瓢箪(ひょうたん)からキューバ−偶然の賜物(たまもの)だったドイツ個展と写真集出版
<第2回>偶然から生まれたドイツ個展と写真集


<前回までの>あらすじ>2013年夏に訪れたキューバ。滞在中悪夢のような食中毒になり観光気分から気持ちがリセット、残りの3日間でハバナの裏町を撮り歩いた。このときの写真とムービーが後で、京都国際写真祭『KYOTO GRAPHIE KG+』の写真個展に結びついた。

◇偶然から生まれたドイツ個展と写真集の出版
京都国際写真祭『KYOTO GRAPHIE KG+』(2015年5月)の写真展の会期も終わり作品を撤収して大型の布幕を巻き取り、家の片隅に放置したままで、この作品群が再び異国で日の目を見るとは思ってもみなかった。
2017年8月、三週間、ドイツ・ミュンヘンに滞在した。帰国二日前だったろうか、滞在先近くのギャラリーのオーナーに、たまたまキューバの写真をみてもらう機会があった。「ぜひやりましょう!」。その場ですぐ11月上旬から1か月近くカフェに併設された大きなギャラリーで写真展をすることが決まった。「偶然の必然」とはいえ、現地での写真展まであと二か月ちょっと。作品は京都の写真展のときのものがあるが果たして間に合うかどうか。今度のギャラリーは京都の写真展のときとくらべてかなり広いので、大型布幕作品も追加印刷しないといけない。以前印刷してもらった奈良の会社を再び訪ねると担当した技術者がやめ、会社の態勢も変わっているようだった。ためしに刷ってみたが以前のような調子にはならないので、京都で別の印刷会社を探し印刷。一方で、パンフレットやポスターなどのデザインと印刷をする一方、簡単な写真集的なパンフレットを作ろうと思った。よくあるオンデマンドの簡便で安価な印刷でゴーサインを出す日、たまたま時間があったのでカフェで「本当に単色刷りの写真集まがいの印刷物でいいのかな」と思い、ネットで「京都、写真集 ダブルトーン印刷」で検索したところ、「サンエムカラー」という印刷会社がヒットした。すぐに電話したところ「今から会って相談しましょう」ということに。京都写真展でインスタレーション用に作成した手作りの写真集を携えて印刷会社へ。細江英公の新『薔薇刑』など内外の写真集を手掛ける高度な印刷技術を持つ印刷会社だった。その場で担当者と話すうち、やはり海外で個展をするからには、お金がかかってもちゃんとしたものを作ろうと方針転換。オンデマンド印刷はキャンセルして本格的な写真集づくりに取り組むことに。オープニングまで残すところ2か月弱。果たして間に合うのか。担当者と会ったその日のうちに仕様や体裁、紙選びなどを決め、どうせつくるなら凝ったものをとアイデアを練った。当初は厚紙で本文をはさんだ「ドイツ装」のデザインに傾いていたが、最高の紙と印刷レベルでするとなると予算がはるかにオーバー。やむなく上製本の体裁で、その代わりデザインに凝ることにした。担当者と話している際、腕一本で会社を立ち上げた会長が通りかかり、「この写真集はわが社の最高の印刷レベルでやる」とのお墨付きをいただいた。通常、印刷レベルは印刷する際のドット数でモノトーン、ダブルトーン、トリプルトーンなどがあるが、ほぼ最高レベルのトリプルトーン+ニス塗りでやることになった。自宅でフォトショップやイラストレーターを使って、写真集のレイアウトやカバーデザインなどを猛スピードで作成。表紙も黒と白のバージョンにすることに。印刷会社のプリント担当の最高責任者のディレクターも加わってなんとか形になるところまでたどり着いた。印刷は導入されたばかりのドイツ製の新鋭印刷機「ハイデルベルク・スピードマスター」。

8<写真8>印刷所で写真集の最終チェック。最新鋭のドイツ製印刷機ハイデルベルク・スピードマスターの前で


フライヤーやポスターなどをつくりながら、並行して本格的な写真集を二か月弱で完成させる作業は写真展直前の10月末になんとか間に合った。今度はその写真集をできるだけ安く安全にドイツに送る方法に頭を絞った。国際郵便のEMSでも段ボールひと箱30キロまでだと4万円弱。一箱26冊入り三箱を現地に送ることにして、足りない場合に備え二箱を印刷会社で待機させた。

9<写真9>出来上がった黒と白のバージョンの写真集『CUBA monochrome』


あとは現地へ布幕写真の大きな作品をどうやって送るかに頭を悩ませた。当初、段ボールに包んでEMSで送ったものの、もし万が一税関で長期ストップして写真展開催に間にあわなかったらと考え、急きょ電話し大阪の空港で発送直前の荷物を取り戻すことに。手荷物用にと調達した1.5m近くあるキーボード用の超大型バッグは、航空会社の規定サイズをはるかにオーバー。ミュンヘン空港では荷物受け取り場所でいくら待ってもこの作品を詰め込んだ大型バッグが出てこず、空港職員に尋ねたところ、特殊荷物の受け取り場所は別にあることが判明しロスタイム1時間。一か月近く家をあけるので、植物にたっぷり水やりをと二階の大型植物に水をやって、空港へ向かう明け方、家を出る10分前に一階天井のライト付近から水が大量にしたたり落ち、電気のショートしている「ジジッジジッ」という異音が。二階に行くと水やりし過ぎて床一面が水浸し。今回のドイツ個展への行脚ではつぎつぎに乗り越えるべき障害が起きた。送った写真集もドイツの税関にひっかからないようひたすら祈ったが、案の定税関でストップ。一箱だけ奇跡的に税関をスルーして届いたものの、二箱は開封されたうえ再度送料負担で滞在先に届いたのは個展の会期をだいぶ過ぎてからだった。

9<写真10>写真集『CUBA monochrome』から。トリプルトーン+ニス塗りのハイグレード処理で印刷


会場となったギャラリーはミュンヘン中心部の大学街にあるモダンなカフェに併設されており、カフェの奥に大きなギャラリー空間がある。作品の展示設営はその場で空間を見て考え、何度も再調整。オープン時間はカフェに合わせるため定休日なしの午前8時から午後6時まで。ギャラリーの専任スタッフがいないため、筆者は毎日、近くのパン屋で調達したサンドイッチを頬張りながら朝から晩までギャラリーに詰めっきりだった。


ドイツ・ミュンヘンの写真展『CUBA monochrome』の会場風景

10<写真11>ドイツ・ミュンヘンの写真展会場となった大学街にある『PAVESI café / gallery』


11<写真12>カフェの奥に、大きなギャラリー空間がある。ミュンヘンの写真展会場風景(1)


12<写真13>作品の設置を終えたミュンヘンの写真展会場風景(2)

よるの ゆう

25■夜野 悠 Yu YORUNO
通信社記者を50代前半で早期退職後、パリを中心にカナダ、ドイツ、モロッコなど海外を中心に滞在、シュルレアリスム関係を中心に稀少書や作品などを蒐集する。2015年5月に国際写真祭『KYOTO GRAPHIE』のサテライトイベント『KG+』で、モノクロの写真・映像、キューバの詩で構成した写真展『古巴(キューバ)−モノクロームの午後』を開催。同年12月には京都写真クラブ主催の『第16回京都写真展 記憶論掘戮如◆慄鳴鮮1987−消えゆく夢幻の風景』、2016年年12月の同展『記憶論検戮任麓命燭肇轡絅襯譽▲螢好爐鬟皀繊璽佞砲靴深命織ぅ鵐好織譟璽轡腑鵝慙上のVOLIERE(鳥かご)―路傍に佇む女神たち』を展示。2017年11月9日から12月3日までドイツ・ミュンヘンで写真展『CUBA monochrome』を開催。併せて写真集も出版。同年12月、京都写真展で『廃墟の時間−旧東ベルリン』を展示。2016年4月から2017年3月まで、ギャラリー『ときの忘れもの』の公式ブログにエッセイ『書斎の漂流物』を12回にわたって連載。


●本日のお勧め作品は、磯崎新です。
20180111_053磯崎新"作品"
1986年
コンテ、パステル、紙
45.8×75.0cm  サインあり

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆ときの忘れものは「Arata ISOZAKI × Shiro KURAMATA: In the ruins」を開催しています。
会期=2018年1月9日[火]―1月27日[土] ※日・月・祝日休廊
磯崎新のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)に焦点を当て、磯崎の版画作品〈TSUKUBA〉や旧・筑波第一ホテルで使用されていた倉俣史朗デザインの家具をご覧いただきます。他にも倉俣史朗のアクリルオブジェ、磯崎デザインの椅子なども出品します。

◆国立近現代建築資料館で2月4日[日]まで「紙の上の建築 日本の建築ドローイング1970s-1990s」展が開催中。磯崎新、安藤忠雄らの作品が出品されています。
磯崎新「還元群馬」磯崎新
「MUSEUM-I」
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75  サインあり

ギャラリートーク「建築版画の世界」のご案内
植田実(住まいの図書館出版局編集長)× 石田了一(石田版画工房)× 綿貫不二夫(ときの忘れものディレクター)
司会:日埜直彦
日時:1月27日(土曜日)14時から
場所:文化庁国立近現代建築資料館
住所:〒113-8553 東京都文京区湯島4-6-15
入場方法:旧岩崎邸庭園からの入館となりますので、入園料400円(一般)が必要となります。

●書籍のご案内
版画掌誌第2号
版画掌誌第2号
オリジナル版画入り美術誌
2000年/ときの忘れもの 発行
特集1/磯崎新
特集2/山名文夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版:限定35部/価格:120,000円(税別 版画6点入り)  
B版:限定100部/価格:35,000円(税別 版画2点入り)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別)  *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。日経アーキテクチュア編集長のコラム<建築家・安藤忠雄氏の言葉の力:第3回>で、出江寛先生、石山修武先生の次に紹介されていますので、お読みください。
ときの忘れもので扱っています。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
21駒込内観ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。