<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第18回

NTD REBORN ― Platinum Print Series #2_72dpi_1500pix
Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film
(c) Nao Tsuda
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ここはどこの国の、どのような場所なのだろう。何も手がかりのないまま、ただ惹かれ、見つめる。

左側から土塀が伸びている。屋根のついた、分厚いしっかりした塀である。塀はこの場所で終わっていて、端のところが太い立方体の柱になっている。入母屋式の屋根を載せ、中央に突起がある。門柱かもしれない。

ところが、それと対になるもう一方の門柱が見当たらない。その代わりに、磨り減って丸みを帯びた物体の立っているのが目に留まる。これが何かが、また不明である。わからないが、とても気になる。この写真について書こうと思ったのも、実はこの像の神秘性に心をつかまれたからだった。

はじめて目にした瞬間、それは女性の姿に見えた。それ以来、何度も見直しているが、脳内に見えない水路が掘られたように同じイメージが流れ出す。別のものを見いだそうと試みても、だめなのだ。

女性は長いガウンをまとっている。頭には布を巻き、その端が右肩のうしろに垂れ下がっている。背中をこちらにむけて門柱を見て立っている。
肩、腰、足下へとむかうラインの柔らかさ、ガウンの白さ、裾の汚れ、幾重にも巻かれたターバン……。
それらがひとつになって発する神聖な空気が魅了する。ずっとここに佇んでいたというより、霧のなかを抜けて、たった今やってきたかのようだ。門柱に対峙しているのは、なにか祈っているのだろうか。見ているうちにこちらの心も穏やかに澄んでくる。

背後には木々の生えた小高い丘がある。霧でかすんでいる。その丘と土塀の塀のあいだには細い道が通っている。たぶん土の道だ。空気はしっとりと濡れて重い。

晴天の空の下ではまた別の想像が生まれただろう。霧がこの場所に潜む秘密をあらわにしたのだ。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
津田直
「REBORN ― Platinum Print Series #2」
2014年
プラチナ・パラディウム・プリント
イメージサイズ: 53x42.5cm
シートサイズ: 61x50.8cm
Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film
(c) Nao Tsuda

津田直 Nao TSUDA(1976-)
津田は1976年神戸市に生まれました。2001年よりランドスケープを中心に撮影を行い、世界各地を巡るフィールドワークのなかで、ファインダーを通して古代より綿々と続く人と自然との関わりを翻訳する試みを続けています。目に見えるものだけでなく、訪れた土地の記憶を辿り、風景やそこに暮らす人々の内に太古から積層された時間と、その不可視の世界の根底にある本質までをも捉えようとする津田の視点は、新たな風景表現の潮流を切り開く新進の写真家として注目されています。近年では、現代美術のフィールドを越え、他分野との共同制作や雑誌連載、講演会、特別授業を行うなど、その活動は多岐にわたり、2010年には芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)を受賞しました。「近づく」(2001-2004)、「漕」(2005-2009)、「SMOKE LINE」(2008)、「果てのレラ」(2009)、「Storm Last Night」(2010)、「Earth Rain House」(2012)、「SAMELAND」(2014)等、シリーズ全体を通して「写真と時間の関係」という古くとも新しいテーマへ真摯に取り組み続けています。

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●展覧会のお知らせ
六本木のタカ・イシイギャラリー モダンで津田直「REBORN (Scene 2) ― Platinum Print Series」が開催されています。本エッセイ掲載の作品も展示されています。

会期:2014年6月28日[土]〜7月26日[土]
会場:タカ・イシイギャラリー モダン(東京・六本木 ピラミデビル)
日・月・祝日休廊

タカ・イシイギャラリー モダンでは、6月28日(土)から7月26日(土)まで、津田直個展「REBORN (Scene 2) ― Platinum Print Series」を開催いたします。同シリーズは2011年に東京にて開催された個展「REBORN “Tulkus’ Mountain (Scene 1)”」に始まり、2012年のタカ・イシイギャラリー京都を含め、これまで3度展覧会が開催されてきました。本展では、シリーズより厳選された作品10点を、アマナサルト制作協力の下、プラチナ・プリント・シリーズとして発表いたします。
2010年より始まった「REBORN」シリーズは、世界で唯一チベット仏教を国教として守り伝えるブータン王国を撮影地としています。古くから神仏や自然界への畏敬の念が培われ、宗教が人々の生活に深く根差すこの地で、津田は仏教の原点や信仰の在り方について探求し続けてきました。チベット仏教で信じられている輪廻転生を意味する「REBORN」と名づけられた本シリーズには、ブータン各地に点在する数々の寺院や僧院、その内奥に暮らす僧侶たち、繰り広げられる宗教的な祭りなど、ヒマラヤの厳しい自然に寄り添うように何世紀にも渡り守られてきた信仰と伝統の姿が写し取られています。(同展HPより転載)

同時開催
津田直「On the Mountain Path」展
会期:2014年6月27日[金]―8月23日[土]
会場:Gallery 916(東京都港区海岸1-14-24 鈴江第3ビル 6F)
時間:火〜金11:00〜20:00、土・祝11:00〜18:30
日・月休廊

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。