ゲートを潜って外に出ると、急に抵抗がなくなったからか、イッキューちゃんを持つ手元が軽くなる。やけに大人しいなぁ、と疑問に思って足元を見ると、


そこには、干からびた汚らしい"何かしら" があった。


「ぎゃわぁあああああああああああ!?」

思わず乙女らしからぬ悲鳴を上げながら素早く飛び退く。ふと手元を見ると、何故か右手に黒ずんだボロ布を握りしめていた。

「ナ、ナニコレ......

「やしのきちゃぁん」

「この声は......イッキューちゃん!? あれ? ど、どこ?」

そういえばイッキューちゃんがいなくなったのだったと思い出し、慌ててプリズムストーン内を見回す。けど、声はすれども姿はない。ここにいるのは私と、干からびた汚らしい"何かしら "だけ。

......ということは、まさか。

.......もしかして、イッキューちゃん?」

よく見たらやや褐色の肌に、結わんではいないものの癖のある橙の頭髪は、プリパラでのイッキューちゃんの特徴にぴったり重なる。今にも事切れそうなほどの弱々しさを除いては。恐る恐る近づくと、腕と思しきものが持ち上がり、

......お腹、空いた」

再び糸が切れたようにパタリと下ろされた。

「わぁああああ!? 大丈夫!?」

「たべ、も、の、を......

「ちょ、ちょっと待って!確かパンを持ってきて......あれ、どこにやったっけ!?」

「パンならここにありますよー!」

あわあわと探し回っていると、めが姉ぇが今朝買ったばかりのパンを持ってきてくれた。どうやら預かってくれていたらしい。しかもいつの間にか温めてくれてある。親切だ。

「ありがとうめが姉ぇさん! ほら、イッキューちゃん!」

「あ、ありがとうやしのきちゃん.......むぐむぐむぐむぐむぐむ、ゴホゴホッ」

「パンは逃げないからゆっくり食べて! はい、お水」

気を利かせてめが姉ぇが持ってきてくれた水をイッキューちゃんに渡す。コップを持てるくらいの力はあるらしい。

「ぷはぁっ! 蘇ったよ~!」

「大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫! 3日間絶食だっただけだから」

「全然大丈夫じゃないよ.......とりあえず、どこかで休んだほうがいいよね。私のうち、くる?」

「ホント!? ありがとう~」

事情を説明するのは面倒くさそうだけど、そうも言ってられない。とりあえずさっきみたいに死にかけではなくなったけれど、立ち上がる力はまだあまりなさそうだし、またいつ倒れるかわからない。それに身なりもどうにかしたほうがよさそうだ。

「ていうかほとんど全裸じゃん......

「服は売っぱらっちゃったからね! ガハハ!」

「ガハハじゃないよ......とりあえず、行こっか」

「うん!」


「その必要はありません」


イッキューちゃんの手を引っ張って立ち上がろうとすると、出入口からどこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

手を止めて振り返ると、そこにいたのは......

「あれ、あなた。今朝の......

「みずぽです」

「そう! みずぽちゃん...... あれ?」

「なんです?」

「いや、ううん。なんでも」

「そうですか」

おかしいなぁ。みず"" が正しかったのもそうだけど......こんなツンケンした感じの子だったろうか。もっとオドオドした感じだったような気がするんだけど。

「ワタクシのところの方が近いです。ついてきてください。今朝のお詫び、だそうです」

「え? う、うん。ありがとう......

話を聞いていたのか、どうやら自分の家に連れていってくれるらしい。にしても、「だそうです」ってなんだろうか。照れ屋なんだろうか。

「イッキューちゃん、立てる?」

「ワハハ! だっこ」

「はいはーい.......って臭ッ」

この服、最近買ったばっかりなのになぁ......トホホ、とか心中で泣き崩れながら、でも自分から言い出したことだから仕方ない、仕方ないんだけど ......

などと一人葛藤しているうちにみずぽちゃんはずんずん先に進んでしまっていたようで、立ち止まって私達がやってくるのをじっと待っているのが見えた。無表情で。

「ごめんごめん!」

「いえ」

追いつくと、何でもないように進行方向に向き直って再び歩き始めるみずぽちゃん。

(ホントに同一人物なのかな......瓜二つの双子、とか)

それにしたって同じ名前はつけまい。

お互い無言の中、私の頭の中ではぐるぐると疑問が駆け巡っていた。


「あ、やしのきちゃんのうなじイイにおい~」

「嗅がないで!!!」


scene.4に続く