私の人形制作第67回 井桁裕子

桐塑、そのヒビと日々

もう月の半ばを過ぎていますが、これが新年最初の回となります。
今年も制作にまつわるいろいろを書かせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします!

最近、途中段階を時々撮影するようになりました。
デジタル写真は制作日誌の代わりになって便利なのです。
今回はそういう写真をいくつか出したいと思います。

今作っているものは、桐塑(桐の粉とでんぷんのりが主成分)での作業です。
桐塑は厚く盛り上げると内部が乾かず、外側だけが乾燥していきます。
乾くと水分が抜けて体積が減りますから、盛った部分の内側に空洞が出来てしまったり、それが原因でひび割れが起こったりします。内部のどこかに空洞があると、表面をいくら修理しても、何度も何度も同じ場所にひびが入ってどうにもなりません。
ひびは布を貼って動きを押さえ、上から埋めて隠すなどのやりかたもあるのですが、それでは私は気分が落ち着きません。
結局そこを壊して、ひびを奥から埋める工事になります。
そういうことを繰り返していては永遠に終わらないので、最初から空洞化は避けなくてはなりません。

しかし、身体をデッサンするように観察力を発揮して造形して行きたいと思うと、1ミリずつ盛り上げて行くようなジワジワした作業ではらちがあかないのです。
そこで、数ミリの厚みが出来てしまう場合、切れ目や穴をあけて、乾燥の時にそこから割れて行くように工夫します。
写真1、2はそういう切り込みと穴が並んだ状態です。私はこういう気持ち悪いブツブツを好む悪趣味がありますが、嫌な気分になった方には申し訳ありません。(それにしてもなぜ人はブツブツに特別な反応をするのでしょうか…。)

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2.
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この穴を一つずつ埋めて行く作業を繰り返して乾燥させ、造形が進みます。
こうして形を探って、削ったり付けたりしている間にだんだん厚みができ過ぎてしまったり、逆に削りすぎて穴が開いたりします。
厚くなると当然、重くなります。
寝かせて展示したり、箱など安定した装置に固定する作品なら重くてもいいのですが、不安定な形で、なおかつ立たせたいとなると強度を保ちながら極力軽くしなくては心配です。
厚みのある部分は物理的に周囲を引く力が強いので、部分的に厚みが違いすぎると、何十年か後に薄い部分にひび割れなどしないか心配になります。
その意味でもなるべく均一な厚みにしたいという気がします。
そこで、形が整って来た段階でノコギリで切って開き、内側を削りだします。
木彫や石彫は何か器械で素材を固定して工具で加工すると思いますが、このような不定形なものを一時的に固定しておく設備をどうしたらいいか、私は思いつきません。
床に座って両足と左手で作品をしっかり押さえ、ノコギリで切り開き、厚みのある部分にドリルで穴をあけて行きます。
そうしておいて彫刻刀で削って行きます。
先日、うっかり足の指をノコギリで挽いてしまって、しばらく靴を履くのが大変でした。
手は作業用の手袋をはめていましたが、足は裸足だったのです。
なぜ足の指先をノコで挽くのか、知らない人にはミステリーです。
数週間、あるいは数ヶ月の作業の集積が、こうして惜しげも無く削られて行きます。
写真は脚の部分です。

3.
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4.また盛大にブツブツ穴です。「蓮の実」が苦手な人には耐えがたい画像ですみません。
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6.
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胴体部分の内側を覗き込むと、切ったり付けたりした工事のあとが残っていて、砂漠の遺跡のようです。
しかし、これもあとで割って内側から削って「整地」してしまうので、完成時には違う風景になります。

7.
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そんな遺跡に小さな虹が現れました。

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アトリエには虹が一本住んでいます。
移動式の大きな鏡の縁にひそんでいて、時折ふいにやってくる、もう長い付き合いになる馴染みの虹です。
このときは、制作している手元の空洞に入り込んで、午後の日射しの移り去るまでの短時間を愉快に過ごしてゆきました。

(いげたひろこ)

●今日のお勧め作品は瀧口修造です。
20150113_takiguchi2014_I_34瀧口修造
「I-34」
水彩、インク、紙
イメージサイズ:34.2×23.6cm
シートサイズ :35.7×25.1cm


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