俺の憧れつづけた先輩は、ひそかに姉とつきあっていた。以前は遠くから見つめるだけで満足だったが、彼が身近な存在になってから、抑えつづけた感情が爆発して……。
やがて俺はある計画を思い立ち、彼と肉体関係を結ぼうとする。果たしてその計画は、うまくいくのか?
ノンケの男の匂い立つ色気に翻弄される、体育会系男子大学生の愛と性を描いた18禁ゲイ小説。
俺の憧れつづけた先輩は、ひそかに姉とつきあっていた。以前は遠くから見つめるだけで満足だったが、彼が身近な存在になってから、抑えつづけた感情が爆発して……。
やがて俺はある計画を思い立ち、彼と肉体関係を結ぼうとする。果たしてその計画は、うまくいくのか?
ノンケの男の匂い立つ色気に翻弄される、体育会系男子大学生の愛と性を描いた18禁ゲイ小説。
ありえない人が目の前にいることに、俺は思わずスポーツバッグを取り落とした。
どうして健二先輩が俺の家にいるのか。
向こうも俺の存在に驚いたらしく、目をしばたたかせている。
しばらく向かい合ったまま言葉もなく、ただ混乱しているだけのふたりだったが、やがて健二先輩が口を開いた。
「どうして、お前がここに?」
「いや、それは俺のセリフですよ。なんで先輩が俺の家にいるんですか?」
健二先輩はさらに驚いたらしく、「え」と目を見開いてソファから立ちあがった。
「ここって、お前んちなの?」
「そうですよ。知らなかったんですか?」
「……だって、俺は、その……」
そのとき姉がリビングに入ってきた。
「お待たせ……あれ、タカシ、帰ってたの? おかえり」
「ただいま……って、それより健二先輩と知り合いだったの?」
「そうだよ。わたしたち、つきあってるの」
「えーっ!」
まさか健二先輩が姉とつきあっているとは思わなかった。大学の水泳部の先輩だが、そもそも俺が水泳部に入ったのも、健二先輩が目当てだったのだ。
身長一八〇センチ、褐色に焼けた肌に筋肉質の体。きりりとした眉に一重の目、男らしくひきしまった唇。どれをとっても俺のタイプだった。
ノンケの彼とつきあえるはずもなかったが、せめてちかくにいられたらと、毎日部活に顔を出していたのだが、その先輩がもっとも身近な存在に奪われるなんて……。だがノンケオーラを放つ憧れの先輩が自宅にいることに、思わずドキドキしてしまう。
健二先輩はようやく合点がいったらしく、ハハハと笑うと
「世間ってせまいもんだよな。まさかユイカさんの弟がタカシだったなんてな。一瞬二股かけられたのかと思って焦ったよ」
「そんなわけないでしょ。あたしをなんだと思ってんのよ」
「ごめん、ごめん」
「もう、ゆるさないんだからっ」
姉は健二先輩に覆いかぶさるように腋をくすぐり、笑いあいながらフローリングの上を転げまわった。
「悪かった、悪かったって……はははっ……ゆるして……ゆるしてっ」
「こいつめっ、こいつめっ」
いきなり仲のよいところを見せつけられて、思わずたじろいでしまう。
部活では見せない先輩の素の表情に、胸がしめつけられた。俺の前では一度も見せたことのない表情。女の前では、こんな顔をするんだな。
先輩の知らぬ一面に傷つきながらも、今までは遠い存在だった彼が、身近な存在になったことに、喜びを感じてもいた。どうせ手に入らないなら、姉のものになってくれたほうがいい。今まではただの先輩後輩の関係だったが、これからは彼女の弟になるのだ。以前は憧れのあまり話すこともできなかったが、これからは会話だって増えるはずだ。もしかすると、泊まりに来ることもあるかもしれない。部活だけでなく、自宅でも先輩を見ることができるなんて、それだけでも幸せだ。
でも、どうしてだろう? どうしてこんなに、寂しいんだろう?
彼が俺のものにならないのは、はじめからわかっていた。そばにいられるだけで、じゅうぶんだった。それなのに、姉という身近な存在と先輩とがつきあっていることに、嫉妬してしまう。姉でなく、俺が先輩とつきあうことができたなら……。そんな妄想をつい、抱いてしまう。だがそんなことなど百に一つもない夢だ。この恋は、あきらめなければならない。だが実際に彼の姿を目にしてしまうと、あきらめたくないという気持ちが強く湧く。
妄想ではなく実際に先輩が自宅にいるのだ。どうにかして関係を持つことはできないだろうか……?
いや、俺はなにを考えているんだろう。姉の彼氏だというのに、手を出せるはずがない。そもそも俺なんか、相手にしてくれるはずもない。あきらめるもあきらめないもなく、はじめから手に入るものではないのだ。
はしゃぎあう二人を見下ろしながら、俺はスポーツバッグを摑み直すと、そっとリビングを出て自分の部屋へ向かった。
○
褐色に焼けたゴツい指がTシャツの裾を摑み、めくりあげる。六つに割れた腹筋が見え、盛りあがった大胸筋がのぞく。
Tシャツを首から抜き取ると、その反動でわずかに胸がふるえた。
いつ見ても完璧な体だと思う。どうやったらこんな体をつくることができるのか。
俺は自分の体を見下ろした。だいぶ筋肉がついてきたとはいえ、健二先輩のものとは比べものにならない。
トレーニング方法を教えてもらい、プロテインも同じものを飲んでいるが、どうしても同じ体にはならなかった。
先輩は生まれつき、筋肉がつきやすい体質なのかもしれない。男性ホルモンのテストステロンが多いほど、筋肉がつきやすいらしいので、男らしい先輩はきっと、ホルモン量が多いのだろう。
健二先輩は銀色のロッカーに脱いだTシャツを放り込むと、さっと下を脱いで着替えをすませた。
先輩は着替えるとき、タオルで下を隠さない。黒々とした陰毛が見え、ズル剥けのちんぽがゆれていた。すぐに競パンに隠れてしまったが、目にはしっかり焼きついている。
「ほら一年っ。さっさと着替えろっ!」
他の先輩の檄が飛ぶ。が、俺は固まったまま動けなかった。健二先輩のちんぽを見て勃起していたからだ。今着替えるわけにはいかなかった。
「おいお前。俺の声が聞こえなかったのか? それとも無視か?」
みんな慌てて着替えるなか、ロッカーの前でひとり固まっている俺は、悪目立ちするのだろう。内心冷や汗ものだったが、相変わらず勃起はおさまらない。
「いい度胸してんじゃねえか。え? 俺の言うことが聞けねえって言うんだな」
「そんなこと、ありません」
「だったら早く着替えろよ。それとも着替えられねえわけでもあんのか? え?」
「いえ、ありませんっ!」
本当はおおありだ。今下を脱ぐわけにはいかなかった。ズボンに手をかけたまま止まっていると
「お前まさかっ、勃起してんじゃねえだろうな?」
半分冗談といった感じで先輩が言った。その声にロッカーにいた全員が振り向く。
「そういえばちょっと前、膨らんでないか?」
「いえ、これはズボンのしわでして……」
「だったら今すぐ見せてみろよ」
「いや、みんなに見られてると思うと、恥ずかしくて……」
「恥ずかしいだぁ? 野郎しかいねえじゃねえか。なにを恥ずかしがる必要があんだよ。いいからさっさと脱げよっ」
「でも……」
困り果てて下を向くと、こっちへ近づいてくる足がある。ゆっくり視線をあげると、健二先輩である。
「まあまあ、そのくらいにしとけって」
「でもこいつが、あんまり舐めた態度取るもんだからよぉ……」
健二先輩は俺のほうに目を向けながら
「こんなに注目されてたんじゃ、着替えられないよな?」
「は、はい」
「よしっ!」
先輩はパンッとひとつ手を打ち鳴らすと
「みんな練習。ほらいくぞ。早く出ろ」
「でもよぉ」
「いいからっ」
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