<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第32回>
<A stray photo studio Vol.32> text: Akiko Otake, photograph: Hanayo


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片肘をついて写真の外側にあるものを見つめている子ども。
視線の先で起きているのは心配事か、それとも不服をかきたてる事柄か、眉を寄せて緊張した様子で見入っている表情は、思春期まっただ中という感じだ。

耳元に光る丸いイヤリングもブロンドの髪も煌めきたっぷりなのに表情は気だるい。生きるのが面倒でしょうがないと言いたげだ。自分でも訳のわからないものに苛立っている。肉体は激しく新陳代謝しているのにその活力は表情に現れず、体を縦に保つことができなくてすぐに寝そべってしまう。

この近さならカメラで撮られているのを知らないはずがないが、無視を決めこんでいるのだろう。自分の眼が見ているもののほうがずっと重大。撮りたきゃ、勝手に撮れば?という気分なのだ。彼/彼女のなかには、自分の内的世界が拡大した領域か、とんでもなく遠くにあって手の届かない領域のどちらかしかなくて、中間がない。身の回りのことには心の針が触れないのだ。

写真のなかにカメラを見つめている視線があるかないかは写真の印象を一変させるが、この写真には、ある。人間ではなくて猫の視線が。しわだらけの顔に埋まった眼が放つ視線が。これ以上アンニュイにはなりえないほどの厭世感を込め、門番のような厳しさで見張っている。

子どもの表情もアンニュイだが、猫に比べたら大したことはない。輝く髪とつるんとした肌を持った子どもがその表情をしても迫力がでない。それに比べると猫の厭世感はホンモノである。見るものをたじろがせるに充分な不機嫌さが滲みでている。

ふたりは、「倦怠こそがこの世への反逆である」と主張する厭世同盟の一員なのだ。もちろんオルグしたのは猫である。彼女の顔に刻まれた皺の威力に敬服する。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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■花代 Hanayo
現代美術家。幼い頃から写真、音楽、演劇に親しみ、19歳で大学中退後、向島で半玉(芸者の卵)修業を開始。そのエピソードはロンドンの『The Face』誌表紙を飾り、ゴルチエなどのモデルとしても活躍する。日本では一時TV,舞台などに出演、さらに歌手としてソロ活動のほか、多彩なコラボレーションも展開。秋田昌美、Kai Althoff、MayoThompson、TerreThaemlitz、daisychainsaw、Panacea、中原昌也ほか、近年では、JonathanBepler、tony conrad と舞台音楽で共演したり、bernhard willhelmのショウでライブパフォーマンス、そしてJürgen Paapeとカバーしたjoe le taxiはSoulwaxの2ManyDjsに使われ大ヒットした。並行して中学生の頃から同じカメラで自身の日常を幻想的な色彩で切り取る写真を撮り続けており、またこうした要素にコラージュ、パフォーマンス、音楽、立体表現を加えたインスタレーションを発表する。東京、ベルリン在住。
主な個展:『花代展 ウツシ・ユメクニ』(パルコギャラリー、東京)、『Hanayo- fuck little red riding hood 』(パレ・ド・トーキョー ,Paris)など。
主なグループ展:『Cities on the Move』展(ウィーン他世界各都市を巡回)、『六本木クロッシング』(森美術館、東京)など。
主な作品集:『ハナヨメ』(新潮社)、『ドリームムムム…ブック』(リトルモア)、『hanayo』(Galerie du Jour agnès b., 河出書房新社)『MAGMA』(赤々舎)、『COLPOESNE』 (UTRECHT) 『berlin』(月曜社)、『 Gift /献上』(DHR Geist)、『 wooden veil 』(dekorder)がある。

●写真集のご案内
上掲の作品も収録されている写真集が刊行されます。

cover花代写真集『DIM』
2015年
リブロアルテ 発行
64ページ
22.8x18.0cm
並製本
アートディレクション:石黒景太

通常版:税込3,240円
特装版(50冊限定):税込10,800円
―通常版写真集1冊(サイン入り)
―実験手焼きバライタプリント1枚
※プリントはお選びすることができません
ご予約はこちらから


(リブロアルテHPより転載)
この度、花代写真集『DIM』を刊行致します。
本作はモノクロ写真のみで構成されている花代の意欲作となります。
15年の歳月を経てベルリンから2010年に帰国した彼女が、日本という場所、そして日本の光に再び出会うことで生まれたモノクロームの世界。
帰国して触れた東京の街の強すぎる喧噪は、写真を始めた頃からカラーを用いてきた彼女の表現をモノクロへと導いていきました。
そこには既存の写真表現を軽やかに逸脱してきた花代の新たな試みが広がっています。
特徴的なぼやけたフレームワークにモノクロの世界が合わさり、白昼夢はより強いノスタルジーを喚起します。
日常という被写体は変わらぬものの、当初の明るくポップな作風から、幻想的で叙情的な写真へと変化を続けています。

生まれ育った東京や、訪れた街での人との出会い。その場所に堆積する時間と、刹那的な瞬間。
それらの時が手作業の銀塩プリントによって、ゆっくりと印画紙に浮かび上がってきます。
同時に、もう戻れない瞬間を留めようとする、写真の本質的な衝動を思い起こさせます。
写真を始めて、2017年には30周年を迎える花代。
写真以外にもインスタレーションやパフォーマンス、音楽など、多彩な表現活動を続けてきました。
本作『DIM』は写真による新たな挑戦でありながらも、現在の感性が美しく写し出されています。

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。