<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第54回

01_1500
(画像をクリックすると拡大します)

男がいて、その背中に、張りつくように女がいる。
男の視線は前方に向けられ、女はその男の肩に顎をのせているが、視線はどこも見ていない。

ふたりの視線が一致していないのは、なぜか。
こんなに接近し、からだをくっつけ合っているのに、心はおなじ場所にいないように感じられるは、どうしてか。

この男女がバイクに相乗りしている、ということを、わたしはあらかじめ知っている。
その事実を下敷きにして見ると、視線のちがいはなんとなく了解できてしまう。
バイクに乗せてもらっているときって、たしかにこんなふうだな、と。

それを知らなかったら、写真の見え方はどう変わるだろう。
つまり、この写真一点を、なんの説明もなく見せられたら、どういう場面が思い浮かんでくるだろうか。

直立している男を、女がうしろから抱きすくめた、というシーンは、あり得ないことはないだろう。
男が嫌がるのを半分承知で、女はそれをする。
だいぶ前からふたりの関係はぎくしゃくしている。
男はもはや女の存在が面倒なのだ。
どうやったらうまく別れられるだろう、と思いながら、張りついている女の重みを感じている。
うっとうしいが、跳ね返すだけの度胸は彼にはまだない。

女は彼のそうした心の動きを察していて、もう、だめかも、と思いながら、身が離れるまでにまだ時間が要るように思えて、くっつかずにはいられない。そして接しているあいだだけ、もしかしたら状況は好転するかもしれない、という期待に浸っている。

ひるがえって、ふたりがバイクに乗って走っているとすると、どうだろう。
バイクでは体をくっつけないと走行ができない。スピードを出すのに二体を一体にする。
というか、速度があがると、自然に体がそうなってくる。
親しくない人に乗せてもらってもそうで、顔は見えないのに、一体感だけはやけに強い。

いや、そうではなく、顔が見えないゆえに高まる、と言うべきではないか。
見えないと、体は実にすんなりとその状況を受け入れる。
そしていったん受け入れると、単純にも上がっていくスピードに体を任せ切る快感に酔っていくのだ。

もっとも、これは後ろに乗せられている女の感覚である。
ハンドルを握る男はどうかといえば、前方を注視している。
注視しつつも、背中に伝わってくる女の胸の膨らみと熱に、彼女を背負っているようなヒロイックな気分がわきあがってくる。
女がどんな表情をしているかはわからずとも、背中に感じる重みが信頼の証のように思えて、気分が高揚するのだ。

顔は見えないのに、体が異常に接近し、接近した体がおなじ方向をむいていて、前方にむかって送りこまれていくこと。
こんな奇妙な事態は、バイクの相乗りでしか思いつかない。
見えないことが、見えているとき以上に、一体化を加速する。
盲目の愛、といういう言い方があるが、視覚が遮断された状況で肌を晒して移動するとき、心は肉体の原理にむかって一気に走って行き、いつも考えているのとはちがう<愛>の形に近づいていく。

大竹昭子(おおたけあきこ)

〜〜〜〜
●紹介作品データ:
志賀理江子
「Blind」
2009年撮影(2017年プリント)
ゼラチンシルバープリント、木製パネル
Image size: 120.0x180.0cm
Sheet size: 123.0x183.0cm
サイン無し
エディション未定

■志賀理江子 Lieko SHIGA(1980-)
1980 愛知県生まれ
1999-2004 ロンドン芸術大学 チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン
2007-2008 文化庁在外派遣研修(ロンドン)
現在、宮城県在住

主な個展:
2012 「志賀理江子 螺旋海岸」せんだいメディアテーク、仙台
2011 「カナリア門」ギャラリー・プリスカ・パスカー、ケルン 「カナリア門 志賀理江子写真展」三菱地所アルティアム、福岡
2008 「座礁の記録」フォトギャラリエット、オスロ
2006 「リリー」ニューク・ギャラリー、パリ
2005 「リリー」グラフメディアジーエム、大阪
2003 「明日の朝、ジャックが私を見た。」グラフメディアジーエム、大阪/アップリンク・ギャラリー、東京
2001 「浮遊する出来事」グラフギャラリー、大阪

受賞歴:
2008 木村伊兵衛写真賞受賞【写真集『Lilly』『CANARY』(共に2007年)】

●展覧会のご紹介
「志賀理江子 ブラインドデート」
会期:2017年6月10日[土]〜9月3日[日]
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで) 会期中無休

写真を通して自身と社会が交差する接点に生じる「イメージ」の探求を続ける志賀理江子。1980年に愛知県に生まれ、2008年から宮城県に拠点を移し制作活動を行っています。本展では、2009年にバンコクの恋人たちを撮影したシリーズ「ブラインドデート」を始まりとして、「弔い」「人間の始まり」「大きな資本」「死」などをめぐる考察と物語が綴られていきます。出品作品は、写真プリントの他に約20台のスライドプロジェクターによってインスタレーションを構成。会場に置かれたプロジェクターの点滅は、生、暗闇と光、この世界に相反しながら同時に存在するものごとの隠喩でもあります。私たちの肉眼で見えぬものは何か。その領域をこそ写し出す写真というメディアに懸ける志賀は、出来うる限りの正直さで社会をまなざしながら、人間の生から離れない写真の空間を立ち上げます。(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館HPより転載)

●今日のお勧め作品はパウル・クレーです。
DSCF3756_600パウル・クレー Paul Klee
"Three Heads"

1919年
リトグラフ
イメージサイズ:12.1×14.8cm
シートサイズ:19.7×23.4cm
版上サイン

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

◆ホームページのWEB展を更新しました。2017年1月〜6月までの青山時代の企画展・アートフェア出展の記録をまとめました。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

ささやかですが、新しい空間のお披露目をいたします。
2017年7月7日(金)12時〜19時(ご都合の良い時間にお出かけください)
12

駒込開店6日前
20170630_お祭り_8ダンボール箱との格闘もようやく終結に近づいた6月30日、直ぐ近くの駒込富士神社のお祭りに行ってきました。

20170630_お祭り_1毎年6月30日・7月1日の大祭(山開き)には露天商が多数出店、いやにぎやかです。

20170630_お祭り_6子どもさんがこんなにいるなんて!!。
今日は土曜日なので人出も多いらしい。

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。