宅配最大手のヤマト運輸が再配達受付の制限をしたり、一部の通販会社との契約を打ち切って荷物量を減らし、ドライバーの負担増や配送料の低下に歯止めをかけようと、大きな舵を切りました。
また、コピー機のガリバーであるリコーは、製品の価格競争による利益圧縮と、同社の高い販売力の源といえる営業部隊の人件費などの経費がかさんで業績の下方修正が続いています。

この2つの超大手の「利益無き繁忙」状態の事例から、小規模事業者にもあてはまる適正価格の在り方や持続可能な経営について考えてみたいと思います。

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経済成長率が右肩上がりの時代には、「薄利多売」というビジネスモデルが有効に機能していました。
バブル崩壊後のデフレ経済の時代でも、余剰生産された製品を安く買い叩いて「薄利多売」で売り抜けるアウトレット型のビジネスが流行しました。
その後も生産技術の向上や人件費の安い海外生産により、安価に生産・流通を行うことで「薄利多売」モデルは脈々と続いてきました。

それが少子高齢化の進行によって、日本経済の市場規模縮小が現実になるにつれ、働き手の不足や企業の利益率悪化が表面化し、供給側が需要に応えることができないという現象に直面しているようです。
運輸・流通をはじめ、製造業や介護など人手不足で仕事をこなせないという悲鳴を聞くようになってきました。

規模の違いはあれ、まるでバブル期を彷彿とさせるような雇用環境です。
筆者の個人的体験としては、バブル期には学生だったのですが、当時の中小企業経営者は次のように語っていたことを記憶しています。

「仕事はいくらでもあるから、銀行がいくらでも融資してくれるので設備は簡単に用意できるが、それを動かすオペレーターの確保が出来ないので増産が間に合わない。」

このような人手不足で仕事が回らず需要に応えられないという現象は共通しつつも、バブル期と現在との決定的な違いは生産者・サービス提供者の「利益率」ではないでしょうか?
とにかく価格競争が厳しすぎて、働き手の多くが忙しさの割に儲かっていないという実態です。

筆者は研究者ではないため、こうした経済実態に関する統計やデータを提示することができず、感覚的な話しか出来ないのは残念なところですが、そこはご容赦ください。

それでも多少は数字に基づいた話をしたいと思うので、冒頭に紹介した大手2社の事例を挙げてみます。


まずはヤマト運輸です。


ヤマト、一部通販との契約打ち切りへ 採算割れ法人対象

ヤマトが扱う荷物はこの5年間で約4億4千万個増える一方、荷物1個あたりの収入は40円程度下がった。2013年度から本格的に取引を始めたネット通販大手アマゾンを中心に低運賃の荷物の割合が増えたためだ。14年度に法人客との値上げ交渉に力を注ぎ、荷物の単価は一時的に上向いたが、再び下落に転じている。ヤマト幹部は「法人客と打ち切りを前提にした交渉はしてこなかったが、これからは違う」と話す。

朝日新聞デジタル 2017年 4/27(木)


次はリコーです。


コピー機が売れない! 名門「リコー」の袋小路

名門リコーが深刻な苦境に陥っている。2016年度は年間の業績予想を4回も下方修正。現在は売上高2兆円に対して営業利益300億円を見込む。利益率はわずか1.5%だ。

(中略)

決別すべきは、量を追う経営だ。複合機のデジタル化やカラー化の波に乗り、1990年代から2008年のリーマンショックまでは「野武士のリコー」と呼ばれた営業力で事務機器を拡販。販売代理店の買収で世界中に営業網を広げ、成長を続けた。
だがリーマンショック後に企業が事務機器のコストを見直すと状況は一変。売上高は頭打ちとなり、営業網の拡大で増えた人件費がのしかかった。
結局、販売力への依存が強すぎた。販社の営業員がシェア拡大のために過度な値下げを行うなど、本社は営業現場を掌握しきれず、他社に比べ収益性が低下しがちだった。

東洋経済オンライン 2017年 4/24(月)


これら報道の分析では、採算割れをしてでも(販売)量を追う経営が限界に達し、本来の利益重視に回帰すべきという論調になっています。

このような利益度外視の販売量優先施策は、筆者のサラリーマン時代にも経験があります。
現在の行政書士(自営業)と消費生活相談員(市役所非常勤職員)の兼業をする以前は、OA機器販売店や製造業の営業職をしていました。

当時は価格競争に勝ち残れば独占販売権を手にして安定的な利益を確保できるという幻想に取り憑かれていたように思います。
しかし、内心ではそれは問題の先送りであり、いつかは破綻するのでは無いかという恐れも同時に抱いていました。

よくある営業話ですが、顧客から「予算が100万円しかないから、それで商品を売ってよ。その代わりに次回では儲けを取れるように便宜を図るから。」といった要求があったとします。
その商品の原価が110万円だとすれば10万円の赤字です。

それでも顧客との継続的な取引を優先するため、様々な努力をして原価を98万5千円に抑えたとします。(その過程で仕入れ先にも泣いてもらうことにもなります・・・)。
そして顧客の要求に応え100万円で販売したら、この取引の利益率は1.5%です。
これでは販売経費を考慮したら実質的に赤字になることは間違いありません。
しかも、顧客の無理難題に答えて特別価格(=赤字)で提供をしたとしても、次回の取引でその赤字分を補填される保証は全くありません。

ただ、この100万円の提示を断れば、この案件は同業他社が奪っていくことも明白です。
継続的な取引を希望する営業担当者としては、それだけは避けたい事態です。

先のリコーの事例では利益率1.5%という悪しき実績が指摘されていましたが、これはそうしたやりとりの積み重ねで起きたことではないでしょうか。

この問題は消費者取引でも起きています。

例えばネット通販では最新のスマートフォンやタブレット端末が数千円で販売されています。
これはOA機器販売に携わった経験から言うと、販売店の利益は数百円でしょう。利益額は消費税額以下です。典型的な薄利多売商法です。

この販売価格を消費者が「定価」だと認識すると、ネット通販以外の店舗販売でも価格対抗をするしかなくなります。そうやってIT端末は普及するけれど、販売に関わる事業者にメリットは少ないという現象につながります。

余談ですが、このように物販で利益が取れなければ、例えばIT端末とサーバーを組み合わせてビジネスで使用するネットワークシステムを構築し、その導入作業や教習を一括販売するスキームを高単価で販売するという工夫をすることになるかと思います。
商品が価格競争により安価になることは避けられず、それなら専門家が関わるスキームを作って人手がかかる部分で利益を稼ぎましょうという発想です。

問題は、その「人手がかかる部分」に対してもコストダウンを要求する圧力になると思います。
先に述べたように現在は人手不足か深刻化しています。
その「人手」の部分のコストにメスを入れるのは、働き手の賃金を抑えて過密な労働を強いることにつながります。
それは不幸なことであることは言うまでもありません。

消費者は販売価格が安いものを歓迎しますが、消費者も同時に働き手であって自己の関わる生産活動を通じた利益で賃金を得ています。
その自分が生産・流通に関わる商品が不当に安価な価格でしか売れない環境に置かれたら、そのツケは賃金の低下という結果で帰ってきます。

そうした経済循環の仕組みを理解すれば、販売価格にも適正な水準というものがあるということはわかるはずです。

現在は自営業の筆者は、自分で定めた時間単価を考慮して業務報酬を提示しており、それの低減には一切応じていません。
その結果として仕事を得られない場合でも、その割安な単価で労働を強いられる時間を新規開拓の時間に割り当てられると考えるようにしています。
やはり「強いられる仕事」は苦痛であり、「主体的に取り組む仕事」は楽しいものです。後者のウェートを高めて、仕事の質を上げていくことが顧客満足度の向上にもつながるのではないでしょうか。(仕事の質が高くなければ高単価の仕事は入りません)。

ヤマト運輸の運賃値上げも、「送料値上げは納得できない」という脊髄反射をするだけでなく、ドライバーの労働条件や賃金を改善し、持続可能な通販インフラを整える過程だと解釈すれば受け入れることは可能な気がします。

折しも「持続可能な経済」や「持続可能な環境」というキーワードが広く語られる時代になっています。
そのためには「適正価格」や「適正労働」が必要であり、誰かが大きな犠牲を払うことを前提とした仕組みを放置してはいけません。

消費者が「安価な価格」のみを求める消費行動を続ければ、働き手が窮屈な思いをする「薄利多売」ビジネスが横行します。
そこで消費者が「働き手の価値」を尊重する消費行動をすると、回り回って自身の労働環境が改善することにつながります。

「安すぎる価格」というのは過剰サービスであって、それを購入した消費者は短期的に得をしたように感じるものですが、それを社会全体で追い求める風潮が続けば長期的に自身の働き方や生活に悪影響もあることを考える時が来たということでしょうか。

だからと言って「不当に高い」商品を購入しようと言っているのではなく、「不当に安い」商品に心奪われること無く、シビアな目で評価したうえで「適正な価格」の商品を購入するよう心がけたいものです。
生産・流通に関わる事業体は、その適正価格の理由を公表しステークホルダーの理解を求めることができれば理想的です。

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