ギャラリー  ときの忘れもの

001_外観1
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美術展のおこぼれ 7

植田実


倉俣史朗とエットレ・ソットサス展」
会期:2011年2月2日―7月18日(会期が延期されました)
会場:21_21 DESIGN SIGHT

 倉俣は1991年に、ソットサスは2007年に物故している。だから回顧展だろうという気分で行ってみると、まるで違う。むしろ正反対で、二人の仕事の「現在」があふれている。ソットサスの部屋は彼の最晩年の作品《カチナ》シリーズ20点がドローイングとともに並べられているだけで、ふっくらとした色ガラスの、かわいらしくもどこか面妖な大顔の仮面(カチナ)からは、さいごにオレはこんな不可解なものと遭遇しているよとつぶやくソットサスの声がいまも聞こえてくる。
 倉俣の部屋はさらに衝撃的だ。家具と小物あわせて60点近くあるから、たしかに彼の軌跡をたどることができるし、ほとんどが見知っているはずなのに、あまりにもフレッシュで、デザイン史的な回顧の雰囲気から程遠い。たったいま完成したばかりと思うほどにすべての作品を美しく保ってきた多くの所蔵者の心配りと、満を持しての見事な会場構成とが、倉俣の作品にひそむ力を引き出し、過ぎた出来事に終らせていない。
 ゆったりと配置されているので、作品ひとつひとつの拡がりが見える。ライティングのはたらきでもあるだろう。実体と、床や壁に落ちるその影とが等質に表れているために、自らを砕き解体し、光に還元されていく実体を支えるかのように床や壁のシルエットが立ち上がってくる。また、バラを透明アクリルに埋めこみ虚空に浮かせたあの《ミス・ブランチ》はなんと4脚もが向き合って置かれているために、相互が実体であり影でもあるように変じてくる。
 二人展である。一見対極的な両者の作風もまた、お互いに実体とその影とを取り交わしているのかもしれない。二人が出会った1981年以降に焦点を当てているわけだが、それは世界のインテリア、家具、小物などのデザインに転換が生じてきた時代を照らし出している。もちろんそれ以前にもこれらのデザインは重視されていた。ミース・ファン・デル・ローエやル・コルビュジエの椅子は彼等の建築のエッセンスであり、アアルトの照明器具やドアの把手は建築と一体的だった。しかしそこには建築とそれを補うものという関係図式が残されていた。ソットサスや倉俣はそうしたデザイン環境を倒立させた。家具から逆に建築までつなげようとした。ミースの世代には《カチナ》や《ラピュタ》をつくるほどの考えはありえなかった。にわかに始まった時代の切断面がこの展示そのものになっている。
 二人の作品に夢やユーモア、あるいは洒落た詩を感じることもあっただろう。それを特性とする見方もありえた。だが今回なによりも迫ってくるのは、それを実体化するうえでの技術的困難あるいは不可能への絶対絶命ともいうべきイメージの明快さである。既にあるさまざまな素材やディテールの選択や組み合せではない。解決はこの会場で見るもののなかにしかない。現代の多様なデザインより抜きん出ている「現在」が、だから一瞬にして感じとることができ、それは哀しみに近い印象でさえある。
 かなり緊張を強いられた。ギャラリーを出てZ形に折れるトンネル状の通路が心を緩ませたのでそれに気がついた。21_21には工事現場の見学から竣工披露、その後の企画展にも10回近く来ているが、一枚の布を織るように、という安藤忠雄の設計コンセプトが、エントランスロビーから地下ギャラリーへの階段を降りるときにもう、今までになく実感できた。空間の方位やスケールや見え方を人間に即してぎりぎりに計算しながら決定していく彼の建築がよく見えてきたのは、展示と連動してのことか、それとも季節や時間のせいか。行ったのは4月15日午後1時前後。快晴。気温20度近く。
 二人の作品には文字や写真による説明よりも、本人たちが思うがままに語っている映像がいちばん似合う。ギャラリー前のロビーではまさにそんな記録が上映されていたが、その時間まで考えていなかったのは失敗。倉俣史朗の著書は、前々回に紹介した白洲正子と同じ「住まい学大系」の一冊に入っている。第037巻『未現像の風景』だが、自分自身を探るような独白がそのまま感触で文字に移されている、類ない本である。それが校了になるかならないかの合い間に、彼はふっといなくなった。
(2011.4.18 うえだまこと)

倉俣史朗とエットレ・ソットサス展チラシ

倉俣史朗ミス・ブランチ
倉俣史朗「ミス・ブランチ」


倉俣とソットサス
倉俣史朗とエットレ・ソットサス
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