ギャラリー  ときの忘れもの

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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第7回 Shinohara


早朝に提出が終わったので仕事を切り上げて、平日ながらチューリッヒ工科大学へ向かいました。

大学キャンパスの建築棟の中にある、建築図書館の一角にあるマテリアルライブラリーで、ズントーのTherme Vals(ヴァルスの温泉)模型が展示される(10月7日-)ため、その設営に行ったのが一週間前。その際は時間が取れず見ることができなかった篠原一男の展示(On the Thresholds of Space-Making: Kazuo Shinohara)を見に行くためです。提出終わりの疲れがかなりあったものの、この展示のためにクールからチューリッヒまで行くノリ(気力)は残っていました。笑


篠原一男といえば、建築プロパーならず多くの方が知っている偉大な建築家ですが、今回ETHで展覧会が開催され、またスイス建築雑誌で特集*が出版されるくらいになったのは、ヴァレリオオルジアティやクリスチャンケレツの影響が大きいと言われています。ケレツは彼が学生時代だった1980年代にオランダでShinoharaの講演会を聴講して以来、虜になっていると言っています*。(*Werk, bauen+wohnen,12-2015 谷川俊太郎との対談記事より)
彼らがShinoharaに影響を受け建築を研究し、彼らの教える学生が更にそれを聞いて興味を持ち始める。こうしたことが、僕がETHで学んでいた2009年頃には既に始まっていました。恥ずかしながら僕が篠原一男の建築に興味を持ち始めたのも、横文字の“Shinohara“経由なのです。


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展覧会自体は、思っていたよりも規模が小さく少しがっかりしました。何かのディスカッションが行われるのか、展示会場が講演会場のようなレイアウトになっていたことも展示の全体像が見えず印象的でなかった原因かもしれません。

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展示媒体は写真と図面、模型。時系列で代表作を紹介してありわかりやすかったものの、資料の量としては物足りなさを感じました。篠原一男自身が建築作品のメディア露出を非常にコントロールしていたこともよく知られているので、そういった意味では厳選された、限られた図面と写真で展覧会を構成することは、篠原一男らしい展示とも言えます。


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ちょうど昨年のこの季節、ETHの研修旅行に引率手伝いとして参加する機会がありました。テーマは“Shinohara“で文字通り日本各地の篠原建築を周ったのですが、参加者の一人であった篠原フリークの友人が軽井沢にあるプリズムハウスを見つけるために、トレジャーハンティングのような苦労としていたことを思い出しました。(彼は先の雑誌*でもそのことについて寄稿しています)
篠原建築の多くは個人邸であり、であるがゆえにアクセスしづらい。篠原建築に影響を受けた世界の建築家たちは数しれなくても、実際に建築を訪れ空間を体験した人はかなり少数であると思います。それにもかかわらず、洗練された図面と建築写真でここまで影響を与えてきたのは、“心地よい空間“とか“使いやすい空間“という実体験に基づいた、時に感覚的な空間体験とは別の次元でも、建築の魅力が多く隠されていることを教えてくれています。



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新しい学期が始まって間もないため、建築棟のメインエントランスすぐ隣では数ある建築スタジオを優秀作品とともに紹介した展示がありました。コンセプチュアルな考えを深めていくスタジオ、コンストラクションに力を入れているスタジオ、空間の雰囲気を大切にデザインするスタジオなど。こういった日本の建築(教育)とは少し異なったスイス建築の潮流もどんどん紹介していければと思っています。

すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
1984年生まれ。日本大学高宮研究室で建築を学び、2008年東京藝術大学大学院北川原研究室に入学。
在学中にETH Zurichに留学し大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりスイスにて研修。 2015年からアトリエ ピーターズントー アンド パートナー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●今日のお勧め作品は、植田実です。
20160910_ueda_74_hashima_04植田実
「端島複合体」(4)
1974年撮影(2014年プリント)
ゼラチンシルバープリント
26.9×40.4cm
Ed.5  サインあり

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◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
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