ギャラリー  ときの忘れもの

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8月27日29日のブログで熊倉浩靖著『井上房一郎・人と功績』を紹介しました。
引き続き同書の紹介と、井上さんのことを書きます。
井上房一郎・人と功績
熊倉浩靖『井上房一郎・人と功績』
2011年7月 みやま文庫刊
231頁
頒価:1,500円(送料200円)

前回、戦争中の井上さんのことを書きましたが、熊倉さんの著書には戦争中のことはほとんど触れられいません。
亭主が井上さんから直接うかがったこと、また井上さんの紹介でお世話になった堺誠一郎さん(作家、戦争中の中央公論社出版部長、戦後は日本文芸家協会書記局長)から聞いたことを書きました。
木下順二さんやレーモンドが書いた井上さんについての文章を探しているのですが、どこへ行ったか行方知れず。
近頃とみに本の整理が悪い。困ったもんです。
亭主の記憶によれば、レーモンドは<私が出会った日本人でイエス、ノーをはっきり言うのは井上房一郎ただ一人だ>と書いていました。
その通りで、あるとき井上さんの所に遊びに行くと工藝の人なのでしょう(井上さんは戦前からタウトを顧問に工藝運動にも熱心でした)、新しく作った下駄を見てもらいに来た人がいました。その下駄を見るや否や「駄目だよ、こんなんじゃあ」とにべも無い。一言二言アドバイスして終わり。気の毒なくらい恐縮した訪問客はすごすごと帰っていくのでした。その間僅か数分。
いや亭主もさんざんやられました。
井上さんから連絡があり、贈り物かなにかにするらしく山口薫の油彩を持ってきてくれということでした。知り合いの画商さんの協力で小ぶりな作品を調達してご自宅にお持ちしたのでした。井上さん、一瞥するや「こんなのニセモノだよ」の一言。あえなく却下!
いえ決して贋物をお持ちしたわけではありません。私も画商のはしくれ、敬愛する母校の先輩・山口薫の贋物など扱うはずもありません。
要するに、井上さんの眼からいえば、お持ちした作品はレベルに達していなかったのですね。
群馬を代表する画家といえば、山口薫、福沢一郎、オノサト・トシノブの3人ですが、あるときオノサト・トシノブの作品をお持ちしたことがあります。亭主はオノサト先生に心酔しており、自信満々で作品をお見せしました。
「オノサトさんの”花筵(はなむしろ)”みたいなのは僕はきらいだよ」の一言。いや参りましたね。「はなむしろ」なんて美しい単語を聞かされるとは夢にも思っていませんでしたし、ある意味、的確なその寸評に思わず笑いだしそうになりました。
亭主はオノサト先生の作品には愛着があり、今でも珍しい作品が出てくると迷わず買っていますが、そのたびに「花筵とはよく言ったもんだよなあ」と井上さんの言葉を懐かしく思いだします。
井上さんは福沢、山口、オノサトの3人をもちろん否定しているわけではなく、郷土が生んだ優れた画家として敬意をはらっていました。前々回にも書いた通り、1965年、67歳のときに井上工業の三階に群馬県美術館設立準備会ファウンデーションギャラリーを開設し、1972年まで46回もの展覧会を開催し、市民に群馬県立近代美術館の設立を呼びかけました。まさに「中味」を優先させたわけですが、その46回の展覧会には山口薫、福沢一郎、オノサト・トシノブの個展も含まれています。

それでは、前回に続き、「高崎哲学堂講演会リスト」を続けましょう。
井上房一郎さんは1969年(71歳)から、95歳で亡くなる1993年7月27日まで実に261回の哲学堂講演会を自ら主宰して開催し続けます。この講演会は没後も2006年まで通算375回開催されました。
本日は、その151回〜亡くなる直前の261回までのリストを熊倉さんの著書から転載して、井上さんの人と功績を偲びたいと思います。

151. 1983年 小田切瑞穂 拓殖大学客員教授 「文明論研究の必要性」
152. 1983年 梅原猛 京都市立芸術大学学長 「アイヌ文化との出会い」
153. 1983年 木村重信 大阪大学教授 「アフリカの人・自然・芸術」
154. 1983年 西川潤 早稲田大学教授 「世界平和と国連の役割」
155. 1983年 有馬朗人 東京大学大型計算機センター長 「現代物理学を支えた思想」
156. 1983年 松下圭一 法政大学教授 「八〇年代の地方自治」
157. 1984年 安永寿延 和光大学教授 「安藤昌益再論―昌益の思想とスタイル」
158. 1984年 柳沢南 群馬工業専門学校助教授 「三浦梅園の世界―近代本の哲学」
159. 1984年 竹内啓 東京大学教授 「情報化社会と人間の選択」
160. 1984年 芳賀徹 東京大学教授 「桃源郷とユートピア」
161. 1984年 伊東俊太郎 東京大学教授 「比較文化論の考え方」
162. 1984年 日高一輝 神奈川大学講師 「国連NGOと世界の未来像」
163. 1984年 玉野井芳郎 東京大学名誉教授 「ヒューマン・スケールの世界を求めて」
164. 1984年 福永光司 京都大学名誉教授 「北関東地方の古代文化と道教」
165. 1984年 梅原猛 京都市立芸術大学学長 「聖徳太子再論」
166. 1984年 永井道雄 国連大学学長 「日本人の活路を求めて」
167. 1984年 有馬朗人 東京大学教授 「現代物理学の思想II」
168. 1984年 有馬朗人 東京大学教授 「現代物理学の思想II」
169. 1984年 上山春平 京都大学名誉教授 「空海の思想」
170. 1984年 小田切瑞穂 拓殖大学客員教授 「潜態論と文明」
171. 1985年 津端修一 広島大学教授 「都市型社会と自然」
172. 1985年 黒岩芳明 IFTジャパン会長 「生きているということ」
173. 1985年 村田全 立教大学教授 「教わることと学ぶこと―集合論を例として」
174. 1985年 紀野一義 仏教学者 「日蓮―法に生きた如来使」
175. 1985年 木田元 中央大学教授 「生松敬三の遺産」
176. 1985年 丸山圭三郎 中央大学教授 「言語と人間」
177. 1985年 紀野一義 仏教学者 「道元」
178. 1985年 笠原一男 東京大学名誉教授 「親鸞と蓮如」
179. 1985年 伊東俊太郎 東京大学教授 「ニューサイエンスと東洋の自然観―『自然』概念の変貌」
180. 1985年 梅原猛 京都市立芸術大学学長 「日本学研究と高崎哲学堂」
181. 1985年 坂部恵 東京大学助教授 「『近代合理主義』の系譜」
182. 1985年 岩田慶治 大谷大学教授 「自然・宗教・人間」
183. 1985年 源了圓 東北大学教授 「日本人のこころの思想」
184. 1986年 福永光司 関西大学教授 「天寿国曼荼羅と道教思想」
185. 1986年 山崎益吉 高崎経済大学教授 「玉野井経済学の遺産」
186. 1986年 上田正昭 京都大学教授 「神道の原像」
187. 1986年 松本健一 思想史家 「萩原朔太郎の原郷」
188. 1986年 井深大 ソニー名誉会長 「私の教育論」
189. 1986年 磯崎新 建築家 「高崎哲学堂建設の思想」
190. 1986年 木下順二 劇作家 「私の演劇論」
191. 1986年 源了圓/芳賀徹 国際基督教大学教授/東京大学教授 「江戸文化論」
192. 1986年 梅原猛 国立国際日本文化研究センター所長 「縄文のカミ」
193. 1986年 西宮一民 皇学館大学教授 「古典の中のカミ」
194. 1986年 竹内啓 東京大学教授 「本当の『国際化』とは」
195. 1986年 村上陽一郎 東京大学教授 「自然観の変遷と現代科学」
196. 1986年 米本昌平 三菱化成生命科学研究所 「生命科学と現代社会」
197. 1987年 有馬朗人 東京大学教授 「アインシュタインの自然観」
198. 1987年 安ビョン直 東京大学教授 「韓日近代百年の反省―韓国人と日本人共に学ぶべきこと」
199. 1987年 三木成夫 東京芸術大学教授 「こころ・あたま・からだ」
200. 1987年 紀野一義 宝仙短期大学副学長 「心に花吹雪舞う―良寛詩の風光」
201. 1987年 源了圓 国際基督教大学教授 「徳川時代儒学における『理』の観念」
202. 1987年 小池心叟 臨済会会長 「白隠禅師―人と思想」
203. 1987年 安永寿延 和光大学教授 「安藤昌益と現代」
204. 1987年 梅原猛 国際日本文化研究センター所長 「仏教東漸」
205. 1987年 磯部欣三 (財)佐渡博物館歴史部長 「良寛さまとその母」
206. 1987年 芳賀徹 東京大学教授 「春信錦絵の構図」
207. 1988年 木村尚三郎 東京大学教養学部教授 「時代を見通す発想」
208. 1988年 福永光司 北九州大学教授 「天と地と水の宗教哲学―山東半島と古代日本」
209. 1988年 高瀬浄 高崎経済大学教授 「経済の『国際化』と『地域文化』―岐路に立つ日本経済」
210. 1988年 海老原治善 東京学芸大学教授 「生涯教育とは何か―E・ジェルピを語る」
211. 1988年 日野原重明 聖路加看護大学学長 「老いと死から生を考える」
212. 1988年 源了圓 国際基督教大学教授 「江戸時代における儒教と仏教の交渉」
213. 1988年 小笠原春夫 東京農業大学教授 「黒瀧山不動寺潮音禅師の思想」
214. 1988年 木田元 中央大学教授 「ショウペンハウエル論」
215. 1988年 梅原猛 国際日本文化研究センター所長 「世界の中の日本文明」
216. 1988年 木戸蓊 神戸大学教授 「ペレストロイカ」
217. 1988年 菊地昌典 東京大学教養学部教授 「トロツキー―ペレストロイカの中での復権」
218. 1988年 和田春樹 東京大学助教授 「ロシアの歴史的伝統とペレストロイカ」
219. 1989年 山折哲雄 国際日本文化研究センター講師 「怨霊親交と判官びいき」
220. 1989年 鎌田東二 国学院大学講師 「神道と国学―平田篤胤と折口信夫を中心に」
221. 1989年 竹村牧男 筑波大学教授 「遊行の心―拾聖一遍の足跡をたずねて」
222. 1989年 吉永哲郎 高崎高校教諭 「芭蕉の宗教性」
223. 1989年 秋月籠Α_岷狢膤惷擬 「一休禅師」
224. 1989年 村井康彦 国際日本文化研究センター教授 「平安朝における宗教的生活と文化」
225. 1989年 土肥昭夫 同志社大学教授 「内村鑑三に学ぶもの」
226. 1989年 梅原猛 国際日本文化研究センター所長 「縄文の美術」
227. 1989年 西宮一民 皇学館大学教授 「『古事記』―神々の物語」
228. 1989年 中村啓信 国学院大学教授 「聖徳太子の片岡山説話」
229. 1989年 吉永哲郎 高崎高校教諭 「徒然草と方丈記」
230. 1990年 源了圓 国際基督教大学教授 「佐久間象山と横井小楠」
231. 1990年 有馬朗人 東京大学総長 「物理学者と宗教と文学」
232. 1990年 秋月籠Α_岷狢膤惷擬 「禅者と文学」
233. 1990年 飯岡秀夫 高崎経済大学教授 「内村鑑三の思想形式と上州」
234. 1990年 久保千一 蕨高校教諭 「柏木義円の教育観・国家観」
235. 1990年 鈴木秀一 高崎経済大学助教授 「新島襄における宗教と国家」
236. 1990年 山口昌男 東京外国語大学教授 「大正期における芸術とスポーツ」
237. 1990年 パオロ・ダル・ポジェット アリア・グラツィア・チャルディ・ヂュプレ マルケ州美術文化財監督局長官 フィレンツェ大学教授 「ウルビーノの美術」
238. 1990年 水田洋 名城大学教授 「自由主義の道徳哲学」
239. 1991年 恒松制治 獨協大学教授 「地域づくりの哲学」
240. 1991年 原一雄 歌人 「土屋文明先生」
241. 1991年 鎌田東二 国学院大学講師 「湾岸戦争と宗教―日本的霊性の視座から」
242. 1991年 米山俊直 京都大学教授 「ふるさと―小盆地宇宙論」
243. 1991年 西川潤 早稲田大学教授 「激動の世界情勢と日本の選択」
244. 1991年 佐々木宏幹 宗教学者 「日本宗教の可能性」
245. 1991年 和田春樹 東京大学教授 「ソ連国民の戦いに学ぶ」
246. 1992年 木村尚三郎 東京大学名誉教授 「一九九〇年代―不透明な時代をどう生きるか」
247. 1992年 木村晋介 弁護士 「憲法とぼくの元気」
248. 1992年 磯崎新 建築家 「群馬県立近代美術館について」
249. 1992年 長谷川端 中京大学教授 「中世の人間像―『ばさら大名』と『かぶき者』」
250. 1992年 源了圓 前・国際基督教大学教授 「型と日本文化」
251. 1992年 樺山紘一 東京大学教授 「コロンブス五〇〇年」
252. 1992年 芳賀徹 東京大学教授 「死にたもう母」
253. 1992年 山崎益吉 高崎経済大学教授 「経済学における自然概念―荻生徂徠とアダム・スミス」
254. 1992年 飯岡秀夫 高崎経済大学教授 「ルソーと安藤昌益―その思想の現代的意義」
255. 1992年 クリストファー・ブレイズデル 尺八奏者 「尺八コンサート」
256. 1992年 有馬朗人 東京大学総長 「二〇世紀の物理学―一〇〇年をふりかえって」
257. 1993年 藤本信義 宇都宮大学教授 地方中枢都市から知核都市へ」
258. 1993年 伊東俊太郎 国際日本文化研究センター教授 「日本思想の特質―安藤昌益から湯川秀樹まで」
259. 1993年 前田哲雄 ジャーナリスト 「アジアでいま―日本の課題」
260. 1993年 樺山紘一 東京大学教授 「コロンブス五〇〇年 PART II」
261. 1993年 カール・ベッカー 京都大学助教授 「死から生を考える」

若い人たちのためにニセモノでない、その時代の最良の知性を高崎に招く。
井上さんの志をこのリストから感じます。

熊倉浩靖著『井上房一郎・人と功績』の紹介を3回にわけて紹介しました。
その1その2その3)。
長々とお読みいただきありがとうございました。
          合掌
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