ジャパンネス、日本近現代建築展にみられる建築家によるドローイングの変遷

今村創平


 フランス北東部の小都市メスにて、現在日本の近現代建築に関する大規模な展覧会、「JAPAN-NESS」が開催されている(2017年9月9日から2018年1月8日まで)。会場は、ポンピドー・センター・メス(2010年完成、坂茂設計)であり、この企画はポンピドー・センター副館長であるフレデリック・ミゲルー氏が手掛けたものだ。ミゲルー氏は、この展覧会の構想・準備に10年もの歳月を費やし、美術館のメインフロアすべてを用いたこの展覧会は、1945年から現在までの日本建築を総覧するきわめて充実した内容となっている。ミゲルー氏は、日本の現代建築への高い関心を示し、情熱を持って研究を続けてきた。これだけの規模で、日本の現代建築が海外に紹介されたことはこれまでなく、ある意味では紹介役を買って出たミゲルー氏には、日本の建築界の一人として、深い感謝と尊敬の念を示すばかりである。
 実は、フレデリック・ミゲルー氏が手掛けた同様な展覧会は、数年前に金沢21世紀美術館にて開催されており(2014年11月1日〜2015年3月15日)、今回の展覧会はそのメス版といえるが、二つの展覧会には違いも多い(これはこれで、一つのテーマとして論じるに値するが、残念ながら今回詳述は省略)。いずれにせよ、1945年から現在まで、70年以上に渡る日本の建築を紹介するという野心的な企画であり、この分野についてそれなりの専門性も持つ私にとっても、未知のプロジェクトや未見のドローイングなどが多数あり、彼らの徹底的な調査と、深い理解、そしてこのような企画を実現する熱意には感心する。もちろん、一つの展覧会でこうした対象をすべて扱うことは不可能であり、この場にない重要な建築も指摘できるものの、セレクションはキュレーターが責任を持って行うものである。選択の姿勢そのものがメッセージであり、今回はそのセレクションにいくぶんの偏りがあったとしても、それは許容範囲といえる(ただし率直に言うと、2000年代以降のセレクションにはかなりのムラがあると見るのは、私だけではないだろう。現在に使い程評価は定まっておらず、検証に十分な時間がなかった事情は想像できる。この時期については今後の課題であろう。)
 
さて、今回のかなりの規模の展示について丁寧に解説をしていくと、いくら紙幅があっても足らないので、ここではときの忘れものに相応しい話題として、建築家のドローイングなどに絞ってこの展覧会を検証してみたい。
展示はほぼ年代順に並べられているが、そこで展示されているものを概観すると、世代によって、展示されている図面、ドローイングの傾向が明らかに異なることに気付く。この展覧会が出色なのは、ミゲルー氏の強い意志により、展示物は原則当時のオリジナルに限られていることである。通常の建築の展覧会では、図面、模型、写真などを駆使してその建築作品の理解を促そうとするが、ここでは例えば、ある建築では図面は一枚、もしくは模型が一点ということも多い(多くのものにはキャプションの横に、当時の写真が添えられている)。これは、個々の建築についての予備知識がない鑑賞者にとっては不親切ともいえるが、例えば後から清書された図面や最近撮られた写真などは、必ずしも、作者である建築家の意図を反映していない。今回企画側は、建築家という主体による表現に価値の重心を置いている。こうした展示方針は、建築家と表現の関係がはっきりと浮かび上がらせている。

01展示風景


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展示の前半には前後の状況を反映し、丹下健三の〈代々木体育館〉をはじめ、多くの公共建築などの実施図面が並べられている。貴重な一次資料群の中で、鑑賞者が強い印象を受けるのは、いくつかの図面の精緻さ、迫力であろう。特に白井晟一(〈親和銀行本店〉など)や菊竹清訓(10メートルほどの高さのある〈エキスポタワー〉の立面図など)の図面は、そこにかけられたエネルギーの総量を想像すると、めまいがするほどである。海外の展覧会や作品集で、建築の実施図面が鑑賞に値し、かつ感嘆するほどの完成度であるという例は、すぐに思い浮かばない。常識的には、スケッチには建築家の創意が映し出されるものの、図面とは単なる現場のための情報ツールに過ぎないからだ。この時代の、熱狂的ともともいえる図面への執着はどこから来たのだろうか。
ところがそうした実施図面は、1970年以降ほとんど全く展示されていない。代わりに登場するのは、建築家の個性的な表現手段によるドローイングだ。日本の建築のアート化を促した張本人は、磯崎新だと言われるが、カタログでもそうした新しい傾向の冒頭を飾っているのは、磯崎新による〈富士見カントリークラブ〉のシルクスクリーンである。それぞれの建築家が、異なる表現を競っているが、藤井博已や鈴木了二のハードボイルドぶりはひときわ目を引き、彼らに至っては、ドローイングが自立した作品となっている。安藤忠雄や高松伸もそうであることは言うまでもないだろう。。
しかしこうしたドローイングの生産は、1980年代頃からはほとんど見られなくなり、特にバブル崩壊後、また1995年の阪神大震災後には、ほとんどなくなる。夢想的な建築の表明というものが、魅力を失った時期であったといえるであろうか。(だが今回の展示には含まれていなかったが、2010年代になってからだろうか、光嶋裕介や藤野高志など、独特のドローイングをものにする若手が登場してきている。)
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 最後になるが、私のこの展覧会へのいくつかの関わりを紹介させていただく。一つは金沢に続きカタログへの寄稿。展覧会のタイトルの副題には「1945年以降の日本に建築と都市」とあり、建築と都市が対象とされている(金沢では、都市というテーマ設定はなかった。)そのことから、私は各世代の建築家の都市へのスタンスの違いをテーマに執筆した。それはまた、外国の予備知識がない鑑賞者たちに作品の背景を伝えることで、理解を深められるとの考えからでもあった。またカタログにおける作品解説と建築家解説の7割ほどを、私と私の千葉工業大学の研究室の学生とで担当した。そして、『都市住宅』誌の展示である。この展覧会では、建築のメディアによる紹介も意図的になされており、その中でも伝説的ともいえる建築雑誌『都市住宅』を大きく取り上げている。私たちは、同誌の創刊編集長である植田実さんに協力し、氏が手掛けた『都市住宅』全号(約100冊)を検証し、ポンピドー側と協議し、誌面をセレクトした。会場では、テーマ別の3カ所にて、会場の高い天井高を生かして、『都市住宅』の誌面が大きく壁面展示された。この『都市住宅』に関する作業は、機会があれば別に詳しく記録しておきたいと思っている。
いまむら そうへい

今村創平
建築家。千葉工業大学建築学科 教授。
早稲田大学卒。AAスクール、長谷川逸子・建築計画工房を経て独立。アトリエ・イマム主宰。
建築作品として《神宮前の住宅》、《大井町の集合住宅》など。
著書として、『現代都市理論講義』、『20世紀建築の発明』(訳書、アンソニー・ヴィドラー著)など。
公益社団法人 日本建築家協会 理事。同機関誌『JIA MAGAZINE』編集長。

*画廊亭主敬白
国際交流基金とポンピドゥ・センター・メッスが共催して始まった建築展「ジャパン-ネス Japan-ness 1945年以降の日本の建築と都市計画」は、118組の建築家・作家による300以上のプロジェクトを通じて、戦後から現代までの日本建築史を総括する、ヨーロッパで初の大規模な展覧会です。
オープニングに出席された今村創平さんに寄稿していただきました。
2016年7月28日
左から植田実、光嶋裕介、フレデリック・ミゲルーの諸氏
2016年7月28日
於・ときの忘れもの(青山)

大規模な展覧会なので、とても短いブログに書ききれるものではなく、今村さんとやはりこの展覧会に協力した植田実先生をお招きし、報告会をかねたトークショーを開催することにしました。
11月16日(木)18時より 植田実・今村創平トーク<ジャパンネスのこと、都市住宅のこと>
今村さんからのメッセージ:現在フランスのポンピドーセンター・メスにて開催中の展覧会「ジャパンネス:19465年以降の建築と都市」の報告をするとともに、建築展覧会のあり方、建築の表現についてお話をします。また、同展にてフォーカスされた建築雑誌『都市住宅』について、同展での展示の狙いなど、同誌の元編集長植田実さんとお話しします。
*要予約:参加費1,000円
必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

●今日のお勧め作品は、磯崎新です。
20171013_053磯崎新
《作品》
1986年
コンテ、パステル、紙
45.8×75.0cm
サインあり

磯崎新CLUB HOUSE磯崎新"CLUB HOUSE"
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75  サインあり

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

◆ときの忘れものは「安藤忠雄展 ドローイングと版画」を開催しています。
会期:2017年9月26日[火]〜10月21日[土] 11:00〜18:00 ※日・月・祝日休廊
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●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

◆イベントのご案内
10月27日(金)18時〜中尾拓哉ギャラリートーク<マルセル・デュシャン、語録とチェス>
『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』刊行記念
*要予約:参加費1,000円

10月31日(火)16時〜「細江英公写真展」オープニング
細江先生を囲んでのレセプションはどなたでも参加できます。

11月8日(水)18時飯沢耕太郎ギャラリートーク<細江英公の世界(仮)
*要予約:参加費1,000円

ギャラリートークへの参加希望は、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。twitterやfacebookのメッセージでは受け付けておりません。当方からの「予約受付」の返信を以ってご予約完了となりますので、返信が無い場合は恐れ入りますがご連絡ください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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