杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第24回 設計スタディについて


今回は事務所での設計スタディの仕方について少しだけ紹介しようと思います。


建築は、実際に建てられて空間を体験する(住宅であれば住んで使ってみる)まではそれがどういったものになるのか、設計段階では建築家自身でさえも100%正確にイメージすることは難しいところがあります。だからこそスケッチし図面を描き、数え切れない模型を作り、また3Dソフトウェアを使って包括的に自分の設計を理解し、また擬似体験しイメージする。そうした多角的な方法を駆使して出来上がりの建築空間をクライアント、事務所内チームや施工する人たちと共有していきます。建築は本当に多くの人たちの力を借りないと造ることができないチームプレーの賜物なのです。
目的は同じでもその共有の仕方、“同じ方向を向いて“設計スタディを進めていくやり方は事務所によって本当に様々で、それこそが各々の建築事務所の、そしてそのデザインの特色を反映していると僕は思います。

建築設計の初期段階では、まずクライアントから、それが住宅であれ美術館であれ、必要諸室とその規模、具体的な使われ方について要望を聞き、どういった建築を作っていきたいのかを共有します。建築家は時にはクライアント自身も分かりかねている必要機能やその使われ方の具体的なイメージを与えられたプログラムからを考え直し、そこに変更を加え全く違った方向から考え直し提案をする。そして、その提案を元にスケッチや模型を作りながらデザインを詰めていく。


はじめに事務所のボスが訪れた計画敷地の印象や与えられたプログラムから簡単なイメージスケッチを描き、それをプロジェクトチームに預けて設計を始める、いわゆる「巨匠スケッチパターン」もあれば、クライアントからのプログラムをプロジェクトチームで徹底的に分析し、建築の外形よりもまず諸室を機能的に配置していく常套手段もある。一方で機能や敷地の条件以前に、面白く新しい空間体験とはどういうものだろうかと空間構成の設計スタディから始めて、そこからクライアントの要望を徐々に取り込んでいく方法など、建築家の友人知人からは各種いろいろなパターンを耳にします。もちろん最終的には誰もが建築を作っていくのであって、その過程はどれが良いとかいう問題ではありません。僕が強調したいのは、建築にはいろんな方向からそれを考えることのできる間口の広さがあり、そこがまた面白いところでもあるという事実です。


さて、ズントー事務所はどのパターンか。。
事務所で働き始める前に日本ではよく、“ズントーは建築を素材から考える“ という話をどこからか聞いていました。ちなみに当時僕が身近に感じていたのは、建物の床壁屋根の構成を決めてから最後にそこに素材を割り当てていく方法。例えばこの位置に壁を立てて部屋を作ることを決めてから、そこを青のスタッコ仕上げにして床をタイルにしようという思考プロセスです。そのため、僕には素材から考えるとは一体どういうことなのかよくわかりませんでした。
もちろん、ヴァルスの温泉施設(ピーターズントー設計)が地元で採れる有名な石を建材として使っていて。。。であるから建築を素材から考えている。「はぁなるほど、だからか!」という、そんなに単純な話ではないはずです笑。



僕がズントー事務所に来て一番はじめに驚いたのは、模型をコラージュのように作ることです。

多くの模型を作りながら設計の方向性を少しずつ決めていく。模型を作っていて偶然できてしまった面白い形に空間的な機能を見出したり、時には哲学的な意味を付加しながらそこからアイデアを発展させていく。そうした模型を大量に作りながらの設計スタディは、日本でもよく見られ、建築設計を進めていく上でのオーソドックスな手法であると言っていいと思います。
僕たちの事務所でも例に漏れず、模型は設計スタディの中心です。ただおそらく他と大きく違うのは、その模型材料が初めからかなり具体的であることです。

例えばある美術館のプロジェクトがあったとして、訪れた敷地の印象やクライアント、その地域の建築法規から与えられた条件を慮って、建築外形ないしヴォリュームが見えてきます。そこにどの機能をどこへ持って行こうかというプログラムの簡単な分配があり、それらが外に対して(公共として)閉じているべきか開いているべきかという空間属性の振り分けがあるとする。一方でここはソリッドであるべきだとか、ソフトであるべきかという素材の印象みたいなものが加わります。
一般的にその時点で作るのは「白模型」と言われる単色の素材による建築の構成を表す模型です。そこでの主題は空間構成であり、それ以外の、例えば素材とその色といった情報は見えていない。その始まりの模型は、日本でもよく使われているカードボードやスチレンボード、スタイロフォームといった建築模型材料で作られることが多い。

しかし僕たちは、いきなりレンガやコンクリート、金属や木材などの具体的な素材でコラージュのように建築を作っていきます。そしてそれらの材料は多くの場合、このプロジェクトの今その模型のために用意された、作られた部材ではありません。事務所内の工房にストックされている、また他のスタディ模型の屋根から拝借した。といったような、本来他の目的のために作られたものたちです。

その具体的すぎる始まりの素材は既に設計デザインとして念頭にあるものと一致していればそれで良いし、何も決まっていなければなんとなく合うものでいく。その際に、建築模型の縮尺と部材の縮尺(1/1)は合っていようがいまいが重要ではありません。空間構成を想像していく時に、既に具体的な素材があるという事実が大切なのです。その暫定的に選び取られた素材が設計最後までそのまま残るわけでもおそらくありません。(良い意味で)適当に選択された具体的な部材と、実はそれについて誰もよく知らない、逆にわからないままに始めることが、僕たちのインスピレーションを掻き立てて、ただ白い模型として抽象的に組み立てられていくはずだった空間構成をドライブさせ具体的に発展させていくのです。言い換えれば、僕たちの主題は始めから空間構成ではなく、「素材の見え方や扱い方を含めた空間構成」であると言えます。

そういう意味では、僕たちは「建築を素材から考える」ないし「素材の力を借りて考えていく」と言ってもいいかもしれません。

文章のみでプロジェクトの模型の挿絵を載せられない分、うまく伝えることができたかは自信がないのですが、僕たちの模型の作り方から、事務所の特徴やズントー建築を理解する手がかりみたいなものが少しでも伝えることができたとしたら幸いです。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。
会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
招待券をご希望の方は「ときの忘れもの」宛てメールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com
現代版画センターと「ときの忘れもの」については1月16日のブログをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログをぜひご購入ください(2,200円)。
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磯崎新(撮影:タケミアートフォトス)
埼玉チラシメカス600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年〜1985年の11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では安藤忠雄、磯崎新はじめ45作家、約280点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

【トークイベント】ウォーホルの版画ができるまで―現代版画センターの軌跡
日時:3月18日 (日) 14:00〜16:30
第1部:西岡文彦 氏(伝統版画家 多摩美術大学教授)、聞き手:梅津元(当館学芸員)
第2部:石田了一 氏(刷師 石田了一工房主宰)、聞き手:西岡文彦 氏
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)/費用:無料
〜〜〜〜
○<一昨日、ようやく行ってまいりました。
まずは、実にいい美術館ですね。あのあたりにあんな贅沢な展示場が(常設作品も含め)あろうとは
これまで知らなかったことを悔いた次第。
そして今回の版画の企画展ですが、とてもバラエティに富んだ選択と展示、ゆったりと楽しめる構成で、じゅうぶんに楽しませていただきました。
特に、磯崎新の建築「画」は、久々に「良き時代」の匂いを感じて、どこか懐かしくも、近年にない制作者のヴィジョンと自信の密度を感じることができました。
また、余談となりましょうが、一階の「Momasコレクション」の作品群も充実したもので、意外な驚きでした。

(20180304/TYさんからのメールより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半〜トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

嶋吉信さんのエッセイ〜「紙にインクがのっている」その先のこと(2月12日ブログ)

大谷省吾さんのエッセイ〜「版画の景色−現代版画センターの軌跡」はなぜ必見の展覧会なのか(2月16日ブログ)

植田実さんのエッセイ「美術展のおこぼれ 第47回(3月4日ブログ)

土渕信彦さんのエッセイ<埼玉県立近代美術館「版画の景色ー現代版画センターの軌跡」展を見て(3月8日ブログ)

塩野哲也さんの編集思考室シオング発行のWEBマガジン[ Colla:J(コラージ)]2018 2月号が展覧会を取材し、87〜95ページにかけて特集しています。

○3月4日のNHK日曜美術館のアートシーンで紹介されました。

○月刊誌『建築ジャーナル2018年3月号43ページに特集が組まれ、見出しには<運動体としての版画表現 時代を疾走した「現代版画センター」を検証する>とあります。

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.189 オノサト・トシノブ「CeT4」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
20180310オノサト・トシノブ
「CeT4」
1977年
布に特色刷り(刷り:富士製旗)
Image size: 120.0×80.0cm
Work size: 139.0×85.1cm
Ed.100


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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

パンフレット_05
出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサートのご案内
第7回 愛といのち

日時:2018年4月3日(火)18:00〜
会場:ときの忘れもの
出演:メゾ・ソプラノ/淡野弓子
   スクエアピアノ/武久源造   
プロデュース:大野幸
*要予約=料金:1,000円
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。

info@tokinowasuremono.com

◆ときの忘れものは「植田正治写真展ー光と陰の世界ーPart 供を開催します。
201803_UEDA
会場1:ときの忘れもの
2018年3月13日[火]―3月31日[土] 11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊(但し3月25日[日]は開廊)

昨年5月に開催した「Part I」に続き、1970年代〜80年代に制作された大判のカラー作品や新発掘のポラロイド写真など約20点をご覧いただきます。

●書籍・カタログのご案内
表紙植田正治写真展―光と陰の世界―Part II』図録
2018年3月8日刊行
ときの忘れもの 発行
24ページ
B5判変形
図版18点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:800円(税込)※送料別途250円

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植田正治写真展―光と陰の世界―Part I』図録
2017年
ときの忘れもの 発行
36ページ
B5判
図版33点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:北澤敏彦(DIX-HOUSE)
価格:800円(税込)※送料別途250円


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。