杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第21回 ライン川に架かる橋


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今回は11月4日に開通したJürg Conzett(ユルク コンツェット)によるクールとハルデンシュタインをつなぐ橋を紹介しようと思います。

自宅のあるクール(Chur)から仕事場のあるハルデンシュタイン(Haldenstein)まで、自転車で通って行くには大きく分けて2つのルートがありました。1つは線路の東側を走るバス通り(Masanserstrasse)を通っていく道。もう1つは線路の西側のトウモロコシ畑を横切って行く道。前者はもちろん車が行き交う忙しい大通りで、後者は犬の散歩やジョギングをする人をよく見かける畦道のようなところです。
そこに最近、第三のルートができました。

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橋の開通を体験したのは、実は僕の人生で初めてのことだったように思います。僕の覚えている限り身の周りに必要な橋は既に十分なほど架けられていたし、河川がある場所よりも歩道橋が架かるとか、地下道を通すとかの方がリアリティを感じるところに住んでいたからかもしれません。ともあれ昔話によくあるような“川の向こう岸に渡りたいからどうにかして橋を架けて渡ろう”という最もシンプルな問いかけのある場所に出会いました。

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橋が架かったのはクールの駅からライン川に垂直な線を引いた辺りにある場所(地図上で小さな方の赤い丸で囲った辺り)です。クールから向かってライン川の反対側にはカランダ(Calanda)という地元ビールの名前にもなっている大きな山があり、その辺りはほとんど開発されていません。このライン川がクールの街が広がってゆく末の境界になっていた。一方で川沿いはハルデンシュタインからクール(約2.5km)を通り越してとなり村のフェルスベルグ(Felsberg)へ向かう(さらに約5km)散歩道になっています。
この橋の工事は今年4月に始まりました。クール市のウェブサイトによると橋工事の目的と概要は次のようになっています。

“〜この橋ができることよってクール、ハルデンシュタインとカランダ地域を安全かつ魅力的に、そして緩やかにつなぐことができます。また、この全長91m歩行幅3mの吊り橋は支柱がないためにライン川の流れを侵害することがありません”


構造家のユルク コンツェットはズントー事務所の元所員で、サンべネディクト(St.Benedict)教会の計画を担当していた人でもありました。(もともと構造デザイン担当として勤務していたのか、建築設計士として働いていたのかどうか、もとよりそういった職種の違いは当時の小規模事務所で重要ではなかったのかもしれません)
事務所を卒業してからはクールで構造事務所を開き、建築プロジェクトの構造を担当する傍ら多くの橋を手がけています。例えばクールから少し西へ向かった先にヴィアマーラ(Viamala)という渓谷があり、そこでは大自然の中に大小いくつかの橋をデザインしています。彼の事務所を訪れると大きなドラフターで描かれたとても精緻で美しい手描き図面があり、その線と文字を見ると繊細かつ大胆なデザイン感覚が目の前に想像できてしまいました。

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この吊り橋は鉄筋コンクリート造の主塔が地面の上のみに建ち、その間に張られたケーブルにて橋の桁と床が吊られています。そのため支柱が川面に存在せずスッキリとした印象がある一方で、ケーブルが地上へ降りてくる先(アンカーレッジ)付近は少し混雑してきます。それでも主塔は川沿いの歩道を邪魔することないくらいに十分な高さがあります。

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橋自体の鋼構造で床はアスファルト、手すりは木になっています。あまりにも大胆かつ太い手すり部分でデザインが大味すぎると感じましたが、この橋のダイナミックさに比べたらこれくらいでなければとも思い返しました。正直に言えば、まだ自分の中でこの橋を理解する上で必要なこのプロジェクトの”強さ”みたいなものがうまく捉えきれていません。

この辺りはノルディック、ジョギングにもってこいのとても気持ちの良い場所。この橋の開通によってこのライン川沿いにさらに人が集まって、その結果カフェなどが必要とされて現れるかもしれない。橋自体の構造的、意匠的な意味はもちろん、この橋が僕たちの暮らしに何を運んでくれるのかは、橋の開通を初めて目の当たりにした僕にとって今、とても興味のある話題になってきました。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●今日のお勧め作品は、ソニア・ドローネです。
20171210_sakuhin2ソニア・ドローネ
「作品」
リトグラフ
65.0x53.0cm
Ed. 75
サインあり
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◆マイアミ速報
<ART MIAMIは4日目が終了、始め2日間で葉栗剛さんの木彫や秋葉シスイさんの作品が2点完売したのもあり、3日目から展示替えし、予備だった赤い方の作品を出し、正面壁面を僕の作品2点並べて頂きました、なんとも有り難くて嬉しい光景です。
体もこっちのリズムに慣れてきたようで、京都個展在廊最終的に急に喉が痛くなって心配しましたが、その後元気になりました。
昨晩は夜にホテルからすぐのビーチに行ってみたら月が出ていて、1時間以上ボーっとして、なんかここまでの制作疲れや色々なものがスーッと抜けたようで、仕事とはいえマイアミに来られて良かったと思いました。
フェアは残り2日間、刺激を受けつつがんばります。
あと、ホテルの廊下に製氷機を発見して、完全なハイボールを飲めるようになりました 笑
ではおやすみなさい☆(野口琢郎さんのfacebookより)>
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ときの忘れものは「ART MIAMI 2017」に出展しています。
会期:2017年12月5日[火]〜10日[日]
ブースナンバー:A428


◆埼玉県立近代美術館の広報紙 ZOCALO の12月-1月号が発行され、次回の企画展「版画の景色 現代版画センターの軌跡」が特集されています。館内で無料配布しているほか、HPからもご覧いただけます。

◆ときの忘れものは「WARHOL―underground america」を開催します。
会期=2017年12月12日[火]―12月28日[木] ※日・月・祝日休廊
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1960年代を風靡したアングラという言葉は、「アンダーグラウンドシネマ」という映画の動向を指す言葉として使われ始めました。ハリウッドの商業映画とはまったく異なる映像美を目指したジョナス・メカスアンディ・ウォーホルの映画をいちはやく日本に紹介したのが映画評論家の金坂健二でした。金坂は自身映像作家でもあり、また多くの写真作品も残しました。没後、忘れられつつある金坂ですが、彼の撮影したウォーホルのポートレートを展示するともに、著書や写真集で金坂の疾走した60〜70年代を回顧します。
会期中毎日15時よりメカス映画「this side of paradise」を上映します
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60〜70年代のアメリカを象徴する映像作品です。(予約不要、料金500円はメカスさんのNYフィルム・アーカイブスに送金します)。

●書籍のご案内
版画掌誌5号表紙600
版画掌誌第5号
オリジナル版画入り美術誌
ときの忘れもの 発行
特集1/ジョナス・メカス
特集2/日和崎尊夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版ーA : 限定15部 価格:120,000円(税別) 
A版ーB : 限定20部 価格:120,000円(税別)
B版 : 限定35部 価格:70,000円(税別)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
ときの忘れもので扱っています。

国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展―挑戦―」は20万人を突破、会期も残り僅かです(12月18日[月]まで)。
展覧会については「植田実のエッセイ」と「光嶋裕介のエッセイ」を、「番頭おだちのオープニング・レポート」と合わせ読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。


●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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 ・関根伸夫のエッセイ「〈発想〉について[再録]」は毎月12日の更新です。
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 ・倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」は毎月17日の更新です。
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 ・小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
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 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
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 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は終了しました。
 ・森下隆のエッセイ「鎌鼬美術館——秋田県羽後町田代に開館」は終了しました。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は終了しました。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は終了しました。
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 ・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は終了しました。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました(時々番外編あり)。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「戦後・現代美術事件簿」は終了しました。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
 ・「瀧口修造の世界」は造形作家としての瀧口の軌跡と作品をテキストや資料によって紹介します。
土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
 ・「関根伸夫ともの派」はロスアンゼルスで制作を続ける関根伸夫と「もの派」について作品や資料によって紹介します。
 ・「現代版画センターの記録」は随時更新します。
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