<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第47回

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羊飼いが牧草地でピクニックをしている。
草原に布を広げ、と書いてからよく見ると、布ではなくて上着のようだ。ジッパーがついているのでわかる。野外とはいえ、テーブルはなくてはならない。食べ物を置くため、というよりも祝祭的な気分を盛り上げるために。裏地のチェック模様がテーブルクロスっぽく、最適だ。

「テーブル」の上にはパンが載っている。ぶっといのがごろんと三本。加えて画面の端にぽつんともう一本。ソーセージかチーズがありそうだと探すが、見当たらない。代わりに見つかったのは缶詰である。くるくると巻き上げる蓋の中は何だろう、と思って見つめていると、そこから少し離れたテーブルの左うしろにチーズらしきものが顔を覗かせているのがわかる。あの丸い入れ物はカマンベールにちがいない。

祝祭気分は上々のようだ。すでにワインが2本空いており、3本目のボトルにハンチングの男の手がかかっている。右のセーターの男より彼のほうがずっと飲ん兵衛なのだ。すっかりでき上がった様子で寝転がっている。

セーターの男は用心深い性格で、もう一本開けて大丈夫かな、という表情でそれを見ている。上着を脱いで草の上に敷いたのも、この男だ。なかなか几帳面な人なのである。昼飯、いっしょに喰わないか?とハンチングに誘われ、悪くないな、と応じて、羊同伴でこの草原で落ち合うことと相成ったのだ。

背後にいる羊はふたりが共同で飼っているのだろうか、と考えていると、群れのなかにRFという焼き印が捺されているのが見つかった。どちらかの羊がRFなのだ。見分けがつくよう徴が要る。ごっちゃになるのはよくない。付けたのはセーターの方だ、という気がする。

羊はどのくらいいるのか、画面を外れたほうまで群れは広がっている。数えきれないほどたくさんだ。彼らは草を食むわけでなく、羊のようにおとなしいという形容どおりの静けさでその場に佇んでいる。

そのなかに一頭だけ男たちのほうを向いているのがいる。目の離れた淡い三角形の顔を正面に突き出し、テーブルをのぞき込んでいる。その表情はどう考えても「なに食べてんの?」と言っているとしか思えない。

と、たちまち羊と人間の立場が逆転して、この写真の主人公は彼らだ、という声がどこかから響いてきた。たしかに、数から言っても羊のほうがマジョリティーである。どんなに待たされても怒らないし、急かさない。寛容な心をもってご主人に交遊のときを許している。薄ぼんやりした顔が神々しく輝きだす。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
ロベール・ドアノー
〈移牧〉シリーズより「野営」
1958年
ゼラチン・シルバー・プリント
40.0×50.0cm
©Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー Robert DOISNEAU
1912年パリ郊外のジョンティイ生まれ。印刷会社でリトグラフの仕事を経験後、1931年写真家に転向。1934年ルノー自動車で広告、工業写真家として勤務し、1939年に独立するが、すぐに召集を受ける。パリ陥落後はレジスタンス活動に加わる。戦後は1946年にラフォ通信社に参加し、フリー写真家として「パリ・マッチ」などのフォトジャーナリズム分野で活躍。一方、1948年から1952年まではファッション誌の「ヴォーグ」の仕事も行う。
パリの庶民生活をエスプリを持って撮影し、もっともフランス的な写真家として根強い人気がある。1947年にコダック賞、1956年にニエペス賞を受賞。また、シカゴ美術館(1960年)、フランス国立図書館(1968年)、ジョージ・イーストマン・ハウス(1972年)をはじめ世界中の主要美術館で回顧展が開催されています。1994年、歿。

●展覧会のご案内
静岡県のベルナール・ビュフェ美術館で、「ロベール・ドアノーと時代の肖像 ―喜びは永遠に残る」が開催されています。

「ロベール・ドアノーと時代の肖像 ―喜びは永遠に残る」
会期:2016年9月15日[木]〜2017年1月17日[火]
会場:ベルナール・ビュフェ美術館
時間:10:00〜16:30(入館は閉館の30分前まで)
休館:水曜(祝日の場合は翌日休)、2016年12月26日[月]〜2017年1月6日[金]は休館

日常の小さなドラマを絶妙にとらえ、「イメージの釣り人」と評されるフランスの国民的写真家、ロベール・ドアノー(1912-1994)。ドアノーがとらえた、パリの恋人たちや子どもたちの豊かな表情、ユーモアや風刺の効いた街頭の一場面など、人間に対する無限の愛情と好奇心に満ちた写真は、時代を超えて世界中で愛され続けています。
写真家ロベール・ドアノーを語る上で欠かせない分野、それが「ポートレイト」です。鋭い洞察力と観察眼に裏打ちされたドアノーによる芸術家のポートレイト群は、ドアノー自身の「見る喜び」を見事に体現したものでもあります。
本展では、同時代を代表する人々を写したポートレイトを中心に、精選されたドアノーの代表作など、未発表作品を含む約140点を一堂に展示します。ロベール・ドアノーのまなざしを通して提示される同時代人たちの肖像は、写真の本質でもある「見る喜び」とともに、あらためて創造の喜びを私たちに伝えてくれるに違いありません。(ベルナール・ビュフェ美術館HPより転載
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●大竹昭子ポートフォリオ『Gaze+Wonder NY1980』のご案内
600600
大竹昭子ポートフォリオ『Gaze+Wonder NY1980』
発行日:2012年10月19日
発行:ときの忘れもの
限定8部
・たとう入り オリジナルプリント12点組
・写真集『NY1980』(赤々舎)挿入
テキスト:堀江敏幸、大竹昭子
技法:ゼラチンシルバープリント
撮影年:1980年〜1982年
プリント年:2012年
シートサイズ:20.3x25.4cm
各作品に限定番号と作者自筆サイン入り
価格:220,000(税別)
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●大竹昭子写真集『NY1980』(サイン本)のご案内
NY1980大竹昭子写真集『NY1980』サイン本
2012年
赤々舎 発行
109ページ
20.5x15.7cm
テキスト:大竹昭子(ときの忘れものWEB連載エッセイ「レンズ通り午前零時」に加筆・修正+書き下ろし)
デザイン:五十嵐哲夫
2,300円(税別) ※送料別途250円

「撮るわたし」と「書くわたし」を育んだ80年代のニューヨークへ!
鋼鉄のビルが落とす鋭い影、ストリートにあふれるグラフィティー。
30年前、混沌のニューヨークへ渡り、カメラを手に街へ、世界へと歩きだした。生のエネルギーを呼吸し、存在の謎と対峙する眼。
ジャンルを超えて活躍する著者が、写真と言葉の回路を解き明かした重要な一冊。
そこに通っているのは一本のレンズ通りである。虚構と現実をつなぐこの通りこそが、過去といまと未来を接続するラインなのであり、それをつかみとることに生のリアリティーがあるのを強く確信したのだった。(本文より)
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本日の瑛九情報!
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彼の魂は扉の向うとこちらにいる。
その居ずまいが存在理由
ふと差出された真昼の夢は
陰と陽の落し子

瀧口修造【瑛九へ「ノートから 1951」】より)〜〜〜
瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日〜2017年2月12日)。ときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。