりの時さえ、もうちょっとそっちから踏み込んでくれれば、……甘えちゃおかな、なんて」
「……あー。そうだよな、俺から動けば、お前のサインなんて別に……」
そこまで言って、上条は何かに気付いたような表情をした。
「あーくそ、よく考えたらこんな事さえ、親のお膳立てか。美鈴さんの情報通りにしようとしてる俺が居る! ダメだダメだ!」
上条は首をブンブンと振った。
「せっかく恋人になったのに、まだ俺が何か変われてねえ! これじゃ釈迦の手のひらの上、だ!
……よし、両家の筋書き通りの元旦物語は終わりだ終わり! こっからは俺が、いや、2人で新たな物語を作ってやる!
美鈴さんの情報はともかく、美琴を一から知って、もっと俺が美琴をリードしねえと、だよな!」
美琴は驚いたような表情をしていたが、上条の言葉が浸透すると、微笑んで彼を見つめた。
一旦絡めていた手を離し、改めて左手で上条の右手を握る。
「……他の人なら笑っちゃう台詞だけど。当麻の言葉は、有言実行。そうやって色んな人を救ってきたんだもんね。
私も当麻の事もっと知りたいし、私もできるだけ……。ウン、いい物語、作ろうねっ!」
「ああ、時間はたっぷりある。よーし、じゃあ行くかあっ!」
2人はにっこり笑いあい、お互いの手をしっかり握って、歩みだした。
私にまでクサい台詞言わせないでよっ、俺と付き合うならあんなもんじゃ済まねえぞ? と笑いあう姿は。
もうそれは、『一体何をやれば恋人っぽく見える訳?』などという疑問を差し挟む必要もない、恋人たちの姿であった。
527 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:53:43 ID:WCyOcKio
<エピローグ>
――あら、お姉様からのメール……年明け早々わたくしにラブラブメールですの?
『黒子、誰よりも先に、貴方に知らせるべきだと思ったので、メールにて。
私は今日、想い人に告白しました。彼は、それを受け入れてくれました。
もちろん彼とは、黒子も良く知る、あの人です。
今夜会えたら、話します。祝福してくれることを、願って。 美琴』
メールを開いた白井黒子は、……自慢のツインテールが逆立った!
「あの猿がァァあああああああああああ!! こっ、殺す!」
初詣の警備をしていた黒子は連絡を取り、体調不良を理由に仕事を早退した。
今、いたいけな少女がたぶらかされ、足を踏み外そうとしている。黒子にしかできない仕事が、ここにある。
足は、無人の支部に向かう。
――許可なしに書庫のデータを覗き、類人猿から猿に格上げされた上条当麻の住所を確認する。
……始末書など、何枚でも書いてやるですの!
白井黒子の姿が、消えた。
上条の住む部屋の前で、白井黒子は佇む。
人の気配はない。
激情にかられて来てみたものの、いつ帰ってくるか分からない。
しかし、あのメールを見る限り、美琴は普通に寮へ戻ってくるつもりのようだ。
門限を守ると信じれば……、上条もそう遠くない時間に戻ってくるはずだ。
……会ってどうするかは考えていない。
まあ、ちょうど考える時間ができましたわね、と黒子はひとりごちる。
その時、寮の前に一台の車が止まり、下を覗き込むと白い修道服の女の子が降りてきたのが見えた。
「じゃあシスターちゃんまたですよ~」
「こもえ、またいこうね~~」
いつまでも手を振って見送っていたシスターは、寮の入り口に入ってきた。
(……まさかここに? 男子寮ですわよ?)
しかし入ってきた以上、高確率で、ここに来るだろう。
そして、エレベーターが、この階で止まった音が、聞こえ……上機嫌なシスターが、鼻歌を歌いながら姿を現した。
「ん~? あー、いつも短髪といっしょにいる!」
インデックスが反応する。
「こんにちは、ですの。お出かけしてらしたの?」
「うん、初日の出みてきたんだよ。おせちもいっぱい食べて、楽しかったんだよっ」
機嫌よくインデックスは返事する。どうやら過去の経緯から、黒子にはそれほど敵対心は持っていないようだ。
「それでは上条さんは? ああ、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
「とうまはご両親とホテルで食事だよ。もうすぐ帰ってくるかも。カギあけるね」
カギをあける? まさか!? 一緒に住んでいる?
「知らない人いれちゃダメってとうまに言われてるけどね。知ってる人だから入っていいかも」
(なんですの?この展開!?)
部屋の中は綺麗に片付いていた。大掃除後ならではだ。
「うわー、とうま綺麗に片付けたんだー」
黒子ももっとガサツな男と思っていただけにビックリである。
インデックスは猫のスフィンクスを抱きしめて、撫でている。
「……一緒に暮らしてるんですの?」
とにもかくにも、これだけは聞いておかねば、と黒子は問う。
「そうなんだよ。イソーロー? っていうのかな」
何とも微妙な言い回しである。
さすがに夜はどうしているのかとは聞けず、黒子は部屋の中を検分する。
528 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:53:59 ID:WCyOcKio
「それで今日はどうしたの? とうまになにか用事?」
「ええまあ……先程も言いましたが、ちょっとお聞きしたいことがありますの」
「ふーん」
この様子では、100%今日のことは知らないのだろう。
「ほんの少しだけ待たせて貰ってもよろしいですの? 戻られないようでしたら帰りますので」
「私はいいけど」
上条当麻は両親とホテルで食事会。
御坂美琴は前日から泊り込みでホテルで両親と過ごしている。
上条と約束していたのなら、もう少し浮ついていても良さそうなものだが、それは無かった。
(偶然、鉢合わせ……?)
何があったのか……
「ただいま、っと。インデックス帰って来てたのか」
突然、ドアがあいた。
「おかえりとうま~、……え?」
「へ? 白井?」
「く、黒子!?」
ドアをあけた上条当麻の後ろから、御坂美琴の顔が覗いていた。
本来、上条は一人でインデックスに説明するつもりだったが、しかし。
美琴は真正面からインデックスと話さないと、今後絶対後悔すると主張し、同行した次第である。
それにしても、白井黒子の存在は想定外である。
(メール打つの早すぎたかしら……この子のこういう時の行動力、ナメてたわね)
上条に促されて、美琴は部屋に入る。
インデックスは明らかに敵対モードだ。美琴と上条を交互に睨んでいる。
黒子は……上条を睨んでいる。
上条はそのまま手際よく、ヤカンに水を入れて沸かしはじめ、
「わりい、スーツだけは着替えさせてくれ……」と着替えを持ってバスルームに飛び込んだ。
(これは怖い。何が起こるやら……)
上条は全く先の読めない女三人の修羅場の予感に、おののくばかり。
インデックスは無言で、引き続きジト目で美琴を睨んでいる。
美琴は初めての異性の部屋でキョロキョロしている。もちろん、他の2人の視線をかわす目的もある。
黒子は俯いたまま、身動きしない。少なくとも美琴は今日、黒子の言葉を聞いていない。
上条はスウェットの上下というラフな格好で、コタツの最後のスペースに潜り込んだ。
(湯のみが飛び交うこともあるかな…)
と思いつつ、お茶を入れて配る。
席としては、上条の左側に美琴、右側にインデックス、正面に黒子、といった形である。
「ま、黒子もいることだし、私から喋るわね」
美琴はお茶で唇を湿らせる。
――上条宅に戻る途中でも考えていた。
あの時――上条に同居のことを告げられた時、当然ながら衝撃はあった。
反面、心のどこかで、やっぱり……という思いもあったせいか、冷静に受け答えはできたが。
上条の本音は知る由もないが、今は自分に向いてくれている。それはそれで信じるしか無い。
問題は、このシスターの心。異国の地で上条を頼っている女の子。
(いやになるくらい、この子に非はないのよね……)
完全な悪役だ。
でもどんな結果になろうとも、いつかは向かい合わねばならない問題。
意を決して、美琴は口を開く。
「今日、私たちはハダカで愛を確かめ合う仲になりましたっ!」
◇ ◇ ◇
529 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:54:12 ID:WCyOcKio
一瞬の静寂の後。
「ちょっと待てお前!」
「どーいうこと!?」
「な、なんですっ……て!?」
インデックスと黒子の視線は美琴から上条に移る!
「どーいうこと!」 インデックスの歯が光る。
「まさか、まさか…」 白井黒子が一瞬の動きで金属矢を指に装着する。
「い、いや、お前ら勘違いしてるから! 健全だから! 美琴テメエ、なんつー説明してんだっ!」
――美琴は普通に経緯から話すつもりだった。
しかし白井黒子の様子から、最初は冗談ぽく――そしてシンプルに、簡潔に、結果だけを話す展開のほうが、
丸く収まりそうな気がしたのである。
話を小出しにしていっても、相手の感情は高ぶっていく一方だ、と。
美琴は俯きがちに、口を開いた。
「ま、それはさておき。……今日ですね、いろんな背景はあったけど、……想いを抑え切れなくて、告白、しちゃいました」
顔を上げて、上条をちらりと見て、また俯く。
「彼は、恋人として愛すると。……守ると、言ってくれました。……話ってのは、実はこれだけ、なんだけどね」
そう言って一礼した美琴を見て、インデックスの表情から怒りがすうっと消えた。
怒って済む事態ではないと気づいたらしい。
「とうま……どういう、こと?」
おびえたような表情になっている。
その横では、白井黒子が、直接に聞いたショックで動けなくなっていた。
「……美琴の言った通りだよ。今後、美琴と俺は、付き合っていく。ただ、それだけの話だ」
「――とうま、私のこと、嫌いになっちゃったの?」
「違う」
「――とうま、私、ここに居ちゃいけなかったの?」
「変わんねえ、ここにいろ」
「――とうま、ずっと一緒にいられると思ってたんだよ?」
「お前が離れない限り、一緒だ」
「わけわかんないよ、とうま! それで短髪が恋人ってなに!?」
「でも、そうなんだ。美琴は、俺の側に、今まで通りお前が居ても問題ない、と。……お前ごと、俺と付き合って行く、ってな」
「えっ……」
混乱するインデックスの目を見つめつつ、上条は静かに語りだした。
「インデックス……、俺は誰にも、お前にも話せない、秘密が、ある……。まさに墓場まで持っていく秘密、ってヤツがな。
俺だってさ、恋人は欲しいといつも思ってたけど……秘密を持ったままじゃ、そんな資格もねーよな、と思ってた」
インデックスは目にわずかな涙を浮かべつつも、上条の言葉にじっと耳を傾けている。
「そんな俺の秘密を、美琴は知った。偶然と言ってしまえばそれまでだけど。
でもそれは、そこに至るまでの過程を考えると、何かの導きと思わざるを得ないほどの、偶然の重なりだった。」
たった一週間前のペア携帯契約、繋がった電話、壊れても音声は生きていた携帯、そして拾われた会話――異常な偶然。
「そしてまた。……美琴も秘密を持っている。誰にも、親にも明かせないものが。白井にもな。
美琴には絶望に満ちた過去があり、それを俺が救った。でも、その傷は未だ癒えず、美琴に残っている。
その傷を知るのが俺だけなんだ。」
美琴が口を開く。
「私は本来なら、もう去年の8月21日に、この世を去ってたの」
美琴のつぶやきに、白井黒子の顔がこわばる。8月21日……結標淡希の言葉が蘇る。
「前に私が、当麻のことを命の恩人だって、言ったことあるよね。あの地下街で、私達4人が初めて顔を合わせた時。
『命の恩人』なんて言葉は軽いけど、私にとっては真の意味で、なの」
◇ ◇ ◇
530 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:13 ID:WCyOcKio
「ああ、すまねえ。別に暗い話をするつもりはないし、今の話はそういう背景がある、程度に思ってくれ」
そう言うと上条は、一旦お茶で喉を潤した。
「んじゃ本題な。俺が御坂美琴の告白を受け入れたのは……」
美琴も乗り出した。
唇へのキスをしてくれるまでに至った心の変節は、どうにも分からなかったから。
「美琴が、俺に『帰る』意味を与えてくれたからなんだ」
全員の顔にハテナマークが浮かんでいる。
「俺さ、想いってのが、これほどの形を持ったものだとは、知らなかったよ。
ホントなっさけねえ事に、女の子を滅茶苦茶に泣かせて、追い詰めて。
そして、ありったけの想いをぶつけられてさ……、過去のどんな物理的ダメージよりも、強烈だった。
でも、それだけに、美琴にハンパな対応は止めようと思った。
更に泣かせようとも、一時しのぎの恋人のフリをするような事だけは、絶対にすまい、と」
「その後で、酔って寝てしまった美琴を膝枕してやる時間があってさ、そこで俺は考えたんだ。
美琴は俺を選ぶに十分な理由があった。でも、俺には? そもそも俺は、恋人に何を求めているんだ?
……何か恋にまで理屈っぽいなと自分でも思ってるんだけどな、まあ、それはさておき、だ」
「俺ってさ、何でもかんでも首突っ込んで、……まあそれなりに色んな人を救えたかな、とは思ってる。
これからも、この生き方を変えるつもりはねえ。
でもそれは……たとえ恋人がいても、俺は何でも突っ込んで行くつもりということだ」
「実際もうここで条件は絞られちまうんだ。俺が求める人、すなわち恋人としては、『一人で戦える人』だと。
一人で戦えない奴を残して、他の人救いになんて行けねえよな。でもさ、一人で戦えるんなら、俺いらねえよな?
なんだ、結局矛盾して、恋人できねーじゃんと思って、改めてすやすや眠っている美琴を見下ろした時……、
スーッと、答えがさ、降りてきたんだ」
その浮かんだ答えってのはな、と上条は美琴に視線を走らせながら続ける。
「コイツは、俺が帰ってくることを糧にして、一人で戦える奴だ、と」
「美琴は誰もが知る、LV5エレクトロマスターだ。当然一人で戦える。でも……
さっきの過去の話にあるように、誰にも言わないまま死ぬ気だった時もあるくらい、美琴は実は危うい。
実際、俺がピンチだと分かったら手段を問わず戦時中でもロシアまで突っ込んできたヤツだ。
思い込んだら、何しでかすか分からない。
でも、きちんと、『俺は必ず帰る』と約束さえすれば、きっと俺の姿を見るまでひたすら我慢できる奴のはずなんだ」
「そして俺も。ほら、よくあるだろ。俺が死んでも、あの人が助かったのなら本望だ……、って奴。
俺にはもう、それが許されなくなった。美琴に帰るって約束してるんだから。
俺は助けを求める人を救いに向かい、待っている美琴を救うために、必ず帰る」
「……美琴は、俺の進みたい道の、ベストパートナーだと、心からそう、思った。その時だ。
眠っている美琴の顔も目も唇も、全てが愛しく見えたんだ。まるで、全てのフィルターが取り払われたのかのように」
今にして思うと、と上条は目を細めてつぶやいた。
「心理的ブロックというのかな、中学生であるとか、変に命の恩人であることを押し付けたくないとか、何か分かんねーけどさ。
好きになっちゃまずい、意識しちゃいけないという心理が働いていたのかもしんねーな。
でも、それが取り払われ……こんな愛しい子が目の前にいて、俺を好いてくれている。答えなんて、言わずもがな、だよな」
上条は3人を見渡した。
「だから、目覚めた美琴に心からの誓いを込めて、キスをした。……そういう、ことなんだ」
◇ ◇ ◇
目にいっぱい涙を浮かべたインデックスは、無言で立ち上がるとドアに向かって走り出した!
「インデックス!」
上条が叫ぶと同時に、白井黒子の姿が消えた。
「逃げては、いけませんの……」
ドアの前で両手を広げ、立ちはだかった黒子を前に、インデックスは立ちすくむ。
そのまま黒子はインデックスを抱きしめ、ゆっくりと戻るように促す。
だがインデックスは、黒子にしがみついて、そのまま顔を埋めて……泣き出した。
531 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:30 ID:WCyOcKio
嗚咽だけが流れる静寂の中、黒子はインデックスの頭を撫でてやりながら、つぶやく。
「……優しさは罪と言ったところでしょうか、お姉様」
「え……」
「このシスターさんごと愛す、なんて。そんな意思で向かわれては、この方は反撃すらできませんの」
美琴は黒子から視線を逸らした。
敵対されたなら、刃向かえる。でも、包み込まれたなら……。
「そして、上条さんにそう切々と語られましては、もはや言葉で返すには厳しいでしょう」
美琴がもし逆の立場だったなら。……立ち去るか、ここで突っ伏してしまうか、だろう。
そして、インデックスは立ち去ることを止められた。
黒子はインデックスをやや引き剥がし、片膝をついて話しかけた。
「でもやはり、逃げてはいけませんの。わたくしもお話を完全に把握したわけではございませんが、そうですわね……、
例えれば、今までソファーに貴方と上条さんが座られていたところに、お姉様がぎゅうっと隙間に入り込んで座ったかのような。
でも、狭くなっても、居場所は十分にあるんですの。逃げれば、もう戻ることは困難となりますわよ」
そう言って黒子は、改めてインデックスを抱きしめる。
「――お姉様。黒子は帰ります。……寮監には少々遅くなるようだと伝えておきますので、きっちりお話なさって下さいな」
「え、あの黒子? な、なんでそんな普通、なのよ? 怒ってないの……?」
「……上条さんの語りを聞いているうちに、考え方を、少し変えることができまして。
お姉様を外面ではなく、内面にある脆さ・危うさにまで考えが及んでおられる、……ならば、完全否定する必要はない、と。
そう考えた時、黒子は気づきましたの」
美琴は嫌な予感がした。このような口調の黒子は、とんでもなくネジの外れた事を語りだす……
「お姉様と上条さんとがどういう関係になろうとも、お姉様と黒子の関係性には全く関係ないことに、ですの」
「……黒子!?」
「独占欲で視野が狭くなっておりました。異性間の愛と、同性間の愛は別もの、共存すれば良い、と!
そして、わたくしも上条さんごとお姉様を愛すればいい、と! まだちょっと上条さんをお兄様と呼ぶには抵抗がございますが」
あまりの話に上条と美琴が固まってる間に、黒子はインデックスに再度、語りかけた。
「今、貴方の心を縛ってますのは、独占欲ではないですの? わたくしもそうであったように。
……まずは、落ち着きなさいな。感情的にならず、お話されれば、きっと何かが見えてくる、そう黒子は思いますの」
黒子はインデックスを元いた席までゆっくり肩を押しながら連れていき、座らせた。
インデックスは泣き止みかけつつも、しゃくりあげながらうつむいている。
「では失礼いたします。お姉様、また後ほど……」
次の瞬間、白井黒子の姿は消えた。
「あ、あー……、アイツは俺の想像以上に、ぶっ飛んでるな……」
「……テレポーターってね、感情がリミッターを超えそうになると、冷静になるよう訓練されてるらしいの」
「そうなのか」
「表向きは演算能力の維持って理由だけど、実際の所、理性を失ったテレポーターはあまりに危険だからね……」
その気になれば、触れた物全て凶器と化すテレポーター。
白井黒子がジャッジメントに属するのも、常に自分を律する……自己抑制を意識するためか。
「ま、まああの子が今、そういう状態かは分からないけど。……うん、後でフォローしとく。それより……」
上条と美琴は、インデックスを改めて見やる。
何の罪もない少女を、悲しみの底にたたき落としてしまった罪悪感が、2人を包んでいた。
白井黒子は、しばらくドアの外に佇んでいた。
もうあの話は、3人の問題であり、自分が居るべきではない。
(ふん……つくづくわたくしが、矮小な人間かと思い知らされましたわ。……何のことはない、逃げたのは、わたくし)
もはや自分の入り込む隙間は無い、と思い知らされた。あんな空間に、居続けてなど、いられない。
自分の言った言葉に嘘偽りはないが、言葉だけで心がその位置に届いていない。収まってなどいない。
「さて……お姉様が戻られるまでに……、」
黒子は小さくつぶやいた。早く熱い風呂に入って、何もかも洗い流したくて、たまらない。
気を抜くと涙が沸き上がってくる。歯を食いしばり、黒子は常盤台寮に向かって、連続テレポートを開始した。
◇ ◇ ◇
532 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:43 ID:WCyOcKio
上条は、インデックスに優しい口調で語りかけた。
「なあインデックス、……ひょっとしたら勘違いしてるかもしんねえから、言っておこうと思う。
俺は、お前と美琴を天秤に架けて、美琴を選んだ訳じゃねえぞ? お前と美琴との優劣なんざ、俺は一切見ちゃいねえ。」
「俺は、今までの経緯から、元々2人を――あまりに背負ってるものの過酷さから、何とかしてやりたいと、思ってた」
ああ、白井がいねえから、コレは言っておくか……と上条はつぶやく。
「美琴の抱えてる問題ってのはな、ほれ、お前クールビューティーって呼んでる美琴の妹知ってるだろ?
実は、本当の意味での妹じゃねえんだ。学園都市の技術で作られた、美琴のクローンなんだよ、アイツ。
他にもラストオーダーという、チビ美琴みたいなのもいるんだけどな」
何か思うことがあったのか、インデックスが顔を上げた。
「そういった美琴のクローン……通称シスターズがな、全世界に1万人ほど、いるんだよ。
10万3000冊の魔道書を抱えるインデックス、1万人のシスターズを抱える御坂美琴。な? お前達は状況は似ているんだ。
お互い、自分が望んだわけでもない運命を、背負わされてさ……運命の重さや悲劇性なんざ比較できねえが、お前達に差は」
そこまで言い募って、上条は気が付いた。
インデックスが、静かに首を横に振っている。
「インデックス……?」
「……とうま。うん、もういいよ。もう……」
戸惑いを見せる上条に、インデックスは何か悟ったような柔らかい表情で、話しかける。声はしっかりしていた。
「とうま、覚えてる? 当麻が私を助けてくれた日の、病室で、私が言ったこと。それを聞いて、私を犬猫扱いした……」
上条は頷いた。
――『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』
――『インデックスって、何? 人の名前じゃないだろうから、俺、犬か猫でも飼ってるの?』
覚えている。
忘れようもなく、胸を絞めつけたあのやり取り。失われた自分へ、向けた言葉。
そして、上条は……未だにきちんと返事をしていない。今の自分が代わりに答えるわけに、いかないから。
「何故、過去形だったか、分かる? とうま」
上条はギクリとした。
一瞬、インデックスが実は記憶喪失に気付いているのか、と思ったからだ。
しかしそれなら、自分が『秘密』と言い張っている方に突っ込んでくるんでは、と思い直す。
あの時、インデックスは上条が記憶喪失かもしれないと思いながら、話しかけていたはずだ。
だから、過去形で話していたと、思っていたが。
しかし、よく考えれば、『上条が記憶喪失でないと分かった』のなら。
どうしてあの告白と取れる言葉を、インデックスは放置しっぱなしなのか?
上条の返事を求めるでもなく。
かといって告白を受け入れられたと思っていたならば、色恋を含んだ接触をしてきてもいいはずだ。
様々な考えが浮かんだが、上条は分からず、首を横に振った。
「分かんねえ……」
「過去形ならね、言葉上は洗礼前だったとして矛盾はないから……」
「……何の事だ?」
「カトリックのシスターは清貧・貞潔・服従の誓願をたてているんだよ。主に身を捧げたからね。バチカンほど厳しくはないけど」
533 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:55:59 ID:WCyOcKio
上条は、インデックスにそう言われても、ピンとこなかった。
(んー……だから、何なんだ……?)
そこに美琴が上条に噛み付いてきた。
「ちょっと当麻、分かんない。この子に何言われたのよ。教えて!」
「……前にな、『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』って、言われてな。
いや、ちょっとその後もバタバタしてさ、その会話自体はそこで終わった形だけど」
美琴が驚いて目を見張る。その驚きは、このシスターの方が先に告白していたという事実、それに尽きる。
えーと、つまり……と美琴はブツブツと呟き、やにわにガバッとインデックスの方に身を乗り出した!
「じゃあアンタは、恋愛を禁じられたシスターだから、……こんな状況においても、無抵抗だっての?
現在形で告白しなかったのも、主の教えに背くからだっての!?」
「教えに、じゃなくて、カタチ上はもう主と結婚しているようなものなんだよ。禁じられたんじゃなくて、恋愛がありえないんだよ」
「そんな、何言って……!」
上条は美琴の理解力の早さに驚くとともに、インデックスの複雑な想いに、今さらながら気付いた。
今までで最も好意を表明した言葉さえ、所詮は過去形、自分に気を遣う必要はない、とでも言いたいのか――
「……うん、分かってたんだよ。とうまに、特別な人が出来たら終わる生活だってことは」
上条が、誰かに恋すれば終わる生活。
――上条がインデックスに恋したケースは、インデックスは受け入れられず、去るしか無い。主に背くことになる。
――上条がインデックス以外に恋したケースは。他に恋人ができたのに、同居が許されるはずがない。
どちらも、上条との同居生活の崩壊を意味する。
だから、インデックスは、曖昧なままの生活を望んだのだ。それならば、上条と、共に居られると――。
美琴は、黒子が座っていた側から回りこんで、インデックスの肩を掴む。インデックスは、抵抗しなかった。
「アンタも当麻のこと好きなクセに! 何やってんのよアンタ!?」
「好き……とうまのことは信頼してるという意味ではそうかも。でも、恋とは、違うかも。よくわからないし」
インデックスは、目を合わせない。
「ウソをつくのはアリなの!? 本当に好きなら、シスターなんてやめちゃいなさいよ!」
「私には……10万3000冊の魔道書があるから。それは、できないんだよ。……だから!」
インデックスが美琴を見上げた。背負わされた運命でも逃げない、という意思を持って。
「……だから、とうまと一緒に過ごす、今の生活が、ずっと、続いてくれたら、って思ってたんだよ……」
またうつむいてしまったインデックスを、美琴は胸を締め付けられる思いで見つめていた。
この少女は、今の生活が続くことを祈るしか、できなかった。
白井黒子に指摘された独占欲もないと言えば嘘になるが、本当の意味ではそうではなく。
幸せな、曖昧な生活の終わりが、来たことを悟ったから。……だから、泣くしかなかった。
「で、何で今の生活が終わりなのよ。当麻も私も、アンタがここに居ていいって言ってるじゃない?」
「……やむを得ず、だよね。私が他に行くところ、ないから。……大丈夫だよ、私はイギリスに帰るから」
「こんのバカシスター! 当麻はね、同居を告白すると同時に、同居生活は絶対に守るって言い切ったのよ!?」
「…………、」
「想像しなさいよ! アンタがイギリスに帰って、当麻と私が厄介者が消えたと、喜ぶとでも思ってんの?
逆でしょ逆! アンタがまた10万冊狙われてないかとか、不安な毎日過ごすに決まってるでしょ!
アンタはもう、当麻の一部なのよ! もうガッツリお互いの運命が噛み合っちゃってるのよ! 分かってるくせに!」
「もう、とうまは十分私を救ってくれたんだよ。とうまのおかげで、色んな事も明らかになったし」
「こっ、この……」
更に言い募ろうとして美琴は、なんとか押しとどめた。
インデックスの肩から手を離し、一旦その場に座り込む。
相手はシスターだ。おそらく、自己より他者を重んじる傾向であるのは間違いないだろう。
まさに『北風と太陽』であり、美琴が『北風』で攻め続ける限り、この心の扉は開くと思えない。
534 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:56:12 ID:WCyOcKio
「お前、イギリスっても。ここしばらくの知り合いしかいねーじゃねえか。まさか、教会頼る気か?
お前の記憶を奪い、遠隔操作を仕込むようなとこだぞ!?」
「だから、とうまが色々明らかにしてくれたから。大丈夫だよきっと。教会に戻ろうと思ってる」
口を挟んだ上条の言葉に、美琴は驚いた。
「記憶、って……? この子も、じゃなくてこの子、記憶失ってるの!?」
「……ああ。色々あってな、インデックスは約1年半程、の記憶しかない。それ以前は……消された」
「け、消された……って」
それって当麻もそうなんじゃないの!? という言葉をかろうじて飲み込む。
「とある事情で一年周期で記憶を消されてたんだけど、とうまがその循環から救い出してくれたんだよ」
……身代わり。美琴の脳裏に、その言葉が浮かぶ。この子が受ける呪いのようなものを、代わりに受けたのか?
しかし、ここで問いただすわけにはいかない。
でも、これで確かなのは。この2人の関係を、自分の存在のせいで終わらせてはいけないと言う事。
これほどの深い事情を共有する2人の物語もまた、エンディングには程遠い。
(考えるのよ、何かあるはず……、)
だからといって、自分が身を引く道理もない。引いたところで、特に解決するものもないのだ。
3人が3人とも、もう『同居』は可能ではあっても難しいと感じている。
そしてこのシスターは、同居が無理とした場合、行くところが無いようだ。
イギリスは出身というだけで、記憶の問題で特にアテがあるわけでもない……
考えろ、……誰もが笑って誰もが望む、そんな幸せな世界がきっとあるはずだ、き……っと!
美琴はそこで閃いた。
(……そうか! 無いなら作ればいいんだ!)
「よし、じゃあ」
口を開いた美琴に、上条とインデックスの視線が注がれる。
「お願い。3ヶ月だけ時間を頂戴。それまでアンタ達は今まで通り、一緒に住んでて」
「えっ?」
「考える時間と色々動く時間を頂戴。……少なくとも、衝動的な判断はお互い避けよう」
「一旦保留ってことか? ……とりあえずはそれでいいと思うけど、3ヶ月って何かあるのか?」
美琴は意を決した。
「今ちょっと考えてるのは……4月から私、寮を出てこの子と暮らす」
「「ええっ!?」」
上条とインデックスは見事にハモった。
「どんな綺麗事言ったって、この生活自体は歪すぎるわよ。でも女の子同士で暮らす分には問題ないでしょ?」
「色んな所を説得して、許可貰って、と忙しいけど。全寮制って規則だしね。まあでも何とか。一番黒子が厄介そうだけど」
美琴は苦笑いする。白井黒子にとっては、ふんだりけったりの展開だ。
「学園都市は一人暮らしの女子中学生なんてわんさかいるし。私にできないってことはないと思う」
「お、お前……」
「ただし、これは。アンタが私と住むのはゴメンだ、って言うならこの話はナシね。
さすがに、私の友達にアンタを住まわせてくれなんて頼めないし。……アンタ次第よ。それでもイギリス、ってんなら止めない」
美琴はインデックスをじっと見据えた。
「なんで、そこまでしてくれるの……? 私がいない方がいいはずなのに」
「私もよく分からないけど。でもほら、後で九三〇事件って言われた、アンタ達があのトモダチを救いに行った時、さ」
インデックスは頷いた。
「アレさ、アンタは歌で救うとかワケ分かんないこといってたけど、結局うまくいったのよね? で、私は私で妙な部隊倒して。
……当麻を支えるってのはさ、私一人じゃできないなーって。えーと魔術っての? アンタが居ればなんとかなるんでしょ?
つまりは、当麻のため。私は当麻にとってプラスになるなら、全部受け止める!」
美琴は言い切った。そして更に言い募る。
「申し訳ないけど恋人って席は絶対に譲らない。アンタの信仰は知らないけど、勝負するなら受けて立つ。
でも、アンタとの関係そのものは……対等に、当麻を支え合っていく仲間……ううん、友達、でありたい、かな」
急に声のトーンが落ちた。自分から友達になろう、といった記憶が長らくない美琴は、気恥ずかしくなったのだ。
535 :ぐちゅ玉:2010/07/21(水) 21:56:36 ID:WCyOcKio
「トモダチ……」
「さあ、私はカード切ったわよ。一緒に住もう、友達になろう、ってね! 答えに3ヶ月必要だってんなら、それでもいいけど」
今まで美琴は、交友関係においては、常に受身だった。輪に入ろうとして、輪を崩す原因になりたくなかったから。
自分から動いたのは上条に対してだけだが、それすら元旦の今日、朝まで想いが伝わっていなかった。
コミュニケーション下手なのは自覚している。 恋敵だ、受け入れられないと言われればそれもしょうがない……
「ねえ、とうま」
ちょっと間を開けて、インデックスはつぶやいた。
「とうまの選んだ人は、やっぱりいい人なんだね」
「ああ。でもインデックス、お前がいい奴だから、みんなお前に惹かれるんだぞ? どうでもいー奴なら、帰れ、で終わりだ」
インデックスは上条をじっと見つめる。
「お前を傷つけたくないと、心から思えるんだ。そういうことだよ」
上所の言葉に、インデックスはゆっくり目を閉じた。
「うん、とうま、ありがとう。……恋人の短髪と仲良くやるんだよ。
私も自立できるよう頑張るけど、しばらく友達に……迷惑だと思うけど、お世話になることにする」
上条と美琴は顔を見合わせた。
「み、認めるってか、いい、のか……?」
「私の言ったこと、受け入れてくれる、の?」
インデックスはどこか吹っ切れたような表情をしている。
「さんかくかんけー、ってやつになるんだよね。むしろ、とうまが他の女の子にフラフラしなくなりそうでいいかも」
「他の子にフラフラ……?」
「ちょっとまってくださいインデックスサン!」
「あいさ・かおり・いつわ・こもえ・まいか・クールビューティーとかに知らせなくていいのかな、とうま」
「ま、待て待て! 知り合いの女の名前適当に並べんな!」
――受け入れてくれたんだ。
他の女の子の名前を出して、ちょっと照れが入っているのが可愛らしい。
「ま、その辺の追及は後でじっくりさせてもらうとして……」
美琴はスッとインデックスに手を差し出しかけて、思い止まった。
それよりも先にやることがあった。
「そういや私達って、自己紹介まだだよね。そこから始めない? なんせ初対面が『品のない女』だの滅茶苦茶だったし」
「うん、そうだね!」
コホン、と咳をして改まった美琴は、ちょっと頬を赤らめてインデックスに向かって居住まいを正した。
「私は御坂美琴。レールガン、って通り名持ってるわ。……今後は『美琴』って呼んで欲しいかな」
「みこと、ね。分かったよ、みこと」
「おいインデックス」
そのまま挨拶しようとしたインデックスに、上条が口を挟む。
「なに、とうま?」
「自己紹介の後に、ちゃんと今後の要望言っておけよ? 一緒に住むことになる可能性が高いんだ」
上条の言葉にインデックスは首をかしげていたが、うん! と頷く。
インデックスは美琴ににっこり笑いかけた。
「私の名前はね、インデックスって言うんだよ? おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな♪」
fin.
<できるだけ自然な上琴ルートENDを書こう、というのが最初のきっかけでしたが、えらい話に。紆余曲折、あー長かったw>
537 :■■■■:2010/07/21(水) 22:24:34 ID:5dFQDx4A
乙です。
美琴とインデックスの同居生活は超読んでみたいです。
538 :■■■■:2010/07/21(水) 22:35:46 ID:3N6vbkIc
GJです!!
なんだかんだでインデックスも幸せになれそうで良かったです
539 :■■■■:2010/07/21(水) 22:44:04 ID:uir.xgbA
素晴らしいの一言です。
540 :■■■■:2010/07/21(水) 22:53:31 ID:kQYPZEYA
完結乙、おめ。原作でのエンドっぽい感じがたまらないですな。
ただ好きとか愛してるっていう言葉だけではなくて
それに至った経緯について、しっかり言及されているので
すごく良いし、説得力がありますねー
続きが読みたかった作品だけに最後まで読めて最高でした。
541 :■■■■:2010/07/21(水) 23:17:03 ID:W47dWDsM
GJ!!です。
こんなエンディングがあったなんて・・・
インデックスの心情描写と美琴との絡みに感動しました。
542 :■■■■:2010/07/21(水) 23:22:15 ID:RWFg8biI
なんとかみんな幸せな感じで結末してよかったです。
原作で、美琴と上条さんが結ばれちゃったらインデックスはどうなるんだろう
ってつい考えちゃいますよね。そうなったときの一つの考え方でこうなるって感じがします。
あとお風呂場のシーンは凄くドキドキしましたw
お疲れ様でした。そしてまた新しい作品をお待ちしております。
544 :■■■■:2010/07/21(水) 23:42:08 ID:pLSQcXs.
完結お疲れ様です。
実にいい物読ませて頂きました。
545 :■■■■:2010/07/21(水) 23:48:46 ID:B6/MxSwY
GJです!
完結お疲れ様でした、色々感動して泣きそうです
次回の作品も楽しみにしてます
546 :■■■■:2010/07/22(木) 00:13:33 ID:iszFp416
読んでるこちらが感無量。
良作の超大作をありがとう!
548 :■■■■:2010/07/22(木) 05:24:55 ID:DNbdd9so
ぐちゅ玉さま
至高の恋物語とインデックスをありがとう!
549 :■■■■:2010/07/22(木) 10:37:35 ID:56tvT2ac
ぐちゅ玉さん超GJ!
最高のラストをありがとうございました!
ストックが切れましたので、申し訳ございませんがまたしばらく休止させて頂きます。
出来るだけ早く再開出来るように努力したいと思います。
>>「……手を伸ばせば届くんだいい加減 に始めようぜ上条当麻いやだめだ終 わってねえ始まってねえ落ち着け 俺……」
ワロタ