私の人形制作第74回 井桁裕子

個展に向けて

記録的な猛暑が続いたこの夏、体調を崩された方も多かったと思います。
これを書いている今も、酷暑の盛りは過ぎた気はするものの蒸し暑く、そんな一週間の過去からお送りする手紙です。
9月には外出も楽になるでしょうか。
世の中のいろいろな事が予断を許さない昨今です。

「森田さんの肖像」は、DMのために撮影した後また、気になる表面のヒビを直して、やっと作業を終わらせました。
ヒビの部分を金属のヘラでぐっと押して広げ、そこを埋めてやすりがけして、また塗り直すのですが、このヒビは細かいものまで気にし始めるとなかなか終わりません。
そう思ってブレーキをかけていても気になりだすとどうにも偏執狂になってしまい、つい広げなくてもいい程度のヒビまで感知して洗いざらい広げてしまいます。
緩衝材のプチプチを潰し出したら止まらなくなっている人のような感じです。
しかし、いい感じで絵の具が乗っている所をヤスリがけしてしまうと惜しいので、もうヒビ直しは我慢しています。

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制作中に困ったのは、背中の脊椎部分の窪みできたヒビでした。ひずみがかかりやすい部分なのか何回埋めても割れてしまい、最後まで引きずりました。
森田さんが生まれた時に、背中に大きく開いた傷があって神経がむき出しになっていたと聞きましたが、その手術跡と同じ位置だったのは奇妙な偶然の一致でした。

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ともあれ大きい作品は終えて、その後は焼き物の小品を制作しています。
窯の蓋を開ける時は、気合いがいります。閉める時は万全を尽くしたと信じて閉めますが、開ける時は、どうにも落ち着かず、元気が無い時は開けられません。
ここ2年ぐらい、時々テストピースを焼いたりして実験していた釉薬をやっと作品に使ったりして、この時期、自分なりの「実りの時」を迎えた感じです。
ずっと釉薬に魅了されていましたが、造形を活かすためには、釉薬を使わないことも大切だということも判ってきました。

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もう来月の連載が載る20日は展覧会の会期中になります。
初日とイベント以外でも、私は午後から会場に居る予定です。
元気で皆様にお会いできるように、睡眠も食事も作業のうちと思って、休み休みして頑張ります。
お読み頂いている皆様も、夏の疲れを溜めないようにどうぞお気をつけてお過ごしください。

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*プレスリリースのためのテキストを、大阪の京谷裕彰さんに書いて頂きました。
どこかで目にされた方もいらっしゃるかと思いますが、スペシャルサンクスの思いを込めて、以下に転載します。

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 1967年生まれの井桁裕子は、1990年代に球体関節人形の制作から始まり、以来、身体をモチーフとした立体表現を〈人形〉として作り続ける作家である。
 「人形とは何か」という問題はさておき、井桁はこの十年来、桐の粉を澱粉で練った桐塑(とうそ)という素材をもって、実在する同時代人をモデルに肖像人形の制作を続けてきた。
 わけても三人の舞踏家、吉本大輔の肖像《枡形山の鬼》(2007年)、石川慶の肖像《Kei doll》(2010年)、高橋理通子の肖像《加速する私たち》(2012年)は、表現のために身体の自由を自ら封じる舞踏家たちの志向に重ねられるかのように変形された姿で造形された。桐塑での制作には数ヶ月、ときには1年以上の時間を要し、その間作者はモデルと語り合いその世界を共有するため、作品には〈時間〉が織り込まれることになる。
 今回発表される新作のモデルは1977年生まれの森田かずよ。森田は二分脊椎症・先天性畸形・側湾症を持って生まれた、義足の女優にしてダンサーである。
 これは、森田が「自分の体を立体で見てみたい」という依頼から始まった制作だった。井桁は彼女の希望に応えるべく、骨格も筋肉も違うその身体を理解することに努めるうちに、その特殊な形の身体を、森田の人柄のように正面から取り組む姿勢で造形してみたいという意思が生まれ、試行錯誤が繰り返されたのである。
 これまでもずっと作品はモデルの似姿でありつつ、そこには収まりきらないものとしてあったが、今回も同じ身体表現者の肖像でありながら、彼女のありのままの姿の造形へと至り着いた。

 森田かずよの肖像人形と向き合うことを通じて、私たちは多くの問いかけとともに豊穣なものを受け取ることになるだろう。
(京谷裕彰/詩人・批評家)

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井桁裕子 新作展・片脚で立つ森田かずよの肖像
会期:2015年9月15日(火)〜2015年9月27日(日)12:00-19:00 ※会期中無休

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(いげたひろこ)

●今日のお勧め作品は、井桁裕子です。
20150820_igeta_text_10_1井桁裕子
「Fujita doll 精神分析医・藤田博史氏肖像」
2002年
石塑粘土、水彩、ガラス塗料
各H45.0cm


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