小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第4回

エルンスト・ハース Ernst Haas「三番街での光の反射、ニューヨーク」

ErnstHaas_Reflection3rdAveNewYorkCity
エルンスト・ハース
三番街での光の反射、ニューヨーク
"Reflection-Third Ave., New York"
1952(Printed in 1993)
Dye-transfer Print (color)
30.5x45.5cm
estate stamp

画面の中央に、まるで蝶が羽を広げたような形で広がる色の帯。遠景に立ち並ぶ摩天楼をよく見ると、左右対称に反転していて、画面右半分はショーウィンドウの表面に映り込んだ像であることがわかります。ショーウィンドウの上にはためく幕が反射像として増幅され、微妙なグラデーションを帯びた色合いと相まって、幻想的な光景が立ち現れています。
この写真はカラー写真の先駆者として知られるエルンスト・ハース(Ernst Haas, 1921-1986)が、ニューヨークを取材して制作し、グラフ雑誌「ライフ」の1953年9月14日号と9月21日号と2回にわたって掲載された、フォトエッセイ「Images of a Magic City (ある魔法の街のイメージ)」の中の一枚です。「ライフ」は1936年から1972年まで刊行され、フォトジャーナリズムの黄金時代を築いた雑誌として広く知られており、現在はGoogle Booksで、全号を閲覧することができます。
(9月14日号掲載のフォトエッセイはこちら、9月21日号掲載のフォトエッセイはこちらをご覧下さい。)
ピクチャ 2

フォトエッセイの冒頭の文章では、「ハースは2カ月間にわたってニューヨークを毎日歩き回り、霧が立ちこめる街の光景や、色彩に充ちた模様、きらめく反射を丹念に観察して写真にとらえ、現実を非現実に見えるように変え、生命のないかたちに生気を吹き込んだ。」と書かれています。「魔法の街のイメージ」というタイトルといい、いささか大袈裟な表現のように思われるかもしれませんが、全編カラー写真で構成したフォトエッセイを2回にわたって発表することは、当時の「ライフ」の編集方針としては挑戦的で、まさしく誌面に魔法をかけるような試みだったのかもしれません。1950年代のカラー写真と印刷技術では、微妙な色調を再現することはできず、原色の色味が強く出る傾向があったために、カラー写真は広告で商品の華やかさを強調する手段として使われることはあっても、記事やフォトエッセイの中で使われることはほとんどなかったのです。
 フォトエッセイは、摩天楼とブルックリン橋のシルエットを俯瞰する視点から捉えた写真で始まり、マンハッタンの街をさまざまな視点からとらえた写真によって、読者を街中への散歩へと誘うような方法で構成されています。「色彩の魔術師」として名を馳せるようになったハースのカラー写真の技量は、一点一点の写真のみならず、見開きでの写真の組み合わせ方にも見て取ることができます。
ショーウィンドウや摩天楼のガラス窓への映り込み、水に濡れた地面や水面への反射など、さまざまな反射像をとらえ、大きく引き伸ばされた写真が随所に差し込まれています。読者がページをめくりながらフォトエッセイを読み進める中で、反射によって入れ子状態になった都市空間の中に彷徨いこんでいくような「魔法」が仕掛けられているのです。また、壁面の線や窓枠の形、看板のディテールなどが幾何学的な模様を作り出していていたり、クローズアップでとらえられた写真の中には、一見するとなにが写っているのかわからないような抽象的な色の平面に見えたりするものもあります。それらが、見開きで組み合わせられることによって、当時ニューヨークを中心に隆盛していた抽象表現主義の絵画を彷彿させるような表現効果をも醸し出しています。
ハースはニューヨークという街の魅力を、具体的に説明するというよりも、カラー写真という魔術によって、抽象的なかたちで印象づけることに成功したといえるでしょう。

ピクチャ 5

ピクチャ 7

ピクチャ 8

「三番街での光の反射」は、フォトエッセイの2回目の終盤に掲載されています。摩天楼の姿を遠景に映し出した写真は、魔法の街を巡る散歩の名残を留め、その締めくくりを飾るのに相応しい一枚ではないでしょうか。
(こばやしみか)

ピクチャ 14

Ernst Haas Estate
http://www.ernst-haas.com/


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