<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第58回

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この写真を見てまず目がいったのは、部屋のなかの女性たちではなく、そこにかかっているカーテンだった。なんだかカーテン屋のショールームのようではないか。
窓側にも入口にもさがっていて、広くはない部屋がカーテン攻めにあっている。
しかも、そのカーテンはシンプルとは言いがたいデザインで、奥のものにはフリルやポンポンがつき、手前のものは派手なレース模様でしかもドレイプがたっぷりで、狭い部屋のなかがゴテゴテでさわがしい。

奥の壁側は窓だからカーテンが必要だろう。でも、手前のほうはどうだろう。
カーペットの際のところにレールが見えるから、ここに引き戸がついているのだ。
それを閉じれば間仕切りできるから、カーテンをつける必要はないのではないか。
ということは、室内の雰囲気づくりのためにわざわざカーテンをさげたのだろう。

そう思って改めて見ると、このカーテンが天蓋に見えてきた。
部屋はちょうどキングサイズのダブルベッドに匹敵する大きさだし、カーペットの模様もなにやらベッドカバーを連想させなくもない。
どうやらふたりは、寝る部屋を天蓋付きベッドに見立ててデコレーションしたらしい。

彼女たちが日本人ではないのは一目瞭然である。
タイとか、ミャンマーとか、東南アジア系のような気がする。
手前の女性は民族衣装を着けて頭に冠をのせ、奥の女性はフリル付きのワンピースを着てロングヘアに髪飾りを付けている。部屋のインテリアに負けないほど装飾たっぷりだ。

ところで、この部屋はどこにあるのだろう。彼らの国の家のなかだろうか。
どうもそうとは思われないのである。壁を見ると横木がまわされている。これは長押と呼ばれる日本建築の特徴で、古いアパートにはよくこれが付いていた。いまでは減りつつあるけれど、ハンガーなどをかけるのに重宝したものだ。

この長押から、ここは日本のアパートではないか、という想像が生まれる。
外階段がついている「○○荘」とか「コーポ××」というような名の二階建てアパートで、階段をドンドンと踏みならして上がり、見かけよりもはるかに軽いドアをすーっと開けて中に入ると、小さな三和土が台所に通じていて、その奥にレースのカーテンが下がっている。
壁のスイッチを手探りして蛍光灯がついたとたんに、部屋のなかが照らしだされる。

ふたりは、自国ではこういうインテリアの部屋に暮らしてはいないような気がする。
たぶんあっさりしたインテリアの部屋で、ジーンズであぐらをかいていたりするのだ。
彼女たちがこの部屋をカーテン攻めにし、フリフリの格好でくつろいでいるのは、ここがコスプレの国、日本だからなのである。あらゆる場面が芝居っけたっぷりで、何のフリをしても許されるこの国で、思いっきりお姫さま気分を味わっている。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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■瀬戸正人 Masato SETO
1953年、タイ国ウドーンタニ市生まれ。写真家。
東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業後、深瀬昌久氏アシスタントを経て、1981年、フリーランスの写真家として独立。1987年、山内道雄氏と東京都新宿区四谷4丁目にギャラリー〈Place M〉を開設。国内外で個展、グループ展多数。
写真集に『《バンコク、ハノイ》 1982―1987』(IPC、1989年刊)『部屋 Living Room, Tokyo』(新潮社、1996年刊)『Silent Mode』(Mole、1996年刊) 『picnic』(Place M、2005年刊)等。その他の著作に『トオイと正人』(朝日新聞社、1998年刊)『アジア家族物語』(『トオイと正人』文庫版改題、角川書店、2002年刊)。 1990年日本写真協会新人賞、1995年東川賞新人作家賞、1996年第8回写真の会賞、1996年第21回木村伊兵衛賞、1999年新潮学芸賞。
公式サイト:http://www.setos.jp/

●展覧会のご紹介
瀬戸正人さんが代表を務めるフォトギャラリー〈Place M〉にて、二人展が開催されます。上掲の作品も出品されます。
都築響一/瀬戸正人
Place M 30周年企画展
「TOKYO STYLE/LIVING ROOM」

会期:2017年11月13日[月]〜11月19日[日]
会場:PLACE M
   東京都新宿区新宿1-2-11 近代ビル3F

●今日のお勧め作品は超レアな草間彌生の1983年のポスターです。
1983年草間展ポスター
「草間彌生展」ポスター
1983年
ポスター
109.0×79.0cm
*原宿にあったビデオギャラリーSCAN(中谷芙二子主宰)の草間彌生展のポスターである。その多くは作家の意図で小さくちぎって来場者に配られたため、ポスターとして現存するのは極く僅かと思われる。SCANはアーティストの中谷芙二子が1980年にヴィデオ・アート専門のギャラリーとして原宿にオープンし、80年代の日本のヴィデオ・アートの中心的存在だった。

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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。