杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第23回 クールデザイン


僕の住んでいるクールという街は人口が3万5千人くらい。東京に比べたら本当に小さな街ですが、それでもスイス、グラウビュンデン州の立派な州都です。
周りを山に囲まれて守られているような安心感がある一方で、太陽高度の低い冬には日差しを遮られ、時として気持ちを寂しくさせる。実際少しだけ出不精になります。こんなにも住んでいるところの地理的条件や季候が人の気持ちに大きく作用してくるなんて、ここへやって来る以前には思ってもいませんでした。それでもクールはスイスの中では最も天候が良く、可照時間が長いという統計もあるようです。確かに学生時代に住んでいたチューリッヒなどはいつも曇っている印象がありましたが、はたして本当でしょうか。。。

よく言えば(笑)、緑に囲まれていて夏にはハイキング、冬にはスキーと山でのスポーツを満喫し、まさにアルプスの少女ハイジに出てくるような世界がある。しかしそんなクールに住んでいて不便に感じることは少なくありません。
その一つの例を挙げるならば、比較的手頃な値段で欲しいと思える雑貨を買い求めることができないこと。例えば友人への誕生日プレゼント、目上の方に招かれた時に手提げていくものを探そうと思うとなかなか見つかりません。もちろんワインやチーズをよく知っていれば十分かもしれないけれど、酒と漬物の日本人の僕にはなかなかハードルの高いところなのです。笑 (僕は酒と漬物に関してもよく知らないのですが。。。)


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さて、そんなところに最近新しいショップができました。
そこのオーナーは以前建築事務所を開設し、なかなかどうしてうまくいっていたものの、このまま一生この仕事を続けていくのには違和感を覚えたらしく、その事務所を友人に譲って今のプロダクトディレクターとも言える仕事を始めました。デザイナーや作り手、職人との間に立って一緒に様々なスケールのプロダクトをデザイン、発明していこうという仕事のようです。彼自身も、チューリッヒの美大でプロダクトデザインの教育を受けているものの、自分で何かを創るというよりはデザイナーや職人たちの仕事をサポートしながら共にプロダクトを発展させ、ブランド化して自身のショップで売っていくということに楽しさとやりがいを感じている。
聞けばそんなに目新しいビジネスモデルではないけれど、たくさんの創造的な人たちと関わりながら、また感心するばかりの精度でモノを作る職人の作業を目の当たりにしながら、そして彼らのネットワークをつなげながら多面的に仕事することは、僕の目にはとても興味深く映ります。


例えばグラウビュンデン州には腕の良い職人がたくさんいます。きちんとした設備をもった製作所も多くある。しかしそういった人たちの多くは、頼まれたものを作る。もしくは今まで作られ作ってきたものを作り続けている腕の良い職人、製作者であって自分たちで何か新しいモノを考案していないことがほとんどです。ただそれは挑戦したいと思う人が少ないわけではなく、興味を持っているのだけれど時間的、経済的に都合の良い機会には恵まれていないから。

また仮にそういった機会があったとして、僕が腕の良い職人たちがオリジナルとして作ったモノを見かけた時に感じるのは、まず第一に完全に(実)用に適ってモノが作られているということ。しかし時として、職人の腕の見せ所(作り手側に技術が要求される仕様)が見てくれとばかりに強調されていることがある。(実)用と美はあるものの、やや技巧的に見えてしまうことがあるのです。


例えば次の写真のスツール。一つは家具職人自身によってデザイン製作され、もう一つはズントーによるデザインで同じ家具職人によって製作されたものです。(どちらが誰によるものかは内緒です笑 ここで僕はどちらが良いという白黒の判断をしたいわけではありません)

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家具職人曰く、デザインの原型は酪農家が牛の乳を搾る際に一時的に座れるように一本足の椅子( Melkstuhl) にあります。 従来の座面と一本足、それに腰に巻くベルトでできている代わりに三本足になっている。
一つ目の写真はお尻がうまく乗りそうなすり鉢状になっていて、三本足の間隔やそれらの座面での配置は安定しているように見えます。一方で二つ目の写真は座面が大きいぶん、足の間隔が相対的に狭くやや不安定に見える、ただオブジェとしてはとても軽やかに見えます。足は根元から一旦太くなり、そして足元にかけて再び細くなっていく。


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上から見ると二つ目の椅子は足が座面上部まで貫通してきているのがわかり、全体が木のみでできていることを強調されているかのようにも取れます。一つ目のそれは上から見えない分、脚部がネジや金具によって座面内部に固定されているかもしれません。もちろんその場合でも外からは木だけにしか見えませんが。。。



ここで以前紹介した別の家具職人による棚を見てみます。
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家具に限らずに建築においても、その対象物がどう在るか(見えるか)ということと、それがどう機能するか(使うことができるか)はなかなか一致しないことが多い。その不一致は常にネガティブではないと思います。逆に一致してしまうと何だか合理的に見えすぎたり、どことなく物足りなさや魅力に欠けているかもしれない。

これからモノを選び使っていく際には、この(実)用と美についてもう少しだけ気をつけていこうと思わせる小さな出来事でした。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ぜひご購入ください(2,200円)。
会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
埼玉チラシウォーホル600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年〜1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

○<「版画の景色展」を観て、懐かしさがこみあげてきました。建築の世界に長いので、磯崎さんの作品はリアルタイムで影響を受けてきました。それらの版画に使われている原色が印象的です。安藤さんのモノトーンの版画の世界は、キャンソン紙に鉛筆で光を描いたような独特の世界です。他に関根伸夫さんの一本の木が輪で繋がるように切り出すプロジェクトは、何故か自分にも出来そうな気にさせるユーモラスな作品で、発表時に見て微笑んだ自分が蘇りました。版画の想い出とこの展覧会の感動をいつでも思い出せるようにカタログを購入しました。ありがとうございました。
(20180207/群馬県・TKさんのメールより)>

○<埼玉県立近代美術館の版画の景色-現代版画センターの奇跡。チケットがあるので早く観に行きたい。素晴らしい芸術家と、名前も知らない人がいるけど、すごく興味あり。パンフレットの写真が差し替わって、全種類頂いて来た。マニアのもらい方でしょう。今年美術館の注目ものですね。
(20180207/文字デザイナー横田龍堂さんのtwitterより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半〜トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.4 高柳裕「魚座」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
004_高柳裕《魚座》高柳裕
「魚座」
1973年
凸版(作家自刷り)
イメージサイズ:40.0×50.1cm
シートサイズ:50.4×65.8cm
Ed.67 サインあり

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出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄
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●日経アーキテクチュアから『安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言』が刊行されました。
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。日経アーキテクチュア編集長のコラム<建築家・安藤忠雄氏の言葉の力:第3回>で、出江寛先生、石山修武先生の次に紹介されていますので、お読みください。

◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。