杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第22回 家具製作所


新年明けましておめでとうございます。
昨年はこのエッセイのおかげもあって、多くの人に声をかけていただく機会を得ることができました。二年前に書き始めた当時には、毎月たった一つのエッセイを綴ることがこんなにも労力がかかり、そして反響をいただけることだとは思ってもいませんでした。

トピックとして注目されるであろうことよりも、人に伝えるに値する事柄は何だろうと日々考えながら生活していることで、少しだけ身の回りの些細なことに気づくことができるようになってきたように思います。(そういう気がしているだけかもしれませんが。。笑)
ギャラリー“ときの忘れもの“の皆さんへ、良い機会を与えてくれて本当にありがとうございます。

毎月楽しみに、もしくはまぁ一応目を通すだけ、ないし偶然見つけて読んでくれている人たちに少しでもスイスでの生活や建築事情を紹介できればと思っています。仰々しい文章ではなく、肩肘張らない感じで自分が面白いと思ったことを発信していこうと思っています。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。




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今回は家具アトリエ訪問です。

シリーズ化しているわけではありませんが(笑)、第9回ではスイスの木工所を、第17回ではドイツの家具工場を紹介してきました。今回はクールにある家具アトリエを紹介しようと思います。
このアトリエを運営する家具職人に出会ったのは、とあるショップにあった展示棚を見たことに始まります。(そのショップについては後日紹介することにします)
オーナーが展示されているプロダクトそっちのけで展示棚を紹介してくれた時に、それがかなり大きいにもかかわらず十分な精度をもって、ビスや接着剤なしで組み立てられていることに驚きました。聞けばその家具職人は日本の木造建築における仕口を勉強しているらしい。今回に限らず、実はスイスで生活していると本当に多くの人が日本の木造建築とりわけ宮大工の仕事に興味を持って、個人的に書籍を取り寄せて勉強していることが多いことに驚きます。
そんな経緯があって、オーナーに家具職人を紹介してもらい彼のアトリエを訪問することになりました。

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そのアトリエはクール(Chur)駅の西隣、Chur Westという場所そのままを表した駅のすぐ側にありました。この一帯は高層タワーとその足元に商業施設がある近年開発された地区であり、また以前から工場や倉庫、鉄工所といった大スパン空間の建物が多い場所と隣り合わせにあります。そういった地域には当然ながら幾つかの大規模なホームセンターがあり、作り手にとってはとても利便性の良いところです。

以前少しだけ紹介したように、スイスの職人教育は師弟制かつアカデミックです。自分で選んだ製作所に研修生として通い身体で仕事を覚える。と同時に職業訓練学校に通い頭で体系的に知識を得ます。 訪れた家具アトリエにも、遠くオランダから来た研修生が学んでいました。
アトリエでは職人自身とその研修生の二人で働いています。とはいえ自分でデザイン制作する単体家具に留まらず建築の内装(木仕上げ)も行うなど幅広く活動し、空間とも関係した提案をしているようです。


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規模は小さいとはいえ必要な機材は一通り揃っていていい。と一緒に訪れた家具職人の同僚が感心していたように、空間の中に機械が適度な間隔をもって並べられ、切り出され運ばれた木材がどのように、そしてどういった順番で加工されて家具のパーツになっていくのか。それが説明なしで手を取るようにわかります。仕事ぶりを見る前に仕事ぶりがなんとなくわかってしまう。そしてまた、こういった設備のあるアトリエをいつも羨ましく見てしまう自分がいます。

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先日ショップで見た家具(展示棚)の一部試作品です。日本の“尻ばさみ継“に近いカタチで楔を使って繋いでいます。使用しているのはクルミ材。楔はそのまま残って組み立て解体を容易にし、意匠的にもアクセントになっています。

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これは木材をカンナがけのように薄く削る機械、見ると日本のメーカーです。削り取られたものは、薄いテキスタイルのように見えました。

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この大きなテーブルはオーク材から、従来のテーブルのように天板に脚がついた構成ではなく、脚のフレームにテーブルの天板がはめ込まれているように作られています。二枚目の部材写真を見るとそれがよくわかります。そのため天板と脚フレームは数ミリの余白を残してルーズに嵌め込まれ、ビスや接着剤で固定されていません。完成品を外から見ると3ミリ程度に見える天板が脚のフレームから14mmオフセットしていて、その精度がテーブル全体に良い緊張感を生み出しています。
実はこれを初めて見た時には、この上にガラスか何かの天板がくるのだと思っていました笑。脚のフレームだけでできているようなテーブル。天板の存在感がないぶん、そこから生まれる浮遊感、軽やかさやエレガントな印象はあまり感じません。一方で見た目はスリムな割にがっしりとした堅強さを感じるのは僕だけでしょうか。4本脚の上部がカーブしてフレームと一体化していることで、がっしりとした重さを更に強調しています。


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僕が一番いいなと思ったのは、実はこの工具のための棚です。職人本人は時間をかけずに即興的に作った。と言っているけれど、そのさらっとしたデザインがいい。下から上にかけて少しだけ傾きをもってフレームが組み立てられ、そこに横架材もしくは天板が載って全体を固定しています。上部の棚は傾きによって奥行きが出てきているので、そこに小さな木材の破片などを縦置きし、横架材から吊るされた部材にダボがついて、そこに小さな工具が引っ掛けられている。
全体のフレームは接着剤なしのダボで固定され、簡単に組み立て解体ができる。こんなシンプルな構成で実用的、かつ見た目に精錬されているのに驚きました。

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見慣れたダボの大きさと縦筋の入った円柱のカタチが、可愛らしい子供用木製おもちゃのような印象を与え、そのことによって、全体がとても“簡単にできている“ことを強調されているかのようです。(子供のおもちゃというのは、実際にいつも“簡単にできて“います)。
それが一方でチープな(どこか安っぽい)印象に収拾されずに在るのは、数段の天板が置かれている間隔と、垂直材が上部で少しだけ削り取られ細くなることで生まれている華やかさがあるからではないかと僕は考えています。

少しずつ、いろんな作り手のところへ訪れて様子を伺っていく。こうした製作所、アトリエ訪問はデザインの幅を広げていくので、できる限り紹介する機会を増やしていこうと思っています。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●本日のお勧め作品は、ベン・ニコルソンです。
20180110_nicholson_04ベン・ニコルソン
《作品》
1968年  エッチング、鉛筆、ガッシュ、紙
イメージサイズ:30.0x28.0cm
シートサイズ:43.5x37.5cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆ときの忘れものは「Arata ISOZAKI × Shiro KURAMATA: In the ruins」を開催しています。
会期=2018年1月9日[火]―1月27日[土] ※日・月・祝日休廊
磯崎新のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)に焦点を当て、磯崎の版画作品〈TSUKUBA〉や旧・筑波第一ホテルで使用されていた倉俣史朗デザインの家具をご覧いただきます。他にも倉俣史朗のアクリルオブジェ、磯崎デザインの椅子なども出品します。

◆国立近現代建築資料館で2月4日[日]まで「紙の上の建築 日本の建築ドローイング1970s-1990s」展が開催中。磯崎新、安藤忠雄らの作品が出品されています。
磯崎新「還元TOWN HALL 」磯崎新
「LECTURE HALL-I」
1982年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75  サインあり

ギャラリートーク「建築版画の世界」のご案内
植田実(住まいの図書館出版局編集長)× 石田了一(石田版画工房)× 綿貫不二夫(ときの忘れものディレクター)
司会:日埜直彦
日時:1月27日(土曜日)14時から
場所:文化庁国立近現代建築資料館
住所:〒113-8553 東京都文京区湯島4-6-15
入場方法:旧岩崎邸庭園からの入館となりますので、入園料400円(一般)が必要となります。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されます。
会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600会員制による共同版元として1974年に創立した現代版画センターは1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを世に送り出し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、上映会、講演会、パネルディスカッション等を頻繁に開きました。今回の展覧会では45作家、約300点の作品と、機関誌・カタログ等の資料によりその全軌跡を辿ります。同館の広報誌の記事もお読みください。


●書籍のご案内
版画掌誌第2号
版画掌誌第2号
オリジナル版画入り美術誌
2000年/ときの忘れもの 発行
特集1/磯崎新
特集2/山名文夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版:限定35部/価格:120,000円(税別 版画6点入り)  
B版:限定100部/価格:35,000円(税別 版画2点入り)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別)  *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。日経アーキテクチュア編集長のコラム<建築家・安藤忠雄氏の言葉の力:第3回>で、出江寛先生、石山修武先生の次に紹介されていますので、お読みください。
ときの忘れもので扱っています。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。


◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
21駒込内観ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。